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東京地裁民事29部判決(令和2年(ワ)12774号)・裁判所ウェブサイト掲載は、インターネット上の誹謗中傷行為等に対して名誉毀損などの成立を認め、429万円から250万円までの賠償金の支払いを認容した事案です。インターネット上の権利侵害としては比較的高額な賠償金が認められた事案ですが、一つの誹謗ではなく多数の誹謗に対して不法行為責任が認められた事案である点には注意が必要です。

同事案の中でも、特に注目されるのがインターネット上の権利侵害に対する共同不法行為の成立を認めた点、その範囲について客観的関連共同性を具体的に検討している点です。その観点からも同種事案について参考になるかと考えてご紹介します。

共同不法行為とは

そもそも共同不法行為とはどういったものでしょうか。

共同不法行為とはなんでしょうか?

共同不法行為とは、民法719条に定められた不法行為の類型で、共同不法行為成立が認められれば、加害者の1名に対して、不真正連帯債務として全損害の賠償を請求していくことができます。

共同不法行為はどの様な条件で成立しますか?

民法719条1項前段は、「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と定めます。

このように、共同不法行為については、上記の不法行為成立の要件に加えて、⑥数人の不法行為が「共同の」不法行為と評価できること(以下、関連共同性と言います。)が、要求されます。

共同不法行為の類型など

より詳しい共同不法行為に関する類型などは下記もご参照ください。

裁判例の採用した規範

東京地裁民事29部は、まず、共同不法行為の成否を判断する基準として、『民法719条の共同不法行為が成立するためには、共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加え、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えることを要する(最高裁昭和39年(オ)第902号同43年4月23日第三小法廷判決・民集22巻4号964頁参照)』と述べ、最高裁昭和43年4月23日第三小法廷判決・民集22巻4号964頁を挙げて、①各投稿行為が不法行為の要件を備えていること、②各投稿が客観的に関連共同していることを判断要素として摘示しています。

各投稿の不法行為該当性

次に裁判例では、『被告らによる前記1(6)に記載の記事等の投稿(以下「本件名誉毀損投稿」という。)及び被告B及び被告Cによる前記3(2)の投稿(以下「本件侮辱投稿」という。)は、それぞれ独立に不法行為の要件を備えている。』と述べて、既に不法行為の成立を肯定されている投稿についてそれぞれ単独で不法行為に該当することを確認しています。

本件名誉毀損投稿

裁判例は、下記の投稿について名誉毀損の成立を認めました。

次のアないしウの各記事等の投稿には、違法性阻却事由が ない限り、原告に対する故意による名誉毀損が成立する。

ア 被告B各記事等のうち、番号1ないし3の各記事等(ただし、番号2の 各記事等の中に、番号6の記事等を含む。)、番号4の記事等のうち【B 10 0159】、【B0173】及び【B0179】、番号7の各記事等のう ち【B1023】、【B1026】及び【B1068】、番号8の各記事 等のうち【B1408】、【B1494】、【B1714】、【B171 5】、【B1754】及び【B2122】並びに番号9の記事等のうち 【B1471】

イ 被告C各記事等のうち、番号1ないし3各記事等(ただし、番号2の各 記事等の中に、番号4の各記事等を含む。)、番号5の各記事等のうち 【B1533】及び【B1928】並びに番号6の各記事等のうち【B1 836】、【B1846】及び【B1871】

ウ 被告D各記事全て

東京地裁民事29部判決(令和2年(ワ)12774号)・裁判所ウェブサイト第49ページ

本件侮辱投稿

裁判例は、被告Dの投稿を除く、以下の被告B及びCの投稿について名誉感情侵害を認めました。

被告Bの【A0022】、【B0641】、【B0644】、 58 【B1184】及び【B1944】の記事等並びに被告Cの【B0522】 及び【B1793】の記事等の投稿を除くものについては、いずれも故意に よる名誉感情侵害の不法行為を構成するというべきである。

