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被疑者の逮捕・勾留

・逮捕及び勾留
①通常逮捕の要件:捜査官は、令状による司法審査を経ない限り、逮捕を行えない(刑訴法199条1項)。司法審査は、裁判官が、逮捕の理由を満たしているかを判定することで、行う(199条2項)。裁判官は、明らかに逮捕の必要性がない場合は、請求を却下しなければならない(規則143条の3)。
注1)したがって、任意の出頭要求に応じない被疑者についても、逮捕の必要性が認められない場合はありうる。しかし、出頭に応じないことをもって、逃亡ないし罪障隠滅のおそれが肯定されることはありうる。

②現行犯逮捕の要件:「現に罪を行い、又は…行い終わった者」を現行犯として(212条1項)、何人でも令状無くして逮捕できる(213条)。現行犯逮捕の趣旨は、犯罪の嫌疑が明白あり、かつ、犯罪を鎮圧し、犯人を確保する必要性が高いからである。
注1)「罪を行い終わった」とは実行行為を終了した直後の者も含まれる。また、逮捕行為に着手して、追跡が継続していれば、身柄の確保に時間がかかったとしても現行犯逮捕できる。
注2)199条2項ただし書のように、現行犯逮捕に必要性の例外は明示されていないが、明らかに必要性を欠く場合、現行犯逮捕は許されない(大阪高判昭和60年12月18日)。
注3)現行犯逮捕の趣旨は犯行の明白性にある。したがって、実行行為終了直後の者であっても、逮捕者が犯行を現認しない場合、犯行の明白性を欠くとして逮捕が違法とされる場合がある(京都地判昭和44年11月5日)。

③準現行犯逮捕の要件:ⅰ.212条2項「各号の一にあたる者が」ⅱ.「罪を行い終わって」、ⅲ「罪を行い終わって間がない」と、ⅳ「明らかに認められるとき」には、現行犯とみなされ(212条2項)、何人も逮捕状なく逮捕できる(213条)。現行犯逮捕に準じた嫌疑の明白性が認められ、かつ、犯人を確保する必要性が高いからである。
注1)「罪を行い終わって間がない」か否かは、犯罪と逮捕との時間的、場所的接着性により判断される。判例(最判平成8年1月29日)は、犯行から1時間40分後に、4キロ離れた地点での準現行犯逮捕を適法としている。

④緊急逮捕の要件:ⅰ「長期三年以上の懲役…禁固に当たる罪」をⅱ「疑うに足りる充分な理由がある場合」でⅲ「急速を要し…逮捕状を求めることができないとき」には、逮捕状の請求に先立って、被疑者を逮捕できる(210条1項)。緊急の必要性が認められる場合に、例外的に事後的チェックを許容する趣旨である。
注1)かつては、違憲説もあったが、緊急の必要性が認められる場合に、重大な犯罪に限って、厳格な制約のもと、事後的な司法チェックを条件として、緊急逮捕を認めることも憲法33条に反しないとされた(最判昭和30年12月24日)。

⑤被疑者勾留の要件:ⅰ「前3条の規定による…請求」に基づき(逮捕前置主義)、ⅱ「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」及びⅲ60条1項「各号の一にあたるとき」という実体要件を満たし、かつ、ⅳ例外的に勾留の必要性が認められない場合でない限り、被疑者の勾留が認められる。
注1)請求は、適法な逮捕に基づく、時間制限内の請求でなければならない。
注2)勾留の裁判自体に瑕疵がある場合準抗告(429条2号)による。勾留理由ないし勾留の必要性が事後的に消滅した場合は、勾留取消(87条、91条)による。また、勾留の裁判の効力は維持したまま、執行を停止する場合がある。
注3)勾留場所を捜査機関の内部である代用監獄(警察署内の留置場)とすることは、問題がある。しかし、勾留場所の指定は裁判所の裁量とされ実務が運用されている。

・逮捕勾留の問題点

①事件単位の原則:逮捕、勾留の効力は、被疑者に対して及ぶのか、被疑事件に対して及ぶに過ぎないのか、争いがある。しかし、逮捕、勾留の令状審査は被疑事実を通して行われるから、被疑事実に限ってのみ及ぶと解すべきである。そして、事件の同一性は、被疑事実が一罪の関係にある場合(単一性)ないし、基本的社会事実において共通する場合(狭義の同一性)において肯定すべきである。なぜなら、その範囲内において、審査資料の共通性も肯定できるからである。

