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ツイートの書籍への引用利用の適法性が争われた、東京地判令和3年5月26日・裁判所ウェブサイトをご紹介します。

事案の概要

本件は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス「Twitter」(「ツイッター」)に原告が投稿した本件ツイートについて,被告Yが,その全文を複製した上で,これを批判する文章を執筆し,被告会社が「本件書籍」に同文章を掲載して出版した行為が,原告の著作権(複製権又は 翻案権),著作者人格権(同一性保持権)及び名誉感情を侵害すると主張した事案です。

原告は,被告らに対し,損害賠償として220万3300円(及び遅延損害金)の支払を求めるとともに,本件書籍の複製及び頒布の差止め並びに本件書籍の廃棄を求めました。

問題となったツイートや、書籍での引用の態様は、裁判所ウェブサイトで公開されている判決書別紙で確認することができます

本件争点

本件は、被告側が本件ツイートの著作物性、利用の支分権該当性を積極的に争わなかったことから、「引用」という権利制限規定の成否及び、著作者人格権侵害の成否が主要な争点となりました。また、名誉感情侵害も併せて争われています。さらに、損害論として損害額も争点となっていました。

  • (1) 本件批評における本件ツイートの複製が著作権法32条1項の引用に当たるか
  • (2) 同一性保持権侵害の成否
  • (3) 名誉感情毀損による不法行為の成否
  • (4) 原告の損害額

裁判所の判示

本裁判例は結論的に著作権侵害、著作者人格権侵害、名誉感情侵害全て成立しないとして原告の請求を全て棄却しています。

引用の成否

本判例は、引用が成立するには、1「利用されるのが公表された著作物であること」,2「当該著作物の利用が引用に該 当すること」,3「当該引用が公正な慣行に合致すること」,4「当該引用が報道,批 評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること」の各要 件を満たすことが必要であると判示しています。

第1要件「公表」の有無

その上で、本件は第1要件については特に問題なく満たすと判示し、第2から第4の要件を検討すべきとしました。

第2要件「引用」行為にあたるか

本裁判例は、1「引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側 の著作物とを明瞭に区別して認識することができること」,及び,2「引用する 著作物と引用される著作物の間に,引用する側が主,引用される側が従の関 係があること」は,「「引用」の基本的な要件を構成すると解するのが相当であ る(最高裁判所昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第3小法廷 25 判決・民集34巻3号244頁参照」と判示しました。明瞭区別性と、主従関係を「引用」行為か否かの判断に位置付ける昨今学説上有力だった見解を採用したと評されています。

その上で、本判例は下記のとおり述べて、引用該当性を肯定しました。

本件ツイートは,前提事実(4)イ(ウ)のとおり,本件書籍の72及び73頁から構成される見開きのうち,その左頁上段に,原告のアカウント名,ユー 5 ザー名及びツイートのURLとともにその全文が掲載され,その下の少し離 れた位置に被告Yの引用ツイートが掲載されているものであり,その記載事 項,掲載形式,外観からして,利用される側の本件ツイートと,その他の部分とを明瞭に区別して認識することができる。

また,本件ツイートに係る記載部分は見開き2頁のうちの左頁上段の5行(本文部分は3行)にすぎず,同頁の他の部分には,本件ツイートに反論す る被告Yのツイート6行(本文部分5行)が,右頁には,その全体にわたっ て被告Yの批評が記載されていることからすれば,形式的にも内容的にも, 被告Yのツイートやコメント部分が主であり,原告の本件ツイート部分が従 であると認められる。

したがって,本件批評に本件ツイートを複製して掲載した行為は,著作権 法32条1項の「引用」に該当する。

東京地判令和3年5月26日・裁判所ウェブサイト20頁

第3要件 公正な慣行との合致

本裁判例は下記のとおり述べて、公正な慣行に合致していると判示しました。

著作権法32条1項は,引用が「公正な慣行に合致すること」を要件としている。

ここにいう「公正な慣行」は,著作物の属する分野や公表される媒体等によって異なり得るものであり,証拠に照らして,当該分野や公表媒体 等における引用に関する公正な慣行の存否を認定した上で,引用が当該慣行に合致するかを認定・判断することとなると考えられる。

そして,当該著作物の属する分野や公表される媒体等において引用に関す る公正な慣行が確立していない場合であっても,当該引用が社会通念上相当と認められる方法等によると認められるときは「公正な慣行に合致する」というべきである。

