近年ビットトレント(Bit Torrent)上の著作権侵害に対する訴訟事案のうち、発信者情報開示訴訟などが裁判所ウェブサイトに掲載される例や裁判所が開示を命じたことを報道する例が増えてきています。

ここでは、最近著作権侵害に基づく法的対応が相次いでいるビットトレント(Bit Torrent)について、その仕組みといくつかの著作権侵害裁判例をご紹介します。

もし、ビット・トレント(Bit Torrent)に関して著作権を侵害された場合、あるいは著作権侵害などに基づいて警告書や発信者情報開示請求の照会書が届いた場合などはお気軽にご相談ください。

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    目次

    ビット・トレント(Bit Torrent)の用語

    ビット・トレント(Bit Torrent)を巡っては、いくつかのキーになる概念がありますので、まず用語を簡単に解説したいと思います。

    トレント(トレント・ファイル)

    拡張子が.torrentのファイルです。ファイルの内容はメタデータとなっており、トラッカーと呼ばれるサーバーに照会し、漫画や映画、音楽などのファイル群(※)を保有しているシードないしピアの所在(IPアドレス)を明らかにします。

    ※メタファイルではなく、この実際のファイル群をトレントと呼ぶケースもあるようです。

    トレント・ファイルは、一般的なユーザーも作成することができます。この時、トレント・ファイルが照会をかけるトラッカーの公開している「アナウンス」URLが必要になります。

    ピア

    該当ファイルを部分的に保有しているクライアント・コンピューターのことを指します。

    シード

    該当ファイルを100%保有しているピアのことを特にこう呼びます。

    トラッカー

    該当ファイルについてシードやピアの所在を管理しているサーバー・コンピューターを指しています。トレント・ファイルから照会を受けてシードやピアの所在(IPアドレス)を回答する役割を担っています。

    トレント・ファイルから照会を受ける際に必要となるURLをアナウンスURLとして公開しています。トレント・ファイルを作成する際には、照会先を指定するためにこのアナウンスURLが必要となります。

    ビット・トレント(Bit Torrent)の仕組み

    ビットトレント(Bit Torrent)は、まず、トレントファイルを入手することが利用の始点となります。トレントファイル入手後、トレントファイルの内容であるメタデータを用いてトラッカーと呼ばれるサーバーコンピューターに照会し、シードないしピアの所在(IPアドレス)を把握します。シードないしピアが判明後、100%のデータをもつシードから、乃至は部分的にデータを持つ複数のピアから該当ファイルの転送を受けます。この時、自ら保有するファイルもピアとして転送しています。自ら該当ファイルの100%を取得したクライアント・コンピューターは、ピアからシードとなります。

    令和3年3月19日東京地方裁判所判決(令和2(ワ)19880)の認定例

    令和3年3月19日東京地方裁判所判決(令和2(ワ)19880)・裁判所ウェブサイト掲載は、ビットトレント/BitTorrentの仕組みを下記のとおり認定しています。

    BitTorrentとは,インターネット上で,中央サーバを設けずに,P2P方式でファイルを共有するためのプロトコル(通信規約)の一つであり,同プログラムを実装したクライアントソフトの名称でもある。

    BitTorrentにおいては,ファイルのダウンロードを,①まず,対象ファイルに対応するトレントファイルを入手してBitTorrentクライアントソフトに取り込み,②次に,当該トレントファイルで指定されたトラッカー(対象ファイルの提供者を追跡し,同提供者のリストを管理するサーバ)と通信して同提供者のIPアドレスの一覧を入手し,③最後に,入手したIPアドレスの一覧から1つ以上のIPアドレスの端末を選択して対象ファイルの送信要求を行い,選択した端末から「ピース・ファイル」と呼ばれる対象ファイルが断片化されたデータを順次受信することにより行う。

    そして,BitTorrentでファイルをダウンロードしたネットワークの参加者は,BitTorrentクライアントソフトを停止させるまで,トラッカーに対し,当該ファイルが送信可能であることを継続的に通知し,他の不特定のネットワーク参加者からの要求があればいつでもこれを送信し得る状態に置かなければならない。

