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刑事訴訟法40条は、公判に顕出された記録について、弁護人に閲覧謄写権を認めるものです。公判顕出前に検察官が開示した証拠については、刑事訴訟法281条の3~5による規律が及びます。 よって、同列には論じられないことに留意が必要となります。

刑事訴訟法40条の趣旨

弁護人は、控訴の提起後は、裁判所において訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、且つ、謄写することができます(刑事訴訟法40条1項)。この趣旨は、「弁護人に選任された弁護士は、被疑者ないし被告人のために善良な管理者の注意をもって弁護活動を行うべき義務を負うものであるが、弁護士は、法令及び法律事務に精通する者として、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって(弁護士法一条、二条)、…その使命及び職責を十全に果たすために必要な手段の一つとして、被告人には認められていない、訴訟に関する書類及び証拠物を謄写する権限を持別に認められている(刑事訴訟法四〇条)一方、法律に別段の定めがある場合を除いて、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うものとされている(弁護士法二三条)」点にあると解されています(平成17年10月14日大阪地裁判決(平16(ワ)12571号 ・ 平17(ワ)4366号 損害賠償等請求事件))。

刑事訴訟法40条により閲覧謄写した証拠の被告人への開示

上記判例によると、弁護人、弁護人であった弁護士「は、その資格及び権限に基づいて謄写した訴訟に関する書類及び証拠物(刑事記録)について、上記の守秘義務に反しない限り、法令及び法律事務に精通する者としての識見に基づく判断と責任において、これを弁護活動に活用することにより、上記使命を実現することが求められているのであって、被疑者ないし被告人との間の上記義務の内容として、当然にその一部又は全部を被疑者ないし被告人に閲覧させ又は交付すべき義務を負うものと解することはできず、この理は、当該弁護士が私選弁護人であると国選弁護人であるとを問わないものというべきである」と判示されています。

そのうえで、「被告は、本件刑事事件の内容、性格等にかんがみ、原告の弁護人としての活動をより十全なものとするため、原告に対し、特に上記記録の一部の写しの送付を行ったものと認められるのであって、被告がその余の記録を原告に閲覧させず又はその写しを交付しなかったとしても、そのことが直ちに原告に対する関係において弁護人としての義務に反するものであったということはできない。…原告は、本件刑事事件に係る書類は本件契約に基づいて原告の費用で取得したものであり、原告がその所有権を有する旨主張する。
しかし…弁護人がその資格及び権限に基づいて謄写した刑事事件の訴訟に関する書類及び証拠物は、当該弁護人の所有に帰するものと解するのが相当であり、謄写の費用を被疑者ないし被告人が負担したとしても、当該被疑者ないし被告人が当然に上記謄写物の所有権を取得すると解することはできない。…以上のとおりであるから、被告が原告に対し本件刑事事件の記録を開示、手交しなかったことに関する原告の債務不履行又は不法行為の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない」と判示しています。

刑事訴訟法40条により閲覧謄写した証拠の第三者への開示

また、第三者への交付について、「以上認定の事実等によれば、被告は、本件刑事事件の被疑者及び被告人であった原告の弁護人としての資格及び権限に基づいて取得した本件刑事事件の訴訟に関する書類の一部を原告の意思を確認することなく原告を当事者とする民事訴訟事件(本件民事訴訟)の相手方当事者の訴訟代理人であるX弁護士に交付したものであるが、本件民事訴訟における原告の請求には、被告が原告の弁護人として原告を代理してAの法定代理人であった同人の父母との間で締結した本件刑事事件の公訴事実に係る示談契約の錯誤無効ないし強迫取消しを理由とする無効確認請求が含まれていたことに加えて、本件民事訴訟は、本件刑事事件において有罪の確定判決を受けた原告が、本件刑事事件の公訴事実に係る被害者の一人であるA及びその母を被告とし、原告が本件刑事事件において実刑判決を受け、また、Aらと示談をするに至った責任は専らAらにあるといった趣旨の主張をして、損害賠償等を求めるという、有罪判決により確定した自己の刑事責任をいわば被害者に転嫁する内容のものであったこと、本件刑事事件において原告の有罪が確定された公訴事実は、わいせつ目的で当時一四歳であったAを誘拐した上強制わいせつの行為に及んだというものであること、本件各書類は本件刑事事件に係る公開の法廷でその要旨が陳述又は告知されたものであること、以上にかんがみると、本件事実関係の下においては、被告がX弁護士に対して本件各書類を交付したことには正当な理由があるというべきであり、被告の上記行為は、原告に対する本件契約上の債務不履行にも不法行為にも該当しないというべきである」と判示しています(X弁護士名のみ、弊所において修正)。

このように、公判記録の開示は、状況に照らして弁護人において裁量で決定すべき事項と考えられます。

 

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