いわゆる投稿型のコンテンツサイトについて、著作権侵害等権利侵害があった場合、運営主体の確定が問題となります。
特に、一般投稿者の特定は難しいケースも多いため、サイトを運営する事業者に問責できるケースかできないケースかの見定めは重要になります。
しかし、著作権侵害の主体決定は様々な法律論が百花繚乱する場面でもあります。
目次
テレビブレイク事件
平成21年11月13日東京地方裁判所民事第40部判決(平成20年(ワ)21902号テレビブレイク事件第一審)は、「著作権法上の侵害主体を決するについては、当該侵害行為を物理的、外形的な観点のみから見るべきではなく、これらの観点を踏まえた上で、実態に即して、著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきである。そして、この検討に当たっては、問題とされる行為の内容・性質、侵害の過程における支配管理の程度、当該行為により生じた利益の帰属等の諸点を総合考慮し、侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として、侵害行為を直接に行う者と同視できるか否かとの点から判断すべきである」と述べて、その後詳細な当てはめをおこなって侵害主体を決定しました。投稿型サイトの運営主体論において、参考になる極めて重要な判例です。
問題となったサイトは、「「大量 の動画ファイルを簡単にアップロードできるシステム及びソフトウェアを不特定多数のユーザに無償提供し、その保有する動画ファイルをアップロードさせ、他方において、大量の動画ファイルの中から好みの動画ファイルを迅速簡易に探索できるツールを整備した上、本件サイトにアクセスしてきた不特定多数のユーザに対して動画ファイルを送信するというサービスである。これは要するに、インターネットに設置したサイトにアクセスしてきた不特定多数の者に対し動画ファイルを配信して視聴させるという一般の動画配信サイトと何も変わるところがなく、唯一異なっているのは、配信する動画コンテンツを製作者等から有償で入手する代りに、ユーザが保有する動画コンテンツを無料で調達しているという点」にある、一般ユーザー投稿型のサイトでした。
侵害主体論の当てはめについて
サービスの内容・性質について
配信サイトの機能として、「本件サービスの構成は、前記第2、2前提となる 事実(4)のとおりであり、本件サービスは、被告会社において独自に定めたユーザインターフェイス環境の下、個人単位の放送局とのコンセプトに基づき「放送局」を擬した「MYチャンネル」を割り当てられた登録会員が、動画ファイルをこのチャンネル上にアップロードし、このチャンネル上でストリーミング形式で再生される動画を広く一般の第三者の視聴に供するというものであり、かつ、それを専らの目的とするものである。したがって、コンテンツの選択についての被告会社の自由が限定されているとはいうものの、動画配信サイトと同様の機能を有するということができる。」と認定されました。
著作権侵害の蓋然性について
「会員登録に当たって入力が要求される特定事項は 、eメール・アドレス、パスワード、ニックネーム、生年月日及び性別である。…本件サイトへの動画ファイルの投稿は、本来的に匿名でされ得ることを当然の前提としているということができる。」という、匿名性の蓋然性と、「「《動画・映像に関する注意点》※アップロードした動画に対して、著作権及び法的責任は登録される方の責任となります。※著作権侵害の可能性がある動画・映像を発見しましたら、警告なしに削除いたします。〈例:テレビ、放送局やプロダクション製作物に関する動画・映像〉」との表示がされる(弁論の全趣旨)。また…規約には…当社は、これらの権利クリアランスに関して問題があると思われるユーザー掲示物を発見した場合には、事後的に、これを削除するようユーザーに求め、あるいは自ら削除をすることがありますが、そうした活動は当社の義務として行われるものではなく、あくまでこれら権利クリアランスを行う責任は、ユーザー自身にあります。」とある」ことなどから、「本件サー ビスにおいて著作権を侵害する動画ファイルが送信される可能性が高いことは、被告会社自身認識していたことが推認される。」とし「上記に認定したところによれば、本件サービスは、本件サイトへの動画ファイルの投稿が匿名でされ得ることを前提とし、既存の劇場用映画、テレビ番組、アニメ等の著作権を侵害する動画を投稿しても、投稿者がその責任を問われにくいシステムとなっていることから、視聴者の誘因力の高いコンテンツがそのことを理由に集積され、多くの者がこれを互いに見せ合えば、相乗効果としてコンテンツが更に集積され、それら本来は有償のコンテンツを無償で時間制限なく取得できることを可能にするものであり、そのことに対する格別の抑止力もないものである。したがって、本件サ ービスは、上記のような本件サービスの内容・性質及び構成の特徴等から、利用者に著作権侵害又は著作隣接権侵害に対する強い誘因力を働かせるものであり、著作権又は著作隣接権を侵害する事態を生じさせる蓋然性の極めて高いサービスであるといえ、そのことは被告会社も認識していたものと認められ
る。」と断じています。
複製及び公衆送信における管理支配
本サイトは、「インターネット環境に接続でき、 wmv形式のファイルが再生できるパソコンがあれば、だれでも本件サイトを利用することができるが、汎用的なのはこの限度であり、本件サービスを利用するに当たっての手順は、被告会社の提供する上記システムの設計に従うほかなく、ユーザが個別に利用条件や設定を変えることはできない。」と評価されています。
また、「被告会社は、あ る程度動画の内容を認識した上で、一定の基準で選定した動画ファイル又はその動画を含むチャンネルにより多くのアクセスがあるようにユーザを誘導しており、一定の内容の動画ファイルの視聴をユーザに対して推奨している」という点が挙げられていることから重視されていると考えられます。
