「インラインリンク」とは,ユーザーの操作を介することなく,リンク元のウェブページが立ち上がった時に,自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて,リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう(「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(平成27年4月経済産業省,ⅱ.9頁)と定義されるリンク態様です。
目次
リンクとは
経済産業省は「通常の方式で設定されたリンク」とは、「ユーザーがリンク
元に表示された URL をクリックする等の行為を行うことによってリンク先
と接続し、リンク先と接続することによってリンク元との接続が切断され
る場合のリンク」をいうものとしています。
インラインリンクは、リンクを応用した技術ということができます。そして、インラインリンクに用いられるリンクは、URLをクリックする等の行為を行うことなくリンク先と接続することが特徴と考えられます。この点に鑑みてインラインリンクに利用されているリンク技術を、オートマティック(自動)リンク※と呼ぶこととします。
※オートマティックリンクは、欧州最高裁法務官意見に記載がある言葉ですが、必ずしもここで述べるオートマティック(自動)リンクの意味で使われていないことにはご注意ください。適当な言葉が見つからないということと、インラインリンクに利用されているリンクの特徴を端的に表していることから、便宜的にオートマティック(自動)リンクと呼称しています。
クライアントコンピューターとサーバーコンピューター
このインラインリンクの概念を理解するために重要なのが、クライアントコンピューターとサーバーコンピューターの整理です。
クライアントコンピューターとサーバーコンピューターとは
インターネットは、複数のコンピューターの間でデータのやり取りをする点に特徴のひとつがあります。そうすることで、世界中の様々な情報を瞬時に手元のコンピューター(クライアントコンピューター)で参照することができます。
このとき、手元のコンピューター同士でデータをやり取りするのではなく、常時インターネットに接続されており、さらに大量のデータを自動で送受信する仕組みが必要となりました。この役割を担っているのがサーバーコンピューターです※。
※サーバーコンピューターは複雑な処理を実行するためにコンピューターが割り当てられていますが、仮に複雑な処理を必要としないのであれば、遠隔地に置かれた単なる記憶領域などでも最低限のことはできるかもしれません。
現代のインターネットの仕組みにおいては,サーバーコンピューターからクライアントコンピューターへのHTMLや,JPEGなどの各種ファイルの送信の間に様々な中継・経由地点が存在することも多いようです。しかしここでは単に,JPEG等ファイルが保存され,JPEGデータ送信の大元となるコンピューターをサーバーコンピューターと呼び,サーバーコンピューターから最終的にファイルを受け取り,画像等を展開する各種ユーザーのコンピューターをクライアントコンピューター(スマートフォン,デスクトップ,ノートパソコンなど個人が用いる各種デバイス。)と呼ぶことにします。このサーバーコンピューターとクライアントコンピューターの間の通信を規律する代表的な通信プロトコルが、HTTP(S)です。
これに加えて、サーバーコンピューターにデータを送信するのも、受信するのもクライアントコンピューターということになりますが、サーバーコンピューターにデータをアップロードする際のクライアントコンピューターを発信装置と呼称し、受信するクライアントコンピューターを、受信装置と呼ぶことがあります。
このように、クライアントコンピューターの役割に応じた分析は議論を整理するうえで重要と考えられます。
SRC属性によるリンク
インラインリンクは、起草者マークアンドリーセン氏の構想に基づいて、HTMLにおいては、<img src=〇〇>というタグで実現されます。
埋込コンテンツ(インラインリンク)を実現する技術的手段として、ウェブサイトではHTML言語においてSRC属性によりリンクを生成しています。これに対して所謂通常のリンク(ハイパーリンク)においては,HTML上,HREF属性によってリンクが生成されることになります。
SRC属性を用いたインラインリンクは,HTTP(S)通信によりURLで特定されるファイルをクライアントコンピューターに送信する通常の意味のリンク作用に加えて、別エントリで述べる通り,同一,或いは異なる場所のサーバーに別に保存された複数のファイルをクライアントコンピューターに送信し,複数のファイルをクライアントコンピューターで結合(リンク)して一つのファイルを形成するという,プログラミング用語としてのリンクに近い現象を生じます。
すなわち、HREF属性のリンクにおいては,サーバーコンピューターからクライアントコンピューターへの指定ファイルの送信が行われていないが,SRC属性のリンクにおいては,サーバーコンピューターからクライアントコンピューターへの指定ファイルのデータ送信(独自のHTTP通信)が不可避に発生しているという,大きな違いがあります。リンクを指示したソースファイルと画像ファイルはクライアントコンピューターで結合されることになるのです。
