I2練馬斉藤法律事務所

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著作権法2条1項1号は,同法により保護される著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定し,同条2項は,「この法律にいう美術の著作物には,美術工芸品を含むものとする。」と規定しています。

これらの規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋美術の領域に属するものや美術工芸品などの表現物であり,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されているものは,著作権法が保護対象にしていないという前提に立脚していると解されます。

すなわち,種々の表現物の保護について政策的な棲み分けが行われており,実用品や産業品は,純粋美術やこれに同視し得る美術工芸品とは異なり,著作権法上の保護ではなく,意匠法等の工業所有権等の保護領域とされていることから,著作権法の保護を受けるべき著作物について,「美術…の範囲に属するもの」と限定を付しているものと解されています。

純粋美術、応用美術、美術工芸品

実務においては,純粋美術、応用美術、美術工芸品などに分類して議論を把握するのが一般的です。

すなわち,純粋美術品であれば,「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」といえます。

そして,応用美術であれば,原則的に「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属」さないことになり,著作物性が否定されることになります。

しかし,明文で応用美術のうち美術工芸品が例外的に著作物に該当することが規定(著作権法2条2項)されています。

また,美術工芸品に該当しない応用美術品の中でも,例外的に著作物性が肯定される場合があります。たとえば,判例は,応用美術品「が純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になる」と述べるものなどがあります。

純粋美術とは

純粋美術とは,芸術的価値を専らにする活動や作品を指す「fine art」に近い概念ですが,日本の著作権法上定まった定義があるわけではありません。

判例には,「個々に製作された絵画など、専らそれ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しない」ものなどと説明するものもあります。

応用美術とは

応用美術についても、定まった定義があるわけではありません。
著作権制度審議会答申説明書では,おおむね次のものをいうと述べられています。
① 美術工芸品、装身具等実用品自体であるもの。
② 家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの。
③ 文鎮のひな形等量産される実用品のひな形として用いられることを目的としているもの
④ 染織図案等実用品の模様として利用されることを目的とするもの

応用美術の著作物性について述べた判例は,数点ありますが,以下,3点抜粋します。

ファービー人形事件第一審 平成13年 9月26日山形地裁判決(平成11年(わ)184号)

ファービー人形は平成11年9月3日意匠登録されており、平成11年7月23日ころの譲渡である本件には意匠権侵害は問えませんでした。

また、不正競争防止法2条1項3号の商品形態模倣については、平成17年改正によって新たに罰則規定が置かれるまで刑事罰の対象として問責することはできませんでした※。

そこで、著作権侵害の成否が問われたのが本件です。

※一審山形地裁は、不正競争防止法の商品形態模倣について、『模倣商品の譲渡行為自体は、別途平成五年に改正された不正競争防止法によって規制されている上(同法二条一項三号)、同改正時において、模倣商品の譲渡行為に対する罰則規定の制定が見送られていることに照らせば、本件のような場合において、直ちに著作物の範囲を広く捉えて刑罰を科すことが社会的要請であるとは必ずしもいい得ない。』と述べています。

ファービー人形

ファービー人形は、上記のとおり平成11年9月3日において、意匠登録(意匠登録1056700 意匠出願平11-008405)されており、意匠広報にもファービー人形のイラストが掲載されています。

一審判示抜粋


一般に、美術は、個々に製作された絵画など、専らそれ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しない純粋美術と、実用品に美術の感覚技法を応用した応用美術に分けられる。そして、純粋美術が思想、感情の創作的表現として美術の著作物に該当すること、また、応用美術のうち、美術工芸品、すなわち美術の感覚や技法を手工的な一品製作に応用したものが美術の著作物に該当することは明らかであるが、応用美術のうち、本件「ファービー」のような工業的に大量生産された実用品に美術の感覚や技法を応用したものが美術の著作物に該当するかどうかは条文上必ずしも明らかではない。
しかしながら、①本件「ファービー」のように、工業的に大量生産された実用品のデザイン形態は、本来意匠法による保護の対象となるべきものであること、②現行著作権法の制定過程において、意匠法との交錯範囲について検討されたが、その際、同法により保護される応用美術について、広く美術の著作物として著作権法上も保護するという見解は採用されなかったこと、③応用美術全般について著作権法による保護が及ぶとすると、両者の保護の程度の差異(意匠法による保護は、著作権法の場合と異なり設定登録を要する上、保護される期間も一五年間であり、著作権法の五〇年間と比較して短い。)からして、意匠制度の存在意義を著しく減殺することになりかねないことなどを考慮すると、工業的に大量生産された実用品のデザイン形態については原則として著作権法の保護は及ばないと解するのが相当である。もっとも、このような実用品のデザイン形態であっても、客観的に見て、実用面及び機能面を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものについては、純粋美術としての性質を併有しているといえるから、美術の著作物として著作権法の保護が及ぶと解される
これを本件「ファービー」についてみると、「ファービー」は、上記のとおり、内蔵されたセンサーにより外部からの刺激を感得し、これに対して耳や瞼等を動かしたり音声を発したりする上、その音声も使用を継続するとともに「ファービー語」と称する幼児語を想定した擬似言語から次第に日本語ないし英語の熟語に変化するという機能により、使用者にあたかも成長するペットを飼っているかのような感情を抱かせることに本質を有する玩具であって、その容貌姿態が愛玩性を高める一要素となっていることは否定できないが、全身を覆う毛の縫いぐるみから動物とは明らかに質感の異なるプラスチック製の目や嘴等が露出しているなど、これが玩具としての実用性及び機能性を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは認め難いのであって、本件「ファービー」のデザイン形態が我が国著作権法の保護の対象たる美術の著作物ということはできない。

