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第1 著作権侵害訴訟の管轄

土地管轄

普通裁判籍

普通裁判籍は被告の住所地等である。

民事訴訟法第四条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。

2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。

4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。

特別裁判籍

但し、著作権侵害訴訟のうち、損害賠償請求訴訟については、特別裁判籍により下記の地域にも管轄が認められる。

すなわちインターネット上の著作権侵害の場合、義務履行地乃至不法行為の結果発生地を原告住所地と理解することができる。

民事訴訟法第五条 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
一 財産権上の訴え 義務履行地
民法第四百八十四条1項 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

九 不法行為に関する訴え 不法行為があった地

競合管轄の定め

加えて、「意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物を除く)、出版権、著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴えは,特許権などの訴えを担当する裁判所にも,訴えを提起することができる」(民事訴訟法6条の2)。
この競合管轄の定めにより、原告は、東日本のいずれかの地方裁判所に管轄が認められる案件は東京地方裁判所を、西日本のいずれかの地方裁判所に管轄が認められる案件は大阪地方裁判所を選択できる。

第2 少額知財訴訟の管轄

事物管轄については、損害賠償請求額によって、140万円までは簡易裁判所、140万1円以上は、地方裁判所の管轄となる。削除(差止)や発信者情報開示は基本的に140万円を超えるとみなされる(民事訴訟法8条2項)。

特許侵害訴訟の例外(競合管轄)

簡易裁判所は、審理の専門性から専属管轄の定められている特許権等に関する訴えについてさえも、管轄権が特に残されていることから140万円を超えない場合については、簡易裁判所でも審理ができる(競合管轄。したがって特許等に関する訴訟についても訴額が少額の場合、認定司法書士でも代理人となれるケースがある。)。
民事訴訟法6条第2項 特許権等に関する訴えについて、前二条の規定により前項各号に掲げる裁判所の管轄区域内に所在する簡易裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起することができる

意匠権等に関する訴えの場合

意匠権等に関する訴えの管轄は、専属管轄の定めがない以上、請求が140万円を超えない案件については各簡易裁判所において審理しなければならない。本来少額著作権侵害訴訟も簡易裁判所において審理が必要と考えられる。

なお、例えば札幌簡易裁判所に普通裁判籍、特別裁判籍を有する140万円を超えない訴訟を専門的審理を求めて東京地方裁判所に訴訟提起した場合、管轄権がなく札幌簡易裁判所に移送されるリスクがあるなど、専門審理が必要な事件については問題が生じるおそれもある。
いずれにせよ、基本的には簡裁が審理するのが建前である。

第3 実際の運用とその問題点

ところが、専属管轄の定めのない意匠権等に関する訴えに相当する著作権侵害に基づく損害賠償請求訴訟も、現在、ほとんどの簡易裁判所は、事物管轄が認められる事件をその管轄区域を管轄する地方裁判所に移送する運用を行っている(民事訴訟法18条(簡易裁判所の裁量移送)、「簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる」。)。

問題点

また、140万円を超えない訴訟についても、例えば東京地方裁判所知財専門部は、事件を係属させている(民事訴訟法第16条2項本文「地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる」。)。
 このように140万円以下の事件も基本的に地裁が審理している現状がある。
 しかし、例えば東京23区内の場合、東京地方裁判所に事件が移送されるが、東京地方裁判所知的財産権専門部では、全件において裁判官3名の合議体制をとっており、裁判所の記録用の裁判資料の他、裁判官3名分の手控えをカラーコピーで提出しなければならないなど、数万円から数十万円の少額著作権侵害訴訟に必ずしも審理体制が適合していない。
さらに、知財専門部に係属した事件は全件判例が裁判所ウェブサイトに掲載される点も、紛争の規模や内容に適しているか疑問がある。

さらに、東京23区外の場合、例えば川崎簡裁の場合、事件を横浜地裁に移送するが、原告の住所地によっては、遠方となる場合もある。

第4 簡易裁判所の活用

1 簡裁による通常の審理

 簡易裁判所は、専属管轄が定められた特許権等に関する訴えでさえ、競合管轄により管轄権が残されている。当事者の選択の便宜を認めた趣旨から、専属管轄の定めのない意匠権等に関する訴えにおいて、原則的に審理を地方裁判所に移送する現在の運用には問題があるとも考えられる。
 民事訴訟法第270条「簡易裁判所においては、簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとする」とされるとおり、少額の著作権侵害訴訟を迅速に解決するには、簡易裁判所の審理が適合的ともいえる。「訴えは、口頭で提起することができる」(民事訴訟法271条)、「訴えの提起においては、請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる」(同法272条)、など本人訴訟を意識した規定も多い。
 少額著作権侵害訴訟を含めたインターネット上の市民間のトラブルなどについて簡裁利用がより積極的になるべきとも思われる。

2 少額訴訟や支払督促の利用

 60万円以下の請求の場合、さらに少額訴訟(民事訴訟法第6編)の利用も検討できる。しかし、一回結審を予定して訴状や証拠を提出するのは、かえってハードルが高い場合もある。
また、支払督促の場合、被告の住所地など(債務者の普通裁判籍(民事訴訟法383条1項))が管轄裁判所になるため、督促異議によって訴訟に移行した場合、遠方の裁判所で審理されるリスクがある。よって、被告の住所地等と原告の住所地等が一致するような場合でないと利用が難しい。

第5 ADR・知的財産調停

 日本知財仲裁センターは、手続費用が少額著作権侵害訴訟の場合は相対的に高額となるなど、企業間の規模の大きい紛争を想定しているため、少額著作権侵害訴訟の場合利用が難しい。
 知財調停については、簡易裁判所における審理と同程度に、利用が期待できる。
知財調停は、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所知的財産権法専門部において、令和元年10月1日から,知的財産権に関する調停手続について,新たな運用が開始された手続き。原則として3回以内の手続きで裁判所の心証などが開示されるため、早期に紛争を解決するのに適している。また、手続きも非公開であり、かつ柔軟な解決もできる(ウェブサイトへの謝罪記事の掲載など)ため少額著作権侵害訴訟は比較的利用に適した事件類型であるとされる。

第6 複数訴訟の併合

 例えばインターネット上の著作権侵害の損害賠償請求の場合、権利又は義務が同種で、事実上及び法律上原因も同種と言えるため、まったく関連性のない複数の被告を相手方として併合訴訟を提起することができる。
民事訴訟法第三十八条 『訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。』
 しかし、実際に併合訴訟を提起したところ、裁判所の拒否反応が想定以上に強いなど、かえって審理が混乱した経緯もあり、うまくフィットする場面は多くない可能性もある。それでも、印紙代の節約や、訴訟提起が一回でできるなど一定のメリットが出る場合も。事案や、運用によっては機能する可能性もある。

第7 結語

 以上のとおり、少額著作権訴訟については、簡易裁判所による審理や、知財調停の利用がより積極的に検討されるべきである。
 加えて、争点が一定程度複雑な事例なども想定して知財専門部による例外的な単独裁判官による審理なども検討されてしかるべきと思料される。

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