東京地裁民事29部判決(令和2年(ワ)12774号)・裁判所ウェブサイト第57ー58ページ

不法行為生を満たす各投稿の客観的関連共同性の判断

裁判所は、『被告らが…本件名誉毀損投稿及び本件侮辱投稿の全てについて客観的に関連共同していたとはいい難い』と述べた上で、具体的にいずれの投稿間に客観的関連共同性が認められるかについて検討しています。

被告BC間について

被告B及びCの間で同じWebページの投稿と投稿に対するコメントの関係にあるもの

まず『証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、被告Cが初めて原告 についての記事等の投稿をした平成27年10月14日以降の被告B番号1ないし3の各記事等及び被告Bの、【B1408】、【B1494】、【B 1714】、【B1715】、【B1754】及び【B2122】の各記事 等並びに被告C番号1ないし3の各記事等及び被告Cの【B1836】、 【B1846】、【B1871】の各記事等については、被告B各ブログに おいて、原告に対する名誉毀損又は侮辱を内容とする記事のコメント欄に、同記事に関連する内容のコメントをする形で投稿され』(下線は筆者)たとして、客観的関連共同性を肯定しています。

被告B及びCの間で同じWebページの投稿と投稿に対するコメントの関係にないもの

あるいは、被告Cの投稿は、『被告Bとほぼ同様の名誉毀損又は侮辱表現を用いて、被告Cブログ又は被告C各アカウントに記事等を投稿されている』と述べて、『これらの事実によれば、被告B 及び被告Cの不法行為が客観的に関連共同していると評価できる』と判示しています。

もっとも、『被 告Bの平成27年10月14日より前の各記事等及び被告B【B0159】、 【B0173】、【B0179】、【B1023】、【B1026】、【B1 5 068】及び【B1471】の各記事等の投稿、被告Cによる【B1533】 及び【B1928】の各記事等の投稿については』、ブログ記事のコメント欄にコメント投稿されたとか、ほぼ同様の名誉毀損又は侮辱的表現を用いたという事情がなく、『 客観的に関連共同して原告の権利を侵害したものとは認められない』と結論づけています。

被告Dについて

被告Dは、『被告B番号1及び2の各記事等並びに被告C番号1及び2の各記事等の投稿について、被告Bブログ等や被告Cブログにコメントすること等はなかった』と認定されています。このように被告Dは、同じWebページに誹謗をすると言うことはしていませんでした。

しかしながら、裁判所は、『被告Dが初めて原告についての記事等を投稿し た平成27年10月14日以後は、被告D各記事において、「b先生に対す るストーカー裁判」(【B0090】)などと、被告Bのハンドルネームを 記載して、被告Bブログ等の読者の増加に寄与し得る行為に及ぶとともに、「ストーカーa①」(【B0162】、【B1221】)、「トラウマPT SD」(【B0090】)などと、被告B及び被告Cと同様の表現を用いて 原告の名誉を毀損していることからすると、被告らによる、平成27年10 月14日以降の被告B番号1及び2の記事等、被告C番号1及び2の記事等 並びに被告D各記事の投稿についての不法行為は客観的に関連共同していると評価できる。』として、誹謗記事の中に被告Bの名前を挙げていること、被告B及びCが用いたのと同様の表現を用いて誹謗していることから、違法な投稿の間に客観的関連共同性を肯定できると結論づけています。

裁判例の検討

本裁判例は、同様の表現を用いた誹謗行為にも客観的関連共同性を肯定できる余地を肯定した点で、インターネット上の権利侵害について参考になる裁判例ではないかと思います。特に、理論上他の投稿者が判明しない場合も判明している投稿者に対して不法行為責任を問責できる、誹謗する記事を投稿したブログ主に対して当該ブログに記載された読者の誹謗コメントについても問責できる可能性があるなど、違法な投稿行為に対して責任追及する際に多くの示唆を与えている裁判例ではないかと思います。

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