インターネット上の権利侵害は匿名アカウントなどにより行われるケースが大半です。この場合、法的な権利を追求するために加害者(発信者)の調査をして、氏名・住所などを特定する必要があります。
インターネット上の匿名アカウントを特定することで今後の違法行為を可及的に予防し、責任追及を可能にするためにプロバイダ責任制限法上、発信者情報開示請求権が定められています。インターネット上の誹謗中傷被害や風評被害対策に法的措置とる場合、多くのケースで発信者情報開示請求権に基づく発信者の調査・特定が必要となります。
目次
- 1 発信者特定のメリットと弁護士齋藤理央に依頼する意義
- 2 プロバイダ責任制限法が定める発信者情報開示請求権の内容
- 3 インターネット上の権利侵害者を発信者情報開示請求を用いて特定するメリット
- 4 発信者情報開示手続の業務の概要と実績
- 5 発信者情報開示に関する情報発信
- 6 Google(グーグル)に対する発信者情報開示の留意点
- 7 プロバイダからの意見照会対応
- 8 発信者情報開示命令(非訟手続き)
- 9 コンテンツ・プロバイダ(CP)に対する発信者情報開示請求
- 10 リツイート固有の投稿日時(タイムスタンプ)を調査する方法
- 11 爆サイでの誹謗中傷・名誉毀損に対する発信者情報開示請求
- 12 リツイート、いいね!の法的責任を巡る法務( Twitter/ツイッター上の権利侵害)
- 13 Google MAP上の口コミによる権利侵害に対するGOOGLE,LLC(グーグル・エルエルシー)に対する発信者情報開示・削除請求
- 14 スレッドの主題と無関係のリンク先記事に誘導する書き込みを大量に投稿するなどした、いわゆる掲示板の荒らし行為について侵害情報の流通による権利侵害を認め発信者情報開示を命じた事案
- 15 令和4年4月14日提出[特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施 行規則案に対する意見募集]に対する意見
- 16 開廷表の記載に準じ開廷日時、開廷場所、事件番号及び当事者名等をインターネット投稿した行為がプライバシー権侵害に当たると判断された事案
- 17 東京地判令和3年7月9日・ハイパーリンクを含んだツイート投稿にプライバシー権侵害責任を認め、仮処分命令に反して情報を開示しなかったTwitter社の不法行為責任を否定した事案[発信者情報開示裁判例紹介]
- 18 社外秘であるVtuberの中の人の音声データURLを一般公開した行為が営業権を侵害すると判断された事例 [裁判例] 令和 3年 9月 9日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)
- 19 原告ツイートのスクリーンショットを埋め込んだツイート投稿について著作権法上違法とされた事例・裁判例紹介
- 20 『リツイート事件』後の評釈・研究会など
- 21 令和3年プロバイダ責任制限法改正による発信者情報開示請求の対象情報拡充について
- 22 インターネットサービスプロバイダ(経由プロバイダ・接続プロバイダ)(ISP)に対する発信者情報開示請求
- 23 ブログサービスに対する発信者情報開示・送信防止措置請求
- 24 ファイル共有ソフト『ビット・トレント(Bit Torrent)』と著作権侵害
- 25 SMSアドレスの発信者情報開示(第2版)
- 26 Twitterプロフィール画像事件控訴審判決ー著作権・発信者情報開示裁判例紹介
- 27 知的財産高等裁判所における発信者情報開示請求訴訟の裁判例
- 28 インスタグラムInstagram上の権利侵害(無断転載)に対する実際の発信者情報開示請求対応例
- 29 インスタグラムの接続先IPアドレス候補
- 30 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案
- 31 GMOインターネットに対する発信者情報開示
- 32 発信者情報開示・削除請求業務
- 33 著作権侵害に基づく発信者情報開示請求
- 34 ログイン時のアクセス・ログ及びこれにより特定される契約者情報の開示について
- 35 Google検索結果の削除などGOOGLE,LLC(グーグル・エルエルシー)に対する法的対応
- 36 フェイスブック/Facabook社のMETA PLATFORMS, INC./メタプラットフォームズ・インクへの社名変更について
- 37 接続先IPアドレス
- 38 『リツイート事件』が残したもの-最判後の議論状況-
- 39 さくらインターネットに対する発信者情報開示・送信防止措置(削除)の代理請求業務について
- 40 判例解説「リツイート事件最高裁判決」について
- 41 「リツイート事件」よくいただく質問と回答
- 42 発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブリックコメント
- 43 携帯電話キャリアに対する発信者情報開示
- 44 エックスサーバーに対する発信者情報開示
- 45 国内レンタルサーバー事業者に対する発信者情報開示
- 46 NTT docomo(ドコモ)に対する発信者情報開示
