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また、コインハイブ事件に逆転有罪判決をくだした東京高等裁判所控訴審判決も公開されています。

今回問題となっているのは、刑法第十九章の二に定められた、不正指令電磁的記録に関する罪の章の刑法168条の3不正指令電磁記録保管罪です。

不正指令電磁的記録取得等

今回問題となった不正指令電磁的記録保管罪については、下記の条文が定めます。

刑法第百六十八条の三 

正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

同条文が引用する刑法168条の2は、下記のとおり定めます。


(不正指令電磁的記録作成等)刑法第百六十八条の二 

正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。

コインハイブ事件の争点

JAVASCRIPTで記述されたコインハイブを実行するプログラムが「その意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」に該当するかが争われました。この要件は、本来コンピューターウィルス(ワームなどを含めた広義の意味合い)を念頭に置いているため、以下、ウィルス(あるいはウィルス該当性)と言いいます。

また、プログラムが不正指令電磁的記録に当たることを認識認容しつつこれを実行する目的があったか、主観的要件の充足が争われました。ウェブサイトに組み込まれたJAVASCRIPTが第三者の端末で作動するのは明らかなので、ここでは、ウィルス該当性、つまりウィルスと認識・認容していたかが、中心的な判断対象と思料されます。

争点の概略

すでに述べたように、本件の争点は、あえて簡略化して説明してしまえば、コインハイブを実行するJAVASCRIPTが、①「ウィルス」に当たるか、そして、②「ウィルス」に当たると認識・認容していたのか、が問題の中心と考えられます。②については目的要件の中で検討されていますが、すでに述べたように第三者の端末で作動することは明らかですので、判断の実質的中心は、ウィルスだという認識・認容の有無かと思われます。もちろん、「ウィルスだと考えていた」ということではなく、「裁判所がウィルスと判断した基礎となった事情」を認識・認容してあえて第三者の端末で実行させたかが問題となります。

一審と二審の判断

一審横浜地裁判決は、①客観面、②主観面双方の要件から、犯罪の成立を否定しました。コインハイブを実行するJAVASCRIPTを「不正な指令を与える電磁的記録」に該当しないとしました。そうであれば当然②主観面も否定されることになろうかと思います。

問題は東京高裁の第二審です。第二審は、コインハイブは社会的に許容できるプログラムではないとして、ウィルス該当性を肯定したうえで、さらにウィルスとの認識もあった、と判断して有罪判決をくだしました。

つまり、二審東京高裁は、コインハイブというプログラムには「社会的許容性」がないとしました。これがあると判断した一審判断とは真逆となりました。

二審判断に対する個人的な見解

個人的には、二審判断は、刑法で罰すべきウィルスの対象を拡げ過ぎだと考えています。コインハイブを実行させるJAVASCRIPTが、立法時に想定されたウィルスの範囲をさすがに超えているのではないかと思われます。

個人的には無断で行うコインハイブはあまり良いことではなく、当不当でいえば不当な行いと考えています。しかしながら、コインハイブの設置行為は刑事罰を科すほどの行為ではなく、ウィルス(広義)を念頭においた不正指令電磁的記録に関する罪で罰するのは明らかに行き過ぎと思われます。

ウェブ上でも指摘されていますが、コインハイブが犯罪であれば、アクセス履歴などを自動で収集している大手企業のプログラムも軒並み犯罪ということになりかねません。

コインハイブが一時的な保存状態にあること

個人的な見解として二審の判断はウィルスの範囲を拡げ過ぎではないかと述べました。そう考える一番の論拠はコインハイブが一時的な保存状態にあり、さらに該当サイトを表示しているときだけ稼働する点です。また、その動作が不可逆的な侵襲を加えるものではない点です。

ウェブサイトに埋めこまれている性質上コインハイブは、JAVASCRIPTとして通常クライアントコンピューター(受信装置)のハードディスクではありますが、キャッシュ領域に保存されます。つまり、一時的な保存であり他のウェブサイトのデータが溜まれば自然に消滅します。また、削除しようと思えばブラウザのキャッシュをクリアすれば、受信装置保存領域からのデータ削除もユーザーの意思で容易にできます。加えて、ウェブサイトに埋め込まれたJAVASCRIPTという性質上、稼働しているのは該当ウェブサイトを閲覧・表示している時だけです。設定が重ければ当該ウェブサイト閲覧時の動作の異常と、それに対するウェブサイトの内容との比較考量で、「そのウェブサイトを閲覧しない」という選択肢がユーザーに与えられています。

