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発信者のSNSやコンテンツ上の情報発信を経由する接続サービスを提供する事業者をインターネットサービスプロバイダ(略称「ISP」)と呼びます。例えば、NTTドコモなどの携帯電話キャリアや、NTT光などのプロバイダサービスがこれにあたります。発信者情報開示請求は、大きく分けるとコンテンツプロバイダ(CP)とインターネットサービスプロバイダ(接続プロバイダ)(ISP)に対する請求に分かれます。

一般的には、コンテンツプロバイダ(CP)からアクセスログの開示を受けてインターネットサービスプロバイダ(接続プロバイダ)(ISP)に対する請求を行っていくことになります。

ISPの種類

ISPには、様々な種類があります。

携帯電話キャリア

NTTドコモや、ソフトバンク、AUを提供するKDDI、楽天モバイルなど、携帯電話の接続を経由するプロバイダです。発信者情報開示の過程で接続先IPアドレスなど、独特の問題が生じます。

携帯電話キャリアに対する情報発信

弊所の携帯電話キャリアに対する発信者情報開示についての情報発信は下記リンク先などで確認できます。

WIーFIなどモバイル回線事業者

Yーmobile、UQWimaxなど、モバイルWi-Fiを中心とするモバイル回線を提供する経由プロバイダ事業者です。

一般的な経由プロバイダ

ビッグローブ、ニフティ、OCN、EO光、So-net、オプテージなどデスクトップやノートPCをインターネットと接続する回線を提供する経由プロバイダ事業者です。通信会社が母体のもの、電力会社が母体のもの、電気メーカーが母体のもの、ケーブルテレビ局が母体のものなど様々な事業者が存在しています。

ISP事業者は発信者情報開示義務を負う開示関係役務提供者に該当するのか

インターネットサービスプロバイダ(経由プロバイダ・接続プロバイダ)(ISP)が、プロバイダ責任制限法上発信者情報開示義務を負う「開示関係役務提供者」に該当するか、かつて論争がありました。そして、東京地方裁判所平成20年9月19日判決・民集 64巻3号706頁は下記のとおり述べて、これを否定しました。 

しかし、この判断は下記の最高裁判所判決(平成22年4月8日最高裁判所第一小法廷 判決・ 民集第64巻3号676頁)によって覆され決着しています。よって、原則的にISPは発信者情報開示義務を負い、コンテンツプロバイダなどから開示されたIPアドレスになどに基づいて氏名や住所を開示する必要があります。

東京地方裁判所平成20年9月19日判決・民集 64巻3号706頁

「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)について   

(1) 請求原因(1)オは,PHS事業の点を除き,当事者間に争いがなく,また,証拠(甲1ないし10)及び弁論の全趣旨によると,請求原因(1)アないしエ,同(2)ア並びに同(3)イの各事実が認められ,これに反する証拠はない。  そして,請求原因(3)ウの事実加えて,本件においては被告が直接インターネットのウエブサイトを開設している者ではないこと,被告において,既に原告主張の通信記録が消去されていることは,いずれも当事者間に争いがない。   

(2) ところで,原告らは,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)の発信については,携帯電話端末機の機種から被告の携帯電話より発信されていることが判明しているところ,コンテンツブロバイダである「○○」管理者において,発信者の携帯端末機の「機種」「シリアルナンバー」及び「FOMAカード個体識別子」がアクセスログとして記録されていたので,被告が識別子から特定されるFOMAサービスの契約者情報を現在も保有しているため,個別識別子より「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称及び住所」を特定することが可能であるとして,経由プロバイダである被告に対し,発信者情報の開示請求をしている。  

しかし,法4条1項所定の発信者情報開示請求権の行使が認められるためには,被告が「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)に当たる必要があるというべきである。  

そして,法2条1号において,「特定電気通信」とは,その始点に位置する者において「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信の用に供される電気通信の送信を除く。)」をいうと規定されている。また,法2条1号所定の「送信」とは,電気通信事業法2条1号所定の「送り」,つまり,符号,音響又は映像を電気的信号に変換して送り出すことを指すものであるから,その始点に位置する者において「不特定の者によって送信されることを目的とする電気通信」を「送信」することであると解される。  さらに,法2条4号の規定文言に照らすと,法は,特定電気通信について,特定電気通信設備の記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものと,特定電気通信設備の送信装置に入力された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものとを予定しており,いずれの場合においても,上記記録媒体への情報の記録又は上記送信装置への情報の入力とその後の当該情報の送信,すなわち,法2条1号所定の「送信」とを区別し,特定電気通信設備たる上記記録媒体又は上記送信装置を用いる特定電気通信役務提供者が,同号にいう「送信」を行い,特定電気通信の始点に位置することを前提としているものと解される。

