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訟廷刑事弁護の実務で無罪を争う場合は実際には多いとは言えず、訟廷刑事弁護実務の多くが実際には情状弁護に重点が置かれた刑事弁護活動となります。なお、情状弁護とは、犯罪を犯してしまったことについては裁判で争わず、犯罪を前提にできるだけ刑を軽くしてもらったり、執行猶予を付すように有利な情状などを挙げ働きかけていく弁護活動をイメージしてください。

このような情状弁護の刑事弁護活動において、多くの事案で被告人の方がもっとも関心を寄せる事柄の一つが、自身に言い渡される刑に、執行猶予が付されるか、付されないかの点です。特に、現に執行猶予中の方や、執行猶予期間が終わって間もない方は、今回も自分に執行猶予がつくか、今後の更生を考えるにあたっても重要な要素となってきます。

しかし、執行猶予は、刑法25条1項本文に「執行を猶予することができる。 」とあるように裁判官に執行の猶予を行う権限を認めるものにすぎません。そのうえで、裁判官が裁量によって執行を猶予することができる場合が厳密に法定されています。すなわち、法律の要件を満たせば執行猶予を付すことができるが、実際に執行を猶予するか否かは、裁判官の裁量事項に該当するというのが、法の建前なのです。

なお、刑法を改正する法律が平成28年6月1日施行され、執行猶予は、全部執行猶予と一部執行猶予に分かれました。下記は、(全部)執行猶予について定めた刑法第25条(改正前後)です。

 改正前刑法第25条(執行猶予)第1項

次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。

1. 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2. 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

第2項

前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

 改正後刑法第25条(全部執行猶予)第1項

次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。

1. 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2. 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

第2項

前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

 上記条文から全部執行猶予を受けることができる場合は、下記の3パターンということになります。これに全部執行猶予を受けることができない場合を付せば4パターンが考えられます。

 パターン1 ①今回の刑事裁判の判決言渡しまでに禁固以上の判決が確定したことがなく、②今回の刑事裁判で「三年以下の懲役若しくは禁錮」又は「五十万円以下の罰金」刑を言い渡された場合。

 なお、執行猶予期間が経過した場合、刑の言い渡しは効力を失う(刑法27条)います。したがって、判決言渡しまでに執行猶予期間が経過した場合は、パターン1にあたると解されます。したがって、前刑から5年以上経っていなくとも、今回の刑事裁判で「三年以下の懲役若しくは禁錮」又は「五十万円以下の罰金」刑を言い渡された場合で、前刑の執行猶予期間が経過していた場合には全部執行猶予が付される可能性があります。

 パターン2 ①今回の刑事裁判の判決言渡しまでに禁固以上の刑を言い渡す判決が確定したことがあり、②確定した禁固以上の刑の執行を終わってから、或いはその執行を免除されてから五年以上禁固以上の刑を言渡す判決が確定しておらず、③今回の刑事裁判で「三年以下の懲役若しくは禁錮」又は「五十万円以下の罰金」刑を言い渡された場合。

 パターン3 ①今回の刑事裁判における判決言渡時点で、現に全部執行猶予中(「その刑の全部の執行を猶予された者」)で、②今回の刑事裁判における判決言渡時点で保護観察はなく、③今回の刑事裁判で「一年以下の懲役若しくは禁錮」刑を言い渡された場合。ただし「情状に特に酌量すべきものがある」場合と執行猶予を付すべき情状は通常よりもハードルが高い。

 パターン4 法律上全部執行猶予できない場合。この場合は、次に一部執行猶予の付与が可能かが法律上問題となります。もし一部執行猶予が可能であれば次に、一部執行猶予獲得を目指した刑事弁護活動を実施していくことになります。


再度の全部執行猶予について

 以上のようにみれば、「今回の刑事裁判における判決言渡しの時点で執行猶予期間が満了」していれば、「パターン1」に分類されます。したがって、執行猶予期間中に犯罪を犯しても、今回の刑事裁判までに執行猶予を取り消されることなくその猶予期間が経過すれば法律上は再度執行猶予を付すことに問題はないことになります(もっとも、法律上全部執行猶予をふせたとしても、そのような事例で実際に全部執行猶予をつける場合というのはかなり限られた事例になると思われます。)。

 また、今回の刑事裁判の判決言渡し時点で執行猶予期間が満了していなければ、「パターン3」か、「パターン4」に振り分けられます。

 その場合、今回の刑事裁判の判決言渡し時点で「保護観察がついておらず」、今回の刑事裁判で「一年以下の懲役若しくは禁錮」刑を言い渡された場合、そのときに猶予期間が満了していない執行猶予が全部執行猶予であれば、再度全部執行猶予がつく可能性があります。

 反面、保護観察がついているか、一年以上の懲役若しくは禁固刑を言い渡された場合、執行猶予期間が満了していない執行猶予が一部執行猶予に過ぎない場合、刑の全部執行猶予は、付かないことになります。その場合さらに一部執行猶予の可能性があるのか、検討していくことになります。

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