保存場所も容易に判明せず、削除も簡単にはできず、半強制的に意図しない動作を延々と続けるようなコンピューターウィルスとはこの点がやはり大きな違いではないでしょうか。あるいは、一時的な動作であっても、情報流出など回復できない損害を与えるようなものが本来的なコンピューターウィルスではないかと思われます。

そうすると、一時的保存に過ぎず、除去が容易なうえに、動作が許容できない程度の侵襲(例えば回復できないもの)を導かない点から、コインハイブについては社会的な許容性は導かれ得るのではないかと思います。

このような観点から犯罪の対象からプログラムを弾くための役割が「不正」の要件には求められるところ、「不正」という文言が与えられた役割に対して言葉として少し弱いように感じます。

しかし、そこも含めて裁判所において文言の意味を汲みとって適切に解釈適用することが求められるとも捉えられます。

つまり、コインハイブ事件控訴審の様な問題は、「不正な指令」という文言の曖昧さ、つまりそもそもの立法の問題と、さらに曖昧な立法の要件を適切に解釈適用するという役割を果たすべき司法の双方の問題と捉えられます。

上告審において、本来的に抑止されるべきウィルスを念頭に置いた「不正な指令」の解釈が示されることに期待したいと思います。

コインハイブ事件に逆転有罪判決をくだした東京高等裁判所控訴審判決ですが、これまで無罪である事を前提に検討が必須ではない論点と捉え得たリンク相当情報の不正指令電磁的記録該当性について、検討なく有罪判決を下しています。

しかし、コインハイブプログラム本体の不正指令電磁的記録該当性を否定した場合は格別、これを肯定する場合さらにコインハイブ本体ではなくリンク相当のHTMLコードを不正指令電磁的記録と判断できるかというかなり大きな壁があり、無罪判決であれば格別、有罪としながらもこの壁を何の検討もなく飛び越えている点で、高裁判断はかなり問題があるように思われます。

不正指令電磁的記録保管罪の構成要件について

ここで、今回問題となっているのは、刑法第十九章の二に定められた、不正指令電磁的記録に関する罪の章のうち、刑法168条の3に定められた不正指令電磁的記録保管罪です。

今回問題となった不正指令電磁的記録保管罪については、先ほど言及したとおり、下記の条文が定めます。

刑法第百六十八条の三 

 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

そして、同条文が「前条第一項」という形で引用する刑法168条の2は、下記のとおり定めます。

(不正指令電磁的記録作成等)刑法第百六十八条の二

 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。

コインハイブ事件で保管の客体(不正指令電磁的記録)とされたプログラム

コインハイブ事件で不正指令電磁的記録とされたプログラムについてさらに検討したところ、コインハイブプログラムの本体が別サーバーに保存されていること、コインハイブ事件で、不正指令電磁的記録とされた中心が、数百行からなる本体プログラムではなく、単なる1行のリンク情報を中心としたプログラムコードである事を理解しました。

そこでこの点について何か指摘がないか探したところ、高木浩光「コインハイブ事件で否定された不正指令電磁的記録該当性とその論点」Law&Technology85第20頁以降の第28頁から第29頁において、5つの論点のうちのひとつ、「客体はプログラム本体ではなく呼出しコードなのか」において、この論点の問題意識が紹介されていました。

コインハイブがサイトで稼働する構成要素

コインハイブプログラムがウェブサイトで稼働する構成要素は、大まかに下記の3点になります。

①コインハイブ本体のJAVASCRIPT(提供者の管理するサーバーに保存された数百行のプログラムコード)