そうすると,特定電気通信設備の送信装置に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力することは,当該特定電気通信設備を用いる電気通信役務提供者による特定電気通信以前の,これとは別個の,当該情報の記録又は入力を目的とする発信者から特定電気通信役務提供者に対する1対1の電気通信にすぎないから,それを媒介するにすぎない経由プロバイダを直ちに特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)と解することはできないといわなければならない。  

したがって,特定電気通信の始点に位置して「送信」を行う者が,特定電気通信設備たる送信装置を用いる特定電気通信役務提供者(法4条1項,2条3号)であるというべきであって,経由プロバイダを法4条1項所定の「開示関係役務提供者」(当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)に含めることは文理上もできないというべきである。  

もっとも,原告らは,法の解釈に当たっては,誹謗中傷を受けた被害者の権利にも十分に配慮すべきであるから,経由プロバイダであっても,「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には当たると主張する。しかし,発信者の端末から経由プロバイダを経てホスティングサービスを行っているプロバイダまでの通信と,ホスティングサービスを行っているプロバイダから不特定の者との間の通信の性質とは異なっているところ,発信者情報は,その性質上いったん開示されるとその原状回復が困難であるから,その開示の判断は厳格になされるべきである。のみならず,通信に関わる事実がプライバシーの権利(憲法13条)や表現の自由(憲法21条1項)の保障の対象でもあり,その拡大解釈は慎重であるべきであるので,原告らの上記主張を採用することはできない。   

(3) 以上のとおり,被告は「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には該当しないというべきであるから,原告らの本件請求はいずれも理由がない。 

東京地方裁判所平成20年9月19日判決・民集 64巻3号706頁

 平成22年4月8日最高裁判所第一小法廷 判決・ 民集第64巻3号676頁

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人…の上告受理申立て理由第2部第1について

1 本件は,インターネット上の電子掲示板にされた匿名の書き込みによって権 利を侵害されたとする被上告人らが,その書き込みをした者(以下「本件発信者」 という。)に対する損害賠償請求権の行使のために,本件発信者にインターネット 接続サービスを提供した上告人に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の 制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づ き,本件発信者の氏名,住所等の情報の開示を求める事案である。 原審は,上告人が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当すると判断し た上,被上告人らの請求を一部認容すべきものとした。

2 所論は,上告人は,上記電子掲示板の不特定の閲覧者が受信する電気通信の 送信自体には関与しておらず,上記電子掲示板に係る特定電気通信設備の記録媒体 に情報を記録するための,本件発信者と当該特定電気通信設備を管理運営するコン テンツプロバイダとの間の1対1の通信を媒介する,いわゆる経由プロバイダ(以 下,単に「経由プロバイダ」という。)にすぎないから,不特定の者によって受信 されることを目的とする電気通信の始点に位置して送信を行う者を意味する「特定 電気通信役務提供者」(法2条3号)に該当せず,したがって,法4条1項にいう 「開示関係役務提供者」に該当しないというべきであり,このように解さないと, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限について規定する法3条や通信の検 閲の禁止について規定する電気通信事業法3条等の趣旨にも反することになるとい うのである。

3 そこで検討するに,法2条は,「特定電気通信役務提供者」とは,特定電気 通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用 に供する者をいい(3号),「特定電気通信設備」とは,特定電気通信の用に供さ れる電気通信設備をいい(2号),「特定電気通信」とは,不特定の者によって受 信されることを目的とする電気通信の送信をいう(1号)旨規定する。上記の各規 定の文理に照らすならば,最終的に不特定の者によって受信されることを目的とす る情報の流通過程の一部を構成する電気通信を電気通信設備を用いて媒介する者 は,同条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に含まれると解するのが自然であ る。

また,法4条の趣旨は,特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には,こ れにより他人の権利の侵害が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限な く拡大し,匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も 困難になるという,他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ,特定電 気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライ バシー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信 の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者 情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能に して被害者の権利の救済を図ることにあると解される。本件のようなインターネッ トを通じた情報の発信は,経由プロバイダを利用して行われるのが通常であるこ と,経由プロバイダは,課金の都合上,発信者の住所,氏名等を把握していること が多いこと,反面,経由プロバイダ以外はこれを把握していないことが少なくない ことは,いずれも公知であるところ,このような事情にかんがみると,電子掲示板 への書き込みのように,最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電 気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダ との間の通信を媒介する経由プロバイダが法2条3号にいう「特定電気通信役務提 供者」に該当せず,したがって法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当し ないとすると,法4条の趣旨が没却されることになるというべきである。

そして,上記のような経由プロバイダが法2条3号にいう「特定電気通信役務提 供者」に該当するとの解釈が,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限につ いて定めた法3条や通信の検閲の禁止を定めた電気通信事業法3条等の規定の趣旨 に反するものでないことは明らかである。

以上によれば,最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信 設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間 の通信を媒介する経由プロバイダは,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供 者」に該当すると解するのが相当である。 これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違 法はなく,論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 平成22年4月8日最高裁判所第一小法廷 判決・ 民集第64巻3号676頁

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