福岡地方裁判所令和3年6月2日判決[漫画村刑事事件判決]
福岡地方裁判所令和3年6月2日判決・裁判所ウェブサイト掲載は、海賊サイト『漫画村』運営者の刑事責任が問われた刑事訴訟判決です。福岡地方裁判所は、被告人を懲役3年及び罰金1000万円に処しました。
目次
本判例の争点及び争点に対する判断
本件の争点は,次のとおりでした。
著作権法違反の成否
判示第1の各事実について,「丙516話」及び「戊866話」の画像デー タは,Gのサーバコンピュータの記録媒体に被告人らが記録保存したものか (以下,サーバコンピュータの記録媒体にデータを記録保存する行為を「アッ プロード」ということがある。)(争点①)
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の前提となる著作権侵害の成否
判示第2の各事実について,被告人がGに各著作物を掲載する際に用いたリバースプロキシの設定は送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たるか(争点②)
その他の争点
本件では、下記の争点も問題となっていますが、本エントリではこの点には触れません。
被告人がGの運営で得た広告収入(アフィリエイト報酬)が犯罪収益(組織 的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律2条2項1号)に当たるか (争点③) 及び、被告人がGのアフィリエイト報酬が含まれる金銭を海外の銀行口座や第三者 名義の銀行口座に送金させた行為が,犯罪収益等を「隠匿」し,その取得につ き「事実を仮装」した行為(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関す る法律10条1項)に当たるか(争点④) の2点。
結論
裁判所は,これらの全てを認め,「丙516話」及び「戊866話」はい ずれも被告人によりアップロードされたものであり,被告人は,他人の著作物を自らのウェ ブサイトで違法に送信可能化した上,その犯罪によって得た犯罪収益等を隠匿 し,その取得につき事実を仮装したものと判断しました。
以下、順に争点1と、本判決で著作権法、特にデジタル著作権法の先例として重要な争点2を確認していきたいと思います。
なお、弁護士齋藤理央はデジタル著作権法を得意分野とする弁護士です。弊所のデジタル著作権法務の内容に関しては、下記リンク先などもご参照ください。
争点1 「丙516話」及び「戊866話」の画像デー タは,漫画村のサーバコンピュータの記録媒体に被告人らが記録保存したものか
漫画村は、リバースプロキシを利用していました。つまり、漫画村に漫画等を掲載する方法としては,漫画村のサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法と,被告人らと無関係なサーバコンピュータに存在する画像データを,漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにする方法の2種類がありました。漫画村に掲載された漫画等は,すべていずれかの方法によるものでした。
リバースプロキシとは,オリジナルサーバとクライアントとの間のデータ送信を中継する機能を有するサーバを言います。
争点1では、「丙516話」及び「戊866話」が、上記の通常のアップロードの手法か、リバースプロキシの手法のいずれで閲覧可能になっていたのかが争われました。
裁判所は、『 当時は週刊誌をアップロードするのに忙しく,自分がアップロードした漫画 を読む余裕もなかったが,丙という作品をアップロードした記憶はある。 平成29年5月11日の午後9時13分に,被告人とAとのLINEグルー プに「もう1回丙アップしたらそっちはちゃんと読み込めたので,下書きに残 っている丙516話は削除しておいてほしいです」と私が送信しているので, その日に「丙516話」がアップロードされているのであれば,Cではなく, 私がアップロードしたものだと思う。 また,同月29日の午後12時32分にはLINEに「庚と戊だけ先に更新 しました」と私が送信しているので,私かCのいずれかが,「戊866話」を Gにアップロードしたことも間違いないと思う。 』というBの供述の信用性を認め、「丙516話」及び「戊866話」が、通常のアップロードの手法で閲覧可能になっていたとして、被告人に著作権法違反を認めています。
争点2 被告人が、漫画村に各著作物を掲載する際に用いたリバースプロキシの設定は送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たる か(争点②)
被告人は,漫画村のサーバにはデータをキャッシュしない設定としていたと供述しています。このように,リバースプロキシの方法により漫画村に掲載 された漫画等の画像データは,第三者サーバの記録装置に存在し,漫画村のサーバの記録装置には保存されていなかったことになります。
さらに,被告人は,一定期間,漫画村のサーバと閲覧者との間に,2重のリバースプロキシとして,クラウドフレアのCDNサーバを利用しており,一般のユーザーが漫画村の漫画を閲覧する際は,漫画村のリバースプロキシ・サーバではなく,CDNサーバにアクセスする2重のリバースプロキシが機能する仕組みになっていました。
このような、リバースプロキシが、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反」の前提となる著作権法違反を構成する自動公衆送信権(送信可能化権)侵害に当たるかが、争われました。
本判決は、リバースプロキシが送信可能化侵害に当たると判断した先例的判決に位置付けられると思われます。
「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒 体として加え」るの該当性
