知財高裁令和3年12月8日判決(令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件)・裁判所ウェブサイト掲載は、いわゆるタコ滑り台事件の控訴審判決です。

現在裁判例上も判断規範が分かれている応用美術の著作物性について判断規範を示した上で判断を示しているため、注目される裁判例です。

事案の概要

 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,前田屋外美術株式会社(旧商号「株式 会社前田商事」。以下「前田商事」という。)が製作したタコの形状を模した別 紙1原告滑り台目録記載の滑り台(以下「本件原告滑り台」という。)が美術 の著作物又は建築の著作物に該当し,被控訴人がタコの形状を模した別紙2被 告滑り台目録記載の滑り台2基(以下「本件各被告滑り台」と総称し,同目録 1記載の滑り台を「本件被告滑り台1」,同目録2記載の滑り台を「本件被告 滑り台2」という。)を製作した行為が控訴人が前田商事から譲り受けた本件 原告滑り台に係る著作権(複製権又は翻案権)の侵害に該当する旨主張して, 主位的に,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として432万円及びうち 216万円に対する平成24年4月17日(不法行為の日である本件被告滑り 台2の製作日)から,うち216万円に対する平成27年2月12日(不法行 為の日である本件被告滑り台1の製作日)から各支払済みまで平成29年法律 第44号による改正前の民法所定(以下「改正前民法所定」という。)の年5 分の割合による遅延損害金の支払を,予備的に,不当利得返還請求として43 2万円の利得金の返還及びこれに対する令和元年9月5日(訴状送達の日の翌 日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を求める事案である。

知財高裁令和3年12月8日判決(令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件)・裁判所ウェブサイト掲載

本判例で示された応用美術の著作物性判断規範(下線・強調部分)と規範に至る流れ

前記ア認定のとおり,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供 されることを目的として製作されたことが認められる。

ところで,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは,「思想又は 感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の 範囲に属するもの」をいうと規定し,同法10条1項4号は,同法に いう著作物の例示として,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」 を規定しているところ,同法2条1項1号の「美術」の「範囲に属す るもの」とは,美的鑑賞の対象となり得るものをいうと解される。

そ して,実用に供されることを目的とした作品であって,専ら美的鑑賞 を目的とする純粋美術とはいえないものであっても,美的鑑賞の対象 となり得るものは,応用美術として,「美術」の「範囲に属するもの」 と解される。

次に,応用美術には,一品製作の美術工芸品と量産される量産品 が含まれるところ,著作権法は,同法にいう「美術の著作物」には, 美術工芸品を含むものとする(同法2条2項)と定めているが,美術 工芸品以外の応用美術については特段の規定は存在しない。

上記同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対 象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したもので あれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条 2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した 規定であると解される。

他方で,応用美術のうち,美術工芸品以外の 量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術 の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現 するために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることに なり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻 害することになって,妥当でない。

もっとも,このような物品の形状 等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠 として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。

これらを踏まえると,応用美術のうち,美術工芸品以外のもので あっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい る部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術 の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。

以上を前提に,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するかどう かについて判断する。

知財高裁令和3年12月8日判決(令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件)・裁判所ウェブサイト掲載

規範部分に関する見解

本判例はまず、「著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対 象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したもので あれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条 2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した 規定であると解される」と判示しています。このように、美術工芸品は例示であり、「美的鑑賞の対 象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したもので あれば,美術の著作物に含まれる」と判示しています。

その上で、「応用美術のうち,美術工芸品以外の 量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術 の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現 するために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることに なり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻 害することになって,妥当でない。」として、実用品が易々と著作物該当性を肯定されることの弊害を指摘しているように思われます。この時点で、本判例はトリップトラップ事件で採用されたと考えられる無制限説の問題点を指摘し、同基準をそのまま採用するのは問題があると述べているように思われます。

その上で、「このような物品の形状 等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠 として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。」と述べて、実用品のうち著作物で保護されないものは意匠としての保護を検討すべき旨を示唆しているものと思料されます。

以上のとおり、実用品の著作権保護による弊害にも考慮して無制限説は取らないと言明し、著作権法の保護によるバランスを調整した上で、意匠法との守備範囲の棲み分けにも言及している点で、とても緻密な衡量がされているのではないかと感じました。

以上を踏まえて、「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい る部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術 の著作物として,保護され得る」という規範を定立しています。