応用美術についての判示部分抜粋

上記抜粋のファービー人形事件第一審山形地裁は,応用美術の著作物性について下記のとおり述べています。

工業的に大量生産された実用品のデザイン形態については原則として著作権法の保護は及ばないと解するのが相当である。もっとも、このような実用品のデザイン形態であっても、客観的に見て、実用面及び機能面を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものについては、純粋美術としての性質を併有しているといえるから、美術の著作物として著作権法の保護が及ぶと解される。』(ファービー人形無罪事件)

ファービー人形事件控訴審 平成14年 7月 9日仙台高裁判決(平成13年(う)177号)

ファービー人形無罪事件仙台高裁判断部分

ファービーの外観について

ファービー」の形態や機能等については、原判決が判示しているとおりであり、電子回路やモーター等の内蔵されたプラスチック製の本体と、本体にかぶさる毛のぬいぐるみから成り、体長が約13センチメートルで、頭部分が大きい二頭身ほどのずんぐりした架空の動物を表した体型をしている。
 顔面部分は本体と一体となっており、球形の大きな両眼と同じく球形の口がある。顔面部分及び底部を除いて、毛のぬいぐるみが覆っており、三角形の大きな耳と頭上部分にたてがみ様の毛があり、3本指の足がついているが、手に当たるものはない。ぬいぐるみの色、模様にはバリエーションがあって、数多くの種類があり、目の色も数種類ある。
 「ファービー」の本体内部に7個の各種センサーが内蔵されており、これらセンサーが、接触、光、音、振動、傾斜等の外部からの刺激をセンサーで感応し、CPU制御によって耳、目、口、足が動くとともに、内設のロムチップに記憶された単語を適切に選択し、その動作に合った言葉等の音声を内蔵スピーカーから発し、刺激を継続することで記憶チップが作動し、あらかじめ記憶された単語の範囲内で次第に語彙を増やし、その組み合わせを変化させ、疑似言語から英語等による言葉を発するようになり、あたかも飼っているペットが成長するような、楽しみやかわいさ等を抱かせることになり、育成型の電子ペット玩具といわれるゆえんである。

外観が審美性を有するかについて

ファービー」のデザイン形態は、当初から工業的に大量生産される電子玩具のデザインとして創作されたものであるが、「ファービー」の最大の特徴は、あたかもペットを飼育しているかのような感情を抱かせることを目的に、各種の刺激に反応して各種の動作をするとともに言葉を発することにあり、そのため、そうした特徴を有効に発揮させるための形状、外観が見られるのである。顔面の額に光センサーと赤外線センサーのための扇形の窓が設置され、額から眼球周辺及び口周辺にかけては一体成型のための平板な作りとなっており、目、口は球状のものが三角形上に3つ配置され、眼球及び口が動くため、その周囲が丸くくりぬかれて隙間があり、左右の眼球を連結する軸を隠すように、両目の間に半円形に隆起した部分があり、美感上重要な顔面部分に玩具としての実用性及び機能性保持のための形状、外観が見られ、また、刺激に反応して目、口、耳が動くことを感得させるため、それらが大きくされていることが認められる。このように、ファービー」に見られる形態には、電子玩具としての実用性及び機能性保持のための要請が濃く表れているのであって、これは美感をそぐものであり、「ファービー」の形態は、全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず、純粋美術と同視できるものではない

平成20年7月4日東京地裁判決―トイプードル事件


また,トイプードル事件判例は,応用美術の著作別性について下記のとおり述べています。

『実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されているものは,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。』(トイプードル事件)

平成17年7月28日大阪高裁判決―チョコエッグ・フィギュア事件

さらにチョコエッグ・フィギュア事件判例は,応用美術の著作別性について下記のとおり述べています。

『応用美術であっても、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているため、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は、「美術の著作物」として、著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である」』(チョコエッグ・フィギュア事件)

裁判例上の応用美術に関する伝統的な理解

以上、要するに,日本の判例は,応用美術の著作物性について,純粋美術と同視し得る美的創作性を具備していることを要件として,著作物性を肯定しているということが言えます。

応用美術の著作物性

著作権法2条1項1号は,同法により保護される著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定し,同条2項は,「この法律にいう美術の著作物には,美術工芸品を含むものとする。」と規定しています。 これらの規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から...

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