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東京地判令和4年10月28日・裁判所ウェブサイトは、YouTubeにおける動画の引用が適法と判断された事例です。

事案の概要

本訴(原告▶︎被告)

本件は、原告が、被告に対し、原告が警察官に逮捕された際の状況が 撮影された動画を被告が「YouTube」に投稿したことにより、名誉権、肖像権及びプ ライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき、60万円及び遅延損害金の支払を求める事案でした。

反訴(被告▶︎原告)

これに対して、本件被告が反訴を提起しました。本件反訴は、原告が YouTube に複数の動画を投稿し たこと等により、著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(同一性 保持権及び氏名表示権)又はプライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき、438万7900円及び遅延損害金の支払を求める事案でした。

反訴を棄却した裁判所判断

動画1にかかる引用の成立について判示した部分

ア 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、 研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用するこ とができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、 著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照ら し判断するのが相当である。

イ 前提事実及び証拠(乙1、甲11)並びに弁論の全趣旨によれば、①原 告動画1は、冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがったパチスロ系人気YouTuberCさんに撮影され モザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動 画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」等 のテロップが表示された後、「長文申し訳ございません。動画を開始させ て戴きます。」と表示されること、②その後、背景に「当動画はYouT 25 uberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバ シー処理した動画です。」と表示された状態で、本件状況が映っていること、③その後、「ご視聴頂きありがとうございます。今後、削除処理の過 程や、私の行って来た事 過去の申し立て内容や進捗を公開していければ と考えております。 SNS被害ch」とのテロップが表示されているこ と、④原告動画1は、本件逮捕動画のうち、原告が現行犯逮捕されるなどした本件状況を映したいわば生の映像について引用する一方で、被告が本 件状況の補足説明や原告又は警察官の発言内容につきテロップを付すなど した部分については引用していないこと、他方、⑤本件逮捕動画は、遅く とも平成30年9月末頃に、その投稿が削除されており、原告動画1の投 稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、原告は、本件逮捕動画が被告によって撮影され 編集されたものであることを明記した上、本件逮捕動画を引用していると ころ、原告動画1を投稿した目的は、被告がモザイクや音声の加工等を施 さないまま、現行犯逮捕された原告の容ぼう等をそのまま晒す本件逮捕動画を YouTube に投稿したことを明らかにするためのものであり、本件逮捕 動画は、その被害を明らかにするために必要な限度で利用されたものであ り、他方、本件逮捕動画の引用によって被告に実質的な不利益が具体的に 生じたこともうかがわれない。

これらの事情を総合考慮すれば、原告動画1において本件逮捕動画を引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範 囲内で行われたものと認めるのが相当である。

ウ 被告の主張について 被告は、原告動画1につき、引用して利用する側の著作物と、引用し て利用される著作物とを明瞭に区別して認識することができないと主張する。 しかしながら、前記イのとおり、原告動画1と本件逮捕動画を明確に区別して認識することができることは明らかであり、被告の主張は、上 記認定に係る原告動画1の内容に照らし、一般の視聴者の普通の注意と 視聴の仕方とを基準として判断するものとはいえない。 被告は、原告動画1と本件逮捕動画との関係について、いずれも、量的質的に引用する側の著作物が主、引用される著作物が従という関係が 認められないから、そもそも著作権法32条にいう「引用」に当たらな いと主張する。 しかしながら、本件逮捕動画は、原告が被告から被害を受けたことを 明らかにするという目的の限度で引用されており、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められることは、上記において説示したとお りである。そうすると、上記引用の目的及び態様を踏まえると、主従関 係をいう被告の主張は、上記の要件該当性を左右するものとはいえない。 被告は、被告から権利の侵害を受けたということを世間に公表するた めには、本件逮捕動画の引用は必須ではなく、動画の一部を利用すれば足りると主張する。

しかしながら、原告が被告から本件逮捕動画の投稿によって被害を受 けたことを明らかにするという目的を踏まえると、原告が受けた被害そ のものである本件逮捕動画を動画として引用することが最も直接的かつ 有効な手段であるといえる。そうすると、被告の主張は、上記目的及び本件逮捕動画との関係を正 解するものとはいえず、上記判断を左右しない。 被告は、原告動画1においては、被告の同一性保持権を侵害する改変 がされている上、出所の明示もされていないと主張する。 しかしながら、同一性保持権の侵害が認められないことは、後記6のとおりであり、出所が明示されていることは、前記イのとおりである。 以上によれば、被告の主張は、いずれも採用することができない。

エ したがって、原告動画1において本件逮捕動画を利用することは、著作権法32条1項の引用が成立するものと認められる。

⑷ 小括 以上によれば、原告が原告動画1において本件逮捕動画を引用することは、 著作権法32条1項にいう引用に当たるから、本件逮捕動画に係る著作権の 侵害に基づく被告の請求は、理由がない。