つまり、本判決は、応用美術の著作物性を判断するにあたり必要とされる美的特性は美術の著作物の創作性のことだと言明し、ただ、その判断をする対象範囲は構成と分離できる部分に限られるという判断対象の限定で著作物としての成立範囲に絞りをかけたものとも思えます。個人的にこの規範は他の領域の著作物性判断と平仄が合うこと、無制限性説の問題点を克己しようとしている点でとても考えられた優れた規範ではないかと考えています。

その上で、絞りをかけた判断対象に美的特性としての創作性が認められる場合は、応用美術全体が著作物となるとして、判断対象に絞りをかけた場合、著作物の成立がその範囲に限られるようにも思われるという点に対しても合理的な配慮がされているように思われます。

簡単にいうと個人的には使いやすい上に合理的であるため、今後広く通用する規範となる可能性もあるのではないかと感じています。

控訴審における当てはめ

タコの頭部(胴体部)について

タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最 も高い箇所に設置されており,同部分に設置された上記各開口部は,滑 り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造で あって,滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であると いえる。

また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開口部及 びスライダーに移動するために必要な構造である上,開口部を除く周囲 が囲まれた構造であることによって,高い箇所にある踊り場様の床から 利用者が落下することを防止する機能を有するといえる。

他方で,上記 空洞のうち,スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うよう に配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止する などの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではい えない。

そうすると,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記 天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な 機能に係る構成と分離して把握できるものであるといえる。

しかるところ,上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から 後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させる ものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状 としても,ありふれたものである。 したがって,上記天蓋部分は,美的特性である創作的表現を備えてい るものとは認められない。

そして,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋 部分を除いた部分については,上記のとおり,滑り台としての実用目的 を達成するために必要な機能に係る構成であるといえるから,これを分 離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい るものと把握することはできないというべきである。

以上によれば,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は, 実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞 の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握で きるものとは認められない。

知財高裁令和3年12月8日判決(令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件)・裁判所ウェブサイト掲載

あてはめ部分に対するコメント

本判決で、一審判決と異なり、「上記 天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な 機能に係る構成と分離して把握できるものである」との判示がされています。

この天蓋部分というのは、「スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うよう に配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止する などの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではい えない。」とされています。

つまり、本判決は、落下防止のためのガードの役割を果たす部分を除いた、上記赤丸の部分については滑り台の機能のための構成として、必要不可欠とまでは言えないと判示しているものと解されます。

確かに、天蓋部分を除いた構成は、滑り台として必要な機能に向けられた構成に限定されているように思われます。

その上で、「上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から 後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させる ものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状 としても,ありふれたものである。」と判示しています。確かに赤丸の天蓋部分まで判断対象を絞り込んだ場合、その表現はありふれたものと言わざるを得ないでしょう。個人的にはここまで分解的に検討判断されると納得するしかないと感じました。

美術工芸品該当性についての判示

控訴人は,本件原告滑り台は,一品製作品というべきものであり, 「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たり,創作性を有するから, 美術の著作物に該当する旨主張する。

そこで検討するに,①「タコの滑り台,北欧に」との見出しの平 成23年7月7日の朝日新聞の記事(甲4)には,控訴人のB会長の 発言として「タコの滑り台は一つ一つデザインが違い,その都度設計 する。」,②「タコの滑り台の話」と題するC作成の令和2年7月11 日の毎日新聞の記事(甲25)には,タコの滑り台について「一つ一 つが手作りで,全く同形の作品はないという。」,③株式会社パークフ ル作成のウェブサイトに掲載された「日本縦断!タコすべり台がある 公園特集」と題する2018年(平成30年)1月3日付けの記事 (乙24)には,タコの滑り台について「どのタコも手作りで作られ ていて,二つとして同じ形のタコはいないんだそう!」との記載があ る。

しかしながら,上記各証拠の記載は,いずれも,B会長の発言又 は伝聞を掲載したものであって,客観的な裏付けに欠けるものである。 他方で,前記前提事実⑵及び⑶のとおり,前田商事が全国各地から発 注を受けて製作したタコの滑り台は260基以上にわたること,前田 商事が製作したタコの滑り台は,基本的な構造が定まっており,大き さや構造等から複数の種類に分類され,本件原告滑り台は,その一種 である「ミニタコ」に属するものであったことからすれば,本件原告 滑り台と同様の「ミニタコ」の形状を有する滑り台が他にも製作され ていたことがうかがわれる。

そうすると,上記各証拠から直ちに本件 原告滑り台が一品製作品であったものと認めることはできない。他に これを認めるに足りる証拠はない。

よって,本件原告滑り台は,「美術工芸品」に該当するものと認め られないから,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって, 理由がない。

知財高裁令和3年12月8日判決(令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件)・裁判所ウェブサイト掲載

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