平成26年12月11日大阪地裁判決・『コンテンツ提供システム』を巡る[コンテンツ特許裁判例紹介]
平成26年12月11日大阪地裁判決・裁判所ウェブサイト掲載は、コンテンツ提供システムを巡る紛争です。
目次
本件特許について
本件判決書によると本件発明は下記の内容となります。
原告は,次の特許(以下「本件特許」と総称し,請求項1から4の特許を個別には「本件特許1」等という。本件特許にかかる発明を「本件特許発明」と総称し,個別には「本件特許発明1」等という。本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」といい,登録に係る権利を「本件特許権」と総称する。)の特許権者である。
なお,本件特許については,訂正審判請求(訂正2013-390148)がされ,平成26年1月15日付け審決において訂正が認められ(甲65),同審決は確定した。
特許番号 第5131881号
発明の名称 コンテンツ提供システム
出願日 平成24年6月8日(特願2012-130504)
原出願日 平成10年4月14日
登録日 平成24年11月16日
分割の表示 特願2009-271949の分割
特許請求の範囲(訂正2013-390148による訂正後のもの)
【請求項1】
自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェントがユーザにマッチするコンテンツであるか否かを判断し,マッチするコンテンツを該ユーザに提供するコンテンツ提供システムであって,
コンテンツを提供する複数のコンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設置されたコンピュータを備え,
前記コンピュータは,前記ユーザにマッチするコンテンツか否かを判断するのに必要となる当該ユーザのプロフィール情報であって前記コンピュータへ送信されてきたプロフィール情報を,受付けるプロフィール情報受付手段と,
前記コンテンツ提供業者によって提供されるコンテンツであって前記コンピュータへ送信されてきたコンテンツを,受付けるコンテンツ受付手段と,
前記プロフィール情報受付手段により受付けられたユーザのプロフィール情報に基づいて,前記コンテンツ受付手段により受付けられたコンテンツがユーザにマッチするコンテンツであるか否かのマッチング判断を行なうエージェントとを含み,
前記エージェントは,ユーザと前記コンテンツ提供業者とを仲介して両者に代わって仕事を実行するための中立性を有する第三者エージェントで構成され,前記コンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設置された前記コンピュータ内で前記マッチング判断を行なうことにより,前記プロフィール情報受付手段により受付けられたユーザのプロフィール情報を前記コンテンツ提供業者に提供することなく前記マッチング判断を行なってその結果をユーザに提供する,コンテンツ提供システム。
【請求項2】
ユーザの指示を受付けて仕事をするユーザエージェントが受付けた指示内容に基づいてコンテンツの検索を行って検索結果をユーザに提供する検索手段をさらに備え,
前記検索手段は,前記別の機関に設置された前記コンピュータ以外のネットワーク上のコンピュータにおいて記憶されている情報を検索するための制御機能を有する,請求項1に記載のコンテンツ提供システム。
【請求項3】
前記ユーザエージェントは,機械学習機能を有していることを特徴とする,請求項2に記載のコンテンツ提供システム。平成26年12月11日大阪地裁判決・裁判所ウェブサイト掲載 2−3頁
【請求項4】
前記ユーザエージェントは,前記第三者エージェントと協働して仕事を行うマルチエージェントで構成され,
前記第三者エージェントは,前記ユーザエージェントとの協働により前記マッチング判断を行なう,請求項2または請求項3に記載のコンテンツ提供システム。
裁判所の判断
本件判決で裁判所は、「被告物件イ-1ないし3として特定される被告システムは,本件特許の構成要件を充足せず,その技術的範囲に属しないから,原告の請求は理由がないものと思料する」として、本件において被告物件は原告特許権を侵害しないと結論づけました。
争点(1)(被告物件イ-2が,本件特許発明1の構成要件を充足するか)について
裁判所は、争点1について「本件特許の構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュー ルとしてのエージェント」については,他のソフトウェアモジュールとしてのエ ージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエージェントシステム の一部を意味するものと解するのが相当である」として、「被告システムについては,前記2で認定したところであるが,携帯電話等のユ ーザー端末,被告が利用するサーバー群及びコンテンツ提供業者のそれぞれにソ フトウェアがインストールされ,相互に情報のやり取りをする事実は認められる ものの,被告システムのエージェントが,ユーザーのエージェントあるいはコン テンツ提供業者のエージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエ ージェントシステムが構成されている事実は,本件で提出された証拠によっては 認定することができない。 そうすると,被告物件イ-2(iコンシェル)は構成要件A-1を充足せず, 本件特許発明1の技術的範囲に属しないというべきである」として、被告物件は、構成要件Aー1を充足しないと結論付けました。
