大規模な悪質リーチサイトの摘発事例として注目されたサイト「はるか夢の趾」を巡る刑事訴訟ですが、主犯格にいずれも実刑判決という厳しい判断が下されたことが報道されています。
気になる有罪の理論構成ですが、アップロード者と共謀が認められる、という形で有罪が認められたようですので、所謂共謀共同正犯として問責したのではないかと考えられます。
実行行為がアップロード行為とされたのであれば、リンクを巡る著作権侵害の視点からは特に目新しい判断が含まれない可能性もあります。
しかし、リンクと著作権侵害の問題に踏み込んだ判断がされてる可能性もあるため、判決について要注目であることは変わりません。
詳しい理論構成は判決文のアップを待ちたいと思います。
今回の事案は、摘発時の報道ではアップロード時点から因果経過を支配している証拠を相当数捜査機関が押さえていた、とも言われています。
そうすると、アップロード者と共謀が認められやすく、アップロードされた違法動画に片面的にリンクを貼ったケースとは異質とも捉え得ます。
しかし、単に複製と送信可能化の共謀なのか、その後の公衆送信行為に実行行為性を見出したのかなど、興味は尽きません。
目次
令和元年11月 1日大阪高裁判決 平31(う)280号
令和元年11月 1日大阪高裁判決 平31(う)280号は、上記の著作権法上の争点について、詳細に述べており参考になります。
著作権侵害にかかる争点の概要
被告人…の弁護人の法令適用の誤りの主張は,①書籍データを記録・蔵置した場所を示すURLを本件サイトのサーバコンピュータ内に記録・蔵置した行為は,公衆送信権の侵害に当たらないのに,この行為に著作権法119条1項,23条1項を適用した…というものである。 これに対して,検察官は,①については,書籍データをインターネットに接続されたサーバコンピュータ(なお,本件サイトのサーバコンピュータとは別のものである。)の記録媒体に記録・蔵置する行為(以下「アップロード行為」という。)だけでは,公衆が当該サーバのURLが分からず,事実上アクセスできないところ,これに,書籍データの所在場所を示すURLを本件サイトのサーバコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置する行為(以下「URL記録行為」という。このURL記録行為等を行う行為を「投稿」という。)が相まって著作権法2条1項9号の5イの「情報の記録」に該当し,公衆送信権を侵害する…と…主張する。
「URL記録行為が公衆送信権の侵害に当たらないとの主張について 」裁判所の判示部分
(1) 著作権法23条1項は,「著作者は,その著作物について,公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては,送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と規定する。さらに,同法2条1項7号の2は,「公衆送信」とは「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信((略))を行うことをいう。」と規定し,同項9号の4は,「自動公衆送信」とは「公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。」と規定する。そして,同項9号の5(平成30年法律第30号による改正前のものをいう。以下,同号については,全て同じ。)は,「送信可能化」とは「次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。」「イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号(略)において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し,情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。」「ロ(略)」と規定する。なお,著作権法2条5項は,「この法律にいう『公衆』には,特定かつ多数の者を含むものとする。」と規定する。
(2) そこで検討するに,…投稿者によるアップロード行為は,それ自体において,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録すること(著作権法2条1項9号の5イ)に該当するものではある。しかし,アップロード行為があったとしても,各書籍データはいわゆるストレージサービスに記録・蔵置されているにすぎないから,一般に検索することが難しく,公衆は,書籍データを記録・蔵置した場所を示すURLを知らない限り,事実上,書籍データにアクセスすることは極めて難しい状態にある。
このような事実関係からすると,…投稿者が行うアップロード行為は,これに加えて,URL記録行為が行われることにより,公衆においてそのURLを介して書籍データにアクセスすることが実質的に可能となると認められる。そうすると,…投稿者は,これらの二つの行為を一体として行うことによって,情報を記録する行為により自動公衆送信し得るようにすること(著作権法2条1項9号の5)に当たる行為を行ったというべきである。
以上のとおり,アップロード行為とURL記録行為の双方を一体として行うことにより公衆送信権が侵害されたといえるから,原判決が,「罪となるべき事実」第1に上記二つの行為を掲げ,著作権法の各規定を適用したことに誤りはない。
…中略(※)…
(3) 被告人…の弁護人は,大阪地裁平成23年(ワ)第15245号平成25年6月20日判決・判例時報2218号112頁が,著作物である動画の場所を示すURLをウェブサイトの編集画面に入力した行為が公衆送信権侵害に該当しないと判断している点を捉え,本件でもURL記録行為は公衆送信権の侵害に当たらない旨主張する。
しかし,上記判決の事案は,原告がウェブサイトのサーバコンピュータ内に記録・蔵置していた著作物である動画について,被告が無断で動画に付された引用タグ又はURLを自己のサイトの編集画面に入力した事案であり,著作物のアップロード行為と,URL等の記録行為の行為者が異なり,かつ,各行為者の間に意思連絡もないというものである。これに対して,本件は,アップロード行為とURL記録行為を…投稿者が一人で行ったものであるから,上記判決とは事案が異なり,上記判決は,本件におけるURL記録行為の位置付けに関して参照されるべきものではない。
※中略部分
裁判所は、「ただし,著作権法119条1項は犯行後に改正されていることから,原判決の「法令の適用」の項の「著作権法119条1項」とあるのは,「平成28年法律第108号附則8条により同法による改正前の著作権法119条1項」などとすべきであったが,改正の内容に照らし,この誤りは判決に影響を及ぼさない(なお,以下,「平成28年法律第108号による改正前の著作権法」を単に「著作権法」という。)」と注意的に述べています。
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