東京地判令和4年10月28日・裁判所ウェブサイト

動画1について著作者人格権の侵害を否定した判示部分

同一性保持権

⑴ 同一性保持権の侵害について

被告は、原告において本件逮捕動画にモザイク処理と音声加工を施しこれに変更を加えていることが、被告の同一性保持権を侵害している旨主張す る。 そこで検討すると、著作権法20条2項4号は、「やむを得ないと認められ る改変」に該当する場合には、同一性保持権を定める同条1項の適用を除外 するものである。 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件逮捕動画の内容 は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼 路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し 問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察 官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであり、原告の名誉権及び肖像権を侵害することは、前記において説示したとおりであ る。そうすると、原告が、原告動画1における本件逮捕動画の引用部分につ いて、原告の容ぼうにモザイク処理を施したり、音声加工を施したりして改 変することは、上記の各権利が繰り返し侵害されることを回避するために必 要な措置であるといえる。 そうすると、上記改変は、著作権法20条2項4号にいう「やむを得ない と認められる改変」に該当するものと認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして 理由がある。

したがって、本件逮捕動画に係る同一性保持権が侵害されたものと認める ことはできず、被告の主張は、採用することができない。

東京地判令和4年10月28日・裁判所ウェブサイト

氏名表示権

⑵ 氏名表示権の侵害について 被告は、原告において被告を本件逮捕動画の著作者として原告動画1に明 示していないことが、被告の氏名表示権を侵害していると主張する。 しかしながら、前提事実及び証拠(乙1)並びに弁論の全趣旨によれば、 ①原告動画1の冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがったパチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモ ザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画を SNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」との表示 がされていること、②原告動画1のうち、別の動画を引用している部分にお いては「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」との表示がされているこ と、以上の事実が認められる。

上記認定事実によれば、前記において説示したとおり、原告は、原告動画 1において、引用する動画の著作者が被告であることを明示していることが 認められる。

したがって、本件逮捕動画に係る氏名表示権が侵害されたものと認めるこ とはできず、被告の主張は、上記認定事実と異なる前提に立つものであり、 採用することができない。

⑶ 小括 以上によれば、本件逮捕動画に係る著作者人格権の侵害に基づく被告の請求は、いずれも理由がない。

東京地判令和4年10月28日・裁判所ウェブサイト

動画2に関する著作権、著作者人格権についての判示部分

動画2に関する引用の成否(著作権侵害の制限)

他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、 研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用すること ができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、 引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者 に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。 そこで検討するに、証拠(乙1、乙5)及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、原告動画2の冒頭において「Cさんが人気 YouTuberDとコラボしたら しいです」(当該人気 YouTuberDを、以下「D」という。)として、被告動 画1がいわゆるコラボ動画であるとして、その出所を明記していること、② 原告は、被告動画1の各場面を引用した上で、「私は全世界にモザイク・ボイスチェンジ無しで恥ずかしい逮捕動画を公開されたのに」、「Cさんは徹 底して、顔出し、声出しNG」などのテロップ等を付し、被告の容ぼうが映 らないアングルを採用するなどして、被告の手の部分のみが映されてその容 ぼうや声が出ていない場面や、同乗している YouTuber のDの容ぼうが本件 イラスト等によって隠されている場面を引用するものであること、③被告は、本件イラストが被告のシンボルであり、自分の制作した作品に強い思い入れ がある旨陳述するものの、本件イラストの僅か数秒の引用によって被告に実 質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認 められる。 上記認定事実によれば、原告は、本件逮捕動画では原告が顔出しされたのに対し、被告が投稿動画において顔出しをしていないことを表現するために、 被告動画1の出所を明記した上、本件イラストが映り込んだ被告動画1の一 場面を引用したことが認められ、他方、Dの容ぼうに本件イラスト等を重ね るとともに、被告の容ぼうが映らないアングルを採用するなどした場面が引 用されているものの、本件イラストが実際に映り込んだ時間も僅か数秒であり、これによって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。 これらの事情を総合考慮すれば、原告動画2において本件イラストを引用 することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内 で行われたものと認めるのが相当である。

東京地判令和4年10月28日・裁判所ウェブサイト

動画2の著作者人格権侵害に関する判示部分

上記認定事実のとおり、原告動画2において、被告動画1の一場面に本件イ ラストが映り込んでおり、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件イラストの著作者が被告である旨の表示はされていない。しかしながら、前記認定 事実によれば、本件イラストが映り込んだ場面は僅か数秒であり、被告に実質 的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。そうすると、本件イラス トの著作者名の表示は、前記認定に係る本件イラストの利用の目的及び態様に 照らし、被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそ れがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができ ると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原 告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。

したがって、原告は、本件イラストに係る氏名表示権を侵害したものと認め ることはできない。 仮に、本件イラストにつき、被告が自身のシンボルである趣旨を縷々述べて いるところに弁論の全趣旨を踏まると、被告は、氏名表示権侵害の主張におい て、本件イラストのパブリシティ権侵害を主張する趣旨をいうものと善解する こともできる。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストに被告の 人物識別機能があったとしても、本件イラストの利用は、顔出しを防ぐ手段と して僅か数秒映り込んだにすぎず、専ら本件イラストの有する顧客吸引力の利 用を目的とするものではないから、パブリシティ権を侵害するものではなく、 上記において善解した主張も、採用の限りではない。

東京地判令和4年10月28日・裁判所ウェブサイト

コメント

その他、動画3についても詳細な検討がされ、著作権侵害などについて成立しないものとして反訴請求が棄却されています。引用などの著作権制限規定や、著作者人格権侵害について柔軟に適用を判断しようとするSNS時代の著作権に関する裁判所判断のトレンドを感じる裁判例ではないかと思います。

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