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原発損害賠償は、どのような法的根拠により賠償を請求できるのでしょうか。

下記は、「原子力損害の賠償に関する法律」第3条1項及び第4条1項の規定です。

原子力損害の賠償に関する法律

第三条  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。

…… 2項以下略

第四条  前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。

……2項以下略

 このように、原子力損害賠償請求は、「原子力損害の賠償に関する法律」第3条1項本文に基づいて請求され、原則として「原子力事業者」に当たる東京電力は無過失責任を負うことになります。

 ただし、ここで問題となるのが同条項の但し書きです。同条項の但し書きは、「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」と定めます。

 したがって、原子力損害の賠償に関する法律第3条1項により東京電力に損害賠償を請求できるか否かは、東北地方太平洋沖地震が「異常に巨大な天災地変」にあたるかの問題となります。

 この点、「平成24年 7月19日 東京地裁 判決」は、東北地方太平洋沖地震が「異常に巨大な天災地変」にあたらないことを前提として賠償を進めている国の方針は相当の根拠を有し国家賠償法上違法とはいえないとしています。

 したがって、同条項但し書きの解釈適用を決する裁判所において、東北地方太平洋沖地震が「異常に巨大な天災地変」にあたらないとの解釈を間接的に容認していると言えます。

 このような点からも、原子力損害賠償は、原子力損害の賠償に関する法律第3条1項に基づき請求を行い得るものと考えられます。

 以下に、同条項但し書きの立法の経緯等をまとめたうえで判断している上記判例の該当部分を引用します。相当の分量ですが、興味のある方はご覧ください。

原発事故損害賠償の法的根拠補足「平成24年 7月19日 東京地裁 判決」 より引用

 