ハイパーリンクとの対比的検討
この、ハイパーリンクとインラインリンクを対比的に検討したいと思います。
HTML(エイチティーエムエル,HyperText Markup Language)は,ウェブページを作成するために開発された言語で,インターネット上で公開されているウェブページのほとんどは,HTMLで作成されたソースをクライアントコンピューターに送信したうえでクライアントコンピューターにインストールされたブラウザソフトに解析させることで,企図した動作をクライアントコンピューターに指示しています。
ウェブサイトにおいても,クライアントコンピューターに<img src=○○(画像ファイルURL)>というHTML言語におけるSRC属性でのリンクが自動生成されることになります。そしてこのSRC属性の記述がクライアントコンピューター上のブラウザソフトに指令を与えることで,クライアントコンピューター上におけるインラインリンク形式の画像表示を実現しています。
SRC属性とHREF属性の一番大きな違いは,SRC属性においてはクライアント側の操作がなくとも指定ファイルがクライアントコンピューターに送信されるのに対して,HREF属性においてはクライアントの操作を経て初めてリンク先URLにおいて指定されたファイルがクライアントコンピューターに送信される点にあります。
すなわち,HREF属性のHTML記述に対しては,URLが参照され,クライアントにおいて該当URLをクリックすることで,ブラウザ上にリンク先URLで指定されたファイルが送信され,送信されたファイルがクライアント・コンピュータ上のブラウザにより解析されクライアント・コンピュータ上に展開します。
所謂「参照」の意味に近い,ウェブサイトにおける通常のリンク方式がこれに当たります。これに対して,SRC属性においては,クライアント側のクリック操作を経ることなく,指定URLに保存されたファイルがサーバーからクライアントコンピューターに送信されてクライアントコンピューターのブラウザにおいて解析され,クライアントコンピューター上で展開されることになります。
SRC属性のリンクは,クライアントコンピューターにおいてリンクされたファイル送信をサーバーコンピューターにリクエストします。
そして,送信されたファイルはさらに,先に読み込まれたソースの指示にしたがって,クライアントコンピューター上にサーバーコンピューターから送信されます。そして,クライアントコンピューターにおいて画像ファイルを受信後,さらにソースの指示にしたがって画像ファイルをクライアントコンピューターに表示します。したがって,SRC属性で指定された画像ファイルは,リンク生成者の意図に従ってサーバーコンピューターからクライアントコンピューターに送信され,クライアントコンピューターにおいてソースプログラムと結合(リンク)される、というのが実態に近い現象です。
この意味で,SRC属性を指定したソースコードと指定された画像等ファイルの関係は,プログラム用語に言う結合として「リンク」されているという意味に近い作用を包含しています。画像ファイルをソースファイルに「埋め込ん」で、1つのファイルないしプログラムをクライアントコンピューターに生成するイメージです。
インラインリンクの始祖イメージリンク「IMGタグ」
imgタグは、html1.0で追加されました。ここでのhtml1.0は1993年6月に公表された仕様書を意味しています。
imgタグ追加の提案と、提案に対するいくつかの意見と議論は、インターネット上でアーカイブされています。アーカイブは、今日でもウェブ上で確認することができます。
imgタグはマークアンドリーセン氏の提案でした。上記のとおり、マークアンドリーセン氏のimgタグに関する提案を反映して、1993年に発表されたhtml1.0には、imgタグが採用されています。
また、imgタグを提案したマークアンドリーセン氏は、同年、インターネット普及の土台となったとも言われるWebブラウザ、NCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク)を発表しています。
このように、1993年に、マークアンドリーセン氏の提案を受けてhtml1.0にimgタグが加えられ、さらに同年において、同氏の手によってimgタグを実装したウェブブラウザも誕生しています。
このimgタグによるsrc属性によるソースのURI指定こそが、代表的なインラインリンクの場面となります。
インラインリンク実例
冒頭のアイキャッチ画像は、弊所ウェブサイト画像サーバーにアップロードされています。これに対して、下の画像は、大手SNSにアップロードした画像に対するインラインリンク表示です(お使いのクライアントコンピューターによっては、サイト管理システムのサーバー画像が表示される場合があるようです。)。
©️i2nerimasaitoL/o pic.twitter.com/Z3ObTqmzaP
— 弁護士齋藤理央 (@I2nslawoffice) 2019年5月19日