- 47 AUを運営するKDDI(ケーディーディーアイ)に対する発信者情報開示
- 48 ソフトバンク/SoftBankに対する発信者情報開示
- 49 アメブロ・Ameba blog上の権利侵害に対する法的対応(発信者情報開示・送信防止措置)
- 50 X(エックス)(旧Twitter/ツイッター)を運営するXcorp.に対する発信者情報開示請求
- 51 ユーチューブ/YOUTUBE上で生じた権利侵害に対する発信者情報開示請求
- 52 ドメインネームサーバー
- 53 SMSアドレスの発信者情報開示
- 54 開示関係役務提供者
- 55 インスタグラム/Instagram上の権利侵害に対する発信者情報開示について
- 56 ツイートアイコンを巡る発信者情報開示について
- 57 開示関係役務提供者と発信者の関係
- 58 「5ちゃんねる」5ch.net「2ちゃんねる」2ch.scでの投稿に対する対応
- 59 米国法人に対する発信者情報開示
- 60 海外法人に対する発信者情報開示請求の裁判管轄
- 61 カリフォルニア州法人の資格証明
- 62 プロバイダ責任制限法上の定義規定
- 63 インターネット知的財産権侵害における発信者の特定
- 64 発信者情報開示請求の概要と要件について
- 65 発信者情報開示及び削除(送信防止措置)請求の代理業務
- 66 レンダリングデータの生成と著作者人格権侵害
- 67 [ペンギンパレード事件]インラインリンクについて著作権幇助侵害が認められた事案
- 68 発信者情報開示請求の概要を教えてください
- 69 発信者情報開示請求の要件について
発信者特定のメリットと弁護士齋藤理央に依頼する意義
インターネット上の権利侵害は放置すると歯止めが効かなくおそれもあります。そのような状態を防止するためにも予防的に発信者を特定し、違法行為の量的、質的拡大を防止するべきケースも存在します。また、過去の権利侵害に対して責任追及をするためにも発信者の特定が必要になります。
弁護士は現在発信者情報開示請求の代理業務を行える唯一の資格です。プロバイダ責任制限法など関係法令に精通した弁護士に依頼することで、特定に失敗する確率を抑えて迅速に発信者を特定できる可能性を高めることができます。弁護士齋藤理央は、発信者情報開示分野で数例しかない最高裁判所判決を獲得しているなど、発信者情報開示分野に幅広く実績のある弁護士です。
もし、インターネット上の権利侵害でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
プロバイダ責任制限法が定める発信者情報開示請求権の内容
プロバイダ責任制限法は、インターネットで権利侵害を受けた被害者に対して、発信者情報開示請求権を認めています。
プロバイダ責任制限法は、下記のとおり「自己の権利を侵害されたとする者は…発信者情報…の開示を請求することができる」と定めます。
1 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
三 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
イ 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
ロ 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1) 当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2) 当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
ハ 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。
2 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(当該特定電気通信に係る前項に規定する特定電気通信役務提供者である者を除く。以下この項において「関連電気通信役務提供者」という。)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
3 前二項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。
令和4年10月1日施行 改正 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 第5条
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
改正前 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 第4条1項
このプロバイダ責任制限法が創設した発信者情報開示請求権を行使して発信者を特定していく手続が、発信者情報開示請求手続きです。
プロバイダ責任制限法に関する詳細について
プロバイダ責任制限法については、下記のリンク先により詳細な情報を記載しています。
インターネット上の権利侵害者を発信者情報開示請求を用いて特定するメリット
