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出版大手が米国CDN事業者に対して著作権侵害訴訟を提起した件でリンク先の記事を投稿しました。

https://ns2law.jp/?p=10601

その中で、中心的な争点は不作為の違法性の部分になるという前提でいました。

そうしたところ、テレビブレイク事件などを参考に、CDN事業者にも発信者性を問える可能性もあるのではないかという趣旨のご示唆をいただきました。

テレビブレイク事件は、被告が送信可能化の主体と評価された事案です。もちろん物理的に情報を入力したものでなければ発信者性を肯定できないということは理解できます。法人などの場合、実態のない法人が物理的に情報を入力することはあり得ないわけですし、個人事業主がスタッフに命じて情報を入力させた場合も、入力主体は因果の流れを支配した事業主という評価は全く違和感がありません。

ただ、仮に自動公衆送信の主体と評価できた場合も送信可能化の主体と評価できなければ発信者という概念には当たらないのではないかと考えています。例えば、送信可能化をせずに自動公衆送信権を侵害したという場合、つまり自動公衆送信の主体とは評価できるが送信可能化の主体と評価できない場合※、著作権侵害の主体と評価できても発信者と評価できないというのが自論です。

ただ、この考え方がそもそも特殊と言われればそれまでです。

※例えば不作為による自動公衆送信などをまさに想定しています。

そうすると、CDN事業者を自動公衆送信主体と評価できる場合も、さらに送信可能化の主体と評価できる場合でないと発信者性は肯定できないというのが自論です。

発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律2条4号

この場合、CDN事業者が流石にオリジンサーバーに海賊サイト運営者をして情報を記録したと評価できる事情は想起し難いのではないかと思います。そうすると、CDN事業者がキャッシュサーバーに情報を入力させた主体と評価する形で送信可能化権侵害の主体と評価できる場合に併せて発信者とも評価できるのではないかと考えています。

そのように考えた場合、テレビブレイク事件の考え方を参考にしても、CDN事業者にとって、海賊サイトのトラフィックが全トラフィックの50%近いようなこともなかなか想定し難く、また、収益についても、海賊サイトにアクセスが集まれば集まるほどCDN事業者が儲かるという構造にあるのか、という問題もあります。仮にCDNが定額であれば、トラフィックが増えるほどCDN事業者にとっては負担となる面もあるからです。もちろん、トラフィック増えるほど転送量が自然と増え、CDN利用料も高額となると考えれば、ここはCDN事業者もアクセス増の恩恵を受けるという関係を見出せそうです。ただ、やはり、アクセスからの広告収益を直接得ていたテレビブレイク事件と同等の収益構造があるかというと疑問も感じてしまうところです。

これらの事情を総合すると、やはり、CDN事業者を海賊サイトの陰の運営者として実質的にキャッシュサーバーに情報を入力させる因果を支配していたと評価できる場合というのは相当限定的ではないかと思えてしまいます。

ただ、それはCDN事業者が免責されると言っているのではなく、個人的には不作為類型の例外要件を満たす可能性が十分にある(というより、弁護団のレベルから考えて相当の勝算とそれを支える証拠を準備して訴訟提起に至った)と考えており、CDN事業者がプロ責法で免責されるかというと余程主張立証が奏功しない限り、どちらかというと厳しいのだろうと勝手に想像しています。

なお、まねきTV事件やロクラクⅡ事件は、事業者が自動公衆送信装置に入力されるデータをTV番組にあらかじめ限定し、限定された著作物について入力できる環境を生成し提供していた事案なので、ユーザーの用意したあらゆるデータ(著作権を侵害するものも、そうでないものも、等しく入力される可能性がある。)が入力可能なサーバーとは事案が異なり、本件との関係では、テレビブレイク事件の方が事案としては近いのではないかと思われます。

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