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意匠権の客体となる意匠とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法2条1項)。次に、ある意匠が登録意匠となり、当該意匠を客体とする意匠権を付与された場合、当該意匠権は、当該意匠の実施ではなく、当該意匠と類似する意匠の実施についても排他的独占権を付与されます(意匠法23条)。また、公知意匠と類似する意匠には、そもそも、意匠権が付与されません(意匠法3条1項3号)。

登録意匠とそれ以外の意匠の類否判断は、需要者の視覚を、言い換えれば需要者の視点をもとに判断されます(意匠法24条2項)。

裁判例

例えば、下記の裁判例は、「両意匠の類否を分ける要部と認めるべき、基本形構成態様において一致するのであるから、両意匠は、その具体的形態における差異を考慮しても、全体としては類似するものと認められ、この認定の妨げとなる資料は、本件全証拠を検討しても見出せない」と述べています。このように、意匠の類否は、需要者の視点から、細部に捉われることなく、要部において惹起する美感が同じか、異なるかで判断されることになります。すなわち、要部という概念を用いて比較の対象を絞り、比較の対象として設定された部分に焦点を当てたうえで、共通性、別異性を見比べて類否が判断されることになります。

類否判断肯定裁判例

平成6年3月9日東京高等裁判所第13民事部請求棄却判決(平成5年(行ケ)19号 研磨布紙ホイール事件)抜粋

(1) 本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品を「研磨布紙ホイール」とする点で一致することについては、当事者間に争いがない。
(2) 本願意匠が、「偏平で大きな略円板の平面中央部にこの略円板の直径の約半分の大きさの偏平で小さな略円板を重ねた態様を基板とするものであつて、その基板について、中心部に小円形の軸孔を貫通し、外周縁に沿つて研磨布紙を細巾の略円環状に現したものであつて、底面部は、平面部に於いて基板の中央部に偏平な円板を重ねて凸状の態様とした部分を逆に略円錐台形状に窪ませて、その外周には、略縦長長方形状の研磨布紙多数の同一側を順次放射状に重合して、略円環状の研磨部を形成し」(審決書二頁一九行~三頁九行)た基本的構成態様を備えていること、その具体的形態として、基板の周側面について、「偏平で大きな略円板の周側面を垂直面とし、偏平で小さな略円板の同部を上すぼまりの傾斜面とし」(同三頁一三~一四行)、底面部の略円錐台形状に窪ませた部分について、「略円錐台形状に窪ませて中心部に小円形の軸孔を設け」(同三頁一九~二〇行)、平面部において、基板の外周縁に沿つて細巾の略円環状に現した研磨布紙について、「小さな略三角形の鋸歯状に多数現している」(同四頁二~五行)ことについては、当事者間に争いがない。
原告は、引用意匠の写真からは、引用意匠の全体形状にせよ各部の具体的形状にせよ、これを把握することが困難であると主張する。しかし、引用意匠の写真を検討すれば、引用意匠もまた、審決が認定した基本的構成態度を備えものであることは十分に認められ、また、その具体的形態として、被告主張のとおり、基板の周側面について、「偏平で大きな略円板の周側面を上すぼまりの傾斜面とし、偏平で小さな略円板の同部を略垂直面とし」(審決書三頁一五~一七行)、底面部の略円錐台形状に窪ませた部分について、「略円錐台形状に窪ませて底部全面を小円形の軸孔とし」(同四頁一~二行)、平面部において、基板の外周縁に沿つて細巾の略円環状に現した研磨布紙について、「細巾の略円環状に現して研磨布紙が重なつた外形線を放射状に現している」(同四頁六~七行)ものであることが明らかである。