  (1) 原賠法の法律案の作成経緯等
ア 昭和33年,原子力基本法に基づいて総理府(当時)に置かれていた原子力委員会内に原子力災害補償専門部会が設置され,同部会に法律案要綱の審議が委嘱された。そして,同部会は,昭和34年12月12日に答申を行った。
同答申においては,原子力事業から生ずる損害について,被害者に対する関係では,すべて国が責任を負い,一定の場合及び範囲において,原子力事業者に求償するものとされており,「異常に巨大な天災地変」という要件は,国が事業者に求償をすることができるか否かを定める要件であって,被害者に対する救済には全く無関係なものとされた。
イ 同答申を受けて,原賠法の法律案が作成されたが,同法律案においては,被害者に対して国が直接責任を負うものとはされず,原子力事業から生ずる損害について,原子力事業者は原則として無過失責任を負うが,「異常に巨大な天災地変」によって生じたものであるときは免責され,その場合,国は,被害の拡大防止と被害者の救助しか行わないものとされたため,「異常に巨大な天災地変」という要件は,被害者に対し,賠償が行われるか,救助しか行われないかを定める要件としての意味を持つこととなった。
(2) 国会における審議
ア 昭和35年5月18日の衆議院科学技術振興対策特別委員会において,C国務大臣は,原賠法3条1項ただし書について,関東大震災の3倍以上の大震災,戦争又は内乱というような場合には,国民全体に災害が出てくることから,同法に基づく賠償はされない旨発言した(甲1)。
イ 昭和36年3月16日の同委員会において,科学技術政務次官であったD政府委員は,原賠法の法律案の要旨説明の中で,原子力事業者の責任について,民法の不法行為責任の特例としてこれを無過失責任とするが,不可抗力性の特に強い場合にまで責任を負わせるのは公平を失することになるため,そのような場合に限り事業者を免責することとした旨説明した(乙16)。
ウ 同年4月12日の同委員会において,科学技術庁原子力局長であったE政府委員は,原賠法3条1項ただし書について,今まで日本に発生したことのなかった天災地変が発生したときには,損害賠償の対象外となる趣旨かとの質問に対し,かつて関東大震災ほどの地震はなかったと考えられるが,安全審査において,関東大震災の二倍ないし三倍の地震に耐え得るという安全度を採用しているから,関東大震災より多少とも規模が上回れば同項ただし書の「異常に巨大な天災地変」に当たるとは考えておらず,実に想像を絶する場合であって,関東大震災の二倍ないし三倍さえももっと飛び越えるような大きな地震がこれに当たると考えていると説明した(乙17)。
エ 同月26日の同委員会において,原子力委員会原子力災害補償専門部会長であったF参考人は,原賠法3条1項ただし書の「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」の意味について,不可抗力よりもっと範囲の狭いものかとの質問に対し,これを肯定し,「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」は,超不可抗力の場合であり,ほとんど発生しないと考えられるが,ほとんど発生しないとしても,私企業である原子力事業者に無過失責任を負わせる以上は,人類の予想していないような大きなものが生じたときには責任がないと規定しておく必要があると説明した(乙7)。
オ 同年5月30日の参議院商工委員会において,東京大学教授であったG参考人は,原賠法3条1項ただし書の「異常に巨大な天災地変」の意義について,「原子炉のように非常に大きな損害が起こる危険のある場合には,今までのところから予想し得るようなものは全部予想して,原子炉の設定その他の措置をしなければならない。従って,普通の,いわゆる不可抗力といわれるものについて,広く免責を認める必要はないわけであります。むしろ今まで予想されたものについては万全の措置を講じて,そこから生じた損害は全部賠償させるという態勢が必要であります。そこで,たとえばここでいう「巨大な天災地変」ということの解釈といたしましても,よくわが国では地震が問題になりますが,今まで出てきたわが国最大の地震にはもちろん耐え得るものでなければならない。さらにそれから,今後も,今までの最大限度を越えるような地震が起こることもあり得るわけですから,そこにさらに余裕を見まして,簡単に言いますと,関東大震災の二倍あるいは三倍程度のものには耐え得るような,そういう原子炉を作らなければならない。逆に言いますと,そこまでは免責事由にならないのでありまして,もう人間の想像を越えるような非常に大きな天災地変が起こった場合にだけ,初めて免責を認めるということになると思われます。そういう意味で,これが「異常に巨大な」という形容詞を使っているのは適当な限定方法ではないだろうかと思われます。」と述べた(乙18)。
カ なお,原賠法施行後,本件震災までに,同法3条1項ただし書の解釈について国会で議論がされたことをうかがわせる証拠はない。
(3) 原賠法に関する文献
ア 原賠法について解説した昭和37年9月10日発行の「原子力損害賠償制度」(科学技術庁原子力局編)には,同法3条1項ただし書について,「原子力損害が不可抗力によって生じたものであるときは,因果関係が中断して原子力事業者が免責されることは明らかである。しかしながら,原子力損害が軽々に不可抗力によるものと認定されることがあっては,この法律の意図する被害者の保護を充分におし進めることは不可能である。そこで,原子力事業者の無過失責任は,ここに掲げるような不可抗性のとくに強い特別の事由がある場合に限り,因果関係の中断により免除されるものとするのが,このただし書の趣旨である。」とし,同項ただし書における「異常に巨大な天災地変」の意味として,「日本の歴史上余り例のみられない大地震,大噴火,大風水災等をいう。例えば,関東大震災は巨大ではあっても異常に巨大なものとはいえず,これを相当程度上まわるものであることを要する。」とする記載がある(甲5)。
