iT、コンテンツ、情報やエンターテイメント分野において生じる法的課題解決を重視しています

依拠性・類似性

複製行為について、昭和53年 9月 7日最高裁第一小法廷判決( 昭50(オ)324号 著作権不存在等確認及び著作権損害賠償請求事件(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件))判例は、「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべき」であると判示しています。

このように、複製行為は、①既存の著作物に依拠していること、②依拠した既存著作物の内容及び形式を覚知するに足るものを再製すること、を意味します。

また、翻案行為について、平成13年 6月28日最高裁第一小法廷判決(平11(受)922号 損害賠償等請求事件(ブダペスト悲歌事件(江差追分事件)・上告審))は、「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」と判示しています。

このように、翻案行為は、①既存の著作物に依拠していること、②依拠した表現の本質的表現を維持していること、③依拠表現に修正、増減、変更等を加えていること、④加えた変更等が新たな創作的な表現といえること、という4つの要素に分解して把握することができます。もっとも、③依拠表現に修正、増減、変更等を加えていること、④加えた変更等が新たな創作的な表現といえることという2点は、翻案行為か複製行為かを区分する分水嶺に過ぎません。①と②の要件を満たしている場合、③、④の要件を満たせば翻案権侵害が成立し、③及び④の要件を満たさなければ複製権侵害が成立する、に過ぎないことになります。

侵害において、枢要部分は、①既存の著作物に依拠していること(①依拠性)、②㋐依拠した既存著作物の内容及び形式を覚知するに足るものを再製すること、②㋑依拠した表現の本質的表現を維持していること(②(同一性・)類似性)という2つの要件充足性ということになります。

このように著作権侵害において、依拠性と(同一性・)類似性が問題となります。

類似性の問題は、侵害著作物と、被侵害著作物が、類似していること、侵害著作物から、被侵害著作物の本質的特徴を感じ取ることができるか、という問題に帰着します。

依拠性の問題は、侵害著作物が被侵害著作物を模倣して作られているか、という問題です。(侵害とされる)著作物がオリジナル(独自創作)であり、依拠性が認められない場合は、同一の著作物であっても、侵害は認められないことになります。

また、類似性と依拠性の問題は、完全に切り離せる問題ではありません。同一の著作物が偶然生まれる可能性は低いため、著作物が酷似すれば酷似するほど、依拠性の首肯につながります。また、依拠性に争いがないのであれば、一定程度、類似性を推認することも出来る場合も想定できるところです。

依拠性

依拠性の要件においては、侵害著作物と被侵害著作物に一定の類似性が認められ、かつ、侵害著作物組成者が、被侵害著作物にアクセスする蓋然性が認められれば、事実上推定されると考えられています。したがって、この場合、独自創作の抗弁を訴訟当事者が主張、立証しなければ、依拠性は否定されないと考えられます。あるいは、侵害著作物は独自に創作したものであり、被侵害著作物に依拠していない旨の積極否認を奏功させなければ、依拠性は否定されないと考えられます。

翻案と類否

翻案した著作物の場合、あらたに創作的表現が付加されるため、翻案後の著作物(2次的著作物)に、原著作物の本質的特徴が残存しているか(類似性を肯定できるか)が問題となります。本質的特徴がもはや残存していないのであれば、類似性は肯定されず、依拠性を判断する必要もないということになります。2次著作物に付加された創作性により、原著作物の創作性は薄まれこそすれ、濃くなることはないわけですから、原著作物における創作的表現は、2次著作物に残存した本質的特徴と大小関係にあるという指摘も存します。

類似性と要件事実

侵害著作物と被侵害著作物の類似性(本質的特徴の残存性)は、過失や故意のように、抽象的な要件事実と考えられます。そこで、侵害を主張する訴訟当事者においては類似性を基礎づける評価根拠事実を主張立証し、侵害を否定する当事者においては類似性を否定する評価障害事実を抗弁として主張立証することになる、とも捉え得ます。

依拠性と類似性の関係

類似性の要件については、上記のとおり、侵害を主張する訴訟当事者においては類似性を基礎づける評価根拠事実を主張立証し、侵害を否定する当事者においては類似性を否定する評価障害事実を抗弁として主張立証することになる、とも捉え得ます。

依拠性の要件については、侵害を主張する訴訟当事者においてアクセス蓋然性と、類似性を主張立証すれば、独自創作の抗弁、あるいは理由付き否認を、侵害を否定する当事者において奏功させなければならないことになるとも捉え得ます。

よって、侵害を主張する訴訟当事者において①類似性を基礎づける評価根拠事実と、②アクセス蓋然性を主張立証し、これに対して、侵害を否定する当事者においては㋐類似性を否定する評価障害事実、㋑独自創作の抗弁、あるいは理由付き否認を奏功させることを志向することになると考えられます。

  侵害を主張する訴訟当事者侵害を否定する当事者
類似性 ①類似性を基礎づける評価根拠事実 ㋐類似性を否定する評価障害事実
依拠性 ②アクセス蓋然性(及び①) ㋑独自創作の抗弁、あるいは
独自創作に基づくため依拠していないという理由付き否認

Ai生成物と依拠性及び類似性について

Aiが生成した画像や文章などの生成物と既存の作品の間に類似性が認められない場合は格別著作権との関係で問題は生じないことが想定されます。

反面、Aiが生成した画像や文章などの生成物と既存の作品が類似していた場合、著作権侵害の成否について依拠性が問題となり得ます。

この場合、一つの考え方は単純にAiによる機械学習の過程で表現の本質的特徴が維持されているのか、或いは表現の本質的特徴は維持されずに連続性が切断されているのかを判断のポイントに据える考え方でしょう。

つまり、既存の作品とAi生成物の間に類似性が認められるケースでも、Aiによる生成の過程で一旦表現の本質的特徴の切断があったのか、あるいは生成過程においても間断なく表現の本質的特徴が維持されていたのかがポイントとなり得ます。

Ai生成画像を巡る著作権侵害訴訟等との関係ではこの連続性(或いは連続性の切断)についての立証責任を画像生成者やAi開発元が追うのか、権利者側が負うのかは、今後重要なファクターとなってくるかもしれません。

TOP