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自動公衆送信権(送信可能化権)の送信客体たる(著作物に関する)情報の内容について、明確に判断した判決は現在のところ存在していないと理解しています。

しかしながら、リーチサイト規制の議論の前提として、リンクと現行著作権法の関係を考えるとき自動公衆送信権(送信可能化権)の送信客体たる(著作物に関する)情報の内容について明確にしておくことは有用と考えられます。

そこで、自分なりに検討した自動公衆送信権(送信可能化権)の送信客体たる(著作物に関する)情報の内容についてこの記事では述べたいと思います。

私見では、自動公衆送信権(送信可能化権)の送信客体たる情報(著作権法2条1項9号の5イ及びロ)の内容については、これを、「不特定あるいは特定多数の受信装置(クライアントコンピューター)が著作物を出力するのに欠かざる情報のうち、最後に自動公衆送信装置(サーバー)にアップロードされた情報」と理解すべきと考えます。

受信装置(クライアントコンピューター)における自動公衆送信(送信可能化)の意義

受信装置が著作物を出力するには、必要な情報が全て受信装置に集合し、これが統合される必要があると理解しています。受信装置に集合する、とは結局、受信装置メモリ部に情報が電荷の状態(一般的な受信装置の揮発性メモリを想定)で(データの内容をなす配列(プラスマイナスの配列)として)集合することが必要と理解されます。

ここで、ハードディスクではなくメモリ部としているのはストリーミングなどのようにハードディスクを経由せずに受信装置で出力する技術がある一方、一般的な受信装置においてはメモリを経由せずに著作物を出力することはないと理解しているからです。

すると、私見では自動公衆送信とは、平たくいえば、受信装置(クライアントコンピューター)メモリ部に、著作物を出力するのに必要な(=欠かざる)情報が全て揃った状態を作出する行為をいうものと理解されます。また、送信可能化行為とは、受信行為によっていつでも、受信装置(クライアントコンピューター)に、著作物を出力するのに必要な情報が全て揃えられる状態を作出する行為と理解されます。

受信装置(クライアントコンピューター)における著作物の出力

受信装置が著作物を出力するときに、必要となる情報は単一ではありません。例えばウェブサイトひとつとっても、ウェブブラウザ、HTML、CSS、フォントデータ、画像データなど様々な情報が結合してレンダリングデータが形成され、著作物が出力されます。

この、著作物を出力するデータの保存場所は様々です。例えば、ウェブブラウザやフォントデータは受信装置(クライアントコンピューター)に元から保存されていることが一般的です。通常は受信装置に元からブラウザソフトやOSが保存されている状態で販売されていることが一般的と考えられます。

つまり、ウェブサイトという著作物を出力するのに欠かざる情報のうち、ブラウザやフォントデータは不特定多数の受信装置で送信さえ必要ないのが通常ということになります。

また、HTMLデータや、CSSデータ、画像データは異なるサーバーに別のファイルとして保存されていることが現在では一般的です。そして、それぞれのデータどれを最後にアップロードすることも可能ということになります。

このように、著作物を出力するのに欠くことの出来ない情報というのは、ブラウザやフォントデータなど通常受信装置に元から保存されている情報や、全く異なるサーバーに保存された情報など、アップロードが必要ない情報や、そもそも送信さえ必要ない情報が含まれます。

一般的なウェブサイトひとつをとっても、複数のファイルを最終的には受信装置に集合させて、著作物を出力することになりますが、最後にアップロードされる情報は(通常はhtmlとしても理屈の上では)一様ではないということになります。

次に、ある著作物を出力するのに必要な情報については、ここでは、どれかひとつでも欠ければ当該著作物を出力できない情報を意味します。

そうすると、やはり自動公衆送信行為は、受信装置(クライアントコンピューター)メモリ部に、著作物を出力するのに欠くことの出来ない複数の情報を全て揃える行為を意味することになります。

また、受信装置が著作物を出力するのに欠かざる情報は、それが揃ったときに出力が可能となります。言い換えれば出力に必要な情報のうち最後の情報が揃ったときに、それまで出力できなかった著作物の出力が一転して出力可能となります。

すると結局、受信装置(クライアントコンピューター)メモリ部に、著作物を出力するのに欠くことの出来ない複数の情報を全て揃える行為とは、著作物を出力するのに必要となる情報のうち最後の情報を自動公衆送信装置にアップロードする行為、ということになります。

反対に、その情報が欠けても不完全ながら著作物の本質的特徴を出力できる場合(通常はCSSなどが想定されます)は、当該情報は出力に必要な情報とはならないものと理解されます。

その解釈ではブラウザやフォントデータも送信客体になり得るのでは?

私見に従えば、例えば、ブラウザやフォントデータを欠いた受信装置に対しては、欠いているブラウザソフトデータや、フォントデータを送信する行為が自動公衆送信行為になるとの指摘もあり得るものと考えます。しかしながら、ここで機能するのが「不特定」あるいは「特定多数」の受信装置(クライアントコンピューター)という条件です。

つまり、通常ブラウザやフォントデータを欠いた受信装置というのは多数存在しないため、ある特定の受信装置がブラウザやフォントデータを欠いていたとしても、他の多数の通常ブラウザやフォントデータを保有している受信装置においてはHTMLデータなどが自動公衆送信装置にアップロードされた段階で、著作物出力に必要な情報は全て揃っていることになります。

また、特定少数の受信装置しか保有していない特殊なブラウザやフォントデータではじめて出力可能になる著作物については、当該特殊なブラウザやフォントデータが特定多数あるいは不特定の受信装置に向けて送信し得る状態でアップロードなどされた段階で、送信可能化されたと理解して差し支えないと思われます。

例えば、特殊なフォントデータでしか可読可能な文字列とならない文字コードについては、当該文字コードに対応した特殊なフォントデータをアップロードした段階で送信可能化したものと評価して支障は生じないものと思料されます。

すなわち、アップロードされた著作物出力に必要な最後の情報は、各受信装置が持っている情報が異なる場合がある以上、その範囲では各受信装置に対して相対的な概念である、ということになります。

そして、自説では、特定多数、あるいは不特定の受信装置にとって著作物を再生するのに必要な最後の情報がアップロードされた段階が、送信可能化行為の成立する段階と捉えることになります。加えて、受信行為により実際に受信装置(クライアントコンピューター)に、著作物を出力するのに必要な情報が全て揃った状態を作出する行為を意味することになります。

この要件によって通常はブラウザソフトやフォントデータは送信客体にならないと考えられます。

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