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令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト は、原告ツイートのスクリーンショットを埋め込んだ発信者ツイート投稿について著作権法上の引用の成立が否定された事案です。

事案の概要

本件は,原告が,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる 140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに別紙投稿記事目録記載の各投稿(以下,当該各投稿を「本件投稿1」 ないし「本件投稿4」といい,併せて「本件各投稿」という。)をされた行為に より(以下,本件投稿1をした者を「本件投稿者1」といい,本件投稿2ないし 4をした者を「本件投稿者2」という。),本件各投稿にスクリーンショット画 像として添付された別紙原告投稿目録記載の各投稿(以下,当該各投稿を「原告 投稿1」ないし「原告投稿4」といい,併せて「原告各投稿」という。)に係る 原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害されたと主張して,被告に対し, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する 法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者 情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案 である。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

本件投稿者1

本件投稿者1は、原告投稿1を含んだツイートである本件投稿1を令和3年3月18日にしました。

本件投稿者1は,ツイッターにおいて,「A」というユーザー名のアカウント(以下「本件アカウント1」という。)を開設し,令和3年3月18日 に,本件投稿1をした。本件投稿1には,原告投稿1のスクリーンショット 画像が添付されていた。(甲8,9,弁論の全趣旨)

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

本件投稿者2

本件投稿者2は、原告投稿2を含んだツイートである本件投稿2、原告投稿2ないし4を含んだツイートである本件投稿3、原告投稿3を含んだツイートである本件投稿4を令和3年3月19日から同月21日の間にしました。

本件投稿者2は,ツイッターにおいて,「B」というユーザー名のアカウ ント(以下「本件アカウント2」といい,本件アカウント1と併せて「本件 各アカウント」という。)を開設し,令和3年3月19日から同月21日までの間,本件投稿2ないし4を行った。本件投稿2には原告投稿2のスクリ ーンショット画像が,本件投稿3には原告投稿2ないし4のスクリーンショ ット画像が,本件投稿4には原告投稿3のスクリーンショット画像が,それぞれ添付されていた。(甲8,9,弁論の全趣旨)

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

求開示IPアドレス

IPアドレス①(アドレス省略)は、 ログイン日時:2021年3月17日午前3時53分47秒(日本標準時) のログインですので、本件投稿1〜4の投稿前のログインです。

IPアドレス②:(アドレス省略)は、 ログイン日時:2021年3月23日午後8時51分28秒(日本標準時) のログインですので、本件投稿1〜4の投稿後のログインです。

このように、本件投稿前後に投稿を挟み込むように本件求開示IPアドレスによるログインが存在しているという状況でした。

ツイッターを運営するXcorp.は,令和3年5月15日,上記仮処分決定に基づき,原告に 対し,同年3月15日から同年5月7日までの間に本件各アカウントにログインがあった際のIPアドレス及びタイムスタンプを開示した。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

「権利の侵害に係る発信者情報」該当性

上記認定事実によれば,ツイッターの上記仕組み及び本件各アカウントの使用状況を踏まえると,本件各アカウントにログインした者が本件各投稿をする ことによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したものと認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると, ログインに関する本件発信者情報は,上記侵害の行為をした発信者を特定する 情報であるといえるから,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと いえる。 これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の 情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報そのものではないことか らすると,本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない旨 主張する。 しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その 前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信 による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通 信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の 特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年 (受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676 頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情 報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係 る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。したがって,被告の 主張は,上記判断を左右するに至らない。 以上によれば,被告の主張は,採用することができない。

著作物性

原告投稿1について

証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,原告投稿1は,「こないだ 発信者情報開示した維新信者8人のログインIPとタイムスタンプが開示 された NTTドコモ 2人 KDDI 3人 ソフトバンク 2人 楽 天モバイル 1人 こんな内訳だった。KDDIが3人で多数派なのがありがたい。ソフトバンクが2人いるのがウザい しかし楽天モバイルは初めて だな。どんな対応するか?」という内容であることが認められる。 上記認定事実によれば,原告投稿1は,140文字以内という文字数制限 の中,発信者情報の仮の開示を求める仮処分手続を経て,著作権侵害と思わ れる通信に係る経由プロバイダが明らかになった事実に基づき,当該事実についての感想を口語的な言葉で端的に表現するものであって,その構成には 作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である原告 の個性が現れているということができる。 そうすると,原告投稿1は,原告の思想又は感情を創作的に表現したもの であり,言語の著作物(著作権法10条1号)に該当するものと認められる。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

