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著作権法附則7条は、現行著作権法施行前に公表された著作物について、現行著作権法よりも旧著作権法によって保護する方が、権利の保護期間が長い場合は、旧著作権法の適用により権利を保護することを宣明しています。

著作権法附則7条(著作物の保護期間についての経過措置)
この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については、当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第二章第四節の規定による期間より長いときは、なお従前の例による。

すなわち、「この法律」(現行著作権法)が施行された昭和46年(1971年)1月1日より以前に公表された著作物について、旧著作権法の保護期間と現行著作権法の保護期間の対比が必要になります。

この著作権法附則7条の適用を巡って、保護期間の対比の問題が生じるため、旧著作権法の解釈も含めた一連の紛争が存在しています。

チャップリン事件

チャップリンの作品を巡り、著作物の保護期間について最高裁判所まで争われました。特に、旧著作権法3条及び同法6条の適用について、旧著作権法6条の解釈について、注目すべき判断が下されています。

チャップリン事件東京地方裁判所判決文より抜粋
独創性を有する映画の著作物については,旧法3
条ないし6条及び9条の規定が適用されるところ,これらの規定は,著
作権の存続期間について,著作者の死亡時期を起算点として一定期間存
続するとの原則を定めた(3条,5条ただし書)上で,著作者の死亡後
に発表又は興行された場合を定める(4条)とともに,著作の名義がな
く著作者の死亡を観念できない場合や,観念できたとしても,著作の名
義が変名であって,その死亡時期が分からないため,上記原則によって
存続期間を適用できない場合の規定として,無名若しくは変名著作物
(5条本文)又は団体の著作の名義で発行若しくは興行された著作物
(6条)について定め,さらに,存続期間の計算方法を定めている(9
条)ものと解される。
そうすると,旧法6条で定める団体の著作名義で発行又は興行された
著作物とは,当該著作物の発行又は興行が,個人ではなく団体の著作名
義でなされたため,当該名義のみからは著作者の死亡時期を観念できな
い場合を意味すると解するのが相当である。

チャップリン事件知的財産高等裁判所判決文より抜粋
上記のとおり,保護期間に関する旧法3条ないし6条において,旧法3条は,自然人である著作者が実名で公表される場合の規定であり,旧法5条が無名又は変名で著作者が何者かを識別できない形態での著作物の公表される場合の規定であることに照らせば,これらと併置された旧法6条の団体の著作名義での著作物の公表は,自然人の実名義での公表,無名又は変名での著作物の公表に当たらない
場合をいうものと解するのが相当である。
そうすると,「独裁者」,「殺人狂時代」及び「ライムライト」は,公表された画像において,チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されている以上,旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認めるのが相当である。

チャップリン事件最高裁判所判決文より抜粋
著作者が自然人である著作物の旧法による著作権の存続期間については,当該自然人が著作者である旨がその実名をもって表示され,当該著作物が公表された場合には,それにより当該著作者の死亡の時点を把握することができる以上,仮に団体の著作名義の表示があったとしても,旧法6条ではなく旧法3条が適用され,上記時点を基準に定められると解するのが相当である。


なお、チャップリン事件においては、英国の著作権保護期間は著作者の死後70年或いは1995年改正前でも死後50年とされていることから、ベルヌ条約7条(8)但書及び現行著作権法58条の適用が問題となることなく、ベルヌ条約7条(8)本文に定められた内国民待遇の原則に則り、日本国の著作権法による保護期間の適用が争われたようです。

そして、最高裁判所を筆頭に日本の裁判所は、旧著作権法6条の適用を排し、旧著作権法3条によるチャップリン死後2015年までの38年間の権利保護を認めました。

黒澤監督事件

黒澤監督は日本の映画監督である事から、当然に日本の著作権法の適用が問題となりました。

そして、チャップリン事件と同様に、旧著作権法6条の適用は否定され、旧著作権法3条(及び同附則52条)により、黒澤監督の死後38年間著作権が保護されると判示されました(平成21年 1月29日知財高裁判決(平20(ネ)10025号 ・ 平20(ネ)10042号  著作権侵害差止請求控訴、附帯控訴事件  〔「黒澤明映画」事件・控訴審〕等)

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