iTやコンテンツの法律/知財問題を重視する弁護士です

弁護士齋藤理央で担当した裁判例が裁判所ウェブサイトに掲載されました。これで、弁護士齋藤理央の担当裁判例として裁判所ウェブサイト掲載は12例目になります。この事案は争点が複雑であるため、その先例的意義について簡単にまとめておきたいと思います。

弁護士齋藤理央では、ツイッターを運営するXcorp.に対する発信者情報開示請求事件をお受けしています。

    インターネットの権利侵害の場合サイトやSNSアカウントのURLをご記載ください(任意)

    ※ファイル添付の場合など直接メールをしたい場合は、メールアドレス 『  infoアットマークns2law.jp  』 までご連絡頂くことも可能です。送信の際、アットマークを@に変換してください。

    本判決の意義

    本判決は、インラインリンクが氏名表示権及び同一性保持権を侵害し、この機序となったテキストデータの発信は侵害情報の発信に該当するという、氏名表示権におけるリツイート事件最高裁判決及び同控訴審判決、同一性保持権におけるリツイート事件控訴審判決を踏襲するものです。したがって、著作権法判例としてはリツイート事件を理論的に補足する判決という位置付けとなるでしょう。又、19条3項の該当性や、Twitterのプロフィール画像に無断で著作物を設定した場合の著作物の本質的特徴感得の可否という若干の付随する論点について判断を示しています。

    これに対して、プロバイダ責任制限法の判決としては、電話番号開示の遡及的適用について知財高裁として初めて判断を示し、電話番号が開示できる場合SMSアドレスの開示について判示する必要性がない点を判示しました。

    加えて、ログイン時のIPアドレスそれ自体について省令5号の該当性を肯定し開示を命じた初めての知財高裁判例(知る限り高裁全体でも初めての判断ではないでしょうか。)です。しかしながら、同時に5号の該当性を肯定しながら、8号の該当性を否定したという点でも初めての裁判例になります。このように、本件はプロバイダ責任制限法上の判決としての意義が強いかもしれません。

    プロバイダ責任制限法上の意義

    ログイン時のIPアドレスの開示とタイムスタンプの非開示

    本件は、高裁レベルでは初めて、ログイン時のアクセスログそれ自体、特にIPアドレスについて開示できるという判断を示した裁判例※となります(地裁レベルでは本件の一審が知る限り初めての裁判例になります。)。ただし、同時にタイムスタンプの開示を否定した初めての裁判例となります。この判断が実務に影響を与えればその影響は計り知れないところですが、この判断は結論においてあまりに不合理なので、それほど影響はないのではないかと思います(私見)。

    ※IPアドレス及びタイムスタンプに基づいて氏名・住所・メールアドレスなどの開示ができるか、という論点とは別の論点となります。氏名・住所・メールアドレスなどについては開示する裁判例も多数存在します。本件はその前段階の問題が高裁レベルで審理されており、その意味で非常に珍しい裁判例となっていると理解しています。

    電話番号の遡及的開示と電話番号開示の場合のSMSアドレスの開示

    省令改正前の権利侵害に対して、省令改正後に開示が可能となった電話番号の開示を請求できるか、という論点があります。当該論点に対して、知財高裁としては初めて、電話番号の遡及的開示を認めた裁判例になります。ただし、東京高裁などではすでに同様の判断を示す裁判例が出されています。

    すなわち、知財高裁は、『著作権法上の権利の侵害行為が過去に行われたとしても,発信者情報開示請求が行われた時点でプロバイダにプロバイダ責任制限法4条1項に基づく具体的な開示義務が生じるものであり,被控訴人は本訴において開示請求を行っているから,当審口頭弁論終結時に有効な新発信者情報省令が適用されるものと認められ』ると判示しました(判決書57頁)。

    又、本件は電話番号の開示とSMSアドレスの開示を選択的に請求していた事案ですが、電話番号の開示が認められる場合、実質的に同一のSMSアドレスの開示については判断を要しないという判断が示されています。この判断も初めてのものとなりますが、この判断によりSMSアドレスの開示ができるかという論点は基本的に事実上立法的解決により消滅という流れになりそうです。

