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本庁支部の間の事件の移動

裁判所には、支部が設置されることがあります。たとえば、東京地方裁判所は千代田区に本庁が、立川市に立川支部が設置されています。この東京地方裁判所本庁、立川支部は、同じ東京地方裁判所ということになります。では、訴訟を提起するとき、どちらの裁判所を選べばよいのでしょうか。このように、同じ裁判所の中で訴訟を本庁か、支部に提起するかの問題は、管轄の問題ではなく、裁判所内での事務分掌の問題となります。したがって、仮に本庁から支部へ、あるいはその逆のルートで、事件の移転が生じるケースも「移送」ではなく、同一裁判所内の事件の「回付」の問題となます。したがって、移送の場合に認められる、訴訟法上の異議申し立てなどは、原則的にできないと考えられています。

 昭和58年 3月16日 東京高裁抗告棄却決定(昭57(ラ)786号 移送の申立却下決定に対する抗告申立事件)

最高裁判所は、憲法七七条一項並びに裁判所法三一条一項及び三一条の五の規定に基づき、裁判所の司法事務処理に関する事項として、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則を制定し、その一条において地方裁判所の支部の名称、権限及び管轄区域を定めているところ、右地方裁判所の支部は、地方裁判所の事務の一部を取り扱うため、その地方裁判所の管轄区域内の右規則に定める地に設けられたものであるが、原則として、独立の司法行政権を与えられているものではなく、それ自体司法行政官庁としての地方裁判所(本庁)に包摂されるものであるとともに、裁判権の面においても、地方裁判所の一部として当該地方裁判所の有する裁判権を行使するにすぎず、支部固有の裁判権を有するものではない。したがって、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則に定める地方裁判所の支部の権限及び管轄区域は、国民の基本的権利に直接関係のあるものとして法律が自ら定めている地方裁判所の裁判権その他の権限(裁判所法二四条、二五条)及びその管轄区域(裁判所法二条二項、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律)とは異なり、地方裁判所内部の事務分配の基準にすぎないものと解すべきである。
以上述べたところによれば、特定の地方裁判所がその有する裁判権に基づき審理及び裁判をすべき事件について、これを本庁において取り扱うか、あるいはいずれかの支部において取り扱うかは、当該地方裁判所における事務分配の問題にほかならないのであって、特定の支部に係属した事件を本庁又は他の支部に係属させること(以下「事件の回付」という。)は事務分配としての事実上の措置にすぎず、訴訟法上の手続ではないから、当事者は、事件の回付をすべきことを申し立てることはできず、また、裁判所によりされた回付の措置に対して訴訟法に準拠する不服の申立てをすることもできないものといわなければならない。
これを本件についてみると、抗告人の本件移送の申立ては、本件本案訴訟を本庁に回付することを求めるというに帰するから、不適法としてこれを却下すべきである。

 

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