このように匿名で誹謗中傷やなりすまし、無断転載などを行うどこの誰かわからないインターネット上の権利侵害者を特定するための手続きが発信者情報開示請求です。
インターネット上では、名誉権侵害・プライバシー権侵害・肖像権侵害等の人格権侵害や、著作権侵害・商標権侵害・不正競争防止法違反・信用棄損・なりすまし・業務妨害など様々な権利侵害が生じ得ます。
このとき、権利侵害の主体である加害コンテンツの発信者を特定しなければ、法的責任を追及していけません。
反対に、匿名アカウントで違法な発信を行う発信者は、「どうせ特定されないから責任を負うこともないだろう」と安易な気持ちで権利侵害をおこなっているケースが少なくありません。そのような場合、匿名で権利侵害を行う発信者を、どこの誰か突き止めて、法的な対応を行うことで初めて権利行使が可能になることで発信者に反省を促すことができるというメリットがあります。
つまり、責任を負わない立場にいたはずの発信者を特定し、法的責任追及を可能にすることで発信者は状況を自覚し反省を促すことで将来的な違法行為を予防したり、これまでの違法行為について損害賠償請求を可能とするなどのメリットを得られる可能性があります。
そこで必要になるのが、相手が匿名の場合のインターネット上の権利侵害主体たる『発信者』の『特定』のための任意、あるいは法的な手続きである発信者情報開示請求の実施です。
発信者情報開示手続の業務の概要と実績
弁護士齋藤理央は、発信者情報開示請求訴訟の分野において、任意の発信者情報開示請求から、まだ数件しかない最高裁判所裁判例を獲得するなど、発信者情報開示請求訴訟に幅広く実績を有します。
インターネット上の権利侵害について証拠の保全から発信者の特定、特定後の損害賠償請求などの法的手続きまで対応していますので、インターネット上の権利侵害にお悩みの場合、発信者情報開示請求をお考えの場合についてお気軽にご相談、お問い合わせください。
プロバイダ別の詳細
各種プロバイダ毎の発信者情報開示請求業務の詳細は、リンク先をご参照ください。
- 米国法人(Twitter、Instagram、Google、YouTubeなど)
- 国内携帯キャリア(docomo、KDDI、SoftBank、楽天モバイルなど)
- インターネット・サービス・プロバイダ
- コンテンツ・プロバイダ
- レンタルサーバー事業者(さくらインターネット、GMO、エックスサーバーなど)
発信者情報開示に関する情報発信
弁護士齋藤理央の発信者情報開示に関する情報発信は下記リンク先で詳細がご確認いただけます。
プロバイダからの意見照会対応
発信者情報開示命令(非訟手続き)
リツイート固有の投稿日時(タイムスタンプ)を調査する方法
スレッドの主題と無関係のリンク先記事に誘導する書き込みを大量に投稿するなどした、いわゆる掲示板の荒らし行為について侵害情報の流通による権利侵害を認め発信者情報開示を命じた事案
開廷表の記載に準じ開廷日時、開廷場所、事件番号及び当事者名等をインターネット投稿した行為がプライバシー権侵害に当たると判断された事案
東京地判令和3年7月9日・ハイパーリンクを含んだツイート投稿にプライバシー権侵害責任を認め、仮処分命令に反して情報を開示しなかったTwitter社の不法行為責任を否定した事案[発信者情報開示裁判例紹介]
社外秘であるVtuberの中の人の音声データURLを一般公開した行為が営業権を侵害すると判断された事例 [裁判例] 令和 3年 9月 9日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)
原告ツイートのスクリーンショットを埋め込んだツイート投稿について著作権法上違法とされた事例・裁判例紹介
『リツイート事件』後の評釈・研究会など
令和3年プロバイダ責任制限法改正による発信者情報開示請求の対象情報拡充について
SMSアドレスの発信者情報開示(第2版)
Twitterプロフィール画像事件控訴審判決ー著作権・発信者情報開示裁判例紹介
インスタグラムの接続先IPアドレス候補
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案
Google検索結果の削除などGOOGLE,LLC(グーグル・エルエルシー)に対する法的対応
接続先IPアドレス
『リツイート事件』が残したもの-最判後の議論状況-
判例解説「リツイート事件最高裁判決」について
「リツイート事件」よくいただく質問と回答
発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブリックコメント
国内レンタルサーバー事業者に対する発信者情報開示
ユーチューブ/YOUTUBE上で生じた権利侵害に対する発信者情報開示請求
SMSアドレスの発信者情報開示
開示関係役務提供者
ツイートアイコンを巡る発信者情報開示について
開示関係役務提供者と発信者の関係
「5ちゃんねる」5ch.net「2ちゃんねる」2ch.scでの投稿に対する対応
海外法人に対する発信者情報開示請求の裁判管轄
プロバイダ責任制限法上の定義規定
発信者情報開示及び削除(送信防止措置)請求の代理業務
レンダリングデータの生成と著作者人格権侵害
