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プロバイダ責任制限法上、電話番号の発信者情報開示を認める裁判例が確定しました。

また、電話番号そのものの開示を認める省令改正が令和2年8月に施行されました。

SMSアドレスの発信者情報開示を巡る議論は収束したようにも思われます。

SMSアドレス開示のメリット

SMSアドレスからは「同じ番号」である「携帯電話番号」を容易に推測出来ます。

これが、SMSアドレス開示の最大のメリットであり、論点でした。

電話番号を開示対象に含める省令改正が行われたのですか?

令和2年省令(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令 )が改正され、同年8月31日に施行されました。

このことで、SMSアドレスの開示を請求する意義は小さくなっています。

改正後も限定的にSMSアドレスの開示の問題が訴訟で争点となり得るのですか?

例えば、省令改正前の侵害について電話番号の開示を求める事案で、省令の遡及適用が否定された場合など限定的に争点となるケースが想定されます。

上記のように省令改正前の侵害に基づいて電話番号の発信者情報開示を請求する場合に遡及的な適用を否定する裁判例も出されています。遡及適用を否定する場合、電話番号もSMSとして開示の対象となるのか限定的ですが問題となります。

遡及適用が問題となる事案では、予備的(あるいは選択的)にSMSアドレスの開示を請求しておくべきケースも存在します。

この論点は、省令施行前の電話番号の開示請求が減るにつれていずれ実益のなくなる論点ですが、ここでは当該SMSアドレスの発信者情報開示というプロバイダ責任制限法上の論点について、言及していきます。

遡及適用が肯定される場合問題にならなくなりますか?

遡及適用については現在裁判例が相次いでおり、上告審に係属しているものもあるようですので、いずれ最高裁判所の見解も示されるかもしれません。

遡及適用が肯定された場合、現在のインターネットの状況から問題となる例は相当限定的です。

ただし、SMSアドレスは電話番号と範囲が厳密には一致しないため、省令で追加された「電話番号」の定義によっては、SMSアドレスには含まれるが、電話番号からは外れる情報が発生します。

IOTに利用される020番号や、海外で利用されている電話番号を用いないSMSアドレスなど、電話番号に当たるか疑義があるがSMSアドレスに当たり得る情報の開示を求める場合SMSアドレスの開示請求が有効となる可能性があります。

このように、SMSアドレスには含まれるが電話番号からは外れる情報について、引き続きSMSアドレス開示の議論が必要になる可能性もあります。

そしてインターネットの移り変わりの激しさから、そのような情報の開示が意義を持つ状況も今後十分想定され得ます。

令和元年6月18日札幌地方裁判所判決(平成31年(ワ)第71号 発信者情報開示等事件)

札幌地方裁判所で、SMSアドレスの発信者情報開示含んだ情報について開示を認める判決が出され、確定しました。

争点として明確に議論されたわけではありませんが、発信者情報開示請求訴訟で、SMSアドレスを含んだ情報の開示認容裁判例としては、知る限り初めてのものです。

なお、弊所は当事件について、SMSアドレスも開示の対象となる旨の意見書を提出しています。

東京地方裁判所の開示裁判例

また、東京地方裁判所でも令和元年12月、令和2年6月にSMSアドレスの開示裁判例が出されています。

東京地裁 令和元.12.11判決・判タ 1487号233頁(令和1(ワ)14218 発信者情報開示請求事件)

東京地方裁判所令和元年12月11日判決・判例タイムズ1487号233頁は、SMSアドレスの開示が正面から争点となり、開示が認められたリーディングケースとなる裁判例です。以下、判示内容を抜粋します。

SMSが発信者情報に該当するか

開示の対象となる発信者情報の範囲をどのように画するかは一義的に明確とはいえないのであ って,通常の電子メールアドレス(SMTP電子メールアドレス)は 開示の対象となるが,SMS用電子メールアドレスとして利用され得 る電話番号について開示対象外であるとする実質的な根拠は乏しいと いうほかなく,SMS用電子メールアドレスとして利用され得る電話番号に関しては通常の電子メールアドレス(SMTP電子メールアド レス)よりもプライバシー及び通信の秘密の保護の要請が高いということもできない。