    令和3年3月19日東京地方裁判所判決(令和2(ワ)19880)・裁判所ウェブサイト掲載

    令和3年3月25日東京地方裁判所判決(令和2年(ワ)第20484号)の認定例

    また、令和3年3月25日東京地方裁判所判決(令和2年(ワ)第20484号)・裁判所ウェブサイト掲載は、下記のとおり認定しています。

    ア ビットトレントは,P2P方式によりファイルの共有を行うためのプロトコル(通信規約)であり,同じファイルをダウンロード及びアップロー ドするコンピュータ同士が中央サーバーを必要とせずに相互に接続して, 当該ファイルを相互に転送するネットワークを構築するものであり,他の P2P方式のものとは異なり,ネットワークに参加している端末のIPア ドレスが秘匿されていないという特徴を有している。

    ビットトレントのクライアントソフトには,公式のクライアントソフト である「BitTorrent client」のほかに,多くの互換ソフ トウェアが存在する。

    イ ビットトレントのネットワークを介して対象ファイルを入手する具体的 な手順は,次のとおりである。

    (ア) まず,インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトから,当該対象ファイルを提供する端末のリストを管理するトラッカーと呼ばれるサーバ ーにリンクするためのトレントファイルを入手する。

    (イ) 次に,入手したトレントファイルをビットトレントのクライアントソ フトに取り込んで,当該トレントファイルによってリンクされるトラッ カーに接続し,当該トラッカーから対象ファイルを提供している端末のIPアドレスを入手する。

    (ウ) 最後に,当該対象ファイルを提供している端末に接続し,当該対象フ ァイルをダウンロードする。

    令和3年3月25日東京地方裁判所判決(令和2年(ワ)第20484号)・裁判所ウェブサイト掲載

    令和3年10月7日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載

    令和3年10月7日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載は、ビット・トレントによる著作権侵害が問題となった知財高裁判決です。同判決は、ピアないしシードがトラッカーにファイル転送が可能なクライアント・コンピューターであることを通知する行為を送信可能化行為に当たると判示しました。

    事案の概要

    令和3年10月7日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載は、『本件発信者1~3は,被告から別紙発信端末目録記載の各IPアドレスの割当てを受け,同目録記載の各日時頃,被告の提供するインターネット接続サービスを介し,トラッカーに対し,同日時頃より前にBitTorrentを用いてダウンロードした本件漫画の電子データ(以下「本件データ」という。)を送信可能であることを通知(以下「本件通知」という。)し,本件ファイルの提供者のIPアドレスの一覧に登録されていた。本件発信者1及び3は,上記各日時頃,原告訴訟代理人に対し,本件データを送信していた。他方,本件発信者2が,上記日時頃に,原告訴訟代理人に対し,本件データを送信していたかどうかについては,明らかになっていない』事案でした(原審・令和3年3月19日東京地方裁判所判決(令和2(ワ)19880)・裁判所ウェブサイト掲載より)。

    すなわち、一審原告は、『原判決別紙発信端末目録記載の発信端末の各利用者‥‥は控訴人が提供するインターネット接続サービスを介して被控訴人を著作者とする漫画に係る電子データを送信し,又は送信可能化したところ,これ
    により被控訴人の著作権(公衆送信権又は送信可能化権)が侵害されたことが明らかであると主張し,控訴人に対して,同法4条1項に基づき,原判決別紙発信者情報目録記載の各情報‥‥の開示を求め』ました(令和3年10月7日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載)。

    ビットトレントユーザーのトラッカーへの通知行為と送信可能化権侵害

    知的財産高等裁判所は、『本件発信者1~3は,トラッカーに対し,BitTorrentを用いてダウンロードした本件データが送信可能であることを通知する旨の本件通知をし,他の不特定のネットワーク参加者からの要求があれば本件ファイルに係るピース・ファイルをいつでも送信し得る状態に置いたのであるから,本件通知により,本件データを送信可能化したものということができる』と判示しました。

    知る限りビットトレントユーザーのトラッカーへの通知行為を知財高裁において初めて送信可能化権侵害と判断した事例と思われます。

    また、知財高裁は、控訴人の『本件データの送信を可能にする状態を作り出し たのは,本件通知ではなく,発信者が本件データを発信者の端末にダウンロードし た行為であるから,本件通知が本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権を侵害した わけではない』旨の反論を下記のとおり排斥しています。