原告投稿2について

証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,原告投稿2は,「@B @C @D >あたかものんきゃりあさんがそういった人たちと同じよう 「あたか も」じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと「全く同じ」だ って言ってるんだよ。結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃねーか。お前も含めてな。」という内容であることが 認められる。 上記認定事実によれば,原告投稿2は,140文字以内という文字数制限 の中,意見が合わない他のユーザーに対して,短い文の連続によりその意見 を明確に修正した上,高圧的な表現で同人を罵倒するものであり,その構成には作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である 原告の個性が現れているということができる。 そうすると,原告投稿2は,原告の思想又は感情を創作的に表現したもの であり,言語の著作物(著作権法10条1号)に該当するものと認められる。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

原告投稿3について

証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,原告投稿3は,「去年の今 頃,「@E 」とかいう高校3年生の維新信者に絡まれて勝手にブロックされ て「何したいんだ,このガキ?」って事が さっき,あのガキのツイートが目 に入ったんだけど受験に失敗して浪人するわ都構想は否決されるわで散々 な1年だった様だ 「ざまあ」以外の感想が浮かばない(笑)」,という内容 であることが認められる。 上記認定事実によれば,原告投稿3は,140文字以内という文字数制限 の中,かつてツイッター上で特定のユーザーとトラブルとなった経緯のほか, その後,当該ユーザーの政治的主張が採用されなかったこと,当該ユーザー が大学入試に失敗したことを端的に紹介した上で,当該ユーザーが不幸に見 舞われたことを「ざまあ」の三文字で嘲笑するものであり,その構成には作 者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である原告の 個性が現れているということができる。 そうすると,原告投稿3は,原告の思想又は感情を創作的に表現したもの であり,言語の著作物(著作権法10条1号)に該当するものと認められる。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

原告投稿4について

証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,原告投稿4は,「@C アナ タって僕にもう訴訟を起こされてアウトなのに全く危機感無くて心の底か らバカだと思いますけど,全く心配はしません。アナタの自業自得ですから。」 という内容であることが認められる。 上記認定事実によれば,原告投稿4は,140文字という文字数制限の中, 原告に訴訟を提起されたにもかかわらず危機感がないと思われる特定のユ ーザーの状況等につき,「アナタ」,「アウト」,「バカ」,「自業自得」 という簡潔な表現をリズム良く使用して嘲笑するものであり,その構成には 作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である原告 の個性が現れているということができる。 そうすると,原告投稿4は,原告の思想又は感情を創作的に表現したもの 5 であり,言語の著作物(著作権法10条1号)に該当するものと認められる。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 

引用の成否

イ 引用の成否について 他人の著作物は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる場合には,これを引用して利用することができる(著作権法32条1項)。
これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件各投稿は,いずれも原告各投稿のスクリーンショットを画像として添付しているところ,証 拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,ツイッターの規約は,ツイッター 上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しな ければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順 として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうする と,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用すること なく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反す るものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して 利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。
また,前記認定事実によれば,本件各投稿と,これに占める原告各投稿の スクリーンショット画像を比較すると,スクリーンショット画像が量的にも 質的にも,明らかに主たる部分を構成するといえるから,これを引用することが,引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない。したがって,原告各投稿をスクリーンショット画像でそのまま複製しツイ ッターに掲載することは,著作権法32条1項に規定する引用の要件を充足 しないというべきである。


これに対し,被告は,引用に該当する可能性がある旨指摘するものの,その主張の内容は具体的には明らかではなく,本件各投稿の目的との関係でス クリーンショット画像を掲載しなければならないような事情その他の上記 要件に該当する事実を具体的に主張立証するものではない。そうすると,被 告の主張は,上記判断を左右するものとはいえない。したがって,被告の主張は,採用することができない。


ウ 以上によれば,本件各投稿は,著作権32条1項により適法となるものとはいえない。

令和3年12月10日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 
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