SMSアドレスの発信者情報開示
電話番号やSMSアドレスの発信者情報開示を巡る議論が盛んになっています。ここでは、SMSアドレスの発信者情報開示という新しいプロバイダ責任制限法上の論点について、言及しています。
※なお、この記事には下記の更新版があります。最新の情報は下記の記事をご参照ください。
目次
電話番号を開示対象に含める省令改正
省令(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令 )を2020年の夏にも改正して、電話番号を発信者情報に含めるという報道がされています。
電話番号を発信者情報に含める省令改正は歓迎されるべきですが、SMSアドレスは電話番号と範囲が厳密には一致しないため、省令で追加される「電話番号」の定義によっては、SMSアドレスには含まれるが、電話番号からは外れる情報が発生する可能性があり、SMSアドレスには含まれるが電話番号からは外れる情報について、引き続きSMSアドレス開示の議論が必要になる可能性もあります。ここでは、SMSアドレスの開示を巡る論点についてご紹介していきます。
SMSアドレスの開示を巡る裁判例
令和元年6月18日札幌地方裁判所判決(平成31年(ワ)第71号 発信者情報開示等事件)
札幌地方裁判所で、SMSアドレスの発信者情報開示を認める判決が出され、確定しました。発信者情報開示請求訴訟で、SMSアドレスを含んだ情報の開示認容判決が確定しました。なお、弊所は当事件について、SMSアドレスも開示の対象となる旨の意見書を提出しています。
東京地裁 令和元.12.11 令和1(ワ)14218 発信者情報開示請求事件
また、東京地方裁判所でも令和元年12月にSMSアドレスの開示裁判例が出されています。
SMSアドレス開示のメリット
SMSアドレスからは「同じ番号」である「携帯電話番号」を容易に推測出来ます。これが、SMSアドレス開示の最大のメリットであり、論点です。
当エントリは、SMSアドレスと発信者情報開示という法的論点について、ご紹介します。
弁護士齋藤理央では、SMS も法律上「電子メール」に該当する点を論じた意見書を、上記札幌地方裁判所に提出しています。
情報ネットワーク法学会においてSMS アドレス の開示について初めて個別報告が行われるなど、近年徐々に注目 を集めはじめている論点です。
なお、この論点は反対の見解も多いのではないかと思われ、現状では必ずしも主張が訴訟が認められるわけではありませんので、請求を行う際は他の発信者情報開示請求を行う場合に、付属的に付け足すことが出来る場面であるかなど、必ず専門家にご相談のうえで請求の可否を検討してください。
SMS の仕組み
#SMS ( #ショートメッセージサービス )、いわゆる #ショートメール は、 #SMSC ( #ショートメッセージサービスセンター )を経由して、送信されます。 完全に同じなのかはもう少し調べますが #パソコンメール が #メールサーバー に保存されるのと同じことと思われます。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) February 18, 2018
#モバイル から #ショートメッセージサービスセンター にメッセージが送信され、送信先モバイルが受信可能になった時点で、 #SMSC からメッセージが受信先に送信されます。 送信通知をONにしていると、この時点で送信通知が送信側にも送られます。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) February 18, 2018
smsc(ショートメッセージセンター)に関する発明です。smscの仕組みを理解する一助になります。
ショートメッセージを短メッセージ、ショートメッセージセンターを、短メッセージセンターと表記しています。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) February 18, 2018
その他、ショートメッセージに関する発明。https://t.co/FsWa6onBdLhttps://t.co/WlwmOM0LnS
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) February 18, 2018
ショートメッセージサービス(以下、「SMS」という。)と、一般的な電子メールサービスの違いは、前者が回線交換方式で実現され、後者がパケット交換方式で実現されている点にしかありません。
両通信方式は一長一短ありますが、結局、SMS と一般的電子メールの違いは、通信方式の違いに過ぎないことになります。
例えば、SMS も回線のシグナリングチャネルをとおして信号を送信しSMSC(ショートメッセージサービスセンター)と呼ばれるサーバを経由していることからその仕組みは電子メールと相似します。
ひとつの携帯電話からひとつの携帯電話に送信される SMS も、送信者の携帯電話から発信させた後、受信者の携帯電話に直接受信されているわけではありません。送信者と受信者の間に SMSC(ショートメッセージサービスセンター)と呼ばれる、SMS 用のサーバコンピュータが介在し SMS を取りまとめて、受信側クライアントコンピュータに送信しています。
したがって、SMS 送信の仕組みは一般的な電子メール送信の仕組みと全く異ならないのです。このように、法律上電子メールに SMS が含まれると解釈することに事実上の基礎も認められると考えられます。
法令上も SMS は電子メールアドレスに該当する
ショートメールアドレスが法律上電子メールアドレスに当たることは明文上に記載があります。
すなわち、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」2条1号に電子メールについては下記のとおり定義されています。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定める
ところによる。一 電子メール 特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する
通信端末機器(入出力装置を含む。以下同じ。)の映像面に表示されるよ
うにすることにより伝達するための電気通信(電気通信事業法(昭和五
十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)であ
