著作権侵害訴訟の訴訟物
本項では著作権侵害訴訟の訴訟物について概説しています。
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著作権侵害訴訟と訴訟物
著作権侵害訴訟においては、著作権等侵害に基づく差止請求権や著作権等侵害により成立する不法行為に基づく損害賠償請求権などが代表的なものとなります。
この著作権侵害訴訟において、例えば著作権侵害を主張するときにこれまで主張していたのとは異なる支分権侵害に基づく差止請求を追加する場合、異なる支分権侵害により成立する不法行為に基づく損害賠償請求を交換的に主張する場合など、訴えの変更に当たり送達が必要なのか、請求原因の変更に留まるのか、確定後に別訴は提起できるのかなど、問題となる場合があり得ます。
権利義務の主体による選別
まず、訴訟物は権利義務の主体により選別されます。同種の著作権でも、別の主体に帰属する場合は訴訟物は当然別個となります。例えば、同一著作物を客体とする一つの複製権を共有している場合、それぞれの請求は別主体に帰属する点から別個の訴訟物として計上されます。
審理の客体による選別
次に、審理対象となる権利の種別、請求内容などによっても訴訟物は区別されます。例えば、損害賠償請求か差止請求か、名誉回復措置請求かなどで、訴訟の対象はそれぞれ異なってくることになります。
権利発生の原因となる事実行為による選別
訴訟物は、権利発生の原因となる事実行為ごとに一般的に区別されます。例えば同じ主体の同じ客体に対する不法行為に基づく損害賠償請求権も、異なる行為を問題にしている場合は、異なる行為ごとにひとつの訴訟物と理解します。
著作権の場合、支分権の種類よりも、著作権侵害を構成する行為が異なる行為か、同一の行為かによって、結論を異にする側面が強いようです。例えば、サーバーに無断で画像をアップロードする場合、同一の行為に基づいて複製権と送信可能化権侵害を主張する場合、訴訟物を同一と理解する余地があります。
権利の種類による選別
まず、著作権と著作者人格権は、前者は経済的・財産的権利であり、後者は人格的利益を保護するものであり、権利の種類、性質が明確に異なるため同一主体の同一の事実行為を侵害行為とする請求であっても、訴訟物は異なるものと理解されます。さらに、著作者人格権侵害に基づく精神的損害(慰謝料)と、著作権侵害に基づく精神的損害(慰謝料)も区別され、別々の訴訟物と理解されます。
これに対して、支分権については、複製権侵害の主張を同一の行為に基づく翻案権侵害に変更した場合訴訟物としては同一と扱った例があるように、支分権毎の権利の種類に着目するというよりは、侵害の原因となった事実行為の同一性に着目する側面が強いようです。この観点から、上記ではサーバーに無断で画像をアップロードする場合、同一の行為に基づいて複製権と送信可能化権侵害を主張する場合、訴訟物を同一と理解する余地があると述べています。もっとも、複製権と翻案権ほど、保護利益に共通性がないと捉えれば、同一行為によって生じる別個の支分権侵害についても、訴訟物としては異なると捉える余地もあります。また、同一のトリミング行為に拠って同一性保持権と氏名表示権を侵害する場合は訴訟物は同一とみる余地があります。これに対して、著作物を改変して同一性保持権を侵害したものの、氏名の表示は残存させており、さらに後日氏名の表示も切除したような場合は、侵害行為が事実として異なると捉え得る場合は、訴訟物は別個と捉えられやすいと考えられます。
このように著作権侵害による権利の種類による選別は、著作権と著作者人格権のようにその内容が異なるとして明確に区別対象にする場合と、同じ事実行為から侵害を導いている場合に、支分権毎の侵害の成立については、明確に区別対象とするとまでは言えない場合があり厳密に理論立てて扱われているわけではない側面があります。
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