インラインリンクを用いたウェブサイト扉ページ
インラインリンクを利用して、大手SNSに投稿された画像データを利用した扉ページを作成しました。
デモページ1は、imgタグでインラインリンクを貼った、大手SNS投稿画像を表示しています。
デモページ2は、CSSのバックグランド要素にインラインリンクと同じ原理で大手SNSに投稿された画像を呼び出して、背景画像としてリピート表示しています。
ブラウザの歴史
インラインリンクとは、何か。
インラインリンクの疑問を解くために、まずは、ブラウザの歴史を振り返る必要があります。
なぜ、インラインリンクの話をするために、ブラウザの歴史を遡る必要があるのでしょうか。
実は、インラインリンクは、ブラウザの歴史的転換点になった技術であり、ブラウザ史という視点からも非常に重要な位置付けを与えることができます。
1990ー1年、ティム・バーナーズ・リーが、世界最初期のWebブラウザ、[WorldWideWeb](「ワールドワイドウェブ」)を開発しました。
このウェブ(W3)と同じ名前を持つ世界最初期のブラウザ「ワールドワイドウェブ」においては、「画像」と「テキスト」はバラバラに表示されていました(※1)。
テキストと画像を別々に表示されるのが閲覧の上で一定の不便を生じていたことは想像に難くありません。
そこで、テキストと画像を同時に表示したいという欲求が生まれたのは自然なことと考えられます。
この画像とテキストを同時に表示したいという課題を解決するための新しい技術を提案をし、それを実現する者が現れました。
後にインターネットの爆発的な普及を招いた、革新的Webブラウザ「NCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク)」の開発者、マーク・アンドリーセン氏です。
同氏のIMGタグに関する提案は、今日でもウェブにアーカイブされています。
マーク・アンドリーセン氏の提案において、同氏は、 「新しいタグ:IMG」と題し、「 新しいオプションのHTMLタグを提案したいと思います」(※2)と切り出しています。
続けて同氏は、以下のとおり述べて、新しいタグ、IMGについて紹介しています(※2)。
必須の引数はSRC = “url”です。 これは、ブラウザがネットワーク上から引用しようとするビットマップまたはピックスマップファイル を画像として解釈し、テキストの中のタグの位置に埋め込みます。
例は次のとおりです。<IMG SRC = “file://foobar.com/foo/bar/blargh.xbm”>
(終了タグはありません;単なる単体タグです)。 このタグは、例えばアンカーのように、埋め込むことができます。
この、アンドリーセン氏の提案を組み込んだNCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク)が、今日のインターネットの一般への爆発的な普及の一因となったと言われています。
このように、マーク・アンドリーセン氏のIMGタグの構想を含んだ革新的Webブラウザ「NCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク)」は、今日のWebブラウザの基礎を築きました。実際にも、マーク・アンドリーセン氏は、後のネットスケープコミュニケーションズ社となるモザイク・コミュニケーションズ社を立ち上げています。そして、同社はNetscape Navigator (※3) を開発しています。
また、NCSA は NCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク)のライセンスをスパイグラス社に与えています。
さらにスパイグラス社からライセンスを受けたのは、かのマイクロソフト社です。
マイクロソフト社は、NCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク) のコードを元に Internet Explorer (インターネットエクスプローラー)を開発しました。
Internet Explorer (インターネットエクスプローラー)は、今日でもよく使われるWebブラウザです。
このように、現代のWebブラウザの基礎となったのがNCSA Mosaic (エヌシーエスエー・モザイク)であり、mosaic普及の一因となったのが、マークアンドリーセン氏の発案したIMGタグ、つまり、インラインリンクの技術といっても過言ではないのです。
テキストと画像を同時に表示するWebブラウザの登場により、ウェブサイトに雑誌と同等のメディアとしてのポテンシャルが与えられたといっても過言ではないと言えます(※4)。
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※1 なお、後にWebブラウザ、「ワールドワイドウェブ」も画像とテキストの同時表示機能を獲得するに至ったようです。
※2 英訳は弊所で付したものです。
※3 Beta 版では Mosaic Navigator。
※4 今日において、ウェブサイトなどデジタル媒体が雑誌などのこれまでの代表的メディアに取り変わろうとしている現実があります。