弁護士等の業務広告に関する規程(平成十二年三月二十四日会規第四十四号)は、弁護士の業務広告について、弁護士の品位の保持や依頼者の保護と業務広告の必要性の調整を図り、一定の広告規制をおいています。
(禁止される広告) 第三条
弁護士等は、次に掲げる広告をすることができな い。
一事実に合致していない広告
二誤導又は誤認のおそれのある広告
三誇大又は過度な期待を抱かせる広告
四困惑させ、又は過度な不安をあおる広告
五特定の弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士若し くは外国法事務弁護士法人又はこれらの事務所と比較 した広告
六法令又は本会若しくは所属弁護士会の会則若しくは 会規に違反する広告
七弁護士等の品位又は信用を損なうおそれのある広告
(表示できない広告事項) 第四条
弁護士等は、次に掲げる事項を表示した広告をす ることができない。
一訴訟の勝訴率
二顧問先又は依頼者。ただし、顧問先又は依頼者の書面による同意がある場合を除く。
三受任中の事件。ただし、依頼者の書面による同意が ある場合及び依頼者が特定されず、かつ、依頼者の利益を損なうおそれがない場合を除く。
四過去に取り扱い、又は関与した事件。ただし、依頼 者の書面による同意がある場合及び広く一般に知られ ている事件又は依頼者が特定されない場合で、かつ、 依頼者の利益を損なうおそれがない場合を除く
弁護士等の業務広告に関する規程(平成十二年三月二十四日会規第四十四号)
また、規定の解釈指針は、業務広告に関する指針(平成24年3月15日理事会議決)に述べられています。
事件に関する情報発信と規程4条
事件に関する情報発信は、指針において「弁護士…の守秘義務にかかる事項であり、依頼者の同意なくこれを表示することは…法令に違反する広告に該当し、規程第3条第6号に違反する」と説明されています。このように事件に関する情報発信が規制される根拠は守秘義務にありますので、守秘義務に反する情報発信は弁護士法に違反し、よって規程第3条6号及び4条に反するということになりそうです。
※上記指針は、例えば「屋外広告物は、美観風致の面から屋外広告物法(昭和24年法律第18 9号)及び観光立国推進基本法(平成18年法律第117号)並びにこれ らに基づく各都道府県の条例により、安全性の面から道路交通法(昭和3 5年法律第105号)及び道路法(昭和27年法律第180号)により、 防火・構造の面から建築基準法(昭和25年法律第201号)により、広 告物又は広告物を掲出する物件の距離、間隔、高さ、面積、形状、色彩、 素材、場所等が細かく規制されており、これらに違反するときは、法令に 違反するものとして、規程第3条第6号に違反することとなること」と示すなど規程3条6号により広告の種類によって適用される関係法令の遵守などが求められていることを明らかにしています。
書面による同意
同意があれば同意のあった範囲で守秘義務は解除されるため、法令違反の問題を回避できます。
指針において、「書面による同意は、守秘義務に関して無用な争いが生じることを避けるため、同意の範囲、有効期限その他必要な事項を明示して得なければならない」とされています。
このように、どこまでを同意し、その期間はいつからいつまでなのか書面によって定めておくことが要請されています。
依頼者が特定されない場合
指針において、「依頼者が特定されない場合でかつ依頼者の利益を損なうおそれがない場合とは、例えば、集団訴訟事件で、原告団への加入を呼びかける必要があるにもかかわらず、依頼者が多数で既に委任を受けている依頼者の個別の同意を得るのが困難な場合等、依頼者が特定されることなく広告することが可能であり、かつ、依頼者の利益にも合致すると思われる場合をいう」とされています。
この場合において、「依頼者が特定されずかつ依頼者の利益を損なうおそれがない場合か否かについては、単に依頼者名が表示されていないというのみではなく依頼者が実際に特定されていないか等、個別具体的に判断する」とされていますので、形式的に氏名が表示されていないだけでは足りず、他の情報と照合してどこの誰かわかる場合は問題があるということになりそうです。
広く一般に知られている事件
「広く一般に知られている事件」とは、「既に判例集、新聞、雑誌等で広く公表されている事件であり、守秘義務違反となるおそれが低いものをいう」と指針で言及があります。
一般に知られている場合は、すでに秘密性が失われているため基本的には守秘義務は問題とならないことになります。
弁護士の守秘義務とは
守秘義務はまず、弁護士法に定められています。
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法23条(秘密保持の権利及び義務)
また守秘義務違反の点について下記の裁判例があります(ただし下線は弊所)。
弁護士が秘密保持義務に違反するためには、職務上知りえた秘密があること、その秘密を正当な事由がないのに未だ知らない第三者に知らしめることの二要件を必要とし、その要件の有無は一般的、抽象的に判断できるものではなく、個別的、具体的に判断すべき性質のものであるから、刑事事件の弁護人が当該事件の被害者から訴訟委任を受けた場合であつても、右弁護士に前記二要件が当然に随伴するということはできないので、右受任行為が直ちに弁護士法二三条に違反するとはいえないし、またそのおそれがあるということもできない。
仙台高等裁判所判決昭和46年2月4日・判例時報630号69頁
さらに、弁護士職務基本規定において守秘義務の条項があります。
弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない
弁護士職務基本規程 平成十六年十一月十日会規第七十号
第二十三条(秘密の保持)
秘密の意義
秘密とは,世間一般に知られていない事実で,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(主観的意味の秘密)に限られず,一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項(客観的意味の秘密)を意味すると解される。
大阪高裁判決平成19年 2月28日・判例タイムズ 1272号273頁
秘密とは主観的意味の秘密のほか、客観的な意味の秘密の双方を含むと考えられています。
秘密とは,一般に知られていない事実であって,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質の事項と一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項の双方をいう。
大阪地裁判決平成21年 12月4日・判例時報 2105号44頁
大阪地裁の上記裁判例は、上記の規範を「依頼者と弁護士との間の委任関係の存否に関する事実は,依頼者が法的紛争の当事者となっていることやその紛争の現状に関わる事実であって,一般人の立場から見て秘匿しておきたいと考える性質を持つ事実である」とか、「逸失利益に関する主張は,亡…の年収,職歴,健康状態,年齢,同居の家族に関する情報等のプライバシーに関わる事実を基礎としており,逸失利益及びこれらの基礎となる事実は一般に知られておらず,一般人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質をもつ事項である上,原告らが特に秘匿しておきたいと考える性質の事項であることは明らかである」と述べて、具体的な検討を行っています。