    確かに,訂正して引用した原判決の前記前提事実(2)の とおり,BitTorrentでファイルをダウンロードしたネットワークの参加 者は,他の不特定のネットワーク参加者からの要求があればいつでもこれを送信し 得る状態に置くこととされ,これにより,ピース・ファイルの送信が行われ得るこ とになるが,ここでいう他の不特定のネットワーク参加者からの要求は,トラッカ ーが管理する当該ファイルの提供者のリストに基づいてされるものであり,当該リ ストは,当該ファイルをダウンロードした参加者がトラッカーに対し当該ファイル が送信可能であることを継続的に通知することによって作成されるものであるから, 本件発信者1~3についても,単に本件データをダウンロードしただけでは,その 送信可能化が完成したというには足りず,トラッカーに対して本件通知をすること により,他の不特定の参加者に対する本件データの送信可能化が実現されるに至っ たものとみるのが相当である。

    令和3年10月7日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載

    ビットトレントユーザーのトラッカーへの通知行為と送信可能化権侵害判示部分の分析

    上記判示は、厳密に分析した場合クライアント・コンピューターの記録媒体を、トラッカー・サーバーの一体の記憶装置として「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し」(著作権法2条1項9号の5 イ)たものとして、送信可能化権侵害と判断したものと位置づけるのが適当ではないかと思料します(私見)。あるいは、ロ号にいう、「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」とみる余地もあるかもしれません。

    いずれにせよ、上記の整理が可能であり、また、妥当な判示ではないかと思料いたします(私見)。

    ただし、個人的には与しませんが送信可能化をトレント・ファイルの作成及び公開に限定する理解もあり得るかもしれません。

    送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
    イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
    ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

    著作権法2条1項9号の5

    ピースファイルの送信と著作権侵害について

    本件で控訴人は、発信者が送信可能化したのはピースファイルと呼ばれる著作物の断片に過ぎないと反論しました。すなわち、控訴人は,『BitTorrentを用いて送信されるファイルが断片化されたピース・ファイルであることを根拠に,本件発信者1~3がした本件データの送信可能化によっても,本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権は侵害されない』と反論しました。

    これに対して、知的財産高等裁判所は、『しかしながら,訂正して引用した原判決の前記前提事実(2)及び(3)のとおり,本件発信者1~3を始めとするBitTorrentの利用者は,ピース・ファイルを順次受信することにより対象ファイルの全体を受信することができるのであるから,BitTorrentにおける1回の送信の対象が対象ファイルを断片化したピース・ファイルであるとしても,本件発信者1~3が本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権を侵害したとの前記結論を左右するものではない』と判示しています。

    ピースファイルの送信と著作権侵害判示部分の分析

    この点については、著作物の100%を保有し転送を続けるシードと呼ばれる状態ならともかく、発信者が部分的にしかデータを保有しないピアの状態だった場合、部分的な著作物の送信可能化が、問題なく全体の著作権侵害と評価される理由について、明示されていない印象を受けます。

    もっとも、部分的な著作権侵害についても、該当部分が著作物性を満たすのであれば著作権侵害となることは避けられないでしょう。そして、現に発生している権利者の逸失利益という損害の帰属の問題として、共同不法行為(民法719条)として、いずれにせよ全損害を不真正連帯債務として発信者が負うと考え得ます。本判決の判示は結論において妥当と思料いたします。その意味で、理由付けにおいて知財高裁が採用した理由づけは不明ですが、例えば共同不法行為のような法的理論付けの明示はあっても良かったのではないかと思います。

    なお、発信者において仮にその送信が一部だとすれば、他のピースファイルの発信者について特定して求償権を行使すべきです。被害者に他の発信者の特定の負担を負わせるべきではないと言うべきでしょう。

    「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)該当性

    知的財産高等裁判所は、下記のとおり判示して、ファイル共有ソフトによる著作権侵害通信について『最終的に不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為 に必要不可欠な電気通信の送信は,プロバイダ責任制限法2条1号の「特定電気通 信」に該当すると解するのが相当である』とし、『本件発信者1~3の各端末とトラ ッカーとの間の一対一対応の通信ではあるが,前記2(2)において説示したところ によれば,本件通知は,不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為 (本件データの送信可能化)にとって必要不可欠な電気通信の送信であるといえる から,プロバイダ責任制限法2条1号の「特定電気通信」に該当する』と結論付けています。

    プロバイダ責任制限法2条1号は,「特定電気通信」とは,不特定の者によって 受信されることを目的とする電気通信の送信をいう旨規定しているから,その文理 に照らせば,最終的に不特定の者によって受信されることを目的とする情報の流通 行為に必要不可欠な電気通信の送信は,同号にいう「特定電気通信」に含まれると 解するのが自然である。

