プロバイダ責任制限法の源流は、郵政省通信 政策局「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会」の報告書「誰もが安心して情報通信を利用できる社会をめざして(概要)」(平成 11(1999)年 2 月 1 日発表)であると指摘されています(情報通信新時代と法的対応) 。同報告書第4章にて発信者情報開示制度の検討が述べられています。
プロバイダ責任制限法は、平成12年5月から12月において取りまとめられた 「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」報告書の提言を受けて、意見募集とその結果を踏まえて、「前掲の「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会報告」が提唱した立法 化は,平成 13(2001)年 3 月 29 日に IT 戦略本部が決定した「e-Japan 重点計画」,同年 3 月 30 日に閣議決定された「規制改革推進 3 か年計画」,同年 9 月 21 日の「経済財政諮問会 議取りまとめ」において,進められることにな」り、「 このような過程を経てようやく制定され」平成13年11月30日に公布されました(情報通信新時代と法的対応)。プロバイダ責任制限法はこのような経緯を経て施行に至った法律です(総務省「違法・有害情報対策」参照)。
プロバイダ責任制限法は、プロバイダ事業者の責任制限と、発信者情報開示について定めています。
目次
- 1 発信者情報開示
- 2 プロバイダ事業者の責任制限
- 3 令和6年法改正「プロ責法」から「情プラ法」へ
- 4 弁護士齋藤理央のプロバイダ責任制限法に関する情報発信
- 5 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)について
- 6 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
- 7 発信者情報開示命令(非訟手続き)
- 8 プロバイダ責任制限法上の定義規定
- 9 発信者情報開示及び削除(送信防止措置)請求の代理業務
- 10 国内レンタルサーバー事業者に対する発信者情報開示
- 11 インターネット知的財産権侵害における発信者の特定
- 12 インターネットサービスプロバイダ(経由プロバイダ・接続プロバイダ)(ISP)に対する発信者情報開示請求
- 13 X(エックス)(旧Twitter/ツイッター)を運営するXcorp.に対する発信者情報開示請求
- 14 Google(グーグル)に対する発信者情報開示の留意点
- 15 発信者情報開示・削除請求業務
- 16 発信者情報開示請求の概要と要件について
- 17 ユーチューブ/YOUTUBE上で生じた権利侵害に対する発信者情報開示請求
- 18 プロバイダからの意見照会対応
- 19 通信の秘密
- 20 コンテンツ・プロバイダ(CP)に対する発信者情報開示請求
- 21 携帯電話キャリアに対する発信者情報開示
- 22 SMSアドレスの発信者情報開示(第2版)
- 23 SMSアドレスの発信者情報開示
- 24 「リツイート事件」よくいただく質問と回答
- 25 判例解説「リツイート事件最高裁判決」について
- 26 リツイート、いいね!の法的責任を巡る法務( Twitter/ツイッター上の権利侵害)
- 27 リツイート固有の投稿日時(タイムスタンプ)を調査する方法
- 28 米国法人に対する発信者情報開示
- 29 ファイル共有ソフト『ビット・トレント(Bit Torrent)』と著作権侵害
- 30 『リツイート事件』後の評釈・研究会など
- 31 『リツイート事件』が残したもの-最判後の議論状況-
- 32 接続先IPアドレス
- 33 令和3年プロバイダ責任制限法改正による発信者情報開示請求の対象情報拡充について
- 34 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則 が公布
- 35 東京地判令和3年7月9日・ハイパーリンクを含んだツイート投稿にプライバシー権侵害責任を認め、仮処分命令に反して情報を開示しなかったTwitter社の不法行為責任を否定した事案[発信者情報開示裁判例紹介]
- 36 スレッドの主題と無関係のリンク先記事に誘導する書き込みを大量に投稿するなどした、いわゆる掲示板の荒らし行為について侵害情報の流通による権利侵害を認め発信者情報開示を命じた事案
- 37 令和4年4月14日提出[特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施 行規則案に対する意見募集]に対する意見
- 38 開廷表の記載に準じ開廷日時、開廷場所、事件番号及び当事者名等をインターネット投稿した行為がプライバシー権侵害に当たると判断された事案
- 39 社外秘であるVtuberの中の人の音声データURLを一般公開した行為が営業権を侵害すると判断された事例 [裁判例] 令和 3年 9月 9日東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)
- 40 原告ツイートのスクリーンショットを埋め込んだツイート投稿について著作権法上違法とされた事例・裁判例紹介
- 41 ソフトバンク/SoftBankに対する発信者情報開示
- 42 AUを運営するKDDI(ケーディーディーアイ)に対する発信者情報開示
- 43 NTT docomo(ドコモ)に対する発信者情報開示
- 44 アメブロ・Ameba blog上の権利侵害に対する法的対応(発信者情報開示・送信防止措置)
- 45 ブログサービスに対する発信者情報開示・送信防止措置請求