って、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。
これを受けて、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」が、次のとおり定めています。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方
式を定める省令
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号の規定に基づき、特定電子メールの送信の適正化等 に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令を次のように定める。特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の総務省
令で定める通信方式は、次に掲げるものとする。
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用い
て通信文その他の情報を伝達する通信方式
すなわち、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示 に関する法律(以下プロ責法という。)にいう電子メールアドレスに SMS アドレスが含まれることは条文上明記されていますが、プロ責法第三条の二 第2号及びこれが引用する公職選挙法第百四十二条の三第三項というや や気付きにくい引用となっています。この点を念のために補足的に指摘しておきます。
プロ責法第三条の二第2号は、以下のとおり定めるます。
二 特定電気通信による情報であって、特定文書図画に係るものの流通 によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等から、名誉侵害 情報等及び名誉侵害情報の発信者の電子メールアドレス等(公職選挙法 第百四十二条の三第三項に規定する電子メールアドレス等をいう。以下 同じ。)が同項又は同法第百四十二条の五第一項の規定に違反して表示 されていない旨を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害 情報送信防止措置を講ずるよう申出があった場合であって、当該情報の発信者の電子メールアドレス等が当該情報に係る特定電気通信の受信 をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に正し く表示されていないとき。
次に公職選挙法第百四十二条の三第三項は次のとおり定めます。
3 ウェブサイト等を利用する方法により選挙運動のために 使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレ ス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三 号に規定する電子メールアドレスをいう。以下同じ。)その他の インターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする 際に必要となる情報(以下「電子メールアドレス等」という。) が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通 信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければな らない。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三号 は次のとおり定めます。
三 電子メールアドレス 電子メールの利用者を識別するた めの文字、番号、記号その他の符号をいう。
そして、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条 第一号は次のとおり定めます。
一 電子メール 特定の者に対し通信文その他の情報をその 使用する通信端末機器(入出力装置を含む。以下同じ。)の映像 面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第 一号に規定する電気通信をいう。)であって、総務省令で定める 通信方式を用いるものをいう。
このようにプロ責法は、電子メールの 意義を、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律および特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通 信方式を定める省令(以下本書面では総務省令という。)によって 定義づけています。そして、総務省令にいう電子メールに SMS を 含んでいることから、 SMS アドレスも法令上開示の対象となると解することができます。
以上は法令に明記されていることですが、少し複雑な引用関係にあります。このように、法的に電子メールには、「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」が含まれることから、携帯電話番号兼用のショートメールアドレスも、電子メールアドレスに該当すると解釈して誤りではないことになります。
すなわち、SMS と一般的な電子メールは前者が回線交換方式で実現され、後者がパケット交換方式で実現されるという通信方式の違いしかないところ、前者の通信方式も電子メールに含まれることを法令が明言しています。
この点は、同省令は平成21年法改正によることから、同改正前より施行されているプロバイダ責任制限法上の電子メールの解釈に影響を与えないとの反論もあり得るところです。しかしながら、プロバイダ責任制限法及び、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」は、共に、平成13年に制定され平成14年5月27日に施行されています。
これに対して、旧「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則」(総務省令第66号)第1条は、公布が平成14年6月21日であり、施行が平成14年7月1日で、すなわち、プロバイダ責任制限法及び同省令の、施行後に事後に施行されている点では、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」(平成二十一年総務省令第八十五号)と全く異ならないのです。つまり、プロバイダ責任制限法及び同省令は、電子メールの定義規定を特に定めず、電子メールにプロ責法上の特別の意義を与えず、事後に制定される法令も含めた他の法令との均衡的な解釈を求めているとも考えられます。