②コインハイブ本体(①)へリンクするHTMLコード(下記)※

<script src="https://〇〇.com/◯/〇〇◯.××.js"></script>

③コインハイブ本体(①)にサイトの設定などの情報を代入する2−3行の補足的なJAVASCRIPT

※ただし、このリンク態様は、ハイパーリンク、インラインリンクに次いで、私が機能的リンクと呼んでいる第3のリンク形態であり、これをリンクと捉えるかについても議論の余地があります。リンクと捉えるのであれば、インラインリンクに近いものであり、一般的にインラインリンクはリンクと捉えられています。前掲「コインハイブ事件で否定された不正指令電磁的記録該当性とその論点」においても、YOUTUBEを例にインラインリンクとの同質性が指摘されています。加えて、②プログラムについては、「指令」該当性が論点になり得ることの示唆と共に、「リンク相当の記述」との指摘があります。

そこで、警鐘を鳴らす意味も込めて、②について、リンク相当のHTMLコードと呼びたいと思います。

つまり、コインハイブの発掘において、一般的なウェブサイトに組み込まれるのは、1行のHTMLで記述された②リンク相当のHTMLコードと、数行で記述された③補足的なJAVASCRIPTということになります。そして、③はあくまでサイト固有の情報を代入する補助的なもので、それ自体でマイニングを行えるような代物ではないということになります。マイニングを行う本体は、①数百行のコインハイブプログラム本体となります。

これに対して、②HTMLで記述された上記リンク相当コードが、コインハイブ発掘プログラムの①コインハイブプログラム本体にリンクしていることが確認できます。

このリンクにより呼び出されるJAVASCRIPTで記述された①コインハイブ発掘プログラムの本体は数百行に及び、既に述べたとおり、こちらがマイニングプログラムの本体として発掘を実行します。

ところが、コインハイブ事件では、たった1行の②HTMLで記述されたリンク相当情報を中心として、保管の客体である「不正指令電磁的記録」と認定しているように読めます。

一審公訴事実(控訴審「罪となるべき事実」)掲示の事実

以下は、一審で公訴事実とされ、控訴審で罪となるべき事実とされた内容を元にかみ砕いて記載したものです。なお、固有名詞を削除している他、カッコ書きで、多数補足を加えるなど掲示の事実そのまま(※)ではありません。

※参考)摘示事実(ただし、固有名詞は削除し括弧書きで一部補足しているもの)

被告人は,インターネット上のウェブサイトを運営する者であるが,サイト閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置にその同意を得ることなく仮想通貨の取引履歴の承認作業等の演算を行わせてその演算機能を提供したことによる報酬を取得しようと考え,正当な理由がないのに,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,平成29年10月30日から同年11月8日までの間,サイト閲覧者が使用する「電子計算機の中央処理装置に前記演算を行わせるプログラムコード」(①本体プログラム)が蔵置されたサーバーコンピューター(①本体プログラム蔵置のサーバー)に「同閲覧者の同意を得ることなく同電子計算機をアクセスさせ同プログラムコード(①本体プログラム)を取得させて」(②リンクコードの作用)「同電子計算機に前記演算を行わせる不正指令電磁的記録であるプログラムコード」(②リンクコード、(及び③も?))をG株式会社が運営管理する日本国内に所在するサーバーコンピューター(②及び③コードを含んだサイト蔵置のサーバー(上記①本体プログラム蔵置のサーバーとは異なるもの))上のサイトを構成するファイル内に蔵置して保管し,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を保管したものである。

まず、「被告人は,インターネット上のウェブサイトを運営する者」という事実が適示されています。

次に、主観面として「サイト閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置にその同意を得ることなく仮想通貨の取引履歴の承認作業等の演算を行わせてその演算機能を提供したことによる報酬を取得しようと考え」と指摘されています。なお、「サイト閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置」とはクライアントコンピューター(サイト受信装置)のCPUを指します。例えばサイトを閲覧しているスマートフォンやデスクトップPCのCPUです。

次に、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が認定されています。ここは、争点となった部分のひとつです。

そして、「平成29年10月30日から同年11月8日までの間,「サイト閲覧者が使用する電子計算機(クライアントコンピューター(サイト受信装置))の中央処理装置(CPU)」に「前記演算を行わせるプログラムコード」(①コインハイブ本体)が蔵置されたサーバーコンピューター(①コインハイブのサーバー)に同閲覧者の同意を得ることなく「同電子計算機」(クライアントコンピューター(サイト受信装置))をアクセスさせ同プログラムコード(①コインハイブ本体プログラム)を取得させて」とされています。つまり、コインハイブプログラムが保存されたサーバーにクライアントコンピューター(サイト受信装置)をアクセスさせ、ユーザーの意思に反して取得させていると指摘しています。これが、②リンク相当情報の作用を指していることは明らかです。