②逮捕前置主義:刑訴法207条1項は「前3条」と定め、勾留に逮捕が前置されることを求める(逮捕前置主義)。この趣旨は、身体拘束という重大な法益侵害に対して、二重の司法審査を求める点にある。もっとも、逮捕の効力は被疑事件を対象として及んでいると解される。したがって、異なる罪名で逮捕し、勾留を請求したとしても、両者間に事件の同一性が認められ、審査資料を共通にする場合には、二重のチェックを経ているといえ逮捕前置主義に違背しない。
注1)A事実で逮捕され、異なるB事実が判明した場合、B事実で勾留請求することは、できない。しかし、A事実の勾留請求とともに、B事実の勾留請求をすることは、認められる。なぜなら、A事実の勾留請求を伴う以上身体拘束という法益侵害は避けられず、そうである以上、同時に身体拘束されたほうが期間の点で被疑者に有利だからである。
注2)逮捕前置主義を採る以上、先行する逮捕が違法であれば、勾留請求は認められないとも思われる。なぜなら、現行犯逮捕が違法であれば、令状主義を排した趣旨が妥当せず、また、違法な身柄拘束は、令状審査を受けない実質逮捕であり、いずれにせよ、勾留審査に先行する司法審査を欠くからである。しかし、先行する逮捕時点に緊急逮捕の要件を満たし、事後的に逮捕状が請求されたうえで、時間制限内に勾留請求がされた場合は、先行する逮捕についても、実質的に適法な司法審査が行われたといえるから、勾留請求も適法となるものと解する。

③-①一罪一逮捕一勾留の原則1.:一罪一逮捕一勾留の原則:逮捕、勾留に関して厳格な期間制限を課した意味を没却しないため、一罪について、一度の逮捕、勾留しか認められないと解される。この、一罪一逮捕一勾留の原則は、ⅰ.一罪に対して時間を異にした2つ以上の逮捕、勾留は許されないという意味合いと、ⅱ.一罪に対して同時期の2つの逮捕勾留は許されないという、2つの意味合いがある。
注1)事件単位の原則から、ここでの一罪は、逮捕、勾留の効力が及ぶ一つの事件、という意味合いである。もっとも、一つの事件を如何に解すべきは争いがある。包括一罪に関しては、個々の事件が内容を異にする場合、一の事件といえないものと解する。なぜなら、令状審査の対象となる資料が共通するとは、もはやいえないからである。

③-②一罪一逮捕一勾留の原則2.:再逮捕/再勾留:以上のように一罪の範囲内では、原則として再逮捕再勾留が禁止される。しかし、199条3項は再逮捕を予定し、逆に再逮捕、再勾留を禁止した規定もないから、例外的に再逮捕、再勾留が許容される場合もありうる。それは、先行する身柄拘束の期間および捜査状況、事案の変化および重大性、検察官の意図など諸般の事情を考慮して、ⅰ.強制捜査を断念させることが肯首しがたく(必要性)、ⅱ.捜査の不当な蒸し返しでないと認められる(相当性)場合である(東京地判昭和47年4月4日参照)。
注1)再勾留の審査にあたっては、上記要件がより厳格に吟味されなければならない。

③-③一罪一逮捕一勾留の原則3.:一罪一勾留の原則:保釈中の事件と包括一罪の関係をなす事件について、新たに勾留をすることは、許されるか。この点、拘留中の事件と包括一罪を構成する場合であっても、個々の事実自体に同一性が認められない場合は、各事実ごとに勾留することも許されると解する。なぜなら、勾留の理由及び必要性は個々の事件毎に判断される事項だからである。したがって、勾留中の事件と包括一罪の関係をなす事件について、新たに勾留することは、これが不当でない限り、許される。
注1)たとえば、勾留時に予測できなかった新たな犯罪事実について、勾留の理由と必要性が認められる場合、勾留は不当といえない(以上-福岡高判昭和42年3月24日)。

④別件逮捕・勾留:本件について取り調べる目的で、殊更に別件で逮捕、勾留することは許されるだろうか。この点については、別件逮捕の適法性、令状主義の潜脱の有無、別件逮捕による本件取調べの可否が問題となる。
1.別件逮捕の適法性:別件逮捕自体が、逮捕の理由、必要性の要件を具備しなければならない。
2.令状主義の潜脱:別件について逮捕の要件を満たしたとしても、実質本件に基づく逮捕と同士できる場合、本件についての令状審査を欠き、令状主義の潜脱となるものと解される。したがって、ⅰ.別件の重大性、逮捕の必要性、ⅱ.別件と本件の関連性、ⅲ.別件事件の取調べ状況、起訴の有無など、客観的な事情を考慮して、実質的に本件逮捕と同視できる場合は、令状主義違反として、逮捕が違法となると考える。
3.余罪取調:また、別件について逮捕が適法としても、その効力は、同一の事件の範囲内で及ぶに過ぎない。したがって、198条ただし書反対解釈により認められる取調受忍義務も、別件逮捕対象事件の限度で生じる。よって、別件逮捕により、本件について強制的に取調べを行うことは、違法な余罪取調べとなる。
注1)もっぱら本件について取り調べを行うことは、別件に基づく身体拘束を、実質的に本件に基づく身体拘束に変容させ、令状主義に反する身体拘束状態が生じると解する見解もある(東京地決平成12年11月13日)。

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