法律による行政の原理/行政作用の諸形式ー工業所有権(産業財産権)法制を例にして
本記事は、行政法の基本事項である法律による行政の原理や、行政作用の諸形式について、記載しています。また、工業所有権法制を例に挙げてなるべく具体例をイメージしやすくしています。
PR 弁護士齋藤理央は、特許庁に対する不服申立など知的財産権に関連する行政対応業務をはじめとして行政対応業務を取り扱っています。行政対応の代理業務などをお考えの場合は、お気軽にお問い合わせください。
目次
①法律による行政の原理
行政活動は、法律に基づき、法律に従って行わなければなりません。
これを、法律による行政の原理といいます。
立法作用に基づく行政作用の事前拘束と、司法作用に基づく事後的統制が、行政の専横から国民の人権を保護することになります。
なお、司法作用は個人の具体的な権利義務をその対象とする作用です。しかし、司法作用に対して、行政を統制する観点から、主観訴訟の枠組みを超えた、公益の保護を目的とする客観訴訟についての裁定権が与えられる場合があります。
工業所有権法と法律による行政の原理
特許法、実用新案法、意匠法、商標法という工業所有権法四法を例にします。
まず、各工業所有権法が、特許庁に対して出願や審査の方式、要件などを厳格に定めています。特許庁は工業所有権法に定めがあるか、省令などに委任されていない事項や方式で勝手に審査したり、判断をすることができません。これが、明文で定められた『「法律」による行政』の意義です。
さらに、特許庁による審査に不服がある場合、最終的に取消訴訟などを提起して裁判所の司法判断を仰ぐことができます。裁判所が、特許庁の判断が法律に則っているか最終的に判断するのです。
②組織規範・根拠規範・規制規範
ある法律と行政のかかわりに着目して法規を分類するための概念として、組織規範、根拠規範、規制規範の3種類の概念があります。
②-①組織規範
組織規範とは、行政の組織を定める法規範です。法律で定められることが、少なくありません。この組織規範は伝統的な法規概念とはされていません。
②-②根拠規範
行政機関が一定の活動をするために必要とされる、根拠規定を指します。
作用法といわれることもあります。通常、組織規範と根拠規範は分けて制定されますが、一つの法に両者が混在する場合もあります。例えば、自衛隊法は組織規範と根拠規範が混在する例です。
特許法に定められた特許庁による権利付与など工業所有権法は、根拠規範の役割を持っています。
②-③規制規範
ある行政活動を行う場合の、具体的なやり方を定めた法です。すなわち、根拠法により具体化された行政活動の、手続面を統制する法規です。
審査の方式などを定めている工業所有権法も、規制規範としての意味も有します。
③法治主義の3つの内容
法律による行政の原理には、3つの内容が含まれています。すなわち、ⅰ.法律の法規創造力、ⅱ.法律の優位、ⅲ.法律の留保、の3内容です。
③-①法規創造力
法律の法規創造力とは、一定の内容を持った法規の定立は、国会の定立する「法律」によらなければならないとする原理をいいます。すなわち、法律による行政の原理は、法律を定立する機関と、法律を執行する行政機関とが、分立していなければ成立しません。行政が自己を拘束する法規を定立するのでは、法治主義は形骸と化してしまいます。
あくまでも、行政機関とは分離された立法機関が行政を拘束する法規を制定することが、法律による行政の前提となります。
③-②法律の優位
行政は、法律に従わなければならない原則をいいます。法律に従わない行政活動は、法律の優位の原則により、無効とされることになります。
そして、行政の違法行為の無効を担保する制度枠組みが、行政不服審査であり、行政訴訟です。すなわち、行政が法律にしたがっていることを事後的に審査する手続が必要となります。
特許庁の判断に納得がいかない場合、最終的には知的財産高等裁判所に訴訟を提起し、特許庁の判断の過誤を審査してもらうことができます。
③-③法律の留保
法律の留保原則は、ある行政活動を行うには、法律の根拠を必要とする原理です。
通説および行政実務は、全ての作用に法律の留保が妥当するとは解釈していません。すなわち、行政作用の区分に「侵害行政」の概念を使い、「侵害行政」に当たる行為については、法律の留保原則が妥当すると解しています。