(3) そこで、本願意匠と引用意匠を対比すると、両意匠は、その基本的態様において一致し、この基本的構成態様によつて、まとまつた全体的意匠構成が構成されていると認められるから、これが両意匠の類否を分ける要部となると認めるのが相当である。
これに対し、上記基本的構成態様の範囲内での具体的形態における相違点は、何か特別な要素が加わらない限り、どのようなものであれ、視覚を通じて起こさせられる美感に意味のある差異を生じさせるだけの力を持たないものとして、両意匠の類否判断の結論に影響を及ぼさないというべきである。
これを審決が相違点として認定した点その他の点について述べると次のとおりである。
〈1〉 両意匠の基板の周側面の差異は、「偏平で大きな略円板の平面中央部にこの略円板の直径の約半分の大きさの偏平で小さな略円板を重ねた態様を基板とする」という両意匠に共通の上記基本的構成態様の下では、その違いが両意匠の美感の差異をもたらすほどのものとは認められない。
〈2〉 底面部の略円錐台形状に窪ませた部分の差異は、底面部の一部である略円錐台形状に窪ませた部分の更に一部分に係るわずかな違いであるから、全体として目立つものではなく、「平面部に於いて基板の中央部に偏平な円板を重ねて凸状の態様とした部分を逆に略円錐台形状に窪ませ」たという両意匠に共通の上記基本的構成態度の下で、その違いが全体に及ぼす影響は微弱というべきである。
〈3〉 平面部において、基板の外周縁に沿つて細巾の略円環状に現した研磨布紙の形態を見ると、上記のとおり、本願意匠が小さな略三角形の鋸歯状を多数現しているのに対し、引用意匠は、細巾の略円環状に現していることが認められる。
しかし、《証拠略》によれば、基板の外周縁に沿つて小さな略三角形の鋸歯状が多数現れる「研磨体」は、本願出願前より存在することが認められ、このことと、外周縁に沿つて現れる部分がわずかであることからすれば、この相違を両意匠の全体の特徴の相違を示すものとして重視することはできず、したがつてまた、両意匠間のこの相違が両意匠の類否に及ぼす影響も微弱といわなけばならない。
〈4〉 研磨布紙の重合部分の線の向きが、本願意匠においては軸孔の中心点に向かつていないのに対し、引用意匠においては、この線が軸孔の中心点を中心とする放射状に近いものと認められる。
しかし、《証拠略》によれば、研磨体の重合部分の線の向きが、軸孔の中心点に向かつていないものも、この線が軸孔の中心点を中心とする放射状に近いものも、いずれも本願出願前より存在することが認められるから、この点も、ありふれた形態として、両意匠の類否判断において重視することはできない。
〈5〉 研磨布紙の重合部の線が、本願意匠においては一本であるのに対し、引用意匠については、引用意匠の写真中に二本に見えるものと一本に見えるものがあることが認められるが、引用意匠においても一本に見えるものがあることからもわかるように、この点の相違は、看者の受ける印象に大きな影響を与えるものではなく、この点も、両意匠の類否判断において重視することはできない。
〈6〉 上記写真によれば、引用意匠の研磨部がある程度以上の厚さを有することが認められるが、その厚さは、本願意匠のそれと対比して、特段のものとは認められず、これをもつて、引用意匠を本願意匠と別異の意匠とするほどの差異ということはできない。
(4) 以上のとおり、本願意匠と引用意匠とは、両意匠の類否を分ける要部と認めるべき、基本形構成態様において一致するのであるから、両意匠は、その具体的形態における差異を考慮しても、全体としては類似するものと認められ、この認定の妨げとなる資料は、本件全証拠を検討しても見出せない。
したがつて、本願意匠は引用意匠に類似するとした審決に誤りはない。