発信者情報開示請求の概要を教えてください
発信者情報開示請求は,特定電気通信による情報流通(代表的な例:インターネット)による権利侵害について,権利侵害情報の発信者を特定することに資する情報を,特定電気通信役務提供者(典型的な例:プロバイダ事業者)に対して,開示するように求める請求です。
簡単にいえば,インターネットで誹謗中傷されたり,商標・著作物など知的財産を勝手に使われた場合に,誹謗中傷したり,知的財産を勝手に使った(情報を発信した)人間を特定するための特定に有益な情報(=発信者情報)を,プロバイダ事業者などに開示してもらう法的な権利ということになります。
発信者情報開示はどのような利害調整の問題を持っていますか?
このように,発信者情報開示は,権利を侵害された者の裁判を受ける権利や財産権,名誉権などと,発信者の個人情報保護・プライバシー保護の調整の問題を,本質的に孕んでいます。
発信者情報開示の手順
発信者情報開示は、通常、コンテンツプロバイダ→経由プロバイダという順を追って、発信者を特定することが一般的です。
つまり、権利侵害を行う侵害情報が掲載されたコンテンツプロバイダに対して、IPアドレスや、携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号、SIMカード識別番号、電子メールアドレス、タイムスタンプなどの発信者情報開示を請求し、開示された情報を元に、コンテンツプロバイダに情報を発信した発信者の氏名、住所などを経由プロバイダに対して、開示請求することになります。
コンテンツプロバイダに対しては仮処分を、ISPに対しては本案訴訟を提起するのが通常の流れです。
発信者情報開示請求の要件について
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法、プロ責法)4条1項は、発信者情報開示請求権について、定めます。
プロバイダ責任制限法4条1項に定められた発信者情報開示請求は、下記の条件を満たした時に初めて認められることになります。
①請求者と被請求者
ア 請求者
請求主体が、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」者であること。
イ 被請求者
被請求者が、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された際に利用される等した特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者。)であること。
②権利侵害及び正当理由
ア 「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害され」(プロ責法4条1項柱書)「権利が侵害されたことが明らかである(プロ責法4条1項1号)こと。すなわちⅰ「特定電気通信による情報の流通があったこと」、ⅱ「請求者に対する明らかな権利侵害があること」、ⅲ「ⅰとⅱの間に(直接的な)因果関係があること(ⅰによってⅱが直接完結していること。)」。
イ 損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること(プロ責法4条1項2号)。
③請求の客体となる情報の性質
開示される情報が、氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの(発信者情報)に該当すること。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)第四条第一項の規定に基づき、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令を次のように定める。 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものは、次のとおりとする。 一 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称 二 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所 三 発信者の電話番号 四 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。) 五 侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第百六十四条第二項第三号に規定するアイ・ピー・アドレスをいう。)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号(インターネットに接続された電気通信設備(同法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)において通信に使用されるプログラムを識別するために割り当てられる番号をいう。) 