I2練馬斉藤法律事務所

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希望の壁事件は、「新梅田シティ」内の庭園を設計した著作者が、,著作者人格権(同一性保持権)に基づき,同庭園内に「希望の壁」と称する工作物を設置しようとする債務者に対し,その設置工事の続行の禁止を求めた事案です。

事案の概要

新梅田シティは,「本件土地」上に設置された複合商業施設であり,高層ビルである「梅田スカイビル」を中心に,建物や構造物の底地を除く部分に,緑地,散策路,園風景などで構成された庭園(まとまりとしては2つあり,それぞれ,本件申立ての時点では,「花野/新・里山」,「中自然の森」と称されている。)のほか,噴水(列柱),水路(カナル)などの庭園関連施設(「本件庭園」)が配置されていました。

債務者は,建築家の発案を受け,新梅田シティの敷地内に「希望の壁」と称する巨大緑化モニュメントを設置することを計画し,工事を開始しました。

「希望の壁」は,その計画によると,高さ9.35メートル,長さ78メートル,幅2メートル(プランターや植栽を含めると幅約3メートル。)のコンクリート基礎を有する鋼製構造物であり,本件土地の北東側,大型バス等の駐車場に至る通路と東側道路の間にある既設のカナルの西側にほぼ接するように,花渦の上空をまたぐ形で,南北方向に設置される(既存施設との関係でみると,本件土地のほぼ北端に位置する駐車場進入路の南端から,おおむねスカイビルの北面の延長線上に至る。)ところ、花渦にかかる部分と通路部分には,地面に至る開口部2箇所(高さは前者が3メートル,後者が6メートル)が設けられるほか,地面に至らない中空の開口部が5箇所設けられる構造となっていました。

債権者は、「本件庭園は,本件敷地全体に及ぶことは債権者主張のとおりであり,本件工作物は,一体性のある本件庭園を分断し本件庭園の中心的なコンセプトである水の流れを遮断するものであって,本件庭園に対する重大な改変に該当する。カナルの親水空間を破壊し,花渦を覆うものであるから,債務者主張の,新里山や中自然の森に直接物理的な変更を加えていないことは,改変を否定する事情にならない。面積比から改変の規模が小さいともいえない。なお,同一性保持権は,主観的なこだわりを保護するものであり,債務者主張の改変の程度を問題にするのは妥当でない。」などと主張しました。

裁判所の判断

改変該当性

裁判所は、希望の壁は,カナル西側の通路上に,カナルにほぼ接する形で,かつ花渦を跨ぐように設置されるところ、上記設置場所である通路は,カナルから花渦に至る水の循環を鑑賞し,あるいは散策,休息等をする人が訪れる範囲であるから,庭園及び庭園関連施設と密接に関連するものということができ,著作物としての本件庭園の範囲内にあるというべき」としました。

その上で、希望の壁は,カナル及び花渦に直接物理的な変更を加えるものではないが,本件工作物が設置されることにより,カナルと新里山とが空間的に遮断される形になるとしました。

そして、①このことが、開放されていた花渦の上方が塞がれることになるのであるから,中自然の森からカナルを通った水が花渦で吸い込まれ,そこから旧花野(新里山)へ循環するという本件庭園の基本構想は,本件工作物の設置場所付近では感得しにくい状態となるとしました。

また,②希望の壁は,高さ9メートル以上,長さ78メートルの巨大な構造物であり,これを設置することによって,カナル,花渦付近を利用する者のみならず,新里山付近を利用する者にとっても,本件庭園の景観,印象,美的感覚等に相当の変化が生じるものと思われる。

そして、上記2点から、「そうすると,本件工作物の設置は,本件庭園に対する改変に該当するものというべきである。これが改変に当たらない,あるいは軽微であって同一性保持権の侵害となる改変には当たらないとする債務者の主張は,上記説示に照らし,採用できない」と判示し、改変該当性を肯定しました。

やむを得ない改変にあたる

しかし、下記などのとおり述べて、裁判所は本件希望の壁の設置を適法と結論づけています。

すなわち、本件庭園は,自然の再現,あるいは水の循環といったコンセプトを取り入れることで,美的要素を有していると認められるながら,本件庭園は,来客がその中に立ち入って散策や休憩に利用することが予定されており,その設置の本来の目的は,都心にそのような一角を設けることで,複合商業施設である新梅田シティの美観,魅力度あるいは好感度を高め,最終的には集客につなげる点にあると解されるから,美術としての鑑賞のみを目的とするものではなく,むしろ,実際に利用するものとしての側面が強いということができるとまず、判示しました。

 その上で、本件庭園は,債務者ほかが所有する本件土地上に存在するものであるが,本件庭園が著作物であることを理由に,その所有者が,将来にわたって,本件土地を本件庭園以外の用途に使用することができないとすれば,土地所有権は重大な制約を受けることになるし,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティの一部をなすものとして,梅田スカイビル等の建物と一体的に運用されているが,老朽化,市場の動向,経済情勢等の変化に応じ,その改修等を行うことは当然予定されているというべきであり,この場合に本件庭園を改変することができないとすれば,本件土地所有権の行使,あるいは新梅田シティの事業の遂行に対する重大な制約となる点を指摘しました。

 そして、以上のとおり,本件庭園を著作物と認める場合には,本件土地所有者の権利行使の自由との調整が必要となるが,土地の定着物であるという面,また著作物性が認められる場合があると同時に実用目的での利用が予定される面があるという点で,問題の所在は,建築物における著作者の権利と建築物所有者の利用権を調整する場合に類似するということができるから,その点を定める著作権法20条2項2号の規定を,本件の場合に類推適用することは,合理的と解されると判示しました。

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