インターネットと名誉毀損罪(刑法230条)
刑法は、名誉毀損罪について、下記のとおり定めています。
1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
刑法230条
目次
名誉毀損罪の構成要件
「人の名誉を毀き損」とは、社会的評価のおそれのある状態を発生させることを言います。
昭和13年 2月28日大審院判決・大刑集 17巻141頁は、社会的評価が実際に傷ついていない事案について不能犯に当たると指摘した弁護人上告趣意書について、「名誉毀損罪の既遂は公然人の地位を貶すに足るべき具体的な事実を摘示し名誉低下の危険状態を発生せしめるをもって足る」「殊更被害者の社会的地位の傷つけられたる事実の存在を要する者に非ず」と指摘して、論旨は理由がないと判示しています。
このように社会的評価の恐れのある行為をすれば足り、口頭や貼り紙でも、インターネットなどの投稿などでも名誉毀損罪は成立し得ます。
事実の摘示
平成 9年 9月25日東京地裁判決・判タ 984号288頁は、概要『Aが、左翼運動家や共産党を手先に使い、地方の中小零細企業の財産を根こそぎ奪い取り、これを男妾に貢いでいること』、『右のとおりのスキャンダルがありながら、Aが日本貿易会会長にいられるのは、日本貿易会を所管する通産省とX商事が癒着しているからであること』を街宣車で喧伝したという事案について、事実の摘示に当たらないと判示しています。
その理由として、裁判所は、『表示された内容は抽象的であり、そこにはX商事のどのような具体的活動を指すかを暗示するものすら含まれていない。同社は日本有数の総合商社であり、その事業活動は極めて多岐にわたっており、その個々の活動内容は、不特定多数の者には知られていないのが一般的である』ことや『本件の表示が、X商事本社ビル前に街頭宣伝車を停止させ、あるいは同ビル周辺を街頭宣伝車で走行しながら、いずれも概ね一〇分間程度の比較的短時間に、判示のとおり、拡声器を通して大声で怒鳴り、あるいは録音テープを流すなどの態様でなされているので、新聞や雑誌に記事を掲載するというような態様の表示とは異なり、その内容が抽象的に了知され易い面がある』ことから、『不特定多数の者がX商事の具体的な活動を想起するとは認められず、右表示は同社の社会的評価を害するに足るべき具体的事実を摘示したものとはいえない』と判示しています。
死者に対する名誉毀損罪
死者に対する名誉毀損罪は、「虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ」、罰されません。
名誉毀損罪の違法性阻却事由
名誉毀損罪には詳細な違法性阻却事由が法定されています。
1 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
刑法230条の2
名誉毀損罪の法定刑
名誉毀損罪の法定刑は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金とされています(令和4年6月現在)。
侮辱罪の厳罰化
令和4年6月13日、刑法改正法案が参議院で可決され、成立しました。弊所弁護士齋藤理央が、改正法案成立に伴って実施された記者会見に出席しました。このように、侮辱罪と名誉毀損罪の法定刑については平仄が合わせられることとなりました。
インターネットで名誉毀損された場合
インターネットでの誹謗中傷が蔓延しています。現代では誰もがインターネット上で誹謗中傷被害に遭う可能性があります。
インターネットで名誉毀損された場合など、誹謗中傷を受けた場合、まずは発信者を特定し、責任追求の準備をする必要があります。
しかしながら、日本では発信者情報開示の使い勝手の悪さ、低額な慰謝料などが民事での責任追求が進まず、名誉毀損罪などでの告訴で対処せざるを得ないこともあります。このように、民事手続きの拡充が被害者保護のためには重要と考えられるほか、名誉毀損罪での告訴なども検討しなければならないケースもあります。
インターネットでの名誉毀損の嫌疑を受けた場合などサイバー犯罪のご相談
弁護士齋藤理央は、サイバー犯罪の弁護に力を入れています。
お問い合わせについて
もし、インターネットでの名誉毀損発言によってトラブルが発生した場合は、まずは、お気軽にお問い合わせください。
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