    すなわち知財高裁は、『被控訴人は,本件アカウント2及び4の原判決別紙発信者情報目録第1の1⑵記載の情報(実際上は電話番号)の開示(上記第1の2⑵)と,本件アカウント2及び4の電話番号の開示(上記第1の2⑷)を請求するところ,後記6のとおり,本件アカウント2及び4の電話番号の開示が認められるから,重ねて実質的に同一内容の情報の開示を求める必要はない。したがって,被控訴人のショートメールアドレスの開示を求める請求は理由がない。本件アカウント2及び4の原判決別紙発信者情報目録第1の1⑵記載の情報の開示の可否については判断を要しない』と判示しています(判決書56頁)。

    著作権法上の意義

    本判決は、著作権法条はインラインリンクが氏名表示権及び同一性保持権を侵害するかという論点について、基本的にリツイート事件最高裁判決及び同控訴審判決の採った結論を採用するものです。しかし、リツイート事件に比して詳細な理由づけがされており、なぜインラインリンクが氏名表示権及び同一性保持権を侵害するかについて、知財高裁の理論付を知る上での補足資料となりそうです。

    特に同一性保持権侵害について、裁判例は、インラインリンクで変形表示された『画像が一種の表現であるこ とは否定できないし,本件のプロフィール画像は,その表示の態様からし ても,クライアントコンピュータの画面において,円形の写真として,そ れ自体で一つの表現として表示されているととらえることができるもの であり,そのようにとらえるとすると,著作者は,本件のプロフィール画 像において,自己の著作物について,改変により異なる表現がされないこ とについての利益を有するといえるから,本件のプロフィール画像におい て原著作物と異なる表示がされたことをもって「改変」がされたと評価す るのが相当であると解される』と判示しています(第46頁(但下線は弊所による。))。

    このように、インラインリンクを「一種の表現」、「それ自体で一つの表現として表示されている」と評価している点は、今後のインラインリンクを巡る議論、ひいてはウェブサイトにおける著作権法の解釈に影響がある部分ではないかと思います。

    又、19条3項の成否や、そもそも、Twitterのプロフィールに対する著作物の設定は表示が不明瞭で本質的特徴を感得できないため著作者人格権侵害が成立しないというリツイート事件で主張されていなかったいくつかの付随する論点について、初めて判断が示されています。

    すなわち、知財高裁は、『しかし,本件円形表示が小さく,プロフィール画像設定行為により設定・登録された画像の解像度が原著作物よりも低いとしても,本件円形表示に表示された本件写真1,2は,他の画像に埋没するようなこともなく,それのみ独立の画像として認識し得る態様で表示されており,円形のトリミングにより削られたところは別として,細部はともかく,被写体の形態,性状,色彩の主要部分が原著作物である本件写真1,2と同様に表示されているから,本件写真1,2の著作物としての本質的特徴を感得できるような態様で表示されていると認められる。したがって,本件円形表示により本件写真1,2が表示されるようにしたことにより,著作物としての本件写真1,2を利用したものであると認められ,「公衆への提供若しくは提示」(著作権法19条1項)に該当するものと認められる』と判示しています(判決書52頁)。

    また、知財高裁は、『上記⑵エのとおり,ツイート1並びに6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報であり,ツイート行為1並びに6及び6’の行為者はこれをサーバに記録した「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)であると評価するのが相当であり,ツイート行為1並びに6及び6’の行為者は,本件円形表示によって本件写真1,2について氏名表示権を侵害した主体であると認められるものであり,自動的・機械的に円形表示がされるといい得る余地があるからといって,それだけで直ちに本件円形表示における本件写真1,2の画像表示が著作権法19条3項の例外規定に該当すると認めることはできない。また,その他に,本件円形表示が著作権法19条3項の例外規定に該当する根拠はない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない』と判示して、著作権法19条3項の適用を本件では認めないという結論を採っています(判決書52-53頁)。

    TOP