目次
外国(法)人を相手方とする著作権法務
国際的な民事訴訟を提起する場合、国際裁判管轄の問題と準拠法の問題に区別して考えることになります。
つまり、そもそもの前提として、どの裁判所が裁くのか(国際裁判管轄)の問題と、どの法律が適用されるのか(準拠法)の問題に2分して把握していかないと混乱を生じやすいと考えられます。
なお、訴訟手続きのルールは、どの国の訴訟手続きのルール(訴訟法等)が適用されるのか、という問題も観念できます。この点は、法廷地法という原則があります。したがって、日本の裁判所に提訴した場合は日本の民事訴訟法等が原則的に訴訟手続きを規律することになります。そのうえで、国際裁判管轄が認められる場合、本案審理に入り、準拠法の決定ルールによっては、日本の裁判所において日本の訴訟法等によって手続きが進行し、外国の実体法を適用して本案審理の結論を導くことになります。
国の問題
外国、日本国、自国、同盟国というときの、「国」とは、渉外著作権法務において如何に定義されるべきなのでしょうか。国は、基本的にその領土を連想させますが、領土によっても主権が及ばない場合もあります。裁判権は、主権の及ぶ範囲と基本的に同一であると考えるのが一般的と思料されます。そうであるなら、渉外的著作権法務においては、国とは、単に領土の範囲によって区切るべきでなく、国の統治作用としての主権が及ぶ範囲を指すべきことになります。たとえば、条約上の義務に抵触する請求は、国の支配の及ばない行為の差し止めを請求するもので主張自体失当と判断した最高裁平成5年2月25日判決などがあります。
このとき、国を主権の及ぶ範囲ととらえても、同盟国で訴訟を追行するのか日本国で訴訟を追行するのかが問題となります。訴訟提起が日本の法律および下記国際裁判管轄の考え方に基づいて日本の裁判所に認められる場合は、日本の裁判所で訴訟追行することも、検討できることになります。日本の裁判所に訴訟提起ができない場合、外国の法律等に基づいて管轄を持つ同盟国などの外国の裁判所において訴訟追行していくことを検討することになります。
日本の裁判所に訴訟提起が可能な場合、日本の裁判所が準拠する法律については、適用される法律の問題として、日本国において訴訟を提起し、追行していく場合、裁判所が認定した事実に適用すべき法律が問題となります(準拠法決定の問題)。
ベルヌ条約5条及び6条は、著作権の成立及び、差止請求など著作権法固有の請求について、適用法を定めます。また、不法行為などの一般法に基づく損害賠償請求や、契約などの債権行為などについては、法の適用に関する通則法により判断される場合があります(判例)。
国際裁判管轄について
国際裁判管轄については、訴訟を提起した裁判所ごとに、当該裁判所に管轄権があるか(審理が可能か)判断されるのが原則となります。この点、日本の裁判所においては、国際裁判管轄について明確な基準はないことが、かつて、最高裁判所判決によっても確認されていました。そのうえで、基本的に民事訴訟法などを手掛かりに国際裁判管轄を判定し、但し、事案に応じて管轄を否定、肯定されるべき特段の事情の存在なども考慮されることとされていました。その後、法改正によって、国際裁判管轄についても、一定の明文ルールが置かれています。日本の裁判所において、国際裁判管轄を否定された場合は、日本の裁判所で本案審理を受けることはできません。日本の裁判所で判断を受けることができなかったとしても、必ずしも、外国の裁判所で外国の裁判所が外国の裁判所に管轄があると判断するとは限らないことになりますし、日本の裁判所においても、外国の裁判所においても、複数の国の裁判所で国際裁判管轄が認められる場合も存在します。国際裁判管轄について、合意管轄の規定(民事訴訟法3条の7)や、応訴管轄の規定(同法3条の8)も置かれています。
民事訴訟法第第二章第一節 日本の裁判所の管轄権
(被告の住所等による管轄権) |
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著作権紛争の国際裁判管轄について
上記のように、一般的な国際裁判管轄については、日本の裁判所においては、かつて明確なルールはないことが宣明され、新設された民事訴訟法などの規定等に基づいて事案ごとに判断されるべきこととなりますが、著作権法の国際裁判管轄についても同様なのでしょうか。
この点についても、明確なルールや条約はなく、一般的な国際裁判管轄の問題と同じように、著作権法の国際裁判管轄についても、日本の裁判所に提訴した場合、上記の新設された民事訴訟法の規定などの判断基準にしたがって、事案ごとに日本の裁判所に国際裁判管轄が存するか判定されることになると考えられます。そうした場合、日本の民事訴訟法は、「義務履行地」(民事訴訟法3条の3)など準拠法が定まらないと明確に特定できないものも含まれてくるため、国際裁判管轄の決定にも準拠法の決定は一部影響を及ぼす場合があるといえそうです。このように、国際裁判管轄の問題と、準拠法の問題は完全に分離できないといえそうです。
具体的な適用
