翻案権
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有します(著作権法27条)。この権利を、翻案権と言います。
この翻案行為について、平成13年 6月28日最高裁第一小法廷判決(平11(受)922号 損害賠償等請求事件(ブダペスト悲歌事件(江差追分事件)・上告審))は、「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」と判示しています。
このように、翻案行為は、①既存の著作物に依拠していること、②依拠した表現の本質的表現を維持していること、③依拠表現に修正、増減、変更等を加えていること、④加えた変更等が新たな創作的な表現といえること、という4つの要素に分解して把握することができます。
そのうえで、同判例は、「そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である」と判示しています。
この判例は、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物を」、2次的著作物と定め(著作権法2条1項11号)た、著作権法との適合性も意識していると考えられます。
翻訳行為
翻訳行為は基本的に言語の著作物を、英語から日本語に変換する場合のように、他言語から他言語に、変更を加えることを指していると考えられます。すなわち、上記要件のうち、③依拠表現に修正、増減、変更等を加えているという要件を、③´依拠表現を構成している言語を、他の言語体系に置き換えて変更を加える場合に置き換えます。この場合が、翻訳行為に当たると考えられます。
翻案行為のうち、翻訳行為には万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律等の適用があります。
本質的特徴の維持とは
本質的特徴が維持されていない場合は、翻案行為に該当しません(上記最高裁判例など参照)。この表現の本質的特徴については、実質的にアイディアの保護にまで踏み込むものなのか、あくまで形式的な表現にとどまるのか、という問題があります。
特に翻訳行為のように、異なる言語体系に返還されて、表面的・形式的にはまったく表現上の特質が勘案できない場合にも、元の著作物を翻訳したという経緯に照らして翻案権の一に含まれる翻訳行為該当性を見出していくことに照らして、表現の本質的特徴を単に表面的・表現形式的な特徴と意味づけることには限界があると帰結も導け得ます。この意味で、表現の本質的特徴という概念は、著作権が保護する対象が、単純な表現形式とか、表現の表面だけに留まっていないことを意味しているとも考えられます。