以上のように考えると,被告の指摘する平成14年総務省令の制定 及び改正の経緯等を踏まえても,前記のような条文の文理解釈に反して,SMS用電子メールアドレスのみを「電子メールアドレス」の定 義から除外する十分な合理性は見いだし難い。

(中略)

少なくとも,現行のプ ロバイダ責任制限法及び平成14年総務省令の解釈としては,「電子 メールアドレス」にはSMS用電子メールアドレスが含まれると解さざるを得ない。

プロバイダ責任制限法3条の2第2号が引用する公職選挙法142条の3第3項は,「電子メールアドレス」(特定電子 メール法2条3号に規定する電子メールアドレスと同義)及び「その 他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に 必要となる情報」を併せて「電子メールアドレス等」と定義している ことからすれば,これらの規定中の「電子メールアドレス等」は「電子メールアドレス」を含む用語であると解するのが自然であって,平 成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」とプロバイダ責任制 限法3条の2第2号の「電子メールアドレス等」とが明示的に書き分 けられたもの,すなわち,平成14年総務省令3号の「電子メールア ドレス」とプロバイダ責任制限法3条の2第2号の「電子メールアドレス等」のうちの「電子メールアドレス」の部分とがその対象を別異 にするものとして,これらの規定が設けられたとは解し難い。

SMSの開示を受けるべき正当理由について

被告は,氏名又は名称及び住所に加えて,電子メールアドレス及び SMS用電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由は存在し ない旨主張する。

しかしながら,不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するためには,最終的には民事訴訟の提起が必要であるとしても,これに先立 って,裁判外で任意の履行請求することは,ごく通常のことであって, 電子メールアドレスの開示はこれに資するといえる。

平成14年総務 省令が,氏名又は名称及び住所に加えて電子メールアドレスも発信者 情報に掲げていることからすれば,電子メールを利用しての損害賠償請求等の方法があり得ることは,当然の前提とされているというべき であり,氏名又は名称及び住所によっては特定できないような限定的 な場面のみに限定して電子メールアドレスの開示を許容したものとは 解されない。 また,SMS用電子メールアドレスについても,前記示したとおり「電子メールアドレス」に含まれると解される上,発信 者を特定あるいは識別するのに資する情報であるといえるし,損害賠 償請求等の相手方に対する連絡手段としても合理的に有用と認められ る。 したがって,電子メールアドレス及びSMS用電子メールアドレスについても,それらの開示を受けるべき正当な理由があると認められ る。

東京地裁 令和2.6.26判決・裁判所ウェブサイト掲載(平成31(ワ)8945 発信者情報開示請求事件)

東京地裁 令和2.6.26判決・裁判所ウェブサイト掲載(平成31(ワ)8945 発信者情報開示請求事件)も同様にショートメールアドレスの開示が正面から争点となり開示請求が認容されました。

