iTやコンテンツの法律/知財問題を重視する弁護士です

著作物の複製物について譲り渡したり、貸し渡す行為について頒布権・譲渡権・貸与権の各著作財産権の規定が置かれています。

映画の著作物の頒布権とはどの様な権利でしょうか

著作権法26条は、映画の著作物の頒布権について定めます。

頒布とは、著作物が複製されるなどした有体物の譲渡、貸与を言います。2項においては、映画の著作物に複製されている著作物、つまり、映画の映像の中に移りこんでいる著作物や、映画に挿入されている音楽の著作物などについても、頒布権が認められています。

(頒布権)
第二十六条  著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。
2  著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。

映画の著作物にだけ頒布権が認められるのでしょうか

はい。映画の著作物にだけ頒布権が認められています。映画以外の著作物については譲渡権、貸与権という異なる著作財産権が付与されますのでご注意ください。

著作権法上の貸与の概念は一般的な貸与概念と同じでしょうか

映画の著作物の頒布権や、映画の著作物以外の貸与権で規律される著作権法上の貸与の概念は一般的な貸与の概念と異なるため注意が必要です。

すなわち、著作権法上の貸与には、いかなる法主体によるいかなる法形式であるかを問わず、実質的に貸与と評価できる形式の利用形態を含みます(著作権法2条8項)。

映画の著作物を除いた著作物の譲渡権はどの様な権利ですか

著作権法26条の2は同法26条で頒布権が認められている映画の著作物を除いた映画の著作物以外の著作物について、著作(権)者が譲渡権を有することを定めています。

つまり、映画の著作物については26条によって、映画以外の著作物については26条の2第1項によって、著作権者は、他者が著作物の現作品乃至複製物などの著作物が化体した有体物の譲渡を行うことを禁止する権利を付与されています。

譲渡権や頒布権は消尽するのですか

明文や判例によって譲渡権や頒布権は一定の場合消尽します。

そもそも消尽とはどの様な状態でしょうか

一定の要件を満たした譲渡や頒布行為について著作権が及ばなくなります。言い換えれば、著作権者の許諾がない場合でも、一定の要件を満たす譲渡や頒布を自由に行うことができます。

映画の著作物を除いた著作物の譲渡権は消尽するのですか

権利者乃至はその許諾を得た者から公衆に一度譲渡された場合、譲渡権は消尽し、買い受けた公衆においては、買い受けた現作品乃至複製物その物に限っては、今後、誰に対しても自由に譲渡し得ることになります(著作権法26条の2第1項)。

したがって、新書で購入したコミックスや本を古書店などに中古品として売る場合や、古書店などから中古品を買うことは、基本的に譲渡権を侵害しないことになります。

 (譲渡権)
第二十六条の二  著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。

2  前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
一  前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物
二  第六十七条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定又は万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律 (昭和三十一年法律第八十六号)第五条第一項 の規定による許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
三  第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
四  前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物
五  国外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品又は複製物

映画の著作物の頒布権も消尽しますか?

映画の著作物については、譲渡権の消尽について、明文規定がありません。

しかし、映画の著作物の一類型と解されるゲームソフトについて、著作権の効力が消尽するとした最高裁判例があります(最判平成14年4月25日・ 民集第56巻4号808頁(中古ゲームソフト事件)。

すなわち最高裁判所裁判例は、「本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については,市場における商品の円滑な流通を確保するなど,上記(ア),(イ)及び(ウ)の観点から,当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡されたことにより,その目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである」と判示しています。

また、著作権法26条の2第2項との関係については、「なお,平成11年法律第77号による改正後の著作権法26条の2第1項により,映画の著作物を除く著作物につき譲渡権が認められ,同条2項により,いったん適法に譲渡された場合における譲渡権の消尽が規定されたが,映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから,譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととされ,同条2項において,上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって,同条1,2項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない」と判示しています。

映画の著作物を除いた著作物の貸与権はどの様な権利でしょうか

著作権法26条の3は同法26条で頒布権が認められている映画の著作物を除いた映画の著作物以外の著作物について、著作(権)者が貸与権を有することを定めています。

つまり、映画の著作物については26条によって、映画以外の著作物については26条の3第1項によって、著作権者は、他者が著作物の複製物などの著作物が化体した有体物の貸与を行うことを禁止する権利を付与されています。

 (貸与権)
第二十六条の三  著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。

実演家の譲渡権・貸与権の内容とその制限を教えてください

実演家はその実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有します(著作権法95条の2第1項)。

録音とは、音を物に固定し、又はその固定物を増製することを言い(著作権法2条1項13号)、録画とは映像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することを言います(同14号)。

但し、実演家の譲渡権は、録音権、録画権を有する者が録音、録画した録音物、録画物には及びません(著作権法95条の2第2項1号)。

さらに、実演家の録音権、録画権は、録音権者、録画権者の許諾を得て映画の著作物に録音され、又は録画された実演についてはこれを録音物に録音する場合除き、行使できません(著作権法91条2項)。

したがって、録音権者、録画権者の許諾を得て映画の著作物に録音され、又は録画された実演についてはこれを録音した録音物を除いては、譲渡権を行使できません(著作権法95条の2第2項2号)。

実演家の譲渡権についても消尽規定が置かれています(著作権法95条の2第3項)。

さらに、実演家には実演が録音されている商業用レコードについて原則的に貸与権を有します(著作権法95条の3第1項)。

レコード製作者の譲渡権・貸与権の内容を教えてください

レコード製作者は、その製作にかかるレコードを複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有します(著作権法97条の2第1項)。消尽に関する規定も、法定されています(同2項)。

また、レコード製作者は、その製作にかかるレコードの貸与権も専有します(同97条の3第1項)。

映画の著作物を除く著作物の譲渡権について善意者に係る特例について教えてください

映画の著作物の複製物を除いて、著作物の原作品乃至は複製物、実演の録音物若しくは録画物、又はレコードの譲渡を受けた際に、権利の消尽が生じていないことを知らず、かつ、権利の消尽が生じていないと信じたことについて過失がない場合は、本来的には譲渡権の侵害になる著作物の原作品乃至は複製物、実演の録音物若しくは録画物、又はレコードの公衆への譲渡行為も、特例により権利を侵害する行為でないものと看做されます(著作権法113条の2)。

TOP