東京地判令和3年5月26日・裁判所ウェブサイト20頁

つまり、公正な慣行の内容が明らかであれば格別、これが明らかでない場合、当該「引用」行為が、「社会通念上相当」な方法で行われているか否かで判断すると判示しています。

以上の規範に下記のとおり事案を当てはめて、結果的に本件引用は社会的に相当な範囲内であり「公正な慣行に合致する」と結論づけています。

書籍において他人のツイートを引用する場合については,特に確立した慣 行が存在するとは認められないが,本件批評は,原告のアカウント名,ユー ザー名及びツイートのURLとともに,その全文を掲載されているものであ り,その掲載形式や外観からしても,一見して他人のツイートを引用してい ると看取することができる。

また,掲載された本件ツイートの本文は3行であり,後記(4)のとおり,読 者がその趣旨を理解するためにはその全文を掲載することが必要であった と認められる。

したがって,本件ツイートの引用方法は社会通念上相当であり,「公正な 慣行に合致する」ということができる。

東京地判令和3年5月26日・裁判所ウェブサイト21頁

第4要件 正当な範囲

本裁判例は下記のとおり述べて、本件引用利用は目的との関係で正当な範囲内であると結論づけました。

すなわち、まず本判例は、引用が「引用の目的上 正当な範囲内で行われるもの」であることを要件としていることを指摘し、引用が「正当な範囲内」で行われたかどうかは,1「引用の目的 の内容及び正当性」,2「引用の目的と引用された著作物との関連性」,3「引用さ れた著作物の範囲及び分量」,4「引用の方法及び態様」,5「引用により著作権者が得る利益及び引用された側が被る不利益の程度」などを総合的に考慮して判断するのが相当であると判示しました。

その上で、本件は引用目的の正当な範囲内の利用であるとしました。

本件批評の目的は,本件書籍の第2章序文の記載(前提事実(4)イ(ア))に よれば,被告Yのツイートに対する返信リプライ,同被告のツイートを引用 するリツイート,「#KuToo」のハッシュタグをわざわざ付したツイートなど, 様々な形で投稿される本件活動を非難,中傷等するツイッターに対し,実際 のツイートを個別に引用し,これを批評することにより,本件活動の意義や 真意について読者に伝えることにあると認められる。 そして,本件批評における「なんで女性の靴問題の逆が水着になるんだょ …。女性のみ水着での勤務が許されていて,男性はサウナスーツです,とい う状況だったら「俺たちにも水着を着る権利を!」ってなるんじゃないかな。 …#KuTooっていうのはそういう感じの運動です。」との記載によれば,本件 批評の目的も,本件ツイートを批評することにより,本件活動の意義や真意 について読者に伝えることにあり,上記序文に記載された目的に沿うもので あるということができる。 そうすると,本件引用の目的は,本件活動を非難,中傷等するツイートを批評するという点にあり,その目的に不相当・不適切な点はないというべき である。

東京地判令和3年5月26日・裁判所ウェブサイト22頁

同一性保持権の成否

本判例は下記のとおり述べて、同一性保持権侵害を否定しました。

原告は,本件批評中において,本件ツイートのハッシュタグ化されていない 「#kutoo」を,本件書籍内でハッシュタグの意味で用いられている「#KuToo」に 改変した行為は,原告の意に反して本件ツイートに係る原告の思想又は感情の創 作的表現を改変する行為であるから,原告の同一性保持権を侵害すると主張する。しかし,前記1(3)ウで判示したとおり,本件批評における「#KuToo」との表記 は「#kutoo」の誤記であると認めるのが相当であり,その意味に実質的な変更は ない上,本件書籍の読者も「#KuToo」を「#kutoo」と表記することにより,本件 ツイートの意味内容を誤解することはないというべきである。 したがって,被告Yが原告の同一性保持権を侵害したとは認めることはできな い。

東京地判令和3年5月26日・裁判所ウェブサイト25−26頁

本判例に対する所感

本判例は、近年のデジタル著作権紛争でもよく問題となる引用の成否について丁寧に検討された事案です。ツイートの著作物性については積極的に争われませんでしたが、ラストメッセージIN最終号事件(平成7年12月18日東京地判・裁判所ウェブサイト)や、スクリーンショットツイート違法判決(東京地判令和3年12月23日・裁判所ウェブサイト)などに照らすと、ツイートの著作物性は積極的に争った(争点の一つとした)場合も肯定された可能性が高いのでしょう。

引用の成否については、各要件に分解した上で各要件について規範を定立した上で詳細に当てはめているので、デジタル著作権紛争における引用の成否を判断する上で参考になる裁判例だと思われます。

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