改正前の判例ですが、下記判例によれば、著作権法固有の問題については、問題とされている著作権の所在地が日本といえれば、少なくとも日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると解されます。すなわち、下記判例においては、法改正前の段階であり、民事訴訟法5条4号「日本国内に住所(法人にあっては、事務所又は営業所。以下この号において同じ。)がない者又は住所が知れない者に対する財産権上の訴え」について「請求若しくはその担保の目的又は差し押さえることができる被告の財産の所在地」に土地管轄を認めるという民事訴訟法の規定が援用されています。つまり、判例は、「請求の目的たる財産が我が国に存在する」ことから「請求…の目的…の所在地」として、日本に裁判管轄が認められると判断したようです。つまり「請求の目的たる財産」を著作権と解し、存否確認を求められている著作権が日本において保護される著作権であったことから、著作権の所在地を日本と判断したようです。これに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合は、不法行為地が日本であることによって、国際裁判管轄の問題がクリアされる場合なども想定されることになります。不法行為地には、加害行為地と結果発生地が異なる場合もあります。このような隔地において不法行為が発生した場合について、条文上、結果発生地についても予見が通常できない場合を除いては、不法行為地の概念に包含されています。
平成13年 6月 8日 最高裁第二小法廷 判決 著作権確認等請求事件 〔ウルトラマン作品訴訟・上告審〕
本件は、上告人が、被上告人に対し、〈1〉 本件警告書が日本に送付されたことにより上告人の業務が妨害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償(以下「本件請求〈1〉」という。以下同じ。)、〈2〉 被上告人が日本において本件著作物についての著作権を有しないことの確認、〈3〉 本件契約書が真正に成立したものでないことの確認、〈4〉 上告人が本件著作物につきタイ王国において著作権を有することの確認、〈5〉 被上告人が本件著作物の利用権を有しないことの確認、並びに、〈6〉 被上告人が、日本国内において、第三者に対し、本件著作物につき被上告人が日本国外における独占的利用権者である旨を告げること及び本件著作物の著作権に関して日本国外において上告人と取引をすることは被上告人の独占的利用権を侵害することになる旨を告げることの差止めを請求する事案である。 |
準拠法の問題
著作権を外国の企業・個人に利用許諾したい、外国の著作物を日本で利用したい場合など、渉外著作権法務の問題として、どのような点が問題となるでしょうか。
ベルヌ条約により同盟国の法律で保護される意味
ベルヌ条約は、著作権の成立や、その救済方法について、同盟国での保護は、同盟国法を適用することを定めていると解されています。
ベルヌ条約第五条 〔保護の原則〕 (1) 著作者は、この条約によつて保護される著作物に関し、その著作物の本国以外の同盟国において、その国の法令が自国民に現在与えており又は将来与えることがある権利及びこの条約が特に与える権利を享有する。 (2) (1)の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は、著作物の本国における保護の存在にかかわらない。したがつて、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。 (3) 著作物の本国における保護は、その国の法令の定めるところによる。もつとも、この条約によつて保護される著作物の著作者がその著作物の本国の国民でない場合にも、その著作者は、その著作物の本国において内国著作者と同一の権利を享有する。 (4) 次の著作物については、次の国を本国とする。 (a) いずれかの同盟国において最初に発行された著作物については、その同盟国。もつとも、異なる保護期間を認める二以上の同盟国において同時に発行された著作物については、これらの国のうち法令の許与する保護期間が最も短い国とする。 (b) 同盟に属しない国及びいずれかの同盟国において同時に発行された著作物については、その同盟国 (c) 発行されていない著作物又は同盟に属しない国において最初に発行された著作物でいずれの同盟国においても同時に発行されなかつたものについては、その著作者が国民である同盟国。ただし、次の著作物については、次の国を本国とする。 (i) いずれかの同盟国に主たる事務所又は常居所を有する者が製作者である映画の著作物については、その同盟国 (ii) いずれかの同盟国において建設された建築の著作物又はいずれかの同盟国に所在する不動産と一体となつている絵画的及び彫塑的美術の著作物については、その同盟国 |