さらに、「同電子計算機(クライアントコンピューター(サイト受信装置))に前記演算を行わせる不正指令電磁的記録であるプログラムコード」(②リンク相当のHTML、(及び③も?))をG株式会社が運営管理する日本国内に所在するサーバーコンピューター(②及び③コードを含んだサイトが保存されたレンタルサーバー)上のサイトを構成するファイル内に蔵置して保管し」たとされています。

つまり、明白に保管の客体は、「サーバーコンピューター(①コインハイブのサーバー)に同閲覧者の同意を得ることなく「同電子計算機」(クライアントコンピューター(サイト受信装置))をアクセスさせ同プログラムコード(①コインハイブ本体プログラム)を取得させて同電子計算機(クライアントコンピューター(サイト受信装置))に前記演算を行わせる不正指令電磁的記録であるプログラムコード」とされています。つまり、コインハイブ事件で保管の客体とされた情報は、①本体プログラムではなく、これをクライアントコンピューター(サイト受信装置)に取得させる②リンク相当HTMLコードであることは疑いがないと言えそうです。おそらくここに③も加えられていると思われますが、③はそれ自体ではマイニングする能力を持たないため、②リンク相当のHTMLコードによって呼び出された①本体プログラムがないと何の機能も発揮しないことになります。

このように、コインハイブ事件で犯罪を構成する事実とされているのは、「電子計算機の中央処理装置に前記演算を行わせるプログラムコード」=①コインハイブ本体のプログラムではないことがわかります。そうではなく、「同閲覧者の同意を得ることなく同電子計算機をアクセスさせ同プログラムコード(①本体プログラム)を取得させ」る機能をもった=②リンク相当のHTMLコードであるということになります。

また、そもそも被告人は①本体プログラムの保存も取得も一切行っておらず、保管と評価できる行為をしたとすれば、②リンク相当のHTMLコード(及び③)に過ぎないことは自明です。このことからも、リンク相当情報が不正指令電磁的記録とされていることは明らかと考えられます。

リンク相当HTMLコードが不正指令電磁的記録とされたことへの懸念

このように、コインハイブ事件の判決では一審、二審とも、なんの躊躇も検討もなく②リンク相当のHTMLコードを①コインハイブプログラム本体と同一視しているようです。この点は、無罪とされた一審においては些末或いは検討をしなくとも良い論点と捉え得たと思われます。しかし、控訴審の有罪という結論を踏まえると、この判断にも大きな疑念が生じるところです。少なくとも有罪とするのであれば、この点は構成要件該当性を否定する事情になりかねないことから、検討が必須の部分だったのではないでしょうか。

つまり、あくまでコインハイブ事件で不正指令電磁的記録と認定された中心は、数百行の①コインハイブプログラム本体ではなく、「閲覧者の同意を得ることなく同電子計算機をアクセスさせ同プログラムコード(①本体プログラム)を取得させ」る②リンク相当のHTMLコード(及び③)ということになります。

そうであれば、コインハイブ事件で問題にされるべきは、①コインハイブプログラム本体の反意図性、不正性ではなく、②本体プログラムへリンクするリンク相当のHTMLコードの反意図性、不正性であるべきです。

加えて、「同閲覧者の同意を得ることなく同電子計算機をアクセスさせ同プログラムコードを取得させ」る②リンク相当情報が不正指令電磁的記録に当たり得るとすれば、「取得させる」「プログラムコード」は、プログラムコードでなくても構わないということになってしまいます。

なぜなら、リンク相当のHTMLコードがプログラムとして不正指令電磁的記録とされているため、そのアクセス先ファイルは単なる画像データであっても構わない、もっと言えば、児童ポルノや違法アップロード画像などの違法な画像=「不正」な画像や、文章に対する「リンク」も、規範的にみてクライアントコンピューターユーザーの意図に反する「リンク」であれば不正指令電磁的記録に該当する可能性があるということになってしまいます。