六 侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)からのインターネット接続サービス利用者識別符号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービス(利用者の電気通信設備と接続される一端が無線により構成される端末系伝送路設備(端末設備(電気通信事業法第五十二条第一項に規定する端末設備をいう。)又は自営電気通信設備(同法第七十条第一項に規定する自営電気通信設備をいう。)と接続される伝送路設備をいう。)のうちその一端がブラウザを搭載した携帯電話端末等と接続されるもの及び当該ブラウザを用いてインターネットへの接続を可能とする電気通信役務(同法第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)をいう。以下同じ。)の利用者をインターネットにおいて識別するために、当該サービスを提供する電気通信事業者(同法第二条第五号に規定する電気通信事業者をいう。以下同じ。)により割り当てられる文字、番号、記号その他の符号であって、電気通信(同法第二条第一号に規定する電気通信をいう。)により送信されるものをいう。以下同じ。) 七 侵害情報に係るSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスを提供する電気通信事業者との間で当該サービスの提供を内容とする契約を締結している者を特定するための情報を記録した電磁的記録媒体(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に係る記録媒体をいい、携帯電話端末等に取り付けて用いるものに限る。)を識別するために割り当てられる番号をいう。以下同じ。)のうち、当該サービスにより送信されたもの 八 第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスにより送信されたものに限る。)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻 |
情報の流通によって自己の権利を侵害されたこと
プロ責法は、情報の流通それ自体によって、権利が侵害された場合に限って発信者情報開示を請求できる法律であると解釈されています。つまり、情報の流通によって権利侵害が完結する場合が想定され、情報の流通が権利侵害の前提に過ぎない場合は、発信者情報開示の対象とならないと解釈されています。
下記の事案で、原告は映画の著作物の著作権者でした。発信者(と主張された者)はこの映画の著作物を無断複製したDVDをインターネットオークションに出品し、実際に販売されました。このとき、無断複製及びDVDの譲渡はインターネット外で行われました。すなわち、インターネットには無断複製情報は掲載されず、海賊版のDVD頒布も、郵送で行われインターネットは経由していません。発信者(と主張された者)は、インターネットにDVDの出品情報を記載したに過ぎない事案でした。このように、権利侵害情報自体ではなく、権利侵害を招来しにすぎない情報は、発信者情報に該当しないと判断した裁判例があります。
平成22年12月 7日東京地裁判決(平22(ワ)5406号 発信者情報開示請求事件)
プロバイダ責任制限法は,特定電気通信を通じた情報流通の拡大により,他人の権利利益を侵害するような情報の流通が問題となっているところ,特定電気通信による情報発信は,社会的,財政的に制約が少ないために,誰しもが反復継続して行うことが可能であり,また,不特定の者に対して情報発信が行われ,しかも高度の伝播性がある点で,他の情報流通手段と比較すると,他人の権利利益を侵害する情報の発信が容易であり,いったん被害が生じた場合には,被害が際限なく拡大していくという特質を有しているなどといった事情があり,特定電気通信による情報の流通によって被害を受けた者が特定電気通信役務提供者から発信者情報の開示を受ける必要性が高いが,他方,発信者情報は,発信者のプライバシー及び匿名表現の自由,場合によっては通信の秘密として保護されるべき情報であることから,正当な理由もないのに発信者の意に反して情報の開示がなされることがあってはならないことは当然であるとの認識に立って,「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」の「発信者情報の開示を請求する権利」(プロバイダ責任制限法1条参照)として,発信者情報の開示制度を定めているものと解される(同法4条)。このため,発信者情報の開示を請求することができる者は,「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」に限定され,権利を侵害したとする情報(同法3条2項2号)であるところの「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」など,プロバイダ責任制限法4条1項所定の要件を満たした場合にのみ,発信者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレス等の発信者情報(プロバイダ責任制限法4条1項,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令)の開示を請求することができることとされている。 |