国家賠償法1条の法的論点
国家賠償法1条を巡る論点について言及しています。
PR 弁護士齋藤理央は、特許庁に対する不服申立など知的財産権に関連する行政対応業務をはじめとして行政対応業務を取り扱っています。行政対応の代理業務などをお考えの場合は、お気軽にお問い合わせください。
目次
1 国家賠償法
国家賠償法1条1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。
これが、国家に対して賠償責任を追及していく根拠規定となります。
近代前の国家においては,国家の行為は違法ではあり得ないという,主権無答責の法理が通用していました。
しかし,近代国家においては,主権無答責などということはあり得ず,国の行動でも,違法な行動は,賠償責任の対象となり得ます。
憲法17条は,「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と定め,「不法行為」という表現で,国の賠償責任を謳っています。
この憲法17条の規定を受け,国家賠償法が存在しています。
インターネット規制と国家賠償
香川県ゲーム規制条例について、高松地裁に国家賠償請求訴訟が提起されています。また、プロバイダ責任制限法の不備は国家賠償の水準に近づいてるとさえ言えるかもしれません。
このように、インターネットの法規制を巡っては、ルールの在り方をめぐって、国賠の問題が今後生じ得るように思われます。
知的財産権と国家賠償請求
知的財産権、特に工業所有権(産業財産権)は、特許庁との関わりが深い法分野です。特許庁に違法行為がある場合も、国家賠償請求が可能です。ただし、特許庁は高度の専門性と裁量を有するため、その行為が違法と判断されるケースは極めて少ないでしょう。本人訴訟としてですが、特許庁に対して出願人などが国家賠償請求を求めているケースも存在します。
2 国家賠償責任の性質
国家賠償責任の性質については,「不法行為」をした公務員の代わりに国が責任を負うのか,「不法行為」を行ったのは国自身であるから,国が責任を負うのか争いがあります。
札幌高等裁判所昭和43年5月30日判決は判決文中で,「国家賠償法第一条による国又は公共団体の賠償責任が公務員の故意又は過失に基づく加害行為を前提としてその責任を代位するものであることは、上記条文からも明らかであって」と述べています。
このように,日本の裁判所は国が公務員個人の不法行為について,代位して責任を負うと考えているようです。
いずれにせよ,公務員自体は,国が代わりに責任を負ってくれることから,自らは直接責任を負わないと考えられています。最高裁判所は、昭和30年4月19日の判決で,「損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すべきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また、公務員個人もその責任を負うものではない。」としています。)。
つまり,公務員の職務中の不法な行動によって損害を受けた場合,公務員に代わる国その他公共団体に責任を追及することは出来ますが,公務員個人に責任を追及することは認められていないのです。
国が賠償責任を負った後は,国と公務員の問題となっていきます(「公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」(国家賠償法1条2項))。
普段は国民を守ってくれる国家ですが、ときに国から権利侵害を受けることもあります。そのとき国に責任を追及する仕組みが国家賠償法です。
国家賠償法
憲法17条において、かつて妥当していた主権無答責の法理が否定され、違法な公務員の行為により損害が生じた場合、国、または公共団体が損害賠償責任を負うことが明示されました。これを受けて制定されたのが、国家賠償法です。
例えば、インターネット法規制や、知的財産権をめぐる行政対応に違法行為がある場合、これによって損害が生じたときは、その損害の賠償を請求することができることになります。
国も民事上の法的責任を負う場合があると、明示されました。
国家賠償法の修正
なお、国家賠償法は、郵便法その他の特別法により、修正されます。この修正も、憲法17条により法律事項とされる以上、許されることになります。しかし、国家賠償法を含めた、国賠関係法規の制定も絶対無制約ではありません。すなわち、ⅰ.目的の正当性、ⅱ手段が目的を達成する上での合理性および必要性を相的に考慮して、憲法適合性を判定されることになります。その際、勘案すべき事項としては、Ⅰ公務員の不法行為の態様、Ⅱ不法行為により侵害される利益の程度、性質、Ⅲ免責の範囲、程度などが、参考とされます(最大判平成14年9月11日-郵便法違憲判決)。
法律でも、国の責任を全て否定することは許されないんですね。
責任の性質
国家賠償法は、公務員の活動を通じて行動する国家自身の不法行為責任を定めた規定なのか、公務員個人の責任について、国民が国家に代位できることを定めた規定なのか、争いがあります。この点について、公務員の主観が要件とされること、公務員に対する求償が認められることから、代位責任と解するのが通説的見解となっています。
公務員の責任を国が代わりに負ってくれるってことっスね!