単なるリンク情報をウィルスを念頭にした不正指令電磁的記録に該当するという判断は、いくらなんでもウィルスの範囲を広げすぎであり、もはやかかるべき歯止めが効いていないといってもいい状況かもしれません。

このように、コインハイブ事件において、ウィルス本体ではなく、単なるHTMLで記述されたリンク相当のコードが不正指令電磁的記録に該当すると判断されている点、特にその判断過程が何ら示されていない点は大きな問題ではないでしょうか。

コインハイブを不正指令電磁的記録とするのであれば客体の齟齬は必須の論点となること

無罪を前提とすれば、そもそもコインハイブプログラムが不正指令電磁的記録に該当しないのですから、コインハイブに対するリンク相当のHTMLコードが不正指令電磁的記録に該当するかは検討不要の論点と言えるかもしれません。

しかし、有罪という判断を下す場合には、コインハイブプログラムへリンクするリンク相当のHTMLコードを不正指令電磁的記録と判断できるかは、検討が必須の大きな問題点となります。なぜなら、コインハイブが不正指令電磁的記録と評価できたとしても、コインハイブ事件で問題となっているのは上記のとおりリンク相当のHTMLコードであり、これを不正指令電磁的記録と評価できるかは全く別の問題だからです。

無罪であれば、コインハイブプログラムが不正指令電磁的記録に当たらないため、そもそも無罪、という論法も、リンク相当HTMLは不正指令電磁的記録に当たらないため無罪という論法も成り立ちます。しかし、有罪の場合は逆に、コインハイブプログラムがそもそも不正指令電磁的記録に当たる上に、コインハイブ本体へのリンク相当のHTMLも不正指令電磁的記録に当たらなければ有罪とできないことになります。

また、そもそも、リンクをウィルスを前提とした犯罪で処罰するのは国民の生活へ与える影響が大きすぎることから慎重な検討が必要であることは論を待ちません。

その意味で、無罪だった一審を前提に防御している弁護側にこの点の主張をさせないまま有罪の場合必須の検討事項となるリンクの不正指令電磁的記録該当性という検討事項を落としたまま有罪と判断した高裁判決はその意味でも非常に問題が大きいと考えられます。なぜなら、既に述べたとおりそもそもコインハイブが不正指令電磁的記録に当たらないとする一審判決と、これを肯定する控訴審判決では、論点の持つ意味が全く異なるからです(私見)。その意味で、高裁判決は不意打ちとも言える判断であり、本来徹底的に検討されるべき点を吟味しないまま下された判断との誹りを免れ得ないものと思料されます。

コインハイブプログラムが不正指令電磁的記録に当たるという判断なのであれば、コインハイブプログラムへのリンク相当のHTMLコードがさらに不正指令電磁的記録に当たるかという点は、慎重に検討されるべきであり、また、結論としては否定されるべきと思料されます。

たしかにこの態様のリンクは本体と実質的には同等の働きをするという評価もあり得るところ、少なくとも、その点について判断過程は示す必要があったと考えています。

検察官の控訴趣意書の記載から読み解ける客体の齟齬が看過された原因について

上記の点(②リンク情報の不正指令電磁的記録該当性)が争点化しなかったのは事案との関係に原因を求められるのではないかと考えていました。

なぜなら、②リンク情報が不正指令電磁的記録に当たらないという争点を設定して保管罪の成立を否定した場合、裁判の中心は①本体プログラムの実行供用罪に推移することも考えられるからです。

加えて、その際に①本体プログラムの反意図性、不正性が争われることになるため、どのみち、コインハイブ事件で審理されているコインハイブ本体の不正指令電磁的記録該当性が本質的な争点ということになります。そうであれば、下手に②リンク情報の不正指令電磁的記録該当性を争点にすると、より刑罰の重たい不正指令電磁的記録供用罪を舞台に、同じ争点を戦うことになります。これは、防御側にとっては酷な展開であり、②リンク情報の不正指令電磁的記録該当性は争点化しても得がないということになります。

そのようなやまれぬ事情もあり、②リンク情報を、実質的に①本体プログラムと同視して審理が進み、判断が下され、個人的には重要と思われるリンク情報の不正指令電磁的記録該当性の問題が裁判所によってもスルーされたと理解していました。