類否判断否定例

平成7年9月26日東京高等裁判所第6民事部請求認容判決(平成7年(行ケ)33号審決取消請求(タイムカード)事件)抜粋

〈1〉 表示欄の上縁に沿って表わした暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は、表面を2つに折り畳んだ状態での表面側を青色のべた塗り、裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としているのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとしていることは、当事者間に争いがなく、また、記録欄に表わした見出し欄の略全体を暗調子とした2つの区画について、本願意匠は、表面を2つに折り畳んだ状態での表裏面とも中央部の横長長方形状の白色部分を除いた全面を青色の細かな水玉模様地としているのに対して、引用意匠は、表面の区画全面を青色のべた塗り、裏面の区画全面を赤色のべた塗りとしていることは、当事者間に争いがない。
前示(1)〈1〉のように、意匠においては、「色彩」もその構成要素の1つであるところ、タイムカードは、通常、販売及び使用に際し、取引者、需要者に手にとって扱われるものであること前述のとおりであるから、その表示欄や記録欄に施された色彩も、前記(1)〈2〉認定の構成態様とともに、取引者、需要者の注意を惹く意匠の要部であるというべきである。
そして、表示欄の前記暗調子の細幅帯状部について、本願意匠は、前記表面側を青色のべた塗り、前記裏面側を青色の極く細かい斜め格子状としており、この青色の極く細かい斜め格子状は、全体として見れば淡い青色と認識し得るから、本願意匠は、前記表面側を青色、前記裏面側を淡い青色という青色1色の濃淡で変化を示していると認められるのに対して、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りとし、2色を使用している点において、両意匠に表わされた色彩に差異がある。
また、記録欄の青色の細かな水玉模様地は、上記認定と同じように、淡い青色と認識されるといえるから、本願意匠は、前記表裏面とも淡い青色1色を使用しているといえるところ、引用意匠は、表面側を青色のべた塗り、裏面側を赤色のべた塗りと色彩を変えている点において、両意匠に表われた色彩には差異がある。
そして、両意匠の上記表示欄及び記録欄に表わされた色彩の差異は、濃淡の青色ないし淡い青色に対し、青色と赤色のべた塗りという顕著な差異であり、この差異は、看者に異なった美感を与えるというべきである。
〈2〉 被告は、差異点ロ.について、色彩そのものは既に存在しているもので創作の余地がなく、本願意匠と引用意匠ともタイムカードの表裏面にそれぞれ分離して表わされたものであるから、色彩の違いによる色分け模様として認識されるとはいえず、また、本願意匠について、タイムカードとしての主たる使用状態である表面を2つに折り畳んだ状態においては、その表裏面を同時に観察することができないから、色彩を異にしたことによる意匠的効果は殆ど認められず、したがって、本願意匠のその表裏面の色彩の相違が類否判断に与える影響は微弱なものである旨、また、この細幅帯状部は、意識的に上縁に他の罫線状の模様と違う帯状模様を表わしたことによる意匠的効果が大きく、そこに表わされている色彩そのものは、さしたる美感の相違をもたらさない旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、意匠において色彩も構成要素の1つであり、表示欄の暗調子の細幅帯状部の前記表裏面の色彩は、表示欄の上縁という部分に表わされたものであっても、記録欄中の見出し欄に表わされた色彩とともに、看者の注意を惹き、両意匠における色彩の顕著な差異は意匠的効果をもたらし、看者に異なる美感を与えるものであり、また、本願意匠を折り畳んだ状態のみで引用意匠と比較すべきであるともいえないから、その主張を採用することはできない。
〈3〉 被告は、差異点ニ.について、区画の中央部の白色部分は、区画の一部にすぎず、小さなものであるうえ、この白色部分に文字などが表わされた使用時の態様を考慮すれば、白色部分の視覚的効果は一層微弱なものとして看取されるし、さらに、本願意匠のこの白色部分を除いた青色の細かな水玉模様は、前記裏面側上縁部の細幅帯状模様の色彩と同様に淡い青色として認識され、水玉模様としたことによる意匠的効果は極めて微弱なものに止まり、そうすると、本願意匠は、引用意匠の裏面側を赤色のべた塗りとしている色彩を、単に淡い青色に色彩を変更した程度のものであることに帰し、この差異が意匠全体に与える影響は極めて微弱なものであると主張する。
しかしながら、前示のとおり、本願意匠の水玉模様が淡い青色と認識されることはそのとおりであるが、本願意匠がこの淡い青色1色を使用しているのに対して、引用意匠は、表面側と裏面側で青色と赤色と色彩を変えて2色を使用していて、看者に異なる美的印象を与えるというべきであり、これらの色彩的効果による態様の差異が微弱であるとすることはできない。
(3) 以上に判示したように、本願意匠と引用意匠とは、具体的構成態様のうち看者の注意を惹く要部において類似するとはいえないから、前示第1項認定の基本的構成態様、具体的構成態様における共通点にかかわらず、両意匠が類似するということはできず、これと異なる審決の認定判断は誤りであるといわざるを得ず、審決は違法であって、取消しを免れない。

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