加害公務員の特定
国家賠償法上、公務員の故意・過失に基づく違法行為が要求されていることから、加害公務員が特定される必要があるのかが問題となります。前記、自己責任説によれば、公務員を特定する必要はないことになります。しかし、代位責任説をとる判例(最判昭和57年4月1日)も、具体的に違法行為を行った公務員が特定できない事案につき、①一連の行為のいずれかに違法行為がなければ損害が発生しなかったであろう場合、②一連の行為を行った公務員がすべて同一の行政主体(国ないし、公共団体)に属している場合は、当該行政主体の責任を認めることができると判示しています。
必ずしも加害した公務員が特定されなくても良いわけだな!
公権力の行使
公権力の行使に関して、その範囲につき争いがあります。この点、判例通説は、純粋な私経済作用と造営物の管理作用を除くすべての作用を、「公権力」概念に含めます。最広義説は、私経済作用を含むすべての国家作用が、「公権力」概念に含まれると解しますが、私人と同等の立場で行う私経済作用までを、公権力の行使とすべきでないといえます。反面、権力作用という観念で限定を加える狭義説は、狭きに失すると言えるでしょう。
何をもって国家賠償法の対象となる公権力の行使と理解するか、難しい問題ですね。
特許を巡る国家賠償請求訴訟の例
平成29年1月25日東京地裁判決裁判所ウェブサイト掲載は、原告の主張を善解すれば、請求の一つとして「付審判請求(刑事訴訟法262条1項)に係る特別抗告棄却決定に対して異議申立てをしたのに,最高裁判所の裁判官会議において立件しないと判断され, もって原告の裁判を受ける権利が侵害されたなどとして,国家賠償法1条1項 に基づき,慰謝料20万円及びこれに対する上記異議申立ての日の翌日である 平成28年8月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害 金の支払を求め(同第3項)」た事案です。
同事例で、「国賠法1条1項にいう「違法」とは,公権力の行使に当たる公務員が,その権利ないし法益を侵害された個別の国民に対して負担する職務 上の法的義務に違背することであると解される(最高裁判所昭和60年11 月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁判所平成17 年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)」と一般論を述べています。
その上で、「本件の場合,原告の主張する請求原因事実からは,いかなる公務員のいか なる行為がいかなる職務上の法的義務に違反したと主張するものか,必ずし も判然としない。そして,仮に,原告の主張を,本件付審判請求に係る特別 抗告棄却決定に対して異議申立てをしたのに,最高裁判所の裁判官会議にお いて立件しないと判断され,もって原告の裁判を受ける権利が侵害されたこ とをいうものと善解したとしても(前記第2,1参照),裁判官会議は,そ の議により司法行政事務を行うものであって(裁判所法12条1項),裁判 官会議において個別事件の立件の当否を判断するものとは考え難く,上記主 張に沿った事実はおよそ認めることができない。また,最高裁判所に対する 特別抗告に対して棄却決定がされた場合,更なる異議申立てはできない(刑 事訴訟法433条1項,434条参照)から,仮に上記主張を前提としても, 原告の裁判を受ける権利が侵害されたとはいえない。‥‥したがって,請求の趣旨第3項に係る原告の請求は,理由がない」と述べて、原告の請求を棄却しています。
職務行為
「職務に関して」の概念は、公務員の主観を問わず、外形的、客観的に公務員の行為がその職務範囲といえるか否かで判定されることになります(外形理論)。したがって、非番の警察官が制服を着て強盗殺人を犯した場合、制服を着て職務行為を装ったことから警察官の行為は外形的に「職務に関して」に該当するとして、判例は国家賠償責任を認めています(最判昭和31年11月30日)。
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