これに対して、すべての行政作用に法律の根拠を要するとする、全部留保説もあります。しかし、すべての事項について、法律の根拠を要するとすれば、柔軟な行政活動が阻害されてしまうという懸念もあります。
そこで、「権力的行政活動」という区分概念を創出し、「権力的行政活動」には法律の留保原則が妥当するととく見解や、行政を「重要事項」と、「そうでない事項」に区分し、「重要事項」について、法律の留保を要求する重要事項留保説もあります。
特許庁が工業所有権を国民に付与できるのも、法律に根拠があるからです。また、全部留保説や、重要事項留保説によれば特許庁が法律の根拠なく新たな知的財産権を創出して国民に付与することは、できないということになるでしょう。
注1)法律の留保と法律の優位の関係を考察すると、ⅰ.侵害行政ついては、法律の根拠が必要であり、法律の範囲で行われた行政活動が、法律に反した場合は、法律の優位により、当該行政活動が違法、無効とされます。これに対して、ⅱ侵害行政以外については、法律の根拠は不要です。この場合、Ⅰ法律の根拠無く行政活動が行われた場合、法律の優位も問題とはなりません。しかし、Ⅱ法律が策定されている場合は、法律の留保原則の適用がなくとも、法律の優位の原則は適用され、違法行為は、無効とされます。このように、侵害留保説によりつつ、侵害行政以外の行政作用にも法律を定立して、法律の優位原則による統制を行うことも考えられます。
③-③-①法律の留保と組織法
侵害行政の根拠法規として、組織法を根拠とできるかが、問題となります。最高裁判所は、一斉検問について、組織法たる警察法を根拠規範にできるとしました。
③-③-②緊急行為
侵害行政に当たる以上、たとえば法益保護の緊急の要請がある場合も、法律の根拠が必要となるのでしょうか。たとえば、ヨット係留のための鉄杭が、航行上危険を生じている場合に、法律の根拠無く、鉄杭を撤去する行為は、適法とされないでしょうか。
この点、判例(最判平成3年3月8日-浦安ヨット事件)は、法律の根拠無く行った強制撤去自体は、違法としながら、民法720条の法意に照らし、公金支出の違法性までを導くものではないとしました。すなわち、法律の留保違反が行為の違法を導くが、損害賠償請求権発生させる違法とはまた別意に解する(違法の相対性を認めているとも読める)としています。
③-③-③情報提供
情報提供行為は侵害行政といえない以上、法律の根拠無く行えると理解されます。
例えば、食中毒の原因と目される食材に関する情報提供を行うにあたり、行政が法律の根拠無く情報提供を行えるか問題となり、法律の根拠無く情報提供をできるとした判例があります(東京高判平成15年5月21日-カイワレ大根事件)。
特許庁がウェブサイトなどで情報を提供することも法律の根拠は不要と言えます。
④行政作用の諸形式
行政作用をその有する作用の性質に応じて、分類するのが、行政作用論です。
第一に、抽象的な規範、指針の定立作用があります。これは、定立した規範が法規範として作用し、それゆえに、ある行為規範が、他の者の行為規範と連動する形を採ることが多い、ⅰ.行政立法と、定立した指針が、事実上のものにとどまり、したがって、他の者の行為規範と連動していないであろう、ⅱ.行政計画に分けて捉えられます。
例えば、特許法施行令や特許法施行規則の定立などが行政立法に当たります。
第二に、法律の執行として、権力的行為であり、かつ、その行為に法律上一定の法効果が付与されているⅰ.行政行為と、そのような法的効果を実現する事実行為たる、ⅱ.行政強制(行政罰を含む、行政上の義務履行確保)が挙げられます。両者は、ワンセットでひとつの義務の具体化と実現を志向します。
例えば、特許庁による工業所有権の付与は、行政行為です。
第三に、法効果性を認められない、ⅰ.行政指導および、権力性が認められない、ⅱ.行政契約があります。
最後に、いずれの行為にも先行するⅰ.行政調査という、行為類型も観念されています。
特許庁の審査官の先行調査などは、行政調査にあたるでしょう。
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