キルビー事件判例
特許法123条1項は,特許無効事由を定め無効事由がある場合特許無効審判を請求できる旨を定めています。
では,特許権を侵害したとして訴訟を提起された場合,特許無効審判を提起しなければ,相手方の特許権が無効であることを理由に差し止めや損害賠償を免れることは出来ないのでしょうか。
この点,判例(最高裁判所第三小法廷判決平成12年4月11日キルビー事件)は,特許に無効理由が存在することが明らかである時は,特段の事情のない限り,請求は認められないものと判示しました。
特許法104条の3
そして,キルビー事件判決を受けて立法的解決がなされ,特許法104条の3が新設されるに至りました。特許法104条の3第1項は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない」と定めます。
すなわち,当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは権利を行使することができないことが明文化されました。
権利行使阻止の抗弁に対する再抗弁
特許に無効理由があるとしても,訂正によって無効理由が解消される場合,当該特許は訂正後有効となります。この場合,キルビー事件で述べられた特段の事情の一つとして,訂正により特許が有効となることを再抗弁として述べることが出来ます。
審理遅延目的の場合
特許法104条の3第2項は,「前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる」と定めます。この条文は,「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」等と定める民事訴訟法157条の規定の特則で,特許法上の権利行使阻止の抗弁が濫用される惧れなどに配慮して,民事訴訟法上の信義則の表れである民事訴訟法157条の要件を緩和しているものと解されます。