    また,著作権等を侵害するような態様でいわゆるファイル 共有ソフトが用いられる場合に,問題となる通信が不特定の者により受信されるこ とを目的とする最終的な行為にとって必要不可欠なものであるにもかかわらず,た またま当該通信が発信者と特定の受信者との間の一対一対応のものであるために同 号の「特定電気通信」に該当せず,ひいては開示請求者が同法4条の開示を受けら れないとすることは,著作権侵害等の加害者の特定を可能にして被害者の権利の救 済を図るとする同条の趣旨を没却することになる。

    そうすると,最終的に不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為 に必要不可欠な電気通信の送信は,プロバイダ責任制限法2条1号の「特定電気通 信」に該当すると解するのが相当である。

    これを本件についてみるに,訂正して引用した原判決の前記前提事実(2)及び(3)のとおり,本件発信者1~3がした本件通知は,本件発信者1~3の各端末とトラ ッカーとの間の一対一対応の通信ではあるが,前記2(2)において説示したところ によれば,本件通知は,不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為 (本件データの送信可能化)にとって必要不可欠な電気通信の送信であるといえる から,プロバイダ責任制限法2条1号の「特定電気通信」に該当するというべきで ある。

    令和3年10月7日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載

    この判示部分も、P2P通信に必要不可欠な通信について『不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)』に当たると判示した意義のある判示と思料されます。

    また「特定電気通信」は『不特定の者によって受信される‥‥電気通信』ではなく、『不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信』とされています。

    ビットトレントが不特定者にファイルが受信されることを「目的」としていることは明らかであり、全体としてこれを構成する通信も「特定電気通信」に当たるというべきで、結論としても正当と思料します。

    令和4年4月20日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載(原審(令和3年8月27日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト

    令和4年4月20日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載は、Bit Torrent利用者の著作権侵害を認めた原審(令和3年8月27日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト)を肯首して、Bit Torrentの利用終期に応じた減額をした賠償債務の限度で存在を認めた事例です。

    事案の概要

    本件は、BitTorrentと呼ばれるファイル共有ネットワーク及びBitTorrentを利用するためのクライアントソフトを使用していた一審原告らが、本件著作物の著作権者である一審被告から、損害賠償請求を受けていた事案です。すなわち、一審被告は、一審原告らが動画ファイルをBitTorrentにアップロード(BitTorrentを通じて、他のユーザーに、自ら使用するクライアント機器等に保存されているデータをダウンロードさせることをいう。以下同じ。)したことにより、本件著作物に係る一審被告の著作権が侵害されたとして損害賠償金の支払請求をしていました。これに対して、一審原告らが、著作権侵害がないなどと主張して、一審被告に対し、本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求めたのが本訴です。

    原審(令和3年8月27日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト

    原審は、一審原告X5及び一審原告X11について一審被告の同一審原告らに対する著作権侵害に基づく損害賠償債務がないことを確認しました。また、一審原告X1、一審原告X2、一審原告X3、一審原告X4、一審原告X6、一審原告X7、一審原告X8、一審原告X9、一審原告X10について一定額を超えて損害賠償債務は存在しないことを確認するとの判決をしました。これに対して、ところ、一審原告ら及び一審被告が双方控訴を提起しました。

    原審の著作権侵害肯定部分

    原審は、下記のとおり述べてBit Torrent利用者の著作権侵害責任を認めています。

    BitTorrentは,特定のファイルをピー スに細分化し,これをBitTorrentネットワーク上のユーザー間で 相互に共有及び授受することを通じ,分割された全てのファイル(ピース) をダウンロードし,完全なファイルに復元して,当該ファイルを取得することを可能にする仕組みであるということができる。

    これを本件に即していうと,原告X1らが個々の送受信によりダウンロー ドし又はアップロード可能な状態に置いたのは本件著作物の動画ファイル の一部(ピース)であったとしても,BitTorrentに参加する他の ユーザーからその余のピースをダウンロードすることにより完全なファイルを取得し,また,自己がアップロード可能な状態に置いた動画ファイルの 一部(ピース)と,他のユーザーがアップロード可能な状態に置いたその余 のピースとが相まって,原告X1ら以外のユーザーが完全なファイルをダウ ンロードすることにより取得することを可能にしたものということができる。

