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知財高裁判決令和4年10月17日・裁判所ウェブサイトは、ドットパターンが形成された媒体、ドットパターンを用いた情報入力方法、ドットパターンを用いた情報入出力方法、ドットパターンを用いた情報入力装置、ドットパターンを用いた情報処理装置などの発明について特許無効とした審判の取消し請求が棄却された事例です。

訴訟に至る経緯

原告代表者は、平成24年9月28日、その名称を「ドットパターンが形成された媒体、ドットパターンを用いた情報入力方法、ドットパターンを用 いた情報入出力方法、ドットパターンを用いた情報入力装置、ドットパター ンを用いた情報処理装置」とする発明について特許出願(特願2012-2 5 18687号。以下「本件出願」という。)をし、平成25年5月2日、その設定登録(特許第5259005号、請求項の数63)を受けました。

その後、本件特許権は、原告代表者から原告に移転し、その旨の登録がされ、被告は、平成31年1月18日付けで本件特許の請求項1ないし63に係 る発明について特許無効審判請求(無効2019-800003号)をしました。

原告は、令和3年3月30日付けで本件特許の請求項1、4、6、7、1 0ないし12、14、15、17ないし22、25、28ないし30、43、 46、50ないし55、57ないし63に係る特許請求の範囲及び明細書の記載を訂正する訂正請求を行いました。

これに対して、特許庁は、令和3年10月20日、「令和3年3月30日付け訂正請求にお いて、特許第5259005号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細 書の段落0226、0227、0231、0232のとおり訂正することを認める」としながら、「特許第5259005号の請求項1ないし63に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をしました。審決のの謄本は、同月29日、原告に送達されています。

そこで、原告が、令和3年11月26日、上記審決の取消しを求めて訴えを提起したのが本件です。

本件発明(請求項1)

請求項1にかかる本件発明は以下の内容でした。

本件発明1

A ドットパターンが形成された媒体であって、

B 前記ドットパターンは、等間隔に所定個数水平方向に配置されたドッ トと、

C 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと、

D 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライン と、前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定され た水平ラインとの交点を格子点とし、該格子点からのずれ方でデータ内 容が定義された情報ドットと、からなり、

E 前記垂直方向に配置されたドットの1つは、当該ドット本来の位置か らのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味していることを 特徴とするドットパターンである、

F ドットパターンが形成された媒体。

本件訂正発明1

ドットパターンが形成された媒体であって、

前記ドットパターンは、 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと、

前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間 隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと、

前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと、 前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水 平ラインとの交点を格子点とし、該格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドットと、 からなり、

前記垂直方向に配置されたドットの1つは、当該ドット本来の位置から 前記水平方向にずらされて前記端点からスタートする垂直方向のライン 上にないことによって前記ドットパターンの向きを意味していることを特徴とするドットパターンである、ドットパターンが形成された媒体。

無効審判の判断内容

本件取消訴訟の前提となった無効審判において、特許庁は、本件特許出願について、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(特許法36条4項1号)及び、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(特許法36条4項1号)の各要件を満たさないため、それぞれ、「その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき」(特許法123条1項4号)に当たり、無効事由があると判断しました。

知的財産高等裁判所のサポート要件に関する判断

知的財産高等裁判所は、下記のとおり述べて、本件についてはいずれにせよサポート要件の充足がないと判示しました。

まず、本件明細書には、図5ドットパターンと図105ドットパターンについての記載があるりました。そして、原告は、 本件発明は図5ドットパターンに基づいて理解されるべきであると主張していました。知的財産高等裁判所も、これを前提に、本件発明がサポート要件を充足するか検討すると述べています。

前提として、当該発明はドットのずらし方によって精密な情報を表現する点に本旨がある発明と思料されます。

その上で、本件発明について知的財産高等裁判所は、「本件発明は、「前記垂直方向に配置されたドットの1つは、当該ドット本 来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味して いる」(構成要件E)ことを特徴とするドットパターンであるところ、図5 ドットパターンにおいては、本件明細書【0066】に「垂直ラインは、水平ラインを構成するドットからスタートし、次の点もしくは3つ目の点 がライン上にないことから上下方向を認識する。」との記載が、【図5】及 び【図7】では、左端の垂直ラインに配置されたドットの一つが他の同一 の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに沿って左側に 配置され、「x、y座標フラグ」とされていることが示され、【図6】及び 【図8】では、左端の垂直ラインに配置されたドットの一つが他の同一の 垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに沿って右側に配 置され、「一般コードフラグ」とされていることが示されている。」点を指摘します。

その上で、「しかしながら、【0066】には、そもそも「ずらす」という表現は一切 用いられておらず、その記載は、文字どおり、垂直ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドットパターンの上下方向を認識 するとの意味の記載であって、「ドット本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載とはいえない」と指摘します。

また、「【図5】ない し【図8】の図中の記載によれば、「x、y座標フラグ」がある場合には、 情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示 し、「一般コードフラグ」がある場合には、情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められ、「x、y座標フ ラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは、情報を表現する 部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容 を定義するドットの一つにすぎず、フラグとしてその位置を認識され、ド ットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパターンのデータの内容を定義しているが、ドットパターンの向きを意味しているものではない」と指摘しています。

そして、「そのほか、【図5】ないし【図8】には、ドッ トパターンの向きを意味するドットは記載されていないし、データの内容 を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドットを兼ね るとの記載もない」と指摘します。

さらに、「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき、その本来の位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味す ることを特徴とする本件発明の実施形態について、上記ドットがどのよう な方向、距離において配置されるのかについては、本件明細書にはその記 載はありませんでした。

以上によると、「図5ドットパターンは、「ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」(構成要件E)との構成を有せず、本件発明は、図5ドットパターンとは異なるドットパターンを意味することは明らかであるし、本件明細書には、上記構成要件Eに つきサポート要件を充足させるに足りる記載は見当たらない」と判示されています。

このように明細書がしっかりと発明の内容を説明するものではないために、どちらにせよ本件特許は無効だと述べているのです。そうした意味で、明細書の記載の重要性が認識できる裁判例と言えそうです。

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