電子メールにSMS方式が含まれるか

電子メールには,種々の通信方式によるものが存在するが, ここでいう「電子メール」がいかなる通信方式によるものかについては, 本省令は少なくともその文言上,何ら限定は加えられていない。 また,プライバシー権,表現の自由及び通信の秘密の観点から,電子メールの通信方法によりその侵害の危険性や程度が類型的に異なるものとは考えられない。 さらに,本省令が電子メールアドレスを発信者情報の一つとして定めたのは,上記のとおり,氏名や住所を通常は保有しておらず,電子メールア ドレスやIPアドレスしか記録していない特定電気通信役務提供者もいる ため,そのような特定電気通信役務提供者が保有する発信者の情報を得ら れるようにするためであると解される。 そうすると,少なくとも本省令3号の文言やその趣旨に照らすと,同号 にいう「電子メール」には,SMS方式による電子メールアドレスも含ま れ,特定電気通信役務提供者が電子メールの利用者を識別するための情報 として,携帯電話番号と同様の情報を保有する場合において,当該携帯電 話番号は,本省令3号が定める「発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号をいう。)」に 該当するものと解するのが相当である。 イ そして,前記(1)イ及び同(2)のとおり,平成14年4月17日に制定さ れた特定電子メール法2条3号は,電子メールアドレスについて,「電子 メールの利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号をいう。」と定義し,同年5月22日に制定された本省令においても同一の定 義が採用されている上,他の法令(公職選挙法142条の3第3項,特定 興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関 する法律2条3項3号イ等)においても「電子メールアドレス」の定義と して特定電子メール法2条3号が引用されている。また,同法同条1号が,「電子メール」を「総務省令で定める通信方式を用いるもの」とし, これを受けて,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則 (ただし,平成21年9月1日以降は,特定電子メールの送信の適正化等 に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令)がその通信方式を定 めているところ,他の法令(公職選挙法142条の3第1項,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律30条の9第2号,不正アクセス行 為の禁止等に関する法律7条2号等)においても「電子メール」の定義として特定電子メール法2条1号が引用されているほか,平成25年の法改 正により追加されたプロバイダ責任制限法に公職の候補者等に係る特例 (同法3条の2)において「電子メールアドレス等」の定義として公職選 挙法142条の3が引用されている。 このように,「電子メールアドレス」及び「電子メール」という法令用 語については,特定電子メール法及び同法により委任された総務省令(以 下,併せて「特定電子メール法等」という。)による定義規定を中心とし て,本省令を含む他の法令がこれと同一の定義を採用し,又はこれを引用 するという体系的な構造が構築されているということができることからすると,本省令における「電子メール」についても,特定電子メール法にお けると同様,同法の委任する総務省令によって定められたSMS方式によ るものを含むと解することには十分な合理性がある。 また,本省令を上記のとおり解釈したとしても,特定電気通信役務提供 者がSMS方式の電子メールアドレスとして携帯電話番号の情報を保有している場合と異なり,専ら電話番号としての携帯電話番号の情報を保有し ている場合には,その電話番号としての携帯電話番号の情報が本省令3号 にいう「電子メールアドレス」に該当しないことは当然であり,同号の適用において明確さを欠くということもない。 したがって,本省令3号にいう「電子メール」には,特定電子メール法等と同様,SMTP方式による電子メールのみならず,SMS方式による 電子メールも含まれるものと解すべきである。 ウ 以上によると,SMS方式による電子メールは本省令3号にいう「電子 メール」に当たるというべきであるから,特定電気通信役務提供者が,そ の利用者を識別するための番号としてSMS方式による電子メールアドレスの情報として携帯電話番号と同様の情報を保有する場合,当該携帯電話 番号は同号にいう「電子メールアドレス」に該当する。

特定電子メール法との関係

特定電子メール法等が制定されて以降,「電子メール」 や「電子メールアドレス」という法令用語については,その定義規定を中心とした体系的な構造が構築されており,本省令も特定電子メール法等と整合的に解釈すべきであることは,前記(3)イのとおりであり,同アのと おり,本省令中の「電子メール」については,その通信方式について何ら 限定が加えられていないことからすると,同省令の制定当初において具体 的にSMS方式による電子メールが想定されていなかったとしても,そのことによって「電子メール」がSMS方式による電子メールを排除してい るとまで解することはできないし,特定電子メール法等の上記改正に伴っ て本省令3号が改正されなかったことは,上記のとおりの同法等を中心と する体系的な構造を前提とすると,本省令の解釈に何らの影響を与えるも のでもない。

逆に,特定電子メール法等の改正に伴って,「電子メール」にSMS方 式による電子メールが含まれることとなり,同法を引用する他の法規にお いても同様に解されるようになったにも関わらず,本省令3号にいう「電 子メール」についてのみSMS方式による電子メールを含まないと解する とすれば,法解釈の混乱を招く結果となり,法的安定性を害するおそれがあるというべきである。

そうすると,本省令3号にいう「電子メール」や「電子メールアドレ ス」は,特定電子メール法等の改正に伴ってその内容が整合的に改められ るものと解するのが相当であり,平成17年総務省令第148号が施行さ れた同年11月1日以降は,SMTP方式による電子メールに加え,SMS方式による電子メールも本省令3号にいう「電子メール」に含まれるこ ととなったというべきである。

SMS の仕組み

ショートメッセージサービス(以下、「SMS」という。)と、一般的な電子メールサービスの違いは、前者が回線交換方式で実現され、後者がパケット交換方式で実現されている点にしかありません。