なお,同書籍は,平成3年4月30日に改訂版が発行され(乙6),これにおいては,同項ただし書の趣旨について,「例えば,戦争のような状況の中で原子炉が破壊され,核分裂生成物が大気中に放散されたような場合に,その被害を原子力事業者に賠償させるのは行き過ぎであ」るが,「一方では,不可抗力による免責が軽々に認められるようでは,被害者の保護を図るというもう一つの法目的が損なわれることになる」ので,「非常に稀な場合に限って原子力事業者を免責することとしたものである。」と説明されている。
イ 竹内昭夫「原子力損害二法の概要」(ジュリスト236号29頁)には,原賠法3条1項ただし書について,「およそ経験的に考えられるような程度のものに対しては万全の防護措置がなされるべきは当然であり」,「従って,ここで免責される「天災地変又は社会的動乱」とは,現在の技術をもってしては,経済性を全く無視しない限り,防止措置をとりえないような,極めて限られた「異常かつ巨大な」場合を意味する」,「具体的な「天災地変又は社会的動乱」が「異常に巨大」であると認められるか否かによって,被害者に完全な賠償が行われるか,救助しか行われないかがきまることになる」から,同項ただし書は,(1)ア記載の「答申の構想とは全く別の極めて大きな意味をもたされるに至ったわけであり」,「一層限定的に,つまり原子力損害を受けた者のために補償をすることが全く不可能なような,広範囲かつ甚大な被害を伴う「自然的,社会的災害」かどうかという要素を含めて判断しなければならなくなった」との記載がある(甲7)。
ウ 座談会「原子力災害補償をめぐって」(ジュリスト236号11頁)には,原賠法3条1項ただし書所定の「異常に巨大な天災地変」とは,「少なくとも関東大震災の三倍以上くらいの地震」,すなわち「いまだかつてない想像を絶した地震というようなものを一応考えている」とのH(前原子力局政策課長)の発言が記載されている(甲13)。
エ 本件震災の当時,上記各文献以外に,原賠法3条1項ただし書の解釈について詳細に言及する文献が存在したことをうかがわせる証拠はない。
(4) 原賠法施行後の地震及び津波の発生
原賠法は,昭和37年3月15日に施行されたところ,同法施行後の昭和39年にアラスカ地震が発生し,マグニチュード9.2,津波の最大波高約67mを記録した。また,平成16年には,スマトラ沖地震が発生し,マグニチュード9.0,津波の痕跡高最大48.9mを記録した(乙12,13の1,2)。
(5) 本件震災の規模等
本件地震は,マグニチュード9.0,津波の遡上高最高約40.4mであった(乙10,14)。
3(1) 以上の認定によれば,原賠法3条1項ただし書は,無過失責任を負うべき原子力事業者といえども,常に責任を負うとすることは酷に過ぎることから,その免責事由を定めたものであるが,不可抗力による免責が軽々に認められるようでは,被害者の保護を図るという同法の目的(同法1条)が損なわれることとなるため,非常にまれな場合に限って原子力事業者を免責すべきものとしたものであり,同項ただし書所定の「異常かつ巨大な天災地変」も,そのような観点から解釈されるべきであって,そのこと自体に疑問の生ずる余地はない。
(2) しかし,原賠法3条1項ただし書所定の「異常に巨大な天災地変」が具体的にどのような場合を指すかについては,前記認定の国会審議における発言や原賠法に関する文献をみても,関東大震災の3倍以上,あるいはこれを相当程度上回るものとするものや,人間の想像を超えるような非常に大きな天災地変とするものなど様々である上,それらの表現が具体的にどの程度の天災地変を意味するか自体も必ずしも明らかではないから,これらの発言や文献の記載から,「異常に巨大な天災地変」の意義を一義的に導くことは困難である。
そして,前記認定の立法経過のとおり,同項ただし書における「異常に巨大な天災地変」という要件は,当初は,国が事業者に求償をすることができるか否かを定める要件として議論され,被害者に対する救済には全く無関係なものとされていたが,最終的には,被害者に対し,賠償が行われるか,救助しか行われないかを定める要件としての意味を持つこととなったものであり,同法の目的である被害者の保護を図るという観点からは,上記要件は,一層限定的に解釈すべきであるとの見解もあり,上記要件を極めて限定的に解釈することにも一定の合理性が認められるというべきである。
そうすると,同項ただし書における「異常に巨大な天災地変」を極めて限定的に解釈し,人類がいまだかつて経験したことのない全く想像を絶するような事態に限られると解釈することにも相当の根拠が認められるというべきである。
また,同法施行後,同項ただし書の解釈について,国会において議論された形跡はなく,その点について詳細に言及した文献もなかったことからすると,同項ただし書の解釈について,本件行為当時,定説はなかったものと認められる。
(3) 次に,前記認定事実(4)及び(5)のとおり,原賠法の施行後にアラスカ地震及びスマトラ沖地震が発生し,本件地震は,これらの地震の後に発生したものであること,しかも,本件地震のマグニチュードは,アラスカ地震やスマトラ沖地震のそれを上回るものではなかったことが認められ,津波についても,本件地震に伴う津波がアラスカ地震やスマトラ沖地震に伴う津波を大きく上回るものであったとは認められない。
(4) 以上を前提とすると,原賠法3条1項ただし書所定の「異常に巨大な天災地変」とは,人類がいまだかつて経験したことのない全く想像を絶するような事態に限られるとした上,本件震災はそのような事態に該当しないと判断し,これを前提として本件行為が行われたとしても,これをもって担当公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたとは認められない。
よって,本件行為は,国賠法上違法であるとはいえない。

 

 

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