仮処分については、暫定的な判断であり、後に本案訴訟などでこの判断が覆された場合、仮処分の申し立て自体が不法行為となる場合があります。

昭和43年12月24日最高裁判所第三小法廷 判決・民集第22巻13号3428頁

本件は、工事の施工主体を混同して仮処分を申し立ててしまった事案です。

昭和43年12月24日最高裁判所第三小法廷 判決・民集第22巻13号3428頁は、「仮処分命令が、その被保全権利が存在しないために当初から不当であるとして取 り消された場合において、右命令を得てこれを執行した仮処分申請人が右の点につ いて故意または過失のあつたときは、右申請人は民法七〇九条により、被申請人が その執行によつて受けた損害を賠償すべき義務があるものというべく、一般に、仮 処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において 原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のな いかぎり、右申請人において過失があつたものと推認するのが相当である」と判示します。

もっとも、同最高裁判例は、「しかし ながら、右申請人において、その挙に出るについて相当を事由があつた場合には、 右取消の一事によつて同人に当然過失があつたということはでき」ないとも述べています。

その上で、同事案においては、「仮処 分の相手方とすべき者が、会社であるかその代表者個人であるかが、相手側の事情 その他諸般の事情により、極めてまぎらわしいため、申請人においてその一方を被 申請人として仮処分の申請をし、これが認容されかつその執行がされた後になつて、 他方が本来は相手方とされるべきであつたことが判明したような場合には、右にい う相当な事由があつたものというべく、仮処分命令取消の一事によつて、直ちに申 請人に過失があるものと断ずることはできない」などと判示し、事案については過失を否定しています。

平成14年12月17日東京地方裁判所判決(平成13(ワ)22452)

平成14年12月17日東京地方裁判所判決(平成13(ワ)22452)は、特許権の侵害を理由に仮処分を申し立て仮処分命令が発令されたものの、後に特許権が無効と判断され仮処分が取り消された事案です。

同裁判例は、「本件において,前記「被告の行為」欄(第2,1(4)参照)記載のとおり, 被告が原告ら及びその取引先に対して警告書を送付したこと,本件仮処分決定を得 たこと,新聞紙上に本件広告を掲載したことは当事者間に争いがない。このような 状況の下において,後になって,被告が権利行使の根拠とした特許を無効とする審 決が確定したものであるが(第2,1(3)参照),無効審決が確定したときには当該 特許権は,さかのぼって初めから存在しなかったものとみなされるから(特許法1 25条参照),その結果,被告の上記各行為は,いずれも法律上の根拠を欠く違法 な行為であったことになる」と述べて、特許が無効だった場合仮処分は原則違法となるという前提を確認しています。 「そこで,被告の上記行為が不法行為を構成するかどうかに関して,被告に 過失があったかどうかが問題となる」と述べて、問題は過失の有無であるという点を指摘しています。その上で、上記最高最判例を引用するなどし、「保全命令が,その被保全権利が存在しないため に当初から不当であるとされた場合において,当該保全命令を得てこれを執行した 債権者が被保全権利が存在すると信じた点について故意又は過失があったときは, 債権者は民法709条により,債務者がその執行によって受けた損害を賠償する義 務があるというべきであり,一般に,保全命令が保全異議又はその上訴において取 り消され,あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され,その判決が確 定した場合には,他に特段の事情のない限り,債権者において過失があったものと 推定するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第260号同年12月24日第三 小法廷判決・民集22巻13号3428頁参照)」と原則的に過失が推定される旨を指摘しています。

特許権が無効だった場合の仮処分申立における過失の有無の判断基準

そして、裁判例は、「特許権に基づく差止請求権を被 保全権利とする仮処分命令について,後に当該特許を無効とする旨の審決が確定し た場合においても,他に特段の事情のない限り,債権者において過失があったもの と推定するのが相当である。 そして,この場合に,過失の推定を覆すに足りる特段の事情の存否を判断 するに当たっては,当該特許発明の内容,無効事由及びその根拠となった資料の内 容等を総合考慮して検討するのが相当である」としています。

具体的な判断内容

事案については、「被告においては,本件特許の出願前に先行技術を調査す ることにより,本件主引用例を始めとする上記各引用例の存在を知り得たものであ り,これらの先行技術の存在を知ったならば,そもそも本件発明が特許を受けられ ないものであると判断することができたはずであり,本件発明が特許査定されて設 定登録された後においても,本件仮処分決定を得るまでの間に被告において先行技 術を調査するなどしていれば,本件審決が認定したのと同様の無効事由の存在を認 識することが可能であったというべきである。これらの点に照らせば,本件特許の 出願の経過,すなわち,本件特許の出願に対して審査官がいったん進歩性を欠く旨 の拒絶理由を通知したものの,被告がこれに対し意見書を提出すると同時に補正書 を提出したところ,新たな拒絶理由の通知もなく,特許査定がされたという経過 (乙1,2により認められる。)を考慮しても,被告に,過失の推定を覆すに足り る特段の事情が存在したと認めることはできない」として、被告の過失を肯定しています。

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