被告人は,漫画村のサーバではデータをキャッシュしていなかったと供述していました。このことから,漫画村のリバースプロキシにおいて、キャッシュは行われていなかったものと認定されています。
そして、漫画村のサーバにリバー スプロキシの設定をすることにより,漫画村のサーバは,閲覧者(クライアントコンピュータ)から画像閲覧の リクエストを受けると、その画像データを第三者サーバにリクエストし,第三 者サーバからその画像データの送信を受け,受け取った画像データを閲覧者 に返信していました。
このことから、裁判所は、第三者サーバのデータを記録保存している部分は,自動公衆 送信装置たる漫画村のリバースプロキシに画像データを供給する働きをするものと認められると判断しています。そして、 この機能を持つ第三者のサーバは、機能的にみて,漫画村のリバースプロキシサーバに接続された記録媒体に当たると評価しています。
そして,裁判所は、上記の漫画村のサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は,被告人 が漫画村のリバースプロキシサーバに設定をすることにより生じたのであり、同設定行為は,情報が記録された第三者サーバの記録媒体を漫画村のリバースプロキシサーバの公衆送信用記録媒体として「加え」る行為であると判示しています。
したがって,裁判所は、漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をした被告人の行為は, 著作権法2条1項9号の5イにいう「情報が記録された記録媒体を当該自動 公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」る行為に当たると認めました。
「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」の該当性
次に裁判所は,第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは,閲覧者のリク エストに応じて漫画村のリバースプロキシサーバに入力されるものの,記録保存さ れることなく,そのまま自動公衆送信されていたと認定しています。
そして、裁判所は、「これは,著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情 報を入力する」ことに当たる」と判示しています。
入力の主体について
もっとも,かかる情報の入力は,閲覧者のリクエストに応じて自動的に行 われるのであるから,当該情報の入力を行った主体が誰であるかが問題となります。
この点、裁判所は、送信可能化が,公衆からの求めに応じて自動的に送信する 機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることから,情 報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自 動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当であると判示しています。
そうすると、本件において,情報を自動的に入力する状態を作り出したのは,漫画村のサー バにリバースプロキシの設定をした被告人ですから,行為主体は被告人と 認められることになりました。
リンクとリバースプロキシ
裁判所は、さらにリバースプロキシとリンクの貼付けとの異同について判断しています。
裁判所は、リバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けとは違 い,リバースプロキシを設定されたサーバが,オリジンサーバが管理する別 のウェブサイトへの遷移を伴わずに,ユーザーが閲覧をリクエストした画像 データ自体をオリジンサーバから取得して,受信者に対し,当該画像データ そのものを送信するものであると指摘しました。
そして、裁判所は、この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したと おりであるとしています。
裁判所は、データ自体を送信せず,インターネット上の侵害コンテンツの 所在(URL)を表示するにすぎないリンクの貼付けとは,行為態様を全く 異にしているとし、著作権法上,第三者により既に送信可能化されていた画像等のデー タについて,その余の者による著作権侵害が成立しないなどと解すべき合理 的理由はないとしています。
そこで、漫画村に掲載されていた漫画等の画像データが第三者により既に送信可能化されて いたものだったとしても,被告人による送信可能化は否定されないと結論付けています。
弁護士齋藤理央において、リンクと著作権の関係を検討した記事は下記になります。興味のある方は併せてご覧ください。
判決についての所感
本判決は、リバースプロキシの設定行為が 「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒 体として加え」る行為に該当すると判断し、又、 「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」行為に該当すると確認した点に意義があります。加えて、情報の入力主体をリバースプロキシ設定者と判断した点にも意義があります。
ただし、情報入力行為に該当すると判断すれば足りたとも思われ、記録媒体を加える行為への該当性を認めた点は送信可能化行為を拡げすぎる恐れも感じるところです。
入力行為で足る場合、入力行為も送信可能化行為とされている趣旨から、記録媒体を加える行為を無理に認める必要はなかったのではないでしょうか。
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