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インラインリンクと呼ばれる技術は、実際には自動リンクとインコーポレーションという技術に分解して理解するのが正確です。リツイート事件などで著作者人格権侵害が認められているのはインコーポレーションの部分と理解する方が正確です。

この問題は正確な理解がまだ浸透していないと感じることも多いため、もしインラインリンクを巡って法的疑問点がある場合は、弊所へのご相談も是非ご検討ください。

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    目次

    概念の整理=リツイート<インラインリンク<インコーポレーション

    知的財産高等裁判所平成30年4月25日判決・裁判所ウェブサイト掲載(ツイッター・リツイート事件控訴審)及び知的財産高等裁判所令和3年5月31日判決・裁判所ウェブサイト掲載(ツイッター・プロフィール画像事件控訴審)は、共にインラインリンクに同一性保持権侵害を認めました。

    しかし、ここでいうインラインリンクは、インラインリンクのうちリンクと関係のない部分、ここでインコーポレーションと呼称する技術に同一性保持権侵害を認めている点には注意が必要です。

    すなわち、インラインリンクに同一性保持権侵害が認められた、というよりインコーポレーションに同一性保持権侵害が認められたと言った方が判例の理解としてより正確だと考えています。以下、インコーポレーショやインラインリンクの概念整理も含めて検討していきたいと思います。

    概念の整理

    リツイート、インラインリンク、そして、インコーポレーション(※)という概念を最初に整理しておきたいと思います。

    ※なお、エンバディングと呼称していたこの技術について、エンバディングという呼び方はフレームリンクと同義の事象を指す言葉として概念整理されている例がある事から、統合とか、合成を意味するコンバイニング(仮)という呼び方に訂正しました。さらにその後、コンバイニング(仮)と呼んでいた事象を、米国裁判例の呼称にしたがって、インコーポレーションと改称致しました。

    インラインリンクとは

    ここで、インラインリンクとは,ユーザーの操作を介することなく,リンク元のウェブページが立ち上がった時に,自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて,リンク先の画面又はこれを構成するファイルがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいうものとします(経済産業省の整理に従った定義です。)。

    この定義自体、自動表示(インコーポレーション)をリンクの概念に含めているように考えられ、甚だ不正確だと感じていますが、広く通用してしまっているため、ミスリーディングではあるものの、技術の呼称としてこの呼称を用いています。

    インコーポレーションとは

    次に、上記2つの知財高裁判決で同一性保持権や氏名表示権侵害を肯定した土台となる技術は、ここで、インコーポレーションと読んでいる技術です。

    ここでインコーポレーションとは、クライアントコンピューターにおいてクライアントコンピューター内に存在している文章と画像などメディアデータを結合したレンダリングデータを生成してクライアントコンピュータのブラウザ上に表示する技術という意味です。

    上記の両控訴審判決においては、データの結合と結合データの送信からなるインコーポレーションを中心に著作者人格権侵害の是非が問われています。

    インコーポレーションを実現する手段としては、リンクを利用する手段が一般的です。ここでいうリンクを自動リンク(オートマティックリンク)と呼称します。このように、一般的なインコーポレーションは、自動リンクを前提とする技術です(インラインリンク)。

    これに対して、インコーポレーションにおいて、データの結合と、データの送信の順序は先後し得、自動リンクを用いたインコーポレーションでは、①データのサーバーからクライアントコンピュータへの送信、②クライアントコンピューターにおけるデータの結合という順序になります。これに対して自動リンクを用いないインコーポレーションでは、①サーバーサイドでのデータの結合、②結合されたデータのサーバーからクライアントコンピューターへの送信となる場合があります。

    自動リンク(オートマティックリンク)

    このようにインラインリンクは自動リンクとここで読んでいる自動表示のための準備行為を前提にインコーポレーションを実現するのが一般的です。

    このように、インラインリンクを自動表示まで含んだ概念と定義する現在通用している経済産業省の定義を踏襲すれば、インラインリンクは、自動リンク(オートマティックリンク(欧州最高裁法務官意見参照))とインコーポレーション(エンベディング(同法務官意見))に分解され、双方を含む概念として整理することになります。

    あるいは、インラインリンクの定義自体を変更して上記の意味におけるオートマティックリンクと同義の受信装置におけるデータの受信までの事象に限定することも考えられます。重要なのは、準備行為としてのリンクと、その後の受信装置での自動表示(の際のデータの統合(インコーポレーション))を分けて考察することではないかと考えています。

    インコーポレーション・インラインリンク・リツイート等

    整理すると、インコーポレーション > インラインリンク > リツイート という関係になろうかと思います。つまり、自動リンクによるインコーポレーションと自動リンクによらないインコーポレーション(データURLスキームなど)があり、インコーポレーションは自動リンクによるインコーポレーションであるインラインリンクを包含したより広い概念になります。さらに、リツイートは、インラインリンクの一形式と言え、さらにいえば、自動リンクによるインコーポレーションの一例でもあります。

