目次
- 1 著作物性
- 2 著作物に関連する記事
- 3 平成26年8月28日知財高裁判決・判例時報 2238号91頁[ファッションショー事件控訴審]裁判例紹介
- 4 応用美術の著作物性
- 5 ウェブサイトの著作物性について
- 6 図形の著作物性
- 7 地図の著作物性
- 8 YouTube・インスタグラム投稿動画について動画投稿者を映画監督と同等に評価して著作者と判断した事例[東京地判令和3年10月26日]
- 9 バニーガールの衣装の商品形態模倣、著作物性に関する裁判例雑感
- 10 著作物について
- 11 ヘアスタイル・メイクの著作物
- 12 『エジソンのお箸事件』知財高裁平成28年10月13日判決(平成28年(ネ)第10059号)判例紹介
- 13 著作物の単位と弁論主義
- 14 美術・写真の著作物と展示権
- 15 アイディアと表現について
- 16 TRIPPTRAPP(トリップトラッパ)事件−実用品の著作物性
- 17 映画の著作物
- 18 プログラムの著作物
- 19 言語の著作物
- 20 二次的著作物とは
- 21 データベースの著作物とは
- 22 RDBMSの著作物性等
- 23 音楽の著作物
著作物性
著作権侵害の差し止めを請求するなど、著作権に基づく法的請求をするには,対象が著作物でなければなりません。
著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とされています(著作権法2条1号)。
分解していくと,①「思想又は感情を」②「表現したもの」である必要があります。さらに,②「表現」は③「創作的」な表現でなければいけません。また,②「表現したもの」が,④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」必要があります。
したがって,対象が著作物であるというためには,上記①から④の条件を満たしている必要があるということになります。
対象の著作物該当性①「思想又は感情」
著作権侵害の差し止めを請求するには,対象が著作物でなければならず,著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とされており(著作権法2条1号),著作物の内容を分解したら4つの要素に分けて考えることが可能であることは前に述べたとおりです。
このうち①「思想又は感情」というファクターは著作物が積極的に何であるかを意味づける役割よりは,「思想又は感情」と呼べないような単なる事実の羅列などを著作物から除く方向で機能する側面が強いと考えられます。
したがって,機械的に記録した観測データなどの集積は,その記載になんら工夫のないデータの羅列である場合,著作物性が否定される場合もあり得ます。
もっとも,そのようなデータや事実の機械的羅列は,そもそも③「創作的」な表現と言えないという視点から著作物性を否定することもできそうです。
このように①「思想又は感情」という要素は,③「創作的」表現という要素に,著作物該当性を判定するうえで,その働きを包含されている側面が大きいものと考えられます。
対象の著作物性②「表現したもの」
内心でこんな絵を描こうとか、あんな音楽を作ろうと考えていても,それだけでは著作物として保護されることになりません。なぜなら,頭の中にアイディアとして存在している段階では,②「表現したもの」と言えないからです。
つまり,こんな絵を描こうと考えていた構想とそっくりの絵がある日誰かによって描かれてしまっても,描こうと思っていた絵を実際に描いていない以上,著作権の侵害を主張することはできないことになります。
もっとも,「表現した」とは,物に固定化するまでは意味しません。曲をつくったとして,五線譜に記載しない限り「表現した」と言えないというわけではありません。即興の演奏や,踊りなどでも「表現した」ことに変わりはないと考えられます。
いずれにせよ,頭の中の構想にとどまる限り著作物該当性は存在せず,他人から認識できる形で②「表現した」ときに初めて著作物該当性が肯定されることになります。
したがって,著作権侵害に基づく差止請求権を行使する場合は,著作権が侵害されたと主張するより前の時点で,対象が②「表現」されていたことを立証する必要があることになります。
対象の著作物該当性③「創作的な表現」
「創作的な表現」にいう創作性について,たとえば,下記のような下級審裁判例があります。以下,対象の著作物該当性を判示した部分を抜き出して引用します。
3 争点(2)イ、ウ(著作物性、複製権及び翻案権侵害の成否)について
平成17年 5月17日東京地裁判決
(1) 著作物の複製(著作権法21条、2条1項15号)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。ここで、再製とは、既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきであるが、同一性の程度については、完全に同一である場合のみではなく、多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない、すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。
また、著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
このように、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。
このように,上記判例は,著作物該当性における,創作的な表現該当性判断において,「筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきである」と述べ,「他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合」は,創作的な表現にあたらないと述べています。
以上の判示から,著作物に関する侵害の差し止めを請求する場合,対象が著作物に該当するか否かの判断においては,創作性はそれほど高度のものが求められているわけではないことがわかります。つまり,ある内容を伝えるのにその表現しか考えられない場合や,ある内容を伝えるのに社会一般に広くもちいられている表現方法を選択した場合などを除いて,対象について表現に創作性が認められることになるものと思料されます。
著作物に関連する記事
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