共同正犯は、インターネット上の著作権などの知的財産権侵害をはじめとするサイバー犯罪でも問題になりやすい刑法上の論点です。
一部実行全部責任の根拠
「二人以上共同して犯罪を実行した者」(刑法60条)は、犯罪行為の一部しか担当していなくとも、「正犯とする」とされ、犯罪全部の責任を負う(一部実行全部責任の原則)とされます。
このように、実行行為の一部ないし、全部を行っていない者が正犯として処罰されるのは、共に相手を利用して自己の望む犯罪結果惹起を企図し、法益侵害に主体的に因果を及ぼした点の正犯と評せる当罰性にあります。
したがって、「二人以上共同して犯罪を実行し」とは、①相手と共同して犯罪を自己のものとして実現する意思を有し、②相互に認識しあっている状態(共謀)を前提に、③実行行為が行われた場合を言うものと解されます。
例えば、海賊サイトなどを複数の共犯者間で志向し、実際に無断での第三者の著作物の配信(公衆送信)行為が行われたような場合です。
過失犯の共同正犯
過失犯について、「共同して…実行した」(刑法60条)と評価できるでしょうか。
この点、結果発生の起因となった行為を捉え、その時点に客観的な予見可能性と結果回避可能性が認められる場合を過失と評するのであれば、①共同の注意義務を観念でき②その注意義務に共同して違反した状態をもって、過失犯においても、「共同して犯罪を実行した」と観念できることになります。
結果的加重犯の共同正犯
結果的加重犯においては、基本犯と因果関係が認められる加重結果について、責任を負います。
したがって、基本犯を「共同して…実行した」以上、基本犯と因果関係が認められる加重結果について、全て責任を負うことになります。
片面的共同正犯
共同正犯においては、ⅰ相手と共同して犯罪を自己のものとして実現する意思を有し、ⅱ相互に認識しあっている状態(共謀)を前提に、ⅲ実行行為が行われた点を「共同して…実行した」と評します。
したがって、片方が相手方の意図を認識していない場合(片面的共同正犯)は、「共同して…実行した」と評することができないことになります。
承継的共同正犯
先行者の実行行為の途中で、後行者が加担し、共同して実行行為を継続した場合、後行者はどの範囲で「共同して犯罪を実行した」(刑法60条)といえるのでしょうか。
この点、共同正犯の処罰根拠は、相互に利用補充しあい、犯罪を自己のものとして実現した点にあります。
したがって、後行者が先行者の行為を自己の犯意を実現する手段として利用する意図のもと、後行行為に加担した場合は、後行者も行為全体について、「共同して犯罪を実行した」と評されるものと解されます。
例えば、海賊サイトなどについて、後から犯行グループに参加した者も、先行者の作出した違法状態を利用している場合、先行者の行為についても責任を負う場合があります。
※強盗殺人においては、後行者が先行行為による抵抗不能を利用する意図でも、殺人結果についてまでは利用する意図でなく、「共同し」たと評せません。また、後行行為と死(傷害)の結果に因果関係はないから、強盗致死(傷)の罪責を問う事はできません。
共謀共同正犯
実行行為に関わっていない者も、「共同して犯罪を実行した者」(刑法60条)にあたるといえるでしょうか。
一部実行全部責任の根拠は、共に相手を利用して自己の望む犯罪結果惹起を企図し、法益侵害に主体的に因果を及ぼした点の正犯と評せる当罰性にあります。
したがって、「二人以上共同して犯罪を実行し」とは、、ⅰ相手と共同して犯罪を自己のものとして実現する意思を有し、ⅱ相互に認識しあっている状態(共謀)を前提に、ⅲ実行行為が行われた場合を言うものと解します。
よって、共謀に基づき、一部の者が実行行為を行った場合も、「共同して…実行した」と評せるものと考えられます。
海賊サイトなどにおいて具体的なアップロード行為や配信行為に関与していない者も共謀をもって犯行グループに関わっていた場合、責任を負うことになります。