しかし、実際はもっと単純な状況であり、また、ある意味で事態はもっと深刻といえるかもしれません。

コインハイブ事件控訴審に提出された検察官の控訴趣意書も公開されています。

ここから抜粋した、21頁の記述には違和感が感じられます。

コインハイブ事件控訴審検察官控訴趣意書第21頁上から5行目以下の括弧書を引用

この括弧書きは、その前段階で述べられている抽象論、一般論を受けてのものです。その前段階の部分で検察官は、不正指令電磁的記録の取得、保管が牽連犯として一罪になること、さらに取得に伴う保管と供用に伴う保管が継続犯として一罪になることを説いています。

そのうえで、一般論として、スロットル値の設定が犯罪の成否に影響する場合、本来継続犯となるべき供用に伴う保管だけ犯罪が成立しないことになると述べています。

以上の論理の流れを踏まえて、本件コインハイブ事件についても具体論を述べています。それが、上記の引用部分です。検察官は、「コインハイブのマイニング専用スクリプトの取得段階、その後の保管段階と、スロットル値を設定して本件サーバーコンピューター上に保管した段階で、犯罪の成否が変わることになりかねない」と原審を論難しています。

ここで、マイニング専用スクリプトの意味が問題になりますが、検察官は控訴趣意書の中でリンク相当の情報を本件プログラムと呼んでいます。すると、語彙から考えても検察官の言うマイニング専用スクリプトとは、コインハイブ本体プログラムを指している可能性がありそうです。あるいは、本件プログラムがコインハイブ本体の一部という考え方から、コインハイブ本体に本件プログラムを含めた総体を指しているか、どちらかの可能性が高いように思われます。

実際にも検察官の言う本件プログラム(リンク相当の情報)は数行のプログラムであり、コインハイブ配信のウェブサイトから設定時にダイレクトにコピーペーストで保存され、最初の保存が取得行為であり、かつ供用のための保存という例が一般的だと考えられます。つまり、検察官がいう取得時の保存行為というのは、本件プログラムには通常介在しないように思われます。すると、取得時の保存行為を指摘しているのはコインハイブ本体プログラムを念頭に置いた指摘としか捉えにくいところです。

つまり、検察官はコインハイブ本体を取得して保存した行為と、リンク相当情報を同じくレンタルサーバーに保存した行為は本来継続犯になるべき行為で、その行為において一方が犯罪になり片方が犯罪にならず結論が異なるのはおかしいと述べているように思えます。

しかし、そもそも、コインハイブ事件において、コインハイブ設置者は、マイニング専用スクリプト(コインハイブ本体)の取得も、その後の取得に伴う保管もしません。上記のとおり、マイニング専用スクリプトは海外サーバーに保存され、アップロード者は南米のプログラマーではないかと言われています。また、保管も同様にマイニング専用プログラムについては一切行われません。

コインハイブ設置者はコインハイブ本体については、リンク相当情報(のおそらく多くの場合はコピーペーストをしたHTMLのアップロード)で呼び出すだけなのです。

コインハイブ本体プログラムはあくまで国外のプログラマーが国外サーバーに保存しており、一般的にコインハイブ設置者はこれを取得や保存する必要はありません。

コインハイブ設定者は、単にコインハイブ本体を呼び出すためのリンク相当の情報(本件プログラム)をマイニング専用プログラムが保存されている海外のサーバーとは全く別個の国内のウェブサイトが保存されているサーバーに保存するだけです。

そうすると、コインハイブ事件控訴審で検察官は、被告人の方がマイニング専用スクリプト(コインハイブ本体)を取得したうえでおそらく同一の国内サーバーに保存していると勘違いしていた可能性があります。つまり、コインハイブ本体プログラムも取得して(国内の同一の?)サーバーに保存したうえで、リンク相当の情報をさらにウェブサイト(HTMLファイル)に記述して国内サーバーに保存したと誤認している可能性があります。

あるいは、コインハイブ本体とリンク相当情報の区別がついていない(あるいは意図的につけていない)のではないでしょうか。少なくとも、上記引用部分の記載からは、そう指摘されてもやむを得ないものと考えられます。