ベルヌ条約 第六条 〔同盟国に属しない著作者の保護の原則〕 (1) 同盟に属しない国がいずれかの同盟国の国民である著作者の著作物を十分に保護しない場合には、その同盟国は、最初の発行の時において当該同盟に属しない国の国民であつて、かつ、いずれの同盟国にも常居所を有していない著作者の著作物の保護を制限することができる。最初の発行の国がこの権能を行使する場合には、他の同盟国は、そのように特殊な取扱いを受ける著作物に対し、最初の発行の国において与えられる保護よりも厚い保護を与えることを要しない。 (2) (1)の規定に基づく制限は、その実施前にいずれかの同盟国において発行された著作物についてその著作者が既に取得した権利に影響を及ぼすものであつてはならない。 (3) この条の規定に基づいて著作者の権利の保護を制限する同盟国は、その旨を、その保護の制限の対象となる国及びその国民である著作者の権利に対する制限を明記した宣言書により、世界知的所有権機関事務局長(以下「事務局長」という。)に通告する。事務局長は、その宣言をすべての同盟国に直ちに通報する。 |
日本国を本国とする著作物について
日本国での保護
日本の著作権法が適用され、日本の著作権法で保護すべき創作物は、著作物として著作権付与の客体となり得ます。
同盟国での保護とその意味
同盟国の著作権法(に相当する知的財産権法)が適用され、同盟国著作権(相当知的財産権)法で保護すべき創作物は、同盟国の著作物(相当知的財産)として著作権(相当の知的財産権)付与の対象となり得ます。
つまり、自国で創作発表するなどした日本国を本国とする自己の著作物を同盟国で権利侵害された場合、日本国の裁判所に管轄があり、かつ、日本国の裁判所において訴訟を提起・追行した場合における裁判所が適用すべき準拠法は、ベルヌ条約5条2項に基づいて、差止などについては、同盟国著作権法(相当知的財産権法)になるものと解されます。不法行為に基づく損害賠償請求などについては、ベルヌ条約ではなく法の適用に関する通則法等によって準拠法が決せられます(判例)。
同盟国を本国とする著作物について
反対に同盟国で創作・発表されるなど同盟国を本国とする自己の著作物を日本国で権利侵害された場合、日本国の裁判所に管轄があり、かつ、日本国の裁判所において訴訟を提起・追行した場合日本の著作権法によって著作物は保護され(著作権法6条3号)、差止などの救済を日本の裁判所に請求することができます。
著作権譲渡・利用許諾
日本国を本国とする自己の著作物について同盟国で発生が認められる権利を同盟国で譲渡・利用許諾する場合、つまり日本国内で創作・発表されるなどして本国を日本国とする著作物の権利(著作権)を同盟国の企業・個人を相手に売買等したい(著作権の権利譲渡)、同盟国の企業・個人に利用させて対価を得たい(著作権の利用許諾)場合、注意すべき点はどのような点でしょうか。
この点、契約の相手方が同盟国企業・個人であっても、日本国における使用に対する権利譲渡、利用許諾については、基本的には日本法に依拠することになります。そこで、日本法に基づいた契約を締結すべきことになります。では、同盟国における権利譲渡、利用許諾はどうなるでしょうか。権利の発生、譲渡、行使に分けて考えていく必要があります。
権利の発生について
まず、日本で創作・発表されたなどして日本を本国とする著作物の場合、日本国においては日本法が適用され、日本の著作権法によって、権利の発生が認められます。また、同盟国においては、同盟国の著作権(相当の知的財産権)法によって、権利の発生が認められます。このように、日本で著作物を創作、発表することによって本国となる日本だけでなく、各地の同盟国で同盟国法に基づいた権利の発生が認められます。
権利の譲渡・利用許諾について
日本国を本国とする著作物についてベルヌ条約により認められる同盟国における同盟国法に基づく著作権(相当知的財産権)を権利譲渡、利用許諾する場合、日本の裁判所においては、権利譲渡の元となる契約など債権行為については、法の適用に関する通則法7条により準拠法を選択することができると解されますが、物権的な権利変動に対しては保護国法が適用されると解されています(判例)。したがって、同盟国における権利譲渡などを日本法を準拠法とする契約で合意することができますが、物権的な効力が有効に発生するか否かは、同盟国法によることになります。この点から、同盟国における同盟国法で保護される著作権を権利譲渡、利用許諾する場合には、現地の法律を調べておくことが重要となります。
平成25年12月20日東京地裁判決(事件番号:平24(ワ)268号)2 著作権移転の有無(争点2)について