そうであるところ、プロ責法の事後に施行された旧「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律施行規則」(総務省令第66号)が同じく事後に改正され、施行された「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」において、電子メールに SMS を含まれることを明確化している以上、平成21年9月1日の「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令」の施行により、プロ責法及び同省令の「電子メール」の文言に SMS が含まれることも特に否定されていないと解されるところです。
そして、SMS「アドレス」も、数字の羅列すなわち番号であり、「電子メール」に該当する SMS の「利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号」に該当することは明らかであり、よって、SMSアドレスは、プロ責法及び同省令上の発信者情報に該当することが明らかと考えられます。
まとめ
例えばドコモのメールアドレスは、初期設定のとき、「携帯電話番号@docomo.ne.jp」という設定とされている時代がありました。また、その頃から当該メールアドレスを利用しているユーザにおいては、現在のメールアドレスも、「携帯電話番号@docomo.ne.jp」を引き続き利用しているケースもあるかもしれません。そのとき、メールアドレスの開示とともに携帯電話番号も判明しますが、それは、メールアドレスを開示することに伴う副次的な効果に過ぎないことになります。
SMSも全く同様で、「携帯電話番号」とまったく同じ文字列でアドレスを特定する SMS メールアドレス開示の結果、携帯電話番号も判明するとしても、それは、たまたま、SMS メールアドレスと携帯電話番号が同一の文字列であるからに過ぎないことになります。あくまで開示を求めるのは SMS メールアドレスで携帯電話番号ではないことにご注意ください。
他には、特商法上も電子メールには SMS が含まれるという立法が採られていると理解しています。
このように、法令上、電子メールに SMS が含まれることが明らかであり、何の留保もなく「電子メール」アドレスが開示の対象となると規定するプロ責法及び同法を受けた省令においても、「電子メール」に SMS を含むものと理解されます(弁護士齋藤理央私見)。
携帯電話番号と同一のSMSアドレス発信者情報開示の留意点と発信者情報目録例
この論点の妙は、SMSアドレスの開示であり、あくまで携帯電話番号の開示ではないという点です。
電話番号は立法段階で開示の対象から外されており、SMSが使えない固定電話番号はおそらく発信者情報開示では開示の術が現状ないのではないかと思われます。そして、携帯電話番号も、携帯電話番号としては開示の対象とはならないと考えられます。
あくまで、開示されるのはSMSメールアドレスであり、SMSメールアドレスが携帯電話番号と同一であるために、携帯電話番号が推測できるに過ぎないということになります。ここを誤って、携帯電話番号の開示を求めると認められるべき主張も認められないケースもあるかもしれません。
また、そもそもSMSメールアドレスの開示自体、現在判断が分かれており、今後の実務の集積で開示の可否がより明らかになってくるのではないかと思います。
さらに、SMSメールアドレスとして開示された情報についてその氏名及び住所を携帯電話番号として携帯電話キャリアに照会できるのか、という問題があります。おそらくここは、発信者情報開示としてやれば携帯電話キャリア側は激しく反論してくる部分ではないかと思います。
いずれにしても今後どんどん開示例が増えていけば良いなと感じます。なぜなら、SMSアドレス開示の本来の利益はTwitterやFacebookなど、SMSを取得している可能性のあるコンテンツプロバイダから、これまで得られなかった特定につながる有力な情報の開示を得られる点にあるからです。つまり、TwitterやFacebookなどに対して、訴訟一発で特定に至るケースも今後想定されます。これが、SMSメールアドレス開示の真価であり、そのためにも開示例が増えていくことを期待したいです。
SMSメールアドレスを含んだ発信者情報開示目録記載例
以下の通信方式の電子メールアドレス(以下の通信方式の電子メ ールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号)のう ち被告が保有するものすべて
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロ トコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用 いて通信文その他の情報を伝達する通信方式
記載例の説明
上記は、あくまで携帯電話番号ではなく、SMSアドレスとして開示を請求するために工夫した目録例になります。
下記の省令を参考に、メールアドレスを通信方式によって2種類に区分し、そのうえで、双方のメールアドレスの開示を求めているのが特徴です。このことで、通常のメールアドレスと、SMSのメールアドレス双方の開示を求めながら、あくまで求めているのは携帯電話番号ではなくSMSアドレスであることを表現できると考えております。
なお、記載例はあくまで参考ですので、ご注意ください。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号の規定に基づき、特定電子メールの送信の適正化等 に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令を次のように定める。
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の総務省
令で定める通信方式は、次に掲げるものとする。
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用い
て通信文その他の情報を伝達する通信方式
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