実際にも公開されている控訴答弁書19頁でこの点は弁護側から「検察官は訴因変更前のように、マイニングを実施するスクリプト本体を「本件プログラムコード」ととらえているかのようである。仮にそうだとすると、被告人は当該スクリプトを「保管」していないから、端的に無罪である」との指摘がなされています。この指摘はまさにその通りであって、コインハイブ本体プログラムは、実際に国外のプログラマーによって国外サーバーに保管されたのであってコインハイブ設置者はその取得や保管を一切行なっていません。

そうすると、検察側はそもそもコインハイブ設置者がコインハイブ本体を取得のうえでサーバーに保存しさらにこれを呼び出して供用していると誤認するか思い込みしていた可能性があり、当該検察官の考えに従った控訴趣意書を踏襲したと考えられる高裁判断も、検察官の誤認に気付かずに結論を出した可能性が高いことになります。

コインハイブ設置者が本体プログラムも保存していると誤認しているとしたら、なんの留保もなくコインハイブ本体プログラムとリンク相当情報を同視していることも肯けます。

このように、検察官の誤解と、この誤解に気付かなかった可能性のある高裁の判断で、②リンク情報を不正指令電磁的記録となんの検討もなく評価する判断がくだされた可能性があります。

しかし、その結論が我々社会一般に与える影響が大き過ぎるにもかかわらずこの論点が何らの検討を経ていない原因がこの辺りに見出せるとすれば残念なことです。

加えて、控訴審まで争点化していないこの争点は、上告審でも争点化しない可能性もあることになります。

この点は、しかしながら、先に述べたとおり、防御側からは指摘するのが得策ではない可能性もあります。やはり、裁判所において②リンク情報を中心とした不正電磁的記録と、①プログラム本体は別の情報として切り分けて、リンク情報を不正電磁的記録とできるのかという強い問題意識のもと、検察官に釈明を求めるなどの対応が必要だったのではないでしょうか。

ところが、裁判所においては、あの控訴趣意書になんらの言及をしていないという点で、この点を看過、あるいは問題点に気付いてさえいない可能性があるのです。

この点は、事件との関係では今後も争点化しない可能性もありますが、指摘するとともに個人的に感じた懸念、或いは疑問点を改めて示しておきたいと思いました。

マイニング専用プログラムが本件プログラムを指している可能性の検討

コインハイブ事件控訴審検察官控訴趣意書第21頁上から5行目以下の括弧書を引用

もう一つの可能性としては、ここで検察官がいうマイニング専用プログラムが数行からなる本件プログラム(リンク相当情報を含んだコード)を指しているケースです。なぜ、ここだけ本件プログラムの呼び方を変えたか不明ですが、マイニング専用プログラムが本件プログラムを指しているとすれば、リンク相当情報を含んだ数行のプログラムを取得した段階、取得に伴って保管した段階、さらに供用のためにサーバーにアップロードして保存した場面を想定していることになります。

しかし、数行のコードはその場でコピーペーストしてサーバーにアップするのが一般的と考えられ、その場合メモリに一時的に保存されるだけであれば保管といえるかという問題もあります。さらに、やはり、どうしてここだけ本件プログラムを唐突にマイニング専用プログラムと呼んでいるのかがよくわからないことになります。

やはり、検察官が指摘するマイニング専用プログラムは、それまで本件プログラムと呼んでいたものを単体を指しているとは思えず、おそらく、本件プログラムにコインハイブ本体を加えた全体を指しているように解されます。そうすると、検察官はやはり、コインハイブ本体をコインハイブ設置者が取得保管のうえで、サーバーにアップロードすると誤信していた(あるいは思い込んでいた)可能性があり、そうした行為の一環として本件プログラムの保存行為を捉えている可能性があります。

高裁の判断もそのような理解を前提にすると有罪判決であるにもかかわらず、リンク相当の情報になんの検討もなく不正指令電磁的記録該当性を認めた点に合点がいきます。

このように、検察官の控訴趣意書及び、そのなかでの混乱を看過してなされたとも思えるコインハイブ事件高裁判断は、保管の客体について誤認ないし混同が介在している可能性が否定できないように思われます。

最高裁判所でこの問題点も含めた適正な判断が下されることを願いたいとおもいます。