つまり、原告発明の構成要件A-1は「他のソフトウェアモジュールとしてのエ ージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエージェントシステム の一部を意味するものと解するのが相当である」ところ、被告物件の「エージェントが,ユーザーのエージェントあるいはコン テンツ提供業者のエージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエ ージェントシステムが構成されている事実は,本件で提出された証拠によっては 認定することができない」として、被告物件は原告発明の構成要件を充足しないと結論付けました。
自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェントが(A-1)
ユーザにマッチするコンテンツであるか否かを判断し(A-2),
平成26年12月11日大阪地裁判決・裁判所ウェブサイト掲載 4頁 構成要件A
「本件特許の構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュー ルとしてのエージェント」については,他のソフトウェアモジュールとしてのエ ージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエージェントシステム の一部を意味するものと解するのが相当である」理由
裁判所はまず、「原出願 本件特許の構成要件A-1「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエー ジェント」の意味内容について検討するに,前記3によれば,原出願は,発明 の名称を「マルチエージェントシステム,エージェント提供装置,記録媒体, マルチエージェント運用方法,およびモバイルエージェントシステム」とする ものであって,特許請求の範囲の記載は,請求項1に「独立の知識を持つエージェント同士が協調して動作するマルチエージェントシステム」との文言を含 むものであり,以下の請求項は全てこれを引用するものである」としました。
そして、「前記3によれば,原出願にかかる明細書には,エージェントとは自律的なソ フトウェアモジュールであること,及びエージェント同士が協調して動作する マルチエージェントシステムは従来技術であることを前提に,本発明は,ユー ザ側エージェントと業者側エージェントとに解決できない問題が生ずる場合が あり,かかる課題を解決するために,「当事者の一方または双方が行なうには不 向きな中立性を要する特定の仕事が発生したことを判定する特定仕事判定手段 を含み,該特定仕事判定手段が前記特定の仕事が発生した旨の判定を行なった 場合に,前記当事者双方に対し中立性を有する第三者エージェントが前記特定 の仕事を代理して実行する」旨の発明であることが記載されており,実施例と しても,マルチエージェントシステムの構成を示す説明図が示されている」点を指摘しました。
その上で、「以上によれば,原出願の明細書においては,自律したエージェント同士が, 課題解決のために協調して動作するマルチエージェントシステムにかかる発明 が開示されているものと認められる」としました。
次に裁判所は、「乙7特許も,「ユーザの仕事を代行する自律的なソフトウェア モジュールとしてのエージェントを利用して売買を行なう」際のシステムに関 する発明なのであって,買主たるユーザのためのエージェント及び売主たる販 売業者のためのエージェントが存在することを前提に,これらに対する第三者としての第三者エージェントが規定されているものと理解され,明細書の記載 からもそれ以外の構成が開示されているとは認められない」と指摘しました。
以上の検討を経て、裁判所は、「本件特許発明1(請求項1)には,「自律的なソフトウェアモ ジュールとしてのエージェント」,「コンテンツ提供手段」,「プロフィール情報 受付手段」,「マッチング判断を行うエージェント」,「中立性を有する第三者エ ージェント」,「コンテンツ提供システム」といった構成が使用されており,単 に「マルチエージェント」の言葉が使用されていないことのみを理由として, 複数のエージェントが協働するマルチエージェントシステムの構成が開示され ていないと即断することはできない」と指摘し、「 むしろ,上記のとおり,原出願はマルチエージェントシステムの構成を前提 とするものであるから,その曾孫出願をさらに分割してされた本件特許が,複 数のエージェントの協働という限定のない,単にエージェントの存在のみを内 容とするシステムを権利内容とするとは考え難い(仮にそうであるとすると, 分割要件の問題となるほか,前記3(2)において認定した従来技術との関係にお いて,新規性,進歩性も問題となると指摘しています。
