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令和3年3月18日最高裁判所第一小法廷決定民集75巻3号は、下記のとおり判示してプロバイダは、検証として送信者情報の記録された記録媒体等を民事訴訟に提示する義務を負わないものと判示しました。

最高裁判所の判断は、どの様な内容でしたか?

最高裁判所の判断は、2段階で理解されます。

最高裁判所は、まず第一段階として、①電気通信事業従事者等は,民訴法197条1項2号の類推適用によ り,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解す るのが相当であると判断しました。

その上で、第2段階として本件記録媒体等が、②「黙秘すべきもの」に該当するかを検討しました。

民訴法197条1項2号はどの様な規定ですか?

民事訴訟法197条1項2号は、次のとおり、守秘義務を負うべき職業について証言拒絶権を認めた規定です。

民事訴訟法197条1項

次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。

一  第191条第1項の場合

二  医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合

三  技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

最高裁判所はどのような判断を前提に民訴法197条1項2号を類推適用しましたか?

最高裁判所は、民訴法197条1項2号の趣旨を「法定専門職にある者が,その職務上,依頼者等の秘密を取り扱うものであ り,その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されていることに鑑みて,法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される」と指摘しています。

そして、電気通信事業法上、通信の秘密について、同様に法令上の守秘義務を負う電気通信事業従事者等において、証言拒絶権を与えられるべき立場に変わりはないとして、民訴法197条1項2号の類推適用を肯定しました。

法令上の守秘義務を負わない場合は結論が異なるのでしょうか?

金融機関は、契約上の守秘義務を負いますが法令上の守秘義務までは課されていません。この場合、文書提出命令に関する事案ですが、平成19年12月11日最高裁第三小法廷決定(平19(許)23号 文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件)金融・商事判例1289号57頁は、「ところで,金融機関は,顧客との間で顧客情報について個別の守秘義務契約を締結していない場合であっても,契約上(黙示のものを含む。)又は商慣習あるいは信義則上,顧客情報につき一般的に守秘義務を負い,みだりにそれを外部に漏らすことは許されないと解されているが,その義務の法的根拠として挙げられている諸点から明らかなように,それは当該個々の顧客との関係での義務である。時として,金融機関が,顧客情報について全般的に守秘義務を負うとの見解が主張されることがあるが,それは個々の顧客との一般的な守秘義務の集積の結果,顧客情報について広く守秘義務を負う状態となっていることを表現したものにすぎないというべきである。その点で,民訴法197条1項2号に定める医師や弁護士等の職務上の守秘義務とは異なる。」と判示しています。

そして、同判例は、「 金融機関が民訴法197条1項3号の職業上の秘密に該当するとしてその提出を拒むことができる顧客情報とは,当該顧客情 報が金融機関によってその内容が公開されると,当該顧客との信頼関係に重大な影 響を与え,又,そのため顧客がその後の取引を中止するに至るおそれが大きい等, その公開により金融機関としての業務の遂行が困難となり,金融機関自体にとって その秘密を保持すべき重大な利益がある場合であると解される(最高裁平成11年 (許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照)。

当該顧客情報が上記の意味での職業の秘密に該るか否かは,当該事案ごとに 守秘義務の対象たる秘密の種類,性質,内容及び秘密保持の必要性,並びに法廷に 証拠として提出された場合の金融機関の業務への影響の性質,程度と,当該文書が 裁判手続に証拠として提出されることによる実体的真実の解明の必要性との比較衡 量により決せられるものである。」という判示を示しています。

このように、本件決定に関わらず法令上の守秘義務を負わない職種については緩和された基準で開示義務や提示義務の有無が判断される可能性があるでしょう。

金融機関の文書開示義務については、より詳しくは、リンク先記事もご参照ください。

最高裁判所は「黙秘すべきもの」についてどの様な判断をしましたか?

最高裁は、最高裁平成16年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁を引用し、『「黙秘すべきもの」とは,一般に知られて いない事実のうち,法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が,これを秘匿 することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するよう な利益を有するものをいうと解する』と述べました。

その上で、メールの送信者情報について、『送信者情報は,通信の 内容そのものではないが,通信の秘密に含まれるものであるから,その開示によっ て電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以 上,電気通信の送信者は,当該通信の内容にかかわらず,送信者情報を秘匿するこ とについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益 を有する』として、『その管理する電気通信設備を用いて送信され た通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録さ れた文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提 示する義務を負わない』と判示しました。

本決定の射程は文書提出命令にも及ぶでしょうか?