    そして,原告X1らは,BitTorrentを利用するに際し,その仕組みを当然認識・理解して,これを利用したものと認めるのが相当である。 以上によれば,原告X1らは,BitTorrentの本質的な特徴,す なわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインタ ーネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより,ネット ワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能 25 になることを十分に理解した上で,これを利用し,他のユーザーと共同して, 本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。

    したがって,原告X1らは,いずれも,他のユーザーとの共同不法行為に より,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。

    原審 令和3年8月27日東京地方裁判所判決・裁判所ウェブサイト 22−23頁

    本件おける裁判所によるBit Torrentの技術的まとめ

    本件知財高裁判決は、原審の認定も踏まえて、Bit Torrentを下記のとおり技術的にまとめています。

    (ア) BitTorrentを使用するには、ファイルをダウンロードするための BitTorrentの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした 上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得す る。トレントファイルには、目的のファイル本体のデータは含まれないが、分割さ れたファイル(ピース)全てのハッシュとともに、ピースを完全な状態のファイル に再構築するための情報や、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバのアドレスが記録 されている。トレントファイルは、いわば、細分化されたピースを復元するための 設計図のような役割を果たす。

    (イ) ユーザーが入手したトレントファイルを自己の端末内のクライアントソフト に読み込むと、同端末は、トラッカーと通信を行い、目的のファイル(ピース)を 保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した 上で、当該ファイル(ピース)のダウンロードを開始する。トラッカーは、シーダーやリーチャーの接続状態を監視してデータの流れを制御する管理サーバである。

    (ウ) ユーザーは、ダウンロードした当該ファイル(ピース)について、自動的に ピアとしてトラッカーに登録される仕組みとなっている。これにより、自らがダウ ンロードしたファイル(ピース)に関しては、他のピアからの要求があれば、当該 ファイル(ピース)を提供しなければならないため、ダウンロードと同時にアップ ロードが可能な状態に置かれることになる。

    (エ) ユーザーは、分割されたファイル(ピース)を複数のピアから取得するが、 6 クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや、再 構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。これ により、それまではリーチャーであった当該ユーザーは、以後はシーダーとして機 能することになる。

    令和4年4月20日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト掲載 5−6頁

    控訴審における共同不法行為性の判断

    控訴審の示した、共同不法行為による著作権侵害に関する判断部分は概要下記のようなものでした。

    まず、控訴審裁判所は、以下の3つの事情を示しています。

    BitTorrentを利用してファイルをダウンロードする際には、分割さ れたファイル(ピース)を複数のピアから取得することになります。このとき、一部のピアのみが安定してファイルの供給源となる一方で、大半のピア は短時間の滞在時(BitTorrentの利用時)に一時的なファイルの供給源 の役割を担うものとされます。このことから、①一審原告X1らは、常にBitTorrentを利 用していたものではないことから、一時的なファイルの供給源の役割を担っていた と考えられる状況でした(甲12、15、21)。

    また、②あるトラッカーが、特定の時点で把握し ているリーチャーとシーダーの数は0~5件程度と、特定時点における特定のファ イルに着目した場合には必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされてい るものではありませんでした(乙2~4、8~10)。

    ③BitTorrentを利用したアッ プロードの速度は、ダウンロードの速度よりも100倍以上遅く、また、ファイル の容量に比しても必ずしも大きくなく、例えば本件各ファイルの容量がそれぞれ8. 8GB、7.0GB、2.3GBであるのに照らしても、アップロードの速度は平 均0~17.6kB/s程度(本件著作物以外の著作物に関するものを含む。)と遅 く、ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアか らピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認される状況がありました(甲 5、6、乙2~4、6)。

    控訴審裁判所は、上記の①〜③の事情に照らすと、Bit Torrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の 発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件対象ファイルをダウンロードしている期間に、BitTorren tのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能化していた相当程度 の数のピアが存在することにより達成されているというべき、と指摘しています。

    つまり、知的財産高等裁判所は、無数のユーザーが協力して初めて一つのファイルのダウンロードが達成される点を指摘しています。

    したがって、一審原告X1らの送信可能化も、一審被告の著作権の侵害に寄与していたと見るのが自然と言えます。

    こうした交際を踏まえて、控訴審裁判所は、一審原告X1らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBi tTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏 まえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告 X1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停 止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があ ると認めるのも不合理とはいえないと判示しています。

    そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイ ルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1~ 3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1 ~3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたというこ とができることになります。

    したがって、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、 同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名 不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負うことになるというのが控訴審裁判所の判断です。

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