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執行猶予期間の進行開始

執行猶予が例えば1年とか、3年とされたとき執行猶予期間がいつ終了するのかを知るには、執行猶予期間の進行開始のときを確定する必要があります。

進行が開始しなければ、執行猶予期間が経過することもないからです。

そこで、まず執行猶予期間の進行開始について説明したいと思います。

刑法第25条は「次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。」と定めています。

このように、執行猶予期間は「刑の言い渡しの時」ではなく、「刑の言い渡しの判決が確定した日」から進行を開始します。

判決の確定日とは

判決が確定するのは、①上訴ができない場合に関しては,即時に確定します。

上訴が可能な場合に関しては,②上訴期間を経過した場合に確定します。

他にも、③上訴が可能な場合に一旦行った上訴を自ら取り下げた場合などにも判決は確定することになります。

このように、前刑の執行猶予がある場合、前刑が言い渡された日ではなく、「前刑を言い渡した判決が確定した日」から執行猶予が進行を開始します。

このように、前刑の判決確定時から執行猶予期間として定められた期間が経過しなければ執行猶予期間が経過したことにならないため、注意が必要です。

執行猶予の取り消しと判決の確定

次に,執行猶予の取り消しと,判決の確定について述べていきたいと思います。

改正後刑法第二十六条第一項柱書本文は「次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。」とさだめます。つまり、刑の執行猶予の必要的な取消について定めた規程ということになります。

これをうけて同項第1号は,「 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。」と定めます。

つまり、①禁錮以上の刑に処せられたこと、②刑の全部に執行猶予の言い渡しがないこと、という2つの条件を満たした場合、前刑の執行猶予を全て取り消さなければいけないことになります。

また改正後刑法第二十七条の四第一項柱書本文は「次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。」とさだめます。

これをうけて同項第1号は,「 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。」と定めます。

つまり,執行猶予中に犯罪を犯してしまったとき,「猶予期間内に…禁錮以上の刑に処せられ(全部執行猶予についてはさらにその刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき)」てしまった場合,前刑の執行猶予が取り消されてしまうことになります。

俗語で執行猶予を取り消された前刑を「弁当」などと呼ぶこともあります。

現刑に一部執行猶予が付された場合は?

前刑が全部執行猶予で現刑が一部執行猶予の場合

前刑が執行猶予期間中に、現刑の言い渡しがなされた場合、現刑が全部執行猶予ではなく一部執行猶予の場合、前刑の執行猶予は取り消されるのでしょうか。

この点、改正後刑法第26条第1項1号は,「 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。」執行猶予は取り消さなければならないと定めます。

一部執行猶予は、刑の一部について執行を猶予します。裏を返せば刑の一部は執行されます。

したがって、「刑の全部について執行猶予の言渡しがない」場合に該当します。

よって、現刑に一部執行猶予が付されたときも、前刑の全部執行猶予は必要的に取り消されることになります。

執行猶予取消の手続

この「禁錮以上の刑に処せられ」とは執行猶予期間内に犯した犯罪が起訴され禁固以上の有罪判決が確定した時と解されます。

では,執行猶予期間が経過する前に判決が確定すれば,直ちに執行猶予が取り消されるのでしょうか?

法律上執行猶予の取消には,裁判所の決定を経る必要がある旨,明記されています。

刑事訴訟法第三百四十九条第一項は「刑の執行猶予の言渡を取り消すべき場合には、検察官は、刑の言渡を受けた者の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所に対しその請求をしなければならない。」と定めます。

そして,同法第三百四十九条の二第一項は「前条の請求があつたときは、裁判所は、猶予の言渡を受けた者又はその代理人の意見を聴いて決定をしなければならない。」と定めます。

また,同条第五項は,「第一項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。」と定めます。

このように,執行猶予の取消決定は,即時抗告が可能な期間内に即時抗告がされない場合か,即時抗告が棄却された場合に執行されることになります。

なお、執行猶予の取消決定に対する即時抗告については、特別抗告を申し立てることができます。

したがって、厳密には特別抗告が棄却された時に執行猶予の取消決定が確定することになります。

しかしながら、即時抗告棄却の時点で執行猶予の取消決定は確定を待たずに執行が許されることから、即時抗告棄却の時点で前刑の執行猶予期間を徒過していない場合前刑の執行猶予は取り消されることになります(最高裁判所判例)。

これに対しては、執行猶予の取消決定の確定時を基準にすべきという反対説も唱えられています(大塚反対意見、団藤反対意見。)。

以上の諸点から,①執行猶予中に犯した犯罪について執行猶予期間内に禁固以上の有罪判決が確定すること,②執行猶予期間内に前刑の執行猶予取消の決定に執行力が生じることが,前刑の執行猶予取消の条件となります。

したがって,執行猶予期間中に犯した犯罪について,執行猶予期間内に判決が確定しても執行猶予取消決定が執行されていない場合,決定の執行前に執行猶予期間を渡過してしまうケースもあり得ることになります。

また,控訴審や上告審を経て禁固以上の有罪判決が確定したケースにおいては,高等裁判所や最高裁判所から,さらに一審の裁判所に記録を送らなければならないケースなどもあり,時間的な問題から,検察官が執行猶予取消の決定を請求しないこともあるようです。

現刑罰金刑の場合の前刑執行猶予の裁量取消

さらに、執行猶予期間中に禁固以上の刑に処せられた際は必要的に執行猶予が取り消されてしまいますが、罰金刑に処せられた場合も裁量的に執行猶予が取り消される場合があります(刑法26条の2第1号、同法27条の4第1号)。

つまり、執行猶予期間中に罰金刑を受けた場合必ず執行猶予が取り消されるとは限らないものの、執行猶予が取り消されないとも限らないのです。

したがって、執行猶予期間中は飲酒運転などの罰金刑に処せられる可能性のある交通違反等にも十分ご注意ください。

また、執行猶予期間中に罰金刑に処せられ検察官に執行猶予の取消を請求(刑事訴訟法349条)された場合、執行猶予の取消手続きにおいては、代理人が意見を述べることもできます(刑事訴訟法349条の2)。

そこで、執行猶予期間に罰金刑に処せられ検察官に執行猶予の取消を請求された場合、弁護士を代理人に選任して意見書を提出し、実効的な防御を展開していくことも検討する必要があります。

もっとも,執行猶予期間中はもちろん,二度と再度犯罪を犯さないようにすることが最も重要であることは,言うまでもありません。

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