さらに裁判所は、「出願の明細書では,発明の実施の形態として,ゼネラルマジック社が開発した通信用言語であるテレスクリプトによる自律ソフ トウェアとしてのエージェントを採用することなどが記載されているが,その 前後の記載から,これがマルチエージェントシステムの採用を前提とする内容 であることは明らかであるところ,本件明細書にも,前述のとおり,発明の実 施の形態として,ゼネラルマジック社が開発した通信用言語であるテレスクリ プトによる自律ソフトウェアとしてのエージェントを採用することが記載され ており,これによれば,本件明細書は,原出願にかかる明細書同様,エージェ ント同士が協調して動作するマルチエージェントシステムを利用することで課 題を解決するとの構成を開示するものと認められ,本件特許の特許請求の範囲 の文言についても,これを前提に理解すべきものである」としています。
このような点から、裁判所は、「本件特許の構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュー ルとしてのエージェント」については,他のソフトウェアモジュールとしてのエ ージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエージェントシステム の一部を意味するものと解するのが相当である」と結論付けました。
争点(2)(被告物件イ-3が本件特許発明2の構成要件を充足するか)について
裁判所はまず、「本件明細書には,発明を実施するための形態として,ユー ザエージェントは,モバイルエージェントで構成されること,モバイルエージ ェントとは,分散コンピューティング環境における移動性を備えたエージェン トのことであり,ネットワークを介してエージェントがサーバーに転送・処理 されること(リモート・プログラミング)が特徴であること,モバイルエージ ェントが,テレスクリプト・エンジンによって提供される共通動作環境である プレースに移動して,そのプレース上で他のエージェントと協調して相互に動 作して仕事を行ない,問題を解決することが記載されている」ことを指摘します。
そして、「 本件特許発明2については,ユーザーの指示を受けて仕事をするユーザエー ジェントが,受け付けた指示内容に基づいてコンテンツの検索を行い,検索結 果をユーザーに提供するとされる一方,ユーザーのプロフィール情報がコンテ ンツ提供業者に漏洩する不都合を防止できることが発明の効果である旨記載 されているが,このことは,前記4で認定したとおり,本件特許が,複数のエ ージェントが協調して動作するマルチエージェントシステムであること,及び, ユーザー端末(パソコンやスマートフォン)内で動作するユーザエージェント が,他のエージェントが処理を行う場所に移動し,そこで情報処理を行うこと によって実現されるものと解される」とし、「構成要件Fのユーザエージェントは,単にユーザーが使用する 独立したソフトウェアの一種というだけでは足りず,ユーザー端末からネットワ ークを介して他のサーバー等に移動し,そこで情報処理を行うものでなければな らないと解されるが,被告システムについては,前記2で認定した事実を認定し 得るにとどまり,本件で提出された証拠によっては,被告システムを利用する者 のユーザー端末のエージェントが,被告のサーバーあるいはコンテンツ提供業者 のサーバーに移動し,そこで情報処理を行うといった事実を認定することはでき ない」ことを指摘して「被告物件3(しゃべってコンシェル又はiコンシェル)は構成要 件Fを充足せず,本件特許発明2の技術的範囲に属しないというべきである」と結論付けています。
争点(3)及び(4)について
裁判所は、「争点(3)は,被告物件イ-3が,本件特許発明3(請求項3)の技術的範囲に属す るかに関するものであるが,請求項3は請求項2の従属項であるから,被告物件イ -3が請求項2の構成要件Fを充足しないとされた以上,請求項3についても同様 といわざるを得ない」とし「また,争点(4)は,被告物件イ-1(連携サービス)が,本件特許発明4(請求項 4)の技術的範囲に属するかに関するものであるが,請求項4は,請求項2または 3を引用する従属項であり,いずれも間接的に請求項1を引用するものであるから, 既に検討したとおり,被告システムが請求項1及び請求項2をいずれも充足しない 以上,請求項4についても充足しないことは明らかである」と判示しています。
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