両通信方式は一長一短ありますが、結局、SMS と一般的電子メールの違いは、通信方式の違いに過ぎないことになります。

例えば、SMS も回線のシグナリングチャネルをとおして信号を送信しSMSC(ショートメッセージサービスセンター)と呼ばれるサーバを経由していることからその仕組みは電子メールと相似します。

ひとつの携帯電話からひとつの携帯電話に送信される SMS も、送信者の携帯電話から発信させた後、受信者の携帯電話に直接受信されているわけではありません。送信者と受信者の間に SMSC(ショートメッセージサービスセンター)と呼ばれる、SMS 用のサーバコンピュータが介在し SMS を取りまとめて、受信側クライアントコンピュータに送信しています。

したがって、SMS 送信の仕組みは一般的な電子メール送信の仕組みと全く異ならないのです。このように、法律上電子メールに SMS が含まれると解釈することに事実上の基礎も認められると考えられます。

法令上も SMS は電子メールアドレスに該当する


ショートメールアドレスが法律上電子メールアドレスに当たることは明文上に記載があります。
すなわち、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」2条1号に電子メールについては下記のとおり定義されています。

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定める
ところによる。

一 電子メール 特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する
通信端末機器(入出力装置を含む。以下同じ。)の映像面に表示されるよ
うにすることにより伝達するための電気通信(電気通信事業法(昭和五
十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)であ
って、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。

これを受けて、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」が、次のとおり定めています。

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方
式を定める省令
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号の規定に基づき、特定電子メールの送信の適正化等 に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令を次のように定める。

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の総務省
令で定める通信方式は、次に掲げるものとする。
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用い
て通信文その他の情報を伝達する通信方式

すなわち、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示 に関する法律(以下プロ責法という。)にいう電子メールアドレスに SMS アドレスが含まれることは条文上明記されていますが、プロ責法第三条の二 第2号及びこれが引用する公職選挙法第百四十二条の三第三項というや や気付きにくい引用となっています。この点を念のために補足的に指摘しておきます。

プロ責法第三条の二第2号は、以下のとおり定めるます。

二 特定電気通信による情報であって、特定文書図画に係るものの流通 によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等から、名誉侵害 情報等及び名誉侵害情報の発信者の電子メールアドレス等(公職選挙法 第百四十二条の三第三項に規定する電子メールアドレス等をいう。以下 同じ。)が同項又は同法第百四十二条の五第一項の規定に違反して表示 されていない旨を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害 情報送信防止措置を講ずるよう申出があった場合であって、当該情報の発信者の電子メールアドレス等が当該情報に係る特定電気通信の受信 をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に正し く表示されていないとき。

次に公職選挙法第百四十二条の三第三項は次のとおり定めます。

3 ウェブサイト等を利用する方法により選挙運動のために 使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレ ス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三 号に規定する電子メールアドレスをいう。以下同じ。)その他の インターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする 際に必要となる情報(以下「電子メールアドレス等」という。) が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通 信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければな らない。

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三号 は次のとおり定めます。

三 電子メールアドレス 電子メールの利用者を識別するた めの文字、番号、記号その他の符号をいう。

そして、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条 第一号は次のとおり定めます。

一 電子メール 特定の者に対し通信文その他の情報をその 使用する通信端末機器(入出力装置を含む。以下同じ。)の映像 面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第 一号に規定する電気通信をいう。)であって、総務省令で定める 通信方式を用いるものをいう。

このようにプロ責法は、電子メールの 意義を、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律および特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通 信方式を定める省令(以下本書面では総務省令という。)によって 定義づけています。そして、総務省令にいう電子メールに SMS を 含んでいることから、 SMS アドレスも法令上開示の対象となると解することができます。

以上は法令に明記されていることですが、少し複雑な引用関係にあります。このように、法的に電子メールには、「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」が含まれることから、携帯電話番号兼用のショートメールアドレスも、電子メールアドレスに該当すると解釈して誤りではないことになります。

すなわち、SMS と一般的な電子メールは前者が回線交換方式で実現され、後者がパケット交換方式で実現されるという通信方式の違いしかないところ、前者の通信方式も電子メールに含まれることを法令が明言しています。


