社外秘であるVtuberの中の人の音声データURLを一般公開した行為が営業権を侵害すると判断された事例 [裁判例] 令和 3年 9月 9日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)
令和 3年 9月 9日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)・ウェストロー2021WLJPCA09098009は、社外秘である限定公開設定のVtuberの中の人の音声データURLを一般公開した行為が、Vtuber所属事務所の「業務を円滑に遂行するという法律上保護される利益が侵害された」と判断された事例です。
音声データの保護の必要性
裁判所は、「本件動画は,原告事務所に所属するVTuberタレント「C」を自らの分身として使用する甲が,原告のオーディションに応募するために録画した動画であり,本件動画には甲の音声が録音されていること,甲は,原告から指示を受けて,本件動画をYouTubeに限定公開動画としてアップロードしたことが,それぞれ認められる」などとして、「本件URL及び本件動画は,本件記事が投稿されるまで一般に公開されていなかったと推認され」ると結論づけています。
その上で裁判所は、「原告は,本件URLをグーグルフォームで管理しており,本件記事が投稿された当時,原告社内で同グーグルフォームへのアクセス権限を有していた者は,原告代表者ほか4名の合計5名しかおらず(当時の原告の従業員数は52名であった。),同5名は,本件URLを原告の他の従業員及び第三者に伝えてはならないとされていた」こと、「VTuberは,自らの顔や実名を出さずに特定の2次元のキャラクターを自らの分身として使用して配信活動を行うところ(甲4,6),本件動画は,特定の2次元のキャラクターを自らの分身として使用する者を選定するために録画された動画であり,特定の2次元のキャラクターが録画されておらず,甲の音声しか録音されていなかったから,仮に本件動画が一般に公開されれば,ファンが「C」に抱いているイメージが損なわれる可能性があるということができる」ということから、本件音声データが一般公開されることに不利益があると評価しています。
営業権の侵害
その上で裁判所は、「本件記事の投稿によって本件URL及び本件動画が一般に公開されたため,原告は,本件動画を削除したり,本件URL及び本件動画に関する問合せに対応したりすることを余儀なくされたほか,甲から原告の社内の人物が本件発信者ではないかなどと抗議されたため,甲に対し,謝罪するとともに,できる限り法的措置を講じると約束したことが認められる」とし、 「原告は,本件記事の投稿によって業務を円滑に遂行するという法律上保護される利益が侵害されたと認めるのが相当である」と結論づけ、Vtuber所属事務所の営業権の侵害を認めています。
発信者情報開示については故意・過失の立証は不要
本裁判例は次のとおり述べて、発信者情報開示請求において発信者の故意・過失の立証は不要であると解しています。
①法4条1項1号が「権利が侵害されたことが明らかであるとき」と定め,民法709条の成立要件である発信者の「故意又は過失」を要件として定めていないこと,②発信者が特定されていない発信者情報開示請求訴訟の段階で,発信者情報の開示を請求する者に,発信者に他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することについて「故意又は過失」があったことの立証責任を負わせるのは,同請求者にとって過大な負担となる一方,法4条2項は,発信者情報の開示を請求された者は,当該発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き,当該発信者情報を開示することができるかどうかについて発信者の意見を聴かなければならないと定めており,発信者は,発信者情報開示請求訴訟において,発信者情報の開示を請求された者を通じて,発信者に他人の権利又は法律上保護された利益を侵害することについて「故意又は過失」がなかったことを立証することができることに照らすと,発信者情報開示請求訴訟において,発信者情報の開示を請求する者は,発信者に他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することについて「故意又は過失」があったことを立証する責任を負わないと解するのが相当である。
令和 3年 9月 9日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)・ウェストロー2021WLJPCA09098009
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