(1) 準拠法について 著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,移転の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。 まず,著作権の移転の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断するに,法の適用に関する通則法7条により,第一次的には当事者の選択に従ってその準拠法が定められるべきである。そして,フランス法人である原告協会と会員(大部分がフランス人)との間の著作権移転に関する契約については,フランス法を選択する意思であったと解される。 次に,著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について判断するに,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ,法の適用に関する通則法13条は,その趣旨に基づくものである。著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ,また,著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に,著作権という物権類似の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。このように,著作権の物権類似の支配関係の変動については,保護国である我が国の法令が準拠法となるが,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては,原告協会と会員との間の著作権移転に関する契約が締結されたことにより,著作権は会員から原告協会に移転することになる。 さらに,争いはないと解されるが,念のため付言するに,本件は,著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であり,不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,法の適用に関する通則法17条により準拠法が定められるが,「加害行為の結果が発生した地」は我が国であるから,我が国の法令(民法,著作権法)が適用される(同法施行前は法例11条1項により「其原因タル事実ノ発生シタル地」を準拠法とするが,その地が我が国であることに変わりはない。)。 |
もっとも、カリフォルニア法人が有する日本法上の著作権の客体たる著作物の2次的著作物についての著作権譲渡契約について、準拠法を米国法及びカリフォルニア州法とした場合、日本の著作権法61条2項は適用されないと判断した判例もあります。
このように同盟国著作権を譲渡、利用許諾する場合、その効力の判定を同盟国裁判所に委ねる場合は格別、日本の裁判所に委ねる場合でも同盟国法にも準拠した契約内容としておかなければ十全とは言えないことになりそうです。
例えば、日本国を本国とする著作物について、日本法を準拠法として、全世界の同盟国における著作権の権利譲渡を合意した場合、この効力を日本の裁判所が判定する場合は、債権行為としては日本法を準拠法としてその効力を判定しながら、物権的には各同盟国法上有効な権利譲渡と言えなければ十全と言えない可能性があります。そこで、あくまで契約が対象同盟国法の権利譲渡などの要件を満たしているか、調査しておくべきことになります。また、契約書の言語を自国の言語とするか、同盟国の言語とするか、という問題もあります。債権行為の準拠法を日本法とする場合、日本語で契約書を作成した方が整合的とも評し得ます。その場合でも、権利譲渡等の同盟国における効力について日本の裁判所は、同盟国法を参照するため、同盟国での効力についてはやはり、同盟国法を調査した方が十全ということになります。同盟国の裁判所において同盟国における譲渡の有効性を判断する場合は、同盟国の裁判所が定める準拠法決定のルールによって準拠法が決定され、権利譲渡などの効力が判定されると考えられます。
権利の行使について
権利を行使する場合、日本国において権利を行使する場合は日本の著作権法が適用されます。同盟国で権利を行使する場合は、同盟国法に準拠することになると解されますが、この点は同盟国の準拠法決定ルールも影響することになります。
同盟国を本国とする著作物について
同盟国を本国とする著作物についても、日本国においては、日本の著作権法に基づく保護が与えられます(著作権法6条3号)。また、日本における権利譲渡、利用許諾の効力についても、日本の裁判所においては、債権行為としては当事者の選択した準拠法に依拠すると解することになります。権利救済についても、基本的に日本法に基づいて救済していくことになります。
著作権侵害対応
著作権法は、あなた(御社)の創作を法的に保護し、第三者があなた(御社)の創作を無断で使用することを原則的に禁圧します。そして、損害賠償や差止を請求する権利を付与するなどしてあなた(御社)の権利を保護します。
自国で創作・発表するなど日本を本国とする著作物が外国で侵害されている場合、日本の裁判所に管轄が認められ、日本で訴訟を考える場合は、日本の裁判所が訴訟手続きを行います。
この場合、基本的に同盟国著作権法を準拠法として、訴訟を追行することになります。また、外国で創作・発表するなど同盟国を本国とする著作物が日本国で侵害されている場合日本の裁判所においては、日本の著作権法に基づいて判断を下すことになります。