この点は、同省令は平成21年法改正によることから、同改正前より施行されているプロバイダ責任制限法上の電子メールの解釈に影響を与えないとの反論もあり得るところです。しかしながら、プロバイダ責任制限法及び、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」は、共に、平成13年に制定され平成14年5月27日に施行されています。

これに対して、旧「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則」(総務省令第66号)第1条は、公布が平成14年6月21日であり、施行が平成14年7月1日で、すなわち、プロバイダ責任制限法及び同省令の、施行後に事後に施行されている点では、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」(平成二十一年総務省令第八十五号)と全く異ならないのです。つまり、プロバイダ責任制限法及び同省令は、電子メールの定義規定を特に定めず、電子メールにプロ責法上の特別の意義を与えず、事後に制定される法令も含めた他の法令との均衡的な解釈を求めているとも考えられます。

そうであるところ、プロ責法の事後に施行された旧「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則」(総務省令第66号)が同じく事後に改正され、施行された「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」において、電子メールに SMS を含まれることを明確化している以上、平成21年9月1日の「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」の施行により、プロ責法及び同省令の「電子メール」の文言に SMS が含まれることも特に否定されていないと解されるところです。

そして、SMS「アドレス」も、数字の羅列すなわち番号であり、「電子メール」に該当する SMS の「利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号」に該当することは明らかであり、よって、SMSアドレスは、プロ責法及び同省令上の発信者情報に該当すると考えられます。

携帯電話番号と同一のSMSアドレス発信者情報開示の留意点と発信者情報目録例

この論点の妙は、SMSアドレスの開示であり、あくまで携帯電話番号の開示ではないという点だと考えています。

電話番号は改正前省令において立法段階で開示の対象から外されており、省令改正前は固定電話番号はおそらく発信者情報開示では開示の術がなかったと思われます。加えて、携帯電話番号も、改正前省令では携帯電話番号としては開示の対象とはならなかったと考えられます。

あくまで、開示されるのはSMSメールアドレスであり、SMSメールアドレスが携帯電話番号と同一であるために、携帯電話番号が推測できるに過ぎないということになろうかと思います。

また、そもそもSMSメールアドレスの開示自体、裁判例上、判断が分かれていました。

さらに、SMSメールアドレスとして開示された情報についてその氏名及び住所を携帯電話番号として携帯電話キャリアに照会できるのか、という問題があります。

いずれにしても今後改正後省令を含めて、請求例、開示例が増えていくでしょう。

なぜなら、SMSアドレス開示の本来の利益はTwitterやFacebookなど、SMSを取得している可能性のあるコンテンツプロバイダから、これまで得られなかった特定につながる有力な情報の開示を得られる点にあるからです。

つまり、TwitterやFacebookなどに対して、訴訟一回で特定に至るケースも今後想定されます。そのため、Twitterやインスタグラムなどのログイン型のSNSに対しては仮処分段階から電話番号の消去禁止を併合する方が合理的と言えるでしょう。

SMSメールアドレスを含んだ発信者情報開示目録記載例

以下の通信方式の電子メールアドレス(以下の通信方式の電子メ ールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号)のう ち被告が保有するものすべて
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロ トコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用 いて通信文その他の情報を伝達する通信方式

記載例の説明

上記は、あくまで携帯電話番号ではなく、SMSアドレスとして開示を請求するための請求であることを工夫した目録例になります。

下記の省令を参考に、メールアドレスを通信方式によって2種類に区分し、そのうえで、双方のメールアドレスの開示を求めているのが特徴です。このことで、通常のメールアドレスと、SMSのメールアドレス双方の開示を求めながら、あくまで求めているのは携帯電話番号ではなくSMSアドレスであることを表現できる目録例となっています。

※なお、記載例はあくまで参考です。

参考条文 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令

特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号の規定に基づき、特定電子メールの送信の適正化等 に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令を次のように定める。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の総務省
令で定める通信方式は、次に掲げるものとする。
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用い
て通信文その他の情報を伝達する通信方式

この記事の旧版について

この記事の元にしたSMSアドレスの発信者情報開示は下記リンク先の記事となります。

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