- 46 ログイン時のアクセス・ログ及びこれにより特定される契約者情報の開示について
- 47 さくらインターネットに対する発信者情報開示・送信防止措置(削除)の代理請求業務について
- 48 エックスサーバーに対する発信者情報開示
- 49 Twitterプロフィール画像事件控訴審判決ー著作権・発信者情報開示裁判例紹介
- 50 知的財産高等裁判所における発信者情報開示請求訴訟の裁判例
- 51 インスタグラムの接続先IPアドレス候補
- 52 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案
- 53 GMOインターネットに対する発信者情報開示
- 54 著作権侵害に基づく発信者情報開示請求
- 55 発信者情報開示の在り方に関する研究会中間とりまとめ(案)に対するパブリックコメント
- 56 開示関係役務提供者と被侵害者の関係
- 57 ツイートアイコンを巡る発信者情報開示について
発信者情報開示
発信者情報開示は、プロバイダ事業者が保有する情報発信者の特定につながる情報を開示できる権利です。
ところで、プロバイダ事業者は、電気通信事業法によって「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない」(電気通信事業法4条2項)と定められるなど重たい秘密義務を課されています。
そして、プロバイダ責任制限法制定の契機となった「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」報告書では、発信者情報開示について、「民事事件においても、一定の場合には違法性が阻却され、発信者情報を開示することが認められる場合があるが、刑事事件のような手続がないため、事実上、発信者情報の開示がされず、被害を受けたと主張する者が訴訟を提起することもできない状況も生じていることから、当事者による紛争解決を促進していくため、一定の場合に発信者情報を開示するための制度の整備が必要である」と提言されてます。このように、プロバイダ責任制限法上の発信者情報開示請求権は、「民事事件においても、一定の場合には違法性が阻却され、発信者情報を開示することが認められる場合がある」という考え方が根底にあり、あくまで被害者がどのような場合に権利を救済されるべきかという視点から定められた権利ではなく、プロバイダがどのような場合に免責されるかという視点から定められた権利となっています。つまり、被害者の発信者情報開示請求権を定めた、というよりは、プロバイダの発信者情報開示権を定めたという方が実態に近いのかもしれません。
iC弁護士齋藤理央の発信者情報開示請求業務について
iC弁護士齋藤理央は、発信者情報開示請求業務に幅広い対応経験を有します。
発信者情報開示と通信の秘密
前記報告書「誰もが安心して情報通信を利用できる社会をめざして」は、発信者情報開示と通信の秘密の関係について、 「基本的には、憲法の基本的人権の規定は、公権力との関係で国民の権利・自由 を保護するものであると考えられ、憲法上の「通信の秘密」は私人である電気通 信事業者等へは直接的な適用はなく、電気通信事業法等の「通信の秘密」に関す る規定が適用されると考えられる。また、他人の権利利益を侵害する場合につい ては電気通信事業法等の「通信の秘密」によって保護されない場合があり、この 場合電気通信事業者が発信者情報を開示しても社会的相当行為として違法性が阻 却されると考えられる。ただし、いわゆる公然性を有する通信と1対1の通信の 場合等、個別の事例を分析し、どのような場合に発信者情報が保護されるか明確 化することが必要」と記載しています。
令和3年プロバイダ責任制限法改正
プロバイダ責任制限法について令和3年大改正がされることになりました。この改正により、発信者情報開示の対象となる情報が拡充し、また、開示義務を負うプロバイダの範囲も拡大しています。同改正の鍵を握る総務省規則も令和4年5月27日施行され、令和4年10月1日施行されることになっています。
プロバイダ事業者の責任制限
プロバイダ責任制限法は、その法令名のとおり、プロバイダ事業者の責任を制限しています。上記「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」報告書では、「他人の権利利益を侵害するとされる情報について、サービス・プロバイダ等による迅速で適切な対応を促していくため、サービス・プロバイダ等の責任を明確化する必要があり、その際には、サービス・プロバイダ等が責任を負わない場合を規定する方法(いわゆる「セーフハーバー」規定)によることが適当と考えられる」などと報告されています。
令和6年法改正「プロ責法」から「情プラ法」へ
プロバイダ責任制限法が改正され、令和6年5月17日公布されました。今回の改正ではいわゆるプラットフォーマーが大規模特定電気通信役務提供者(「第二十一条第一項の規定により指定された特定電気通信役務提供者をいう」)と法律上定義されるなど、大規模な改正となっています。
法令名も、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」から、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に変更されています。
令和6年3月1日 | 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案 | 概要【325 KB】要綱【97 KB】法律案・理由【160 KB】新旧対照条文【254 KB】参照条文【310 KB】 (所管課室名)総合通信基盤局電気通信事業部利用環境課 |
弁護士齋藤理央のプロバイダ責任制限法に関する情報発信
弁護士齋藤理央のプロバイダ責任制限法に関する情報発信は下記のとおりです。