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憲法21条2項は、「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めます。

この憲法21条2項の保障は国家からのプライバシーの保障であり、また、憲法21条に保障されていることから直接的なプライバシーの保障をとおして、国民の知る権利に委縮が及ばないことを狙いとするものとも考えられます。

電気通信事業法に定められた私権としての通信の秘密の保護

電気通信事業法は、通信の秘密を私権として保護しています。ここでいう通信の秘密は、私人間で保護される権利を定めたもので、憲法21条2項に定められた国家からの自由としての通信の秘密とは異なります。ただし、私人間で通信の秘密を保護することで、憲法の保障する通信の秘密の保護に間接的に寄与する面はあるでしょう。すなわち、私人間でプライバシーが保障されること、ひいては知る権利の行使が最大化することを企図した保障であると解すべきと考えます。

電気通信事業法の通信の秘密保護に関する条文

電気通信事業法は3条で検閲の禁止を、4条で通信の秘密の保護を定めています。また、同法179条は罰則を定めています。

検閲の禁止を定めた電気通信事業法第三条 

電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。

電気通信事業法第三条

秘密の保護を定めた電気通信事業法第四条 

1 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

電気通信事業法第四条

通信の秘密を侵害した場合の罰則を定めた電気通信事業法第百七十九条

1 電気通信事業者の取扱中に係る通信(第百六十四条第三項に規定する通信並びに同条第四項及び第五項の規定により電気通信事業者の取扱中に係る通信とみなされる認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会が行う第百十六条の二第二項第一号ロの通知及び認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会が取り扱う同項第二号ロの通信履歴の電磁的記録を含む。)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

2 電気通信事業に従事する者(第百六十四条第四項及び第五項の規定により電気通信事業に従事する者とみなされる認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会が行う第百十六条の二第二項第一号又は第二号に掲げる業務に従事する者を含む。)が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

電気通信事業法第百七十九条

電気通信事業法上の通信の秘密の起源

現在のNTTやKDDIが民営化される前の前身が公共企業体だったように、電気通信事業は、我が国では公共事業として発展してきた歴史があります。

この通信事業を国営、公営とするべきという発想は、郵政省の前身である逓信省が作られた前島密や榎本武揚の時代まで遡るようです。

第101回国会衆議院本会議第24号昭和59年5月10日で、鈴木強議員は、通信事業が国営とされてきた経緯について下記の通り発言しています。

当時の先覚者榎本武揚先生や前島密先生の主張された、電気通信事業は公共性が極めて高いこと、都にひなにあまねく公平にサービスを提供すべきであること、通信の秘密は絶対に守られなければならないこと、電気通信事業は我が国の政治、経済、文化の先駆的使命を担うものであること、したがって本事業は利潤追求を目的とする民間経営にすることはできないとする先見性ある英知と勇断によって、この事業は政府がこれを専掌するということとなり、自来今日まで、実に星霜百十七年間、終始一貫国有国営ないし公共企業体として経営されてまいったのでございます。

第101回国会 衆議院 本会議 第24号 昭和59年5月10日

しかし、逓信省が創立された時代の通信の秘密は、果たして、現代の通信の秘密と同義だったのでしょうか。

また、通信事業を国営とすべき論理として使われた文脈にいう通信の秘密と、国家から国民の自由を保障する現在の憲法21条2項で保障された通信の秘密は、機能が全く異なる概念と思料されます。

つまり、事業を国営とする論理は国の権限を拡大する論拠となるものですが本来、憲法で保障された通信の秘密は国民の自由を保障する権利であるはずです。

このように、電気通信事業法上の通信の秘密と憲法上の通信の秘密の性質については慎重な検討が必要となります。

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権と電気通信事業法の通信の秘密

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権は、電気通信事業法に定められた私権としての通信の秘密を制約する通信の秘密に対する例外的な規定として規定されました。第三者の権利侵害という、正当な理由に基づいて例外的に通信の秘密の必要最低限の侵襲が許容されます。

通信の秘密に関する記事

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通信の秘密

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