    両事件控訴審判決を読む限り、このインコーポレーション(データの統合行為)の著作者人格権侵害が認められた、と読み替えた方が正確或いは理解がスムーズです。また、そこまで広げないと判例の意図が正確に伝わらないと感じています。

    リンクを利用しないインコーポレーション

    また、インラインリンクの準備行為(自動リンク)はデータURLスキームなどリンクとの代替技術も存在しています。

    このように、ここで問われているのはリンクと著作者人格権侵害の問題ではなく、自動リンクやデータURLスキームで実現される端末上のメディアを組み込んだ自動表示(インコーポレーション(欧州ではエンベディングとも))について、著作権法上どのように評価するかという問題です。

    ウェブにおけるインコーポレーションの重要性

    いずれにせよインコーポレーションによってテキストと画像データは結合して同時に表示することが出来るようになり、ウェブサイトは雑誌と同等のメディア性を獲得するに至りました。このインコーポレーションは、既に述べたとおり、インラインリンクを用いることが一般的ですが、インラインリンクを用いないことでも実現できるため、本来、インラインリンク、あるいはリンクと必ずしも直接関係のある技術ではありません。

    このインコーポレーション機能をもったNSCAが開発したモザイクというブラウザがリリースされ、今日のインターネットの爆発的な普及の礎となったことは歴史的事実です。

    なお、モザイクというブラウザを開発したマークアンドリーセン氏のIMGタグというアイディアを思いついた際のコメントはウェブ上に今日でもアーカイブされています。

    インコーポレーションとリンクの関係

    繰り返しになりますが、このインコーポレーションにおいて、リンクは、課題の解決のために前提手段として、一般的に利用されている技術、というレベルの位置づけに過ぎないことには強い留意が必要です。

    こちらの画像をソースで閲覧(CTRL+U)してソースのをご覧頂くと、HTMLに直接画像データが埋め込まれているのが確認できると思います。

    実際にも、グーグルの画像検索のソースをみる(リンク先でCTRL+U)と、同じようにHTMLに直接画像データが挿入されているのがご確認頂けると思います。

    このように、インコーポレーションにおいては、HTMLの画像データをHTMLに直接代入して送信(データURLスキーム)することで、サーバーサイドで情報を統一してしまい、クライアントコンピューターサイドで画像取得のためのHTTP通信を省いて画像とテキストを統合して表示するという課題を解決することが可能です。

    つまり、この場合インラインリンク の定義に該当する事象は介在しません。

    この意味で、インコーポレーションにおいては「リンク」は、画像と文章を同時に表示するという課題解決のために一般的に利用される技術ではありますが、課題解決のためにどうしても利用しなければならない必要不可欠な技術ではありません。

    リツイート事件・プロフィール画像事件控訴審で審理されたこと

    このように、リツイート事件及びプロフィール画像事件はリツイートなどそのものではなく、インラインリンクを審理対象とし、さらに正確にはインラインリンク(つまりリンクの延長のような事象)ではなく、画像と文章の同時表示を目的としたインコーポレーションというデータ結合行為の著作者人格権侵害、データ結合行為の主体性が争われた事案といった方が正確である事には留意が必要です。

    特に、同一性保持権侵害について問題となったのは、著作物の改変行為であり、さらにいうと、著作物の改変行為の原因となる、データの結合とクライアントコンピューターにおける結合データの表示行為(インコーポレーション)です。

    知財高裁判例も、著作物の改変主体は誰であるか、という観点にさらに、その前提となる、データを結合したのは誰か、データ結合行為の主体は誰か、という視点を噛ませて審理判断していると理解してます。

    また、データ結合行為の主体性という視点で事案を考察すると、知財高裁判決も違った見え方をする場合もあるのではないかと思います。

    インコーポレーションを巡るこれからの議論

    同一性保持権侵害について、ツイッタープロフィール画像事件控訴審は、インラインリンクで変形表示された『画像が一種の表現であるこ とは否定できないし,本件のプロフィール画像は,その表示の態様からし ても,クライアントコンピュータの画面において,円形の写真として,そ れ自体で一つの表現として表示されているととらえることができるもの であり,そのようにとらえるとすると,著作者は,本件のプロフィール画 像において,自己の著作物について,改変により異なる表現がされないこ とについての利益を有するといえるから,本件のプロフィール画像におい て原著作物と異なる表示がされたことをもって「改変」がされたと評価す るのが相当であると解される』と判示しています(第46頁(但下線は弊所による。))。

    このように、インラインリンクさらに正確にはインコーポレーションを「一種の表現」、「それ自体で一つの表現として表示されている」と評価している点は、今後のウェブサイトにおける著作権法の解釈に影響がある部分ではないかと思います。

    すなわち、表現は著作権法上保護客体とされる非常に重要な事象です。この『表現自体』になり得るインコーポレーションは著作権法上決定的に重要な意味を持ち得ます。つまり、創作性を有するインコーポレーションは現に存在すると考えられ、ウェブにおける著作権法の規律に非常に重要な役割を果たし得ます。この創作性を有するインコーポレーションを巡る議論は、今後の課題のひとつとなるでしょう。

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