及ぶ可能性が十分にあると考えられます。

民事訴訟法第二百二十条1項柱書は、「次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない」とさだめ、四号は、「前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき」とさだめ、同号は、「第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」と定めています。

したがって、プロバイダが有する通信の秘密が記載された記録媒体や文書に対して文書提出命令を申し立てた場合も、民事訴訟法220条1項4号ハが類推適用され、本決定の射程が及ぶ可能性が十分想定されます。

令和3年3月18日最高裁判所第一小法廷決定・民集75巻3号

主 文

原決定を破棄し,原々決定を取り消す。

相手方の検証物提示命令の申立てを却下する。

抗告手続の総費用は相手方の負担とする。

理 由

1 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。

(1) 相手方は,映像等の開発及び販売等を業とする株式会社であり,抗告人 は,電気通信事業を営む株式会社である。

(2) 相手方は,動画配信サービス等の提供に係るウェブサイトを管理運営して いるところ,同ウェブサイトに設けられていた顧客からの問合せ用のフォームを通 じて,脅迫的表現を含む匿名の電子メール(以下「本件メール」という。)を受信 した。本件メールは,抗告人の管理する電気通信設備を用いて送信されたものであ った。

(3) 相手方は,本件メールの送信者(以下「本件送信者」という。)に対する 損害賠償請求訴訟を提起する予定であり,本件送信者の氏名,住所等(以下,電気 通信の送信者の特定に資する氏名,住所等の情報を「送信者情報」という。)が記 録され,又は記載された電磁的記録媒体又は文書(以下「本件記録媒体等」とい う。)についてあらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが 困難となる事情があると主張し,訴えの提起前における証拠保全として,本件記録 媒体等につき検証の申出をするとともに抗告人に対する検証物提示命令の申立て (以下「本件申立て」という。)をした。

2 原審は,電気通信事業に従事する者には民訴法197条1項2号が類推適用 されるとした上で,要旨次のとおり判断して,本件申立てを認容すべきものとし た。 本件メールが明白な脅迫的表現を含むものであること,本件メールの送信者情報 は本件送信者に対して損害賠償責任を追及するために不可欠なものであること,本 件記録媒体等の開示により本件送信者の受ける不利益や抗告人に与える影響等の諸 事情を比較衡量すると,本件記録媒体等に記録され,又は記載された送信者情報は 保護に値する秘密に当たらず,抗告人は,本件記録媒体等を検証の目的として提示する義務を負う。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。

(1) 民訴法197条1項2号は,医師,弁護士,宗教等の職(以下,同号に列 挙されている職を「法定専門職」という。)にある者又は法定専門職にあった者 (以下,併せて「法定専門職従事者等」という。)が職務上知り得た事実で黙秘す べきものについて尋問を受ける場合には,証言を拒むことができると規定する。

これは,法定専門職にある者が,その職務上,依頼者等の秘密を取り扱うものであ り,その秘密を保護するために法定専門職従事者等に法令上の守秘義務が課されて いることに鑑みて,法定専門職従事者等に証言拒絶権を与えたものと解される。

電気通信事業法4条1項は,「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない。」と規定し,同条2項は,「電気通信事業に従事する者は,在職 中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければ ならない。その職を退いた後においても,同様とする。」と規定する。

これらは, 電気通信事業に従事する者が,その職務上,電気通信の利用者の通信に関する秘密 を取り扱うものであり,その秘密を保護するために電気通信事業に従事する者及び その職を退いた者(以下,併せて「電気通信事業従事者等」という。)に守秘義務 を課したものと解される。

そうすると,電気通信事業従事者等が職務上知り得た事 実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合に証言を拒むことができるようにす る必要があることは,法定専門職従事者等の場合と異なるものではない。

したがって,電気通信事業従事者等は,民訴法197条1項2号の類推適用によ り,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができると解す るのが相当である。

(2) 民訴法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られて いない事実のうち,法定専門職従事者等に職務の遂行を依頼した者が,これを秘匿 することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するよう な利益を有するものをいうと解するのが相当である(最高裁平成16年(許)第1 4号同年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁参照)。

電気通信事業法4条1項が通信の秘密を保護する趣旨は,通信が社会生活にとっ て必要不可欠な意思伝達手段であることから,通信の秘密を保護することによっ て,表現の自由の保障を実効的なものとするとともに,プライバシーを保護するこ とにあるものと解される。電気通信の利用者は,電気通信事業においてこのような 通信の秘密が保護されているという信頼の下に通信を行っており,この信頼は社会 的に保護の必要性の高いものということができる。

そして,送信者情報は,通信の 内容そのものではないが,通信の秘密に含まれるものであるから,その開示によっ て電気通信の利用者の信頼を害するおそれが強いというべきである。そうである以 上,電気通信の送信者は,当該通信の内容にかかわらず,送信者情報を秘匿するこ とについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益 を有するものと解される。

このことは,送信者情報について電気通信事業従事者等が証人として尋問を受け る場合と,送信者情報が記載され,又は記録された文書又は準文書について電気通 信事業者に対する検証物提示命令の申立てがされる場合とで異なるものではないと 解するのが相当である。

以上によれば,電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信され た通信の送信者情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録さ れた文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提 示する義務を負わないと解するのが相当である。

これを本件についてみると,記録によれば,抗告人は,本件メールの送信者情報 について黙秘の義務を免除されていないことが明らかであるから,本件記録媒体等 を検証の目的として提示する義務を負わないというべきである。

4 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違 反がある。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原決定 は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,原々決定を取り消 し,本件申立てを却下すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

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