さらに、「被告会社は、アダルト動画のアップロードが行われた場合には当該動画を削除している(弁論の全趣旨)。そうすると、あらかじめどの動画がアダルト動画であるかが分からない以上(タ イトルがアダルト動画らしいものであっても中身は違うかも知れないから、タイトルだけでは判断できない。)、アダルト動画であるか否かについて動画の内容をチェックしているということは、すなわち、被告会社が本件サイトの動画全般を日常的に監視しており、かつ、その能力も有していることにほかならない。」として、投稿内容を把握していることがここでも認定されると共に重視される要素となったと考えられます。
さらに、被告会社代表者が、自らも動画をアップロードしている点も判例では指摘されており重視された事情となったものと考えられます。
そのうえで、上記認定などによれば、「被告会社は、動画ファイルが記録されかつ公衆送信 を行う機器である本件サーバを管理支配し、専用のソフトウェア(本件ユーザソフト)をユーザに配布し、自らの設定した方式にユーザを従わせ、一定の動画ファイルの視聴を推奨し、また、一定の動画ファイルを削除するなどしてその内容にも関与し、かつ、被告会社の代表者である被告Aは、自らも動画ファイルをアップロードし、これを公衆送信しているのであるから、被告らは、本件サービスを管理支配しているものということができる」としています。
利益の状況
利益状況については、端的に、「本件サービスには、バナー広告や 検索連動型広告が置かれており、被告会社はこれにより広告収入を得ているところ(乙1、弁論の全趣旨)、これらの広告収入は、本件サービスにアクセスするユーザ数の増加に伴い増
加する関係にあることは公知の事実である。そして、ユーザ数の増加は本件サービスにおける動画ファイルの数量、質に従うものであるから、少なくとも、投稿された動画ファイル数が増加すれば、それだけ被告会社は多くの利益を受けることになる。したがって、本件サービ スにおいて複製及び公衆送信(送信可能化を含む。)される動画ファイル数と被告会社の利益額とに相関関係を認めることができる。」とされています。
侵害比率
裁判例では、「平成20年4月24日現在、視聴調査を加えた「音楽」、「アニメ」及び「ムービー 」と音声認識処理システムによる機械的処理を加えただけのその他の22カテゴリーを併せた全カテゴリにおける侵害割合を計算すると、本件管理著作物を録画した動画ファイルの合計が少なくとも2万0613件、総動画ファイル数が4万1629件であるから、49.51%となる。」と認定されています。この大量の母体を対象とした精度の高い侵害割合の主張及び立証は、多数の著作物を管理する原告だからできた、という側面もあります。この部分は、通常主張立証が難しい部分ではないかと思います。
侵害主体の肯定
そうした詳細の当てはめを経て、判例は、「以上からすると、本件サービスは、本来的に著作権を侵害する蓋然性の極めて高いサービスであるところ、被告会社は、このような本件サービスを管理支配している主体であって、実際にも、本件サイトは、本件管理著作物の著作権の侵害の有無に限って、かつ、控え目に侵害率を計算しても、侵害率は49.51%と約5割に達しているものであるところ、このような著作権侵害の蓋然性は被告会社において予想することができ、現実に認識しているにもかかわらず、被告会社は著作権を侵害する動画ファイルの回避措置及び削除措置についても何ら有効な手段を採らず、このような行為により利益を得ているものということができる。そうすると、被告会社は、著作権侵害行為を支配管理できる地位にありながら著作 権侵害行為を誘引、招来、拡大させてこれにより利得を得る者であって、侵害行為を直接に行う者と同視できるから、本件サイトにおける複製及び公衆送信(送信可能化を含む。)に係る著作権侵害の主体というべきである」と述べて、被告会社の侵害主体性を肯定しました。
プロバイダ責任制限法による免責との関係
ただし、上記認定はあくまで、差止請求との関係での侵害主体性の肯定でした。さらに、被告に対して損害賠償請求をするには、プロバイダ責任制限法が定める免責規定というハードルがあります。この点についても同判例では下記のとおり述べて、クリアされることが確認されました。
少なく ともプロバイダが複製又は送信可能化の主体といえなければ発信者に該当し得ないことはいうまでもないが、プロバイダが差止請求の相手方たり得るための要件である「侵害主体」と、プロバイダが損害賠償責任を負うための要件である「発信者」とは、それぞれの法の目的に従って解釈されるべきことであるから、「侵害主体」であっても「発信者」ではないということはあり得ないではない。
しかしながら、被告会社の本件サービスへのかかわり方は、上記1に説示したとお りであり、被告会社は、著作権を侵害する動画ファイルの複製又は公衆送信(送信可能化を含む。)を誘引、招来、拡大させ、かつ、これにより利得を得る者であり、著作権侵害を生じさせた主体、すなわち当の本人というべき者であるから、発信者に該当するというべきである。
…被告らは、発信者は非規 範的ないし即物的な行為によって特定されているものであるから、ユーザしか発信者になり得ない旨を主張する。しかしながら、被告会社が著作権侵害を生じさせた主体であることは上記のとおりであって、発信者にはこのような者を含むと解すべきであり、これを記録媒体に「記録」又は「入力」する行為を直接行った者に限定しなければならない理由はない。
また、被告らは、発信者には個々の具体的な情報を記録又 は入力する意思が必要である旨を主張する。しかしながら、例えば特定のファイルを意識することなく一括してアップロードしたユーザを発信者から排除する理由がないことから明らかなとおり、発信者の解釈に当たって上記のような意思が必要であると解することはできない。
被 告らの上記主張は、いずれも採用することができない。
著作権侵害主体論の形成
このように、テレビブレイク事件は投稿型サイトの侵害主体論を論じるうえで極めて重要な判例です。しかし、既に述べた通り、侵害主体論は百花繚乱であり、さらに、幇助侵害等さまざま理論構成もあり得るところであり、今後侵害主体論の形成はさらに議論を深めていく必要がある状況と言えます。