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日本の著作権法にフェアユース規定はありません。また,下級審において判例上もフェアユースの抗弁は否定されています(東京地方裁判所判例平成7年12月18日ラストメッセージIN最終号事件等)。
フェアユース規定とは,一般的な著作権の制限条項を指します。
すなわち,行為類型が具体化されることなく,公正な著作物の利用という抽象的な態様で,著作権の制限を適法とする規定等を指します。
日本の著作権法は,第2章第3節第5款,第30条以下において,種々の著作権制限規定を置いています。私的使用のための複製(著作権法30条)や,引用(著作権法32条)など著作権が制限される行為類型を個別具体的に定めて,権利者と,利用者の利益の調整を図っています。このような個別具体的な権利制限規定の他に,事案ごとの事情を考慮して著作権侵害に当たるか否かを判定できるフェアユース規定を導入すべきとの議論がありますが,日本ではまだ法制化されるに至っていません。
フェアユース規定には,法制化が追いつかないたとえばインターネットの急速な発展のような場合に,司法が事案に応じた柔軟な解決を導けるとの指摘がある一方、抽象的なフェアユース規定を導入すれば,著作権保護があいまいになってしまうという指摘もあります。また、司法の場で適法とすべき制限類型が創出されることから,立法が解決すべき課題を司法の場に移すもので望ましくないという指摘もある一方、ロビイング活動などで一部権利団体の利益が反映しやすい著作権法において,適切な利用者の保護を司法の場で図ることが出来るとの指摘もあります。
著作権法32条1項は,「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定めます。「公正な慣行に合致」「目的上正当な範囲内」というやや抽象的な規範が置かれていることから,同項をもって日本のフェアユース規定として利用すべきとの見解もあります。しかし,同項は「引用」という類型を定めており,「公正な慣行に合致」「目的上正当な範囲内」という文言も、文理上,引用の態様にかかった文言であることには注意が必要です。

 

また、平成30年著作権法改正により、フェアユースに近い、柔軟な権利制限規定が創設、導入されました。当該規定により、より権利者と利用者の利害調